薪三本目
「創作企画、ですか」
都内ビルの会議室で、その声は響いた。映画脚本の打ち合わせ前。原作の小説家を待っている間にスタッフが幽井に提案したものだった。
「ええ。脚本家とか、小説家とか。映画監督でもいいです。そういった作家たちを集めて、アンソロジーを作るんです」
「どういった風の?」
「そこはまだ具体的には決まってないんですが、合作みたいなものですかね。いろいろな要素を持ち出して、複数の作品をみんなで作るんです」
「はあ……」あまりにも抽象的で戸惑った。「プロとかアマとかは限定する方針ですか?」
スタッフは「よくぞ」とでも言いたげに顔を輝かせた。机上の打ち合わせ資料を静かに払いのけ、身を乗り出して答える。
「それがですね、プロアマ混合なんです」
「……なるほど」
「『そこまで斬新じゃないな』とでも思ったでしょう?」
「えっ、い、いや」
プロとアマチュアが混ざって企画をするなどそう珍しくない。幽井のアマチュア時代はプロと関われる機会などなかったから、デビューして数年後にそういったイベントの存在を知った。
そういえば、彼女は……。
「燭さんにもこの話をしたんです。『懐かしい』って言ってました」
やっぱり。
燭は幽井と違って、プロアマ混合の企画でプロの映画監督にその実力を見出されデビューした。彼のように新人賞を獲ったわけではない。
「ということは、彼女もこの企画に?」
「はい」
黒い感情が渦巻きだした。燭は幽井よりも年下で、気高くて、作品も素晴らしかった。それを認めつつも、「コネでデビューできただけの女」という蔑みの念が離れない。醜く貧しい嫉妬だということは自分が一番わかっている。
「……彼女と、お仕事ができるんですね」
「幽井先生が受けてくだされば、の話ですが」
「前向きに検討させていただきます」
「ほんとですか! 嬉しいなあ。あ、大事なことを言い忘れてました。この企画の斬新なところはですね……アマを見つけるのは、プロなんです」
「……と、いうと?」
彼はこう説明した。
デビューしていないアマチュア作家を、プロ作家が一人見つける。そのために他イベントやインターネット、公募参加者などを探して連れてくる。それだけだった。アマのデビューは保証しない。
しかしこれはプロアマ両方に重いプレッシャーが伸しかかる。アマはプロの名を借りるようなもので、プロはプロで選び方次第でその評価が左右されることになる。ただ、幽井の心には既に一人が決まっていた。
「先生のお気に入りを一人、選んできてください」
「それは、俳優でも?」
「もちろん。誰か思い当たる方でも?」
「ええ。だけど、受けてくれるかなあ。彼はこういうコネみたいなの、好きじゃなくて」
「律儀な方ですね」
話していた途中に、「遅れてすみません」と会議室のドアが開いた。




