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余焰  作者: 雅野キュウ


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14/15

薪十四本目

 結局、幽井至は引退しなかった。その代わり、佐藤草太が消えた。広すぎる自室に寂しさが広がる。


 事件の後、燭は救急車で運ばれ命を取り留めた。草太は現行犯で捕まった。このことは朝昼晩全てのニュースで報道され、世間を騒がせた。「脚本界に夜が来た」と。ネットでは草太が恐ろしいほどに叩かれている。中には非国民と謗る者もいた。


 もちろん藍々社の企画は中止。燭が入院していては進めることなど出来ない上に、彼女のいない企画に誰が金を払うというのか。

 そして、幽井のツイッターではフォロワーが異様に増えた。最新ツイートのリプライはすさまじく、覗けば嘘ばかり。


「災難でしたね」

「燭さんの件でお名前を知りました。『夢想家エミコの子ども無双』の作者さんなんですね。毎週観てます!」

「これが燭の彼氏のアカウント?」

「巻き込まれるなんて最悪ですね……。犯人、氏ねばいいのに」

「不謹慎だけど、幽井さんが有名になって嬉しい」

「燭さんがどこに入院してるか知ってますか?」

「記念カキコ」

「応援してます!」

「頑張って」

「巻き込まれた方にこうやって無関係なリプ送るのはいかがなものかと……」

「夢想家エミコ、観てみようかな」

「頑張ってください!」


「……なんで」


 自分への激励の文字列が、うぞうぞと蠢く蟲のようだった。


 草太は、「成功している人たちが羨ましかったから刺した。燭のあとに幽井も刺そうと思った」と供述していたらしい。

 呆然としていると携帯が鳴った。あの企画に誘ってきた編集者からだった。


「もしもし……」


「こんにちは、向井です。いやー、幽井さん、大変でしたねえ」


「どうも……」


「今日連絡したのはお仕事ではありません。編集者向井ではなく、ただの一般男性向井からの電話です」


「はあ……。なんでしょう?」


「燭さんのお見舞いに行ってあげてください! 燭さん、待ってますよ。ことづてを頼まれたんです。幽井さんが来なかったら僕が伝えなかったみたいになりますから、絶対ですよ!」


 そのまま通話は切れた。


「どういうつもりだ……」


 幽井が今もこうして暮らしているということは、燭が何も言わなかったのだ。幽井に刺されたことも、草太が自分を救ったことも。

 その理由を聞きに行くのもいいかもしれない、と彼は重い腰を上げ、コートを羽織った。

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