薪十五本目
「わあ、幽井さん。来てくださって嬉しいです。こんな格好ですみません」
俺のせいだけどな。
「いえ、全然。お体、お気をつけて」
「ありがとうございます」
燭の病室は大きかった。彼女一人分の病床と、机には山積みになった本。彼女への待遇はまるでかぐや姫だ。
「連絡先を知らなかったのでダメ元で向井さんにお願いしたんですけど、良かったあ」
上機嫌な彼女だったが、幽井の瞳は死んでいた。
「……幽井さん、どうなさったんですか?」
「どうしてですか」
沈黙が流れた。葬式のように空気は重かったが、燭はそれでも微笑みを絶やさなかった。なぜ。なぜ燭は。
ここへ来て、幽井はわかってしまった。一生、いや、来世すらかかっても燭には敵わないと。彼女は本当に太陽だ。自分のようなひと盛りの火炎ではない。永遠に、彼女が死してもなおその名前は残り続けるだろう。
「どうしてでしょうね? 幽井さんは、この件を嫉妬に狂った男の話と捉えますか。それとも、友人を庇った男の悲劇だと思いますか」
燭が初めて笑みを消し、こちらをじっと見た。その視線は幽井の心臓を突き刺す。まるで蔑視されているようで、しかし叱咤もされているようで。だけどどこか、慰みの瞳で見ているようで。俺は、どちらだ。
「……帰ります」
「はい。ありがとうございました。また一緒にお仕事できたら嬉しいです」
太陽が微笑んだ。
病院をあとにし、幽井はその足で警察署に向かった。たった一人の友人がいる、その場所へ。
余焰の燻る焦げ臭い香りが、鼻孔を漂ったように感じた。




