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(仮タイトル)天墜が還る日  作者: 久遠 ゆのか
第一章 黄の国ティワン
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[街道-1] 護衛任務:カイザ・ロッシュ

①ヒロインの名前にどうも違和感があって、アーシャ→アルネに変更しました。

②執筆中のため、本日中にもう1本上げれると思います。よろしくお願いします。


 町の東口を抜けた先、街道沿いの開けた場所に、数台の馬車と多くの人々が集まっていた。教会関係者らしき者たちが忙しなく準備を進め、冒険者たちは武器や荷物の確認に余念がない。


 俺はその様子を少し離れた岩に腰を下ろして、アルネと2人、眺めていた。


「いよいよ出発ね!」


 隣でアルネがワクワクした様子で声を上げる。俺は相槌を打ちつつ、列を成す馬車の方に目をやった。


 アルネには悪いが、俺はちょっと憂鬱だ。

なぜなら屋敷を出る時に、一悶着あったからだ。


 アルネ曰く今回の件をミャクリに伝えたから大丈夫との話だったので、一緒に屋敷を出たものの、門を出る寸前にミャクリが鬼の形相で追ってきたからだ。

 どうやら出る5分前に『ちょっと首都まで行ってくる!』と、一言で済ませてきたらしい。

 結局、アルネが(ゆず)らないのと、俺も一緒だということでミャクリが折れて今に至る。


 俺が(そそのか)したと思われてそうで心配だ。


 目の前にある馬車の一台に、護衛対象者らしい老齢の女性が静かに乗り込もうとしていた。


 目を引いたのは、その隣に立つ小柄な少女。大きめのマントを羽織りフードを目深に被ってるため表情は見えない。老婦人がその子に手を差し伸べ、馬車に先に乗せるよう丁寧に介助している。


(……優しい方だな。)


 自然とそんな印象を抱いた……が、同時に少しだけ胸に引っ掛かりを覚えた。護衛対象者となる要人より優先される少女。


 それに、トウエンの前は別の町に立ち寄っていたと聞く。危険も伴う旅程なのに、なぜあんな幼い少女が?

 

 身内なのか、それとも……。

目的地や任務内容に関係しているのかもしれない。思考の端に、その疑問が引っかかる。


 出発間近の緊張感が周囲に広がる中、そんなことを考えていると、俺たちのもとに一人の男が近づいてきた。      

 赤褐色の髪をした長身の男で、歩き方からして自信満々といった様子だった。


「よう!俺の名前はカイザ・ロッシュ。Cランク冒険者だ。」


 いきなりそう言ってきたかと思うと、立て板に水のごとく言葉が続く。


「お前たち、Dランクで外に出るのは初めてなんだってな? 経験値不足でDランクだなんてもしかして有力貴族のコネか?ま、いいや。なんかあったら俺に頼っていいぞ。その代わり足は引っ張るなよ?」


 捲し立てるようにそう言い切ると、カイザは俺たちの返答も待たずに、別の冒険者たちの方へ移動し、同じような話を言い聞かせていた。


「……なんだったんだ?」


 俺が思わず呟くと、アルネがプンプンと肩を怒らせた。


「何あいつ!むかつく!人の顔見るなり喧嘩売ってんじゃないの?」

「まぁまぁ……口下手なだけで、親切心かもしれないだろ?」


 俺が宥めると、アルネはすぐに首を横にブンブンと振る。


「そんなはずない!あいつはろくでもない男よ!私の勘がそう言ってる!」


(……またアルネの勘か。)


 俺は苦笑いする。確かにカイザというやつは、鼻持ちならないタイプだ。それに、アルネの勘は意外と当たる――いや、かなり当たる方なのだ。


−−−−−


「だいぶ隊列が整ってきたわね。」


 アルネが目を爛々とさせて言った。

 俺は小さく頷いて、列の中心付近を眺める。


 隊列は物資や教会関係者を乗せた数台の馬車を中心に前後を守るようになっている。先頭に配置されているのは、先ほど絡んできたカイザ・ロッシュ。どうやら彼は偵察役を自ら買って出たようで、得意げに馬を進めている。その後ろには、教会の旗を掲げた騎士たちが続く。教会所属の巡礼騎士だろう。見るからに格式が高く、威厳に満ちていた。


 俺たちの配置は、老婦人の乗る馬車のすぐ後ろだ。いざという時にすぐ駆けつけられるようにとのことらしい。

 直接の警護は騎士たちが担っているが、背後の死角を埋める意味でも、俺たちが配置されているわけだ。

 初の任務にしては、かなり重責だと思う。


 出発の時がきて、巡礼騎士の一人が手にした金の鐘を一打ちすると、隊列が静かに動き始めた。

その音は清らかに響き、道行く者たちに教会の存在感を示した。


−−−−−


 隊列は順調に進み、やがて日が沈みかけていた。

今日の行程はここまでだということが伝えられ、野営の準備をが始めるよう指示が飛んだ。冒険者である俺たちには野菜や水など、最低限の物資しか支給されないので、当然ながらテントなんてものもない。


 俺は雑魚寝できる場所を確保した後、薪を拾い火を起こした。ちょうどその頃、アルネが支給された食材と鍋を手に持ってやってきた。


「どうする?肉も必要なら、冒険者らしく野ウサギでも狩りに行く?」


 アルネが弓の弦を引きながら、軽い調子で言ってきた。


「さすがに教会関係者の依頼中に、命を刈るのは居た堪れないな。」


 俺が個人的な心情でそう言うと、アルネも同意して頷いた。


「首都までの道のりはたった2日だ。今夜と明日だけ我慢して、依頼が終わり次第、美味しいものでも食べに行こうな。」

「そうね、そうしましょ!じゃあ今日は簡単にスープでいいかしら?」


 アルネは鼻歌を歌いながら、スープの具材を切り始めた。

その間、俺は火の番をしながら、少し遠くの景色を眺めていた。


 スープが出来上がり、二人で火を囲んで食べ始めた時、草むらの向こうからガサッと音がした。 


「魔物か!?」


 警戒して武器を構えると、そこに顔を覗かせたのは例の少女だった。


「びっくりしたー!武器を向けちゃってごめんね、こんなところへどうしたの?」

「鳥…。」


 アルネが優しく声をかけると、少女はただ一言そう呟いて、またそっと去っていった。


「うーん?行っちゃった。」

「カルドアが気になってきたのかもな。」


 そう言って、アルネと一緒に少女が向かった方向を見送った。

焚き火周りに座り直すと、今度は男の声がかかる。


「おまえら、こんな貧乏食を食ってるのか?よく耐えられるな!」


 振り返ると、カイザ・ロッシュが手に骨付き肉を持って、肉をむしゃむしゃと食べながら、俺たちを見下ろしてきた。


 アルネはムッとした顔でカイザを睨みつける。


「何よ!」


 顔を真っ赤にして反応するアルネ。


「私たちが何を食べようと、あなたには関係ないでしょ!」


 その間にもカイザは、肉をむさぼりながら話している。


「平民の底辺冒険者って大変なんだな。気の毒だから、これくれてやるよ。」


 カイザは食べかけの肉を、俺たちの前に放り投げてきた。

そして満足そうに笑いながら、その場を去っていった。


「なんなの、あいつ!やっぱり最低な奴ね!」


 アルネは身体をワナワナさせて言い捨てた。


「この肉、どうする?食べるわけにいかないし、放置すると魔物が寄ってきそうだし…。」

「こんな肉!燃やしちゃえばいいわよ!」


 アルネが焚き火に肉を放り投げると、香ばしい匂いが立ち込める。俺たちはカイザ・ロッシュの発言より、この肉の匂いに苦しむことになった。


「全くなんの嫌がらせよー!!」


 アルネは再び怒りを爆発させてた。


「あいつのことは放っておこう。気にするだけ疲れそうだ。」


 俺がそう言うと、アルネは渋々納得した。


−−−−−


「あ、そうだ。カルドアにもご飯をあげないとな。」


 カルドアは、声をかけるとすぐに飛んできて、肩にぴたりと止まった。小さな足を踏み鳴らし、ぴんと立った尾羽が嬉しそうに揺れる。


「よし、今日は特別だぞ、カルドア。」


 俺はカルドアのために用意した餌を、見えないように隠しつつ皿に盛り付ける。いつもは余った食材を厨房から貰い受けて食べさせているが、今日は特別に新鮮な餌を用意した。フードで寝ていたカルドアが、期待に満ちた目で俺を見つめてくる。


「ほら、カルドア、いっぱい食べろよ。」




ーーーコトッ。

 皿をカルドアの前に置いた。


カルドアはテンション高く皿を覗き込むと、ぴたりと動きを止め、目の前の餌をじっと見つめている。普段ならすぐに食べ始めるのに、今日はなぜか動かない。


「どうした?カルドア、食べないのか?」


 何度か声をかけてみても、カルドアは固まったまま、餌を凝視し続けている。皿の上にあるのは鳥の大好物、元気に動くミミズの山だ。


 カルドアは目を開けたまま気絶して、ポトリと横に倒れた。


「あれ?カルドア?カルドア!?」


 俺は慌ててカルドアを呼びかけるが、どうやら意識は完全に失っているようだった。ぐったりと横たわるその姿に、俺はしばらく呆然としてしまった。




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