第四怪 シャイニングボーイと除霊師(その2)
「そんなに霊がたくさんいるのか?」
「うん。霊は自分たちが見えていないからいい事にあちこちちょっかい出すんです」
「その公民館には何か記録はなかったのか?事故とか自殺とか」
「そんな話は聞いていないですね・・・。もし、何か起きていたらニュースか地域内のどこかで噂を聞くかと」
そう聞いたサエグサさんは椅子の上で胡坐かき頭をポリポリと掻いた。
「んー。霊って死んだ後、死神に案内されるか自分の足であの世へ行くんだが、現世に留まる理由の大体は心残りか前回の陽菜ちゃんみたいに何か恨みを持っている人間だが、大半は死んであの世へ行かず自由気ままに飛び回って好き勝手する奴が多いんだよな。死神も迎えに行っていろいろとやる事をやんなきゃいけないのになかなか手が回らない。猫の手も借りたい状態なんだよ。野放しされた霊は現世を離れたくないから頑なに言い訳する奴らもいるからこれがなかなか厄介。霊にはいろんな種類がいてな。中にはあの世へ行きたくても成仏ができないその場から離れられない霊もいたりする。これは『地縛霊』といって死んだ場所や死んだ時の場所から離れられず何年も同じ場所に留まり続けるんだ。多分、公民館にいる奴らは現世を彷徨う『浮遊霊』だ。浮遊霊は特定の場所には留まらない自由気質な霊のはずだ。一点集中で全員同じ場所に集まるなんてあんまり見ないケースだ。その公民館には霊を引き寄せる何かがあるんじゃないのか?」
霊を引き寄せる何か。
年季の入った公民館とはいえそんな不可思議で怪しげな話や都市伝説的な内容は一度も聞いた事はない。
心霊番組だと各地域で現在は新しいビルが建っているがそこは昔墓地とか古い祠、神社等の古来より存在していた跡地だったという話はよく聞く。
しかし、公民館には何らかの跡地とか過去に起きた事件等の話は俺の耳には入っていない。
「それか 誰かが霊を連れてきたとか。特に取り憑かれやすい人間はたくさん霊が憑く。そんな人とか見かけたりはしなかったか?」
霊に取り憑かれやすい人。
俺の周りにそんな人いたかな?と首を捻ったが一つだけ心当たりがあった。
「そういえば・・・。やたら背後霊がたくさん憑いている子がいたような」
「それは誰だ?」
「地域のバスケクラブにいる男子中学生です。その子、すごい溌剌な子で4月頃に入部してきたんです。桐生コウくんっていいます」
俺はポケットからスマホを取り出しアルバムを開いた。
「この子です」
サエグサさんに見せたのは彼のインスタにアップされた一枚の写真。クラブが終わった後、コウと一緒に撮った写真だ。
俺の隣にいるコウは堀が深くソース顔でくっきりと顔のパーツが凸凹している。そして、見た目はワイルドっぽくて体格は大きく眉毛が太い男らしさのある少年だった。
「これが中学生の顔??想像していたよりけっこう堀が深いんだけど。まるで80年代モノの刑事ドラマに出てきそうな濃い人に見えるが・・・?」
「事実上実在している人物です。俺も初めて見た時、『阿部寛同程度の生き写しのような人が来たなー』って思いました」
サエグサさんが想像していたコウのイメージとは天地の差ぐらい丸っきり違っていたから信じられないと思った顔をしながら唖然していた。
俺も初めて彼を見た時はこんな濃くて堀が深い阿部寛似の中学生がこの世に実在していたのか?!と目を疑ったものだ。
「集合写真なんか撮る時もコウだけすっげー目立つんです。まるで、日本人の中に一人だけ中東南米から来た留学生が混じっているみたいな」
「確かに。それは目立つな。にしてもこんなに霊がいるとは想像以上だぞ」
コウの背後には何人かの背後霊が取り憑いていた。
男と女しかも大人の霊で一人の少年の背中に憑いて楽しそうにピースサインをしてまで写真に写っていた。
「それ先月ぐらいの時に撮った写真だったのであの頃の俺はまだ幽霊も見えていなければ霊感だってまだ目覚めていなかったので一見、普通の写真にしか見えませんでした。でも、この前コウが撮った写真を眺めていたら見えるようになって。しかも、霊たちなんか楽しそうだし」
「この霊たちが楽しそうに見えているとなれば君はだんだん霊の存在に意識するようになった証拠だ。スズメちゃんもそうだが、こんなに早く脳と視覚を折り合いつけられるうえ感受性もいい。目覚めて早々パレイドリアを身につけられる人間はそう簡単にはいない。どうやら君は霊能力の才能があるらしい」
才能ねぇ。
あんまり自覚していないし好きで霊感を持ったわけでもないが何だか自分が普通の人間とは違う特別な存在なんだと思う節もあったりもした。
「これだけ霊に憑かれているとなると公民館に霊がたくさん居ついているのはこの子が原因かもしれんな」
やっぱりそうか。と俺は納得した。
「確かに。コウが公民館に来る時、一緒に霊も付いて来ていたな。でも、コウは霊が見えていないみたいだし連れてこないように気をつけてと言っても変に思われそうだしそれに本人は決して悪気があったわけでもないし。インスタに心霊写真がアップされているのにコメントを見てみると俺以外の人全員、コウに憑いている霊の事は一切触れていませんでした。他の人は写真に写っている霊が見えていないのでしょうか?」
コウのインスタに心霊写真が投稿されていたのにコメントの返事を見ると俺以外の人は誰もこの写真が心霊写真だということは全く気づいていないみたい。
「それは人によるな。霊の感じ方や認識の仕方は人間それぞれで実際に見える人もいれば見えない人もいる。匂いや雰囲気で感じる奴もいれば何も感じない奴もいる。どっともどっちなんだよ。さっき、君に脳と視覚を折り合いつけられるうえ感受性もいいって話したよな?見える奴は視覚と感覚で捕えられる人がいるから霊が見えるんだ。霊が存在しないというわけではない。気づいていないだけだ。人間は見たいものだけしか見ないからな。いつも同じ場所に置いてあったはずの鍵が見つからず気づいたら別の所にあったとか。長年一緒にいる妻が髪を切ったことすら夫は全く気づかない。人間ってのは自分は気づいているつもりが実は気づけてない部分がかなり多い。それぐらい人間の目は節穴ってわけだ。君が霊の存在を気づいていたとしても周りは全く気づかないし見えない。そもそも霊感を持った人間なんてそうたくさんいる訳がないんだ。この前の陽菜ちゃんの件だってそう。響矢くんが心霊写真を見て霊が写っている事自体は気づけても霊感は丸っきりなし。だから、陽菜ちゃんの幽霊が視えなかった。霊が黒い影にしか見えないのもそう。しっかり意識していないからただの影にしか見えない。意識してなきゃ些細な変化すら気づけない。家族やクラスメイトが喧嘩した事で周りの空気が暗くなっているのに一人だけ周りの変化に気づいていない能天気で鈍感なKY野郎と同じだ。周りの温度感、空気、雰囲気を『見る』=『気づく』はセットなんだよ」
見る=気づく。
何だか心理学を聞いているみたいで理解ができたようできなかったような難しくて何だか脳がショートしかけそうになった。
科学の授業で視覚や脳がどうのこうのとかまだ習ったことがないから理解するよりも話についていくだけでも精一杯だった。
「大まかに言えば霊が『見える』『気づく』は人それぞれだってことで大半は『見えていない』『気づいていない』奴が多いってこと。即ち、霊の感じ方や捉え方は個人差にあるっていう意味だ」
大体分かったような気もするが正直なかなかピンと来なかった。でも、自分がまだ理解していないような様子を見せてしまったら更に話が延長して脳がオーバーヒートしそうな気もしたのでもう適当に分かったふりをして「なるほど」と軽く頷いた。
「で、何の話をしだっけ?」
さっき話した事を忘れてしまうサエグサさん。
「お祓いです」
「あっ。そうだそうだ。お祓いだ」
俺が彼に会いに来た用件がお祓いについて訊きに来た事を思い出してくれた。
「お祓いって大体いくらぐらいするんですか?」
そう訊ねると足を組んみながら手で自分の顎を触るサエグサさんは自分の中で憶えている記憶をそのまま俺に伝えた。
「100万」
ブッ!!
値段を聞いた途端に飲んでいたお茶を吹き出してしまった。
「ひゃ、ひゃくまん?!!」
信じられない金額に目ん玉が飛び出そうになった。
お祓いってそんなに高いのか?
「ヤベー霊を除霊またお祓いする時だけは100万はかかるってことだ」
「お祓いってそんなに高いんですか?」
「霊によるな。そんなヤバくない一度も危害を加えていない霊ならタダで済む。今回の公民館の霊を除霊する場合はそんなに高額にはならないと思うぜ?」
それを聞いて安心した。
「じゃあ。サエグサさんはお祓いできるんですか?前みたいにその角灯でスケベ幽霊を倒したみたいに」
俺はデスク絵に置いてある鎖に繋がれた角灯を見て訊いた。
「まさか。僕はお祓いなんてできないぜ?僕は警官だ。ただ質の悪い悪霊を捕まえたりするだけだ。そんな霊能教師みたいなかっこいい能力なんて持っていない。ただ──」
サエグサさんはコウの方を見た。
「そのコウくんっていう子に憑いている霊を追い出すことはできる。写真を見る限り、そんな質の悪い奴らじゃなさそうだ」
水曜日。
俺は放課後。学校を出ていつもの公民館で男子中学生の地域バスケチームのコーチとして指導していた。
ドリブルやハンドリング、シュートなどの練習をしてフィジカル強化として「33秒」練習をしてから二チーム分かれて練習試合をさせた。
体育館内は男子たちの熱気に包まれ騒がしいぐらい声を出して球技ゲームに熱中していた。このバスケチームに入った子はそれぞれで小さい頃からやっている子もいれば今回初めてバスケをする子、プロを目指す子、体を鍛えるのを目的に入った子、単なるバスケ好きの子など様々な事情を持ちながら練習に励んでいる。
みんな、8月に行われる「全国中学校バスケットボール大会」へ向けて今日まで頑張って練習をしてきている。
俺もコーチとしてみんなも引っ張っていく責任があるから俄然やる気も出てきている。
そしてこの練習が終わったらサエグサさんとスズメさんに会う予定だ。
四日前にサエグサさんがコウの背中に憑いている霊を追い払ってあげると。
バスケ練習が終わったら公民館から少し近くにある公園で落ち合うようになっている。
そして、時間が経つのは本当に早いものだ。
小さい頃は一日が長く感じていたのに成長するにつれて長かった一日が急に短くなったような気がした。
気づけばもう夜の7時で10分前に後片付けをして終わりの挨拶をした。
更衣室で着替えみんなそれぞれ荷物を持って体育館を出て行くと帰ろうとしているコウを呼び止めた。
「コウ。ちょっと待って」
俺が声をかけるとソース顔の堀が深い男前の顔がこちらを向いた。
見た目の割に声は子供のままだ。
「君に会わせたい人がいるんだ。悪いんだけどちょっとだけ俺と付き合ってくれないか?」
コウにはまだサエグサさんの事を話していない。
それでも、彼は何も訊かず「はい」という一言の返事で俺のお願いを受け入れてくれた。




