表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(仮タイトル)天墜が還る日  作者: 久遠 ゆのか
第一章 黄の国ティワン
22/22

[街道-2] 護衛任務 : 野盗の襲撃


 カルドアはいつも、俺のフードの中で丸くなって眠っているか、俺の肩に止まっている。そう、いつもなら−−−−−


 でも今は、俺じゃなくてアルネの肩に乗っていた。


 アルネはというと、自分の頬にカルドアの羽が触れるたびにニコニコと、口元がゆるみっぱなしだ。


「ふふ、可愛いー!カルドアちゃん、あなた案外見る目あるじゃない。どう?このまま私の子になっちゃう?」


 冗談めかしてそう言って、カルドアの首元を優しくなでる。カルドアは目を細めて、満更でもなさそうな顔をしていた。


 ……いや、違う。満更でもなさそうに“見せてる”だけだ。昨日のご飯に怒ってスネてるだけだ。当てつけてるたけだ。そうだ、そうに違いない。


「なあ、カルドア。ごめんな。機嫌直してくれよ。」


 俺は少し離れた位置から、懇願するように手を合わせて言う。


「まさか、ミミズを見て気絶するなんて思わなかったんだ。俺、てっきりお前の好物で喜んでくれると思って……。」


 カルドアはくるりと首を回して、チラリと俺のほうを見た。視線が冷たい。


 俺は、なおも食い下がった。


「今度こそ、お前の好みのやつにする。首都に着いたらさ、何でも好きなもの食べさせてやるから。な? だから、そろそろ許してくれよー!」


 ”なんでも”が効いたのか、カルドアは羽を広げると、ふわりと飛び立った。そして、ふた呼吸のあいだ空を舞ったあと、いつものように俺の頭に着地した。


「お、おお……戻ってきた……!!!」


 安心と喜びが入り混じった声が、思わず口からこぼれた。


 アルネが少し寂しそうに笑う。


「あー!私のカルドアちゃんが!やっぱりこの子にはあなたが一番なのね…。」


 アルネは残念そうに呟く。

俺はホッとして、頭の上のカルドアにそっと触れながら、空を見上げた。


 今日は行程二日目。すでに隊列は動き出していて、明日には首都シャンフへ到着予定だ。天気は悪くないが、雲が低く垂れ込めていて、空気はしっとりと重い。


 ふと、思い出したように、隣を歩くアルネに声をかけた。


「なあ、これから向かう首都って、どんなところなんだ?」

「んーとね、首都名はシャンフ。この国って他の国と文化が隔絶してるから、他所から見ると珍しいものが多いらしいの。だから、買い付けに来る商人がたくさん出入りしてるわ。」

「へえ…賑やかそうだな。」


 久しぶりにアルネ先生の授業が始まった。

 

「街の中心には護国の塔と教会があって、信者たちはそこに祈りを捧げに来るの。」

「護国の塔って何だ?防衛用の塔か?」

「ううん、魔物よけの結界装置よ。でもそれを動かせるのは“星君”だけなの。だから、今のティワンじゃ機能してないわ。」

「星君しか動かせない装置?そんなものがあるのか。」

「そうよ、護国の塔は全部で六つ。世界に六芒星みたいな配置で建ってるの。で、その塔を中心に各国が栄えているわけ。けどね、誰が建てたのかも、どうやって作ったのかも、ぜーんぶ不明なの。しかも何百年経っても劣化しないし、傷つきもしないって話よ。不思議でしょ?」

「へぇ……どんな仕組みなんだろうな。やっぱり、星君ってのは特別な存在なんだな。」


 なにもわからない謎の塔、興味深い話だ。

もしかして本当に神が作った物なのかもしれない。


「ただ、仮に今ティワンに星君が現れて、護国の塔を起動させたとしても――」

「しても?」

「意味がないのよ。1国だけじゃ効果がないの。隣り合う二つの国でそれぞれ塔を起動させて、神の島を起点に結界が張られる仕組みだから。そしてその結界装置間だけが守られるようになるの。」

「つまり、他国と連携しないとダメってことか。」

「そう。つまり星君の存在する3国が並んでれば、真ん中の国は全域守られるけど、他の2国は半分の土地しか守られない。で、ティワンの両隣――新緑の国と赤の国も、今は星君が不在で摂政王が統治してる状態だから、当分は結界なんて期待できないわね。でもティワンは幸い今代の摂政王ユンリン様が優れた方だから、恵まれてる方よ。」


 ふむふむ、アルネ先生の授業はわかりやすいな。


「じゃあ、星君は神が選ぶというけど、どうやって証明…。」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!



 突如、地鳴りのような音が響き、俺とアルネは咄嗟に立ち止まった。

足元がわずかに揺れたような気がしたのは、気のせいじゃなかった。


「……なに?」


 アルネが眉をひそめ、耳をすます。

その表情が、瞬く間に緊張に変わっていく。


 周囲の護衛や騎士たちもざわめき始めた。

馬車の前方の列から、怒鳴り声が次々と響いてくる。


「何事だ!?」

「剣を取れーッ!野盗だーーー!!」


 その叫び声が届いた瞬間!



ドオオオオオオオオォォォォォォン!!



 凄まじい衝撃音と共に、巨大な岩が崖上から転がり落ちてきた。岩は前方の馬車列のすぐ後ろに激突し、土煙を巻き上げて道を完全に塞ぐ。


「岩が……!」


 岩塊を境に、隊列は二手に分断されてしまった。

しかも前列が敵に包囲される寸前だ。


「来るわッ!」


 アルネの叫びと同時に、崖の上から武装した男たちが雪崩のように駆け下りてくる。野盗だ。

短剣や鉈を持った連中が、叫びながらこちらに殺到してくる。


「構えろーッ!!防衛陣形を保て!!」


 巡礼騎士の一人が指揮を取り、周囲の冒険者たちに号令をかける。旅団の護衛たちが次々と武器を構え、前衛を固めていく。


 俺も腰の剣を抜き放ち、アルネは背中の弓をすばやく構えた。


「ルーシェ、私が援護する。ルーシェは前に!」

「わかった、頼んだ!」


 俺が前に出ると同時に、アルネが矢をつがえて引き絞る。


 ――ヒュンッ!


 最前列の野盗の一人が矢に射抜かれて倒れた。その一瞬の隙を突き、俺は間合いに入る。


「はッ!」


 剣を振りぬき.一人目を倒す。そのまま二人目が斧を振りかざして突っ込んでくる。


「後ろ!」


 アルネの声に反応して身体を沈めた瞬間、矢が俺の頭上をかすめて敵の腕を貫いた。斧がそれて、俺はその腹に一撃を叩き込む。


「ナイスだ、アルネ!」

「まだまだ来るわよ!右、三人!」


 アルネが次の矢をつがえながら指示を飛ばす。俺はすぐに右側に移動し、敵の斜線に入らないよう身を翻した。


 「てやあああッ!!」


 剣で二人目をいなすと、三人目の腹に膝蹴りを叩き込み、そのまま地面に叩きつけた。背後ではアルネが冷静に矢を放ち、的確に敵の動きを止めていく。


 まるで訓練された部隊のような連携。息が合っていることに自分でも驚く。


 「まだ数が多い……!」


 アルネが矢筒を確認しながら言う。俺も額に汗を浮かべた。どうやらこれは、ただの野盗じゃない。動きに無駄が少なすぎる。


 そのとき――


 馬車を中心に、一筋の炎が空を裂いた。


「火矢だ!」


 誰かの叫びが、次の瞬間には轟音に掻き消される。

また岩が落ちてきた。

 その間、馬車に火が移り、炎があっという間に木枠を包み込んだ。


「馬車の中の方を助け出せ!急げ!」


 騎士の一人が馬車の扉を開け、火の粉の舞う中から老婦人と少女を引き出した。


「こちらへ!立てますか、老婦人!」

「わ、わたくしは…大丈夫です。それより、この子を…。」


 少女は怯えた目で周囲を見渡していたが、騎士が手を引くと必死に馬車を降りた。


「老婦人を守れ!」

「子供もいるぞ、急げ!」


 教会関係者の老婦人と少女を囲むように、騎士たちが駆け寄る。


 だが、崖上から追撃の矢の雨が降る。


「出てきたぞ!その女どもを殺せ!」


 声が響く。

野盗の指揮官らしき奴が現れ、狙いを指示する。


「ババアじゃない!子供だ!子供の方を狙え!」


 複数人の野盗が、一斉に少女に襲いかかる。

騎士たちは老婦人の防衛に集中していたため、少女の守りは手薄だ。


――間に合わない!



「……っ!」


その瞬間、飛び出した者がいた。

アルネだ。少女を庇うように体を投げ出し、鋭い剣戟が彼女の腕を深々と切り裂く。


「アルネ!!!」

思わず、俺は叫んでいた。


「……大丈夫、私は平気。それより……敵をお願い。」


 アルネは少女を庇ったまま、顔を(しか)めて言った。血がじわじわと袖を濡らしていく。


 怒りと共に剣を抜き、俺は戦列に戻った。騎士や他の冒険者と連携し、何とか敵の勢いを押し返していく。


 そして鎮圧が見えてきた頃、戦況確認のため岩塊の上に登った護衛騎士が叫んだ。


「前列が追い込まれている!こちらの残党狩りは巡礼騎士に任せる!加勢できる者は前列へ向かえ!」


 俺はすぐさま前列へと駆け出した。足元には倒れた騎士や冒険者たち。

その中で――見えた。カイザ・ロッシュが剣を振るいながらも、もはや地に座り込んでいた。


 敵の剣が彼に振り下ろされようとした瞬間、俺は身を滑り込ませ、その刃を受け止めた。


「大丈夫か?カイザ!」


 振り返ったカイザ・ロッシュは肩で荒い息をしながらも、悔しそうに歯を食いしばっていた。その目には、助けられたことへの苛立ちを感じる。

 カイザ・ロッシュは血に汚れた顔をしかめ、しかし鋭く言い放った。


「余計な邪魔をするな!」


 その声とともに、カイザ・ロッシュが強引に前に出てきた。俺の足元に土が飛び散り、バランスが崩れる。


 刹那、敵が好機を逃さず踏み込んできた。

 俺の肩が開き、剣を構え直す暇もない――


(しまった!!!……終わりか……?)


 鋭い金属音とともに、敵の剣が俺の首筋を狙って迫ってくる。


 その時だった。

カルドアが俺の肩から飛び上がり、空中で羽ばたく。

その小さな口元に赤い光が集まり――


火が放たれた。


「カルドア!?おまえ…!!」


 燃え上がる炎が敵の陣を裂き、複数の敵が倒れ、あるいは動揺した。

その隙に俺は剣を振るい、残った敵を一気に討ち取った。


 静けさが戻った。

辺りには倒れた者たち――敵も味方も入り混じっていた。


(そうだ!!!カルドアは!?)


 俺は周囲を見回し、少し離れた木の根元に小さな赤い影を見つけた。


「カルドア!?おい、しっかりしろ!カルドア!」


 駆け寄ると、カルドアは息を荒くして、ぐったりと地面に伏していた。

さっきの炎が負担だったのか、羽を震わせて苦しそうにしていた。




 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ