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(仮タイトル)天墜が還る日  作者: 久遠 ゆのか
第一章 黄の国ティワン
18/22

[トウエンの町-18] 聖女への道と最大の試練


 翌朝。いつものように早起きして身支度を整え、ギルドへと向かう。通りには朝の陽光が差し込み、商人たちの声が活気を与えていた。今日は昨日とは違う、少し引き締まった気持ちでここに来た。


 ギルドの扉をくぐると、アリアはカウンターの向こうで他の冒険者と話していた。彼女は手際よく依頼の確認をしながら、冒険者の質問にも的確に答えている。その横顔はまさにギルドの顔といった感じだった。


 やがて話を終えた彼女がこちらに気づくと、軽く頷いた。


「おはようございます、ルーシェさん。そろそろ来る頃と思ってたわ。」

「おはよう、アリア。昨日の護衛任務の件だけど受けようと思って。まだ受け付けてる?」


 俺の言葉に、アリアは準備していたかのように手元のファイルを二つ取り出し、カウンターに並べた。


「ええ、大丈夫ですよ。どちらの依頼を受けるか決める前に、内容を説明しますね。」


 彼女はまず、一つ目のファイルを指でトントンと叩いた。


「一つ目は首都から来た貴族の使者の護衛です。最近、途中の山道で盗賊の目撃情報があるんですが、荷馬車に貴重品を積んでるらしくて、護衛の手が足りないらしいの。」

「ふむ……貴族の使者か。襲撃の可能性が高いってこと?」

「現時点では可能性というだけの話ですが、備えあれば憂いなしですしね。ただ気になるのが、貴重品を積んで警戒が必要と言う割に、首都から同行した付き人の数が少ないのが気になります。何か別の事情を隠してるのかもしれないです。」


(貴重品を保護したいというのに、護衛が手薄?確かに変だ。)


 アリアは次のファイルを開きながら続ける。


「二つ目は教会関係者の護衛です。首都の教会で働いている方を、聖女メイホア様の元に戻る道中の護衛依頼ね。特に問題報告はされてないけど、当人が高齢で道中の危険を避けるために護衛をつけるらしいわ。」

「なるほど。そっちは穏やかそうな旅になりそうだな。」

「ええ。ただ、聖女の関係者ってことは、作法や信仰について、何かと気を使う必要はあるかもしれないわね。」


(どちらも首都に向かう道ではあるけど……。)


 俺は二つの依頼を見比べた。盗賊に襲撃される可能性がある貴族の護衛――危険だけど、戦いの経験を積めるかもしれない。一方で、教会関係者の方は、聖女に会うための橋渡しになるかもしれない。


 俺の視線が自然と、教会の護衛の方に止まった。


「この教会関係者って、メイホア様に直接会う予定なのか?」

「それはわからないけど…ただ、首都の教会へ向かうことは確かです。」


 どちらにしても、この2つなら実質一択だ。


「教会関係者の護衛の方を受けるよ。聖女メイホア様に会いたいんだ。」

「聖女様に!?」


 すると、アリアは『それはちょっと…』と言いたげに首を傾げた。


「ルーシェさん、護衛任務をしたからといって、聖女様に会えるとは限らないですよ?」

「え?」

「教会の関係者といっても、聖女様に直接謁見できるような立場かどうかわからないし、仮に会える立場だとしても、冒険者の護衛が一緒に通されるとは思えないわ。」

「うっ、……そうか。」


 確かにそのとおりだ。護衛の役目は、目的地まで無事に送り届けること。相手の用事が済むまで付き添うわけじゃない。聖女に会える可能性は、そう高くないのかもしれない。


(どうする?護衛任務で首都に行っても、肝心の聖女に会えないんじゃ、目的が果たせない。)


 聖女メイホアは、この国の聖女として多くの人に慕われている。そんな人に直接会うなんて、普通はできないのだろう。


(どうにかして接触できないか?何か方法があれば……。)


 そう考えたところで、アリアがふと視線を上げた。


「……そうですね。もし、どうしても聖女様に会いたいなら、バッカスさんに相談してみるのも一つの手かもしれませんね。」

「バッカスさんに?」

「ええ。彼は知っての通りただの冒険者じゃありません。領主…つまり貴族でもあるし、もしかしたら中央貴族との繋がりがあるかもしれませんよ?」

「中央貴族……?」

「ティワンの政治の中枢に関わる貴族のことです。そういう人たちと繋がりがあれば、普通なら会えない相手にも接触できるかもしれないですね。」


 確かに今の話からいけば、バッカスに相談してみることが、聖女に会うための一番の近道に思える。仮に中央貴族と繋がりがなくても、貴族社会に身を置くバッカスなら、他の手段を示してくれるかもしれない。


「わかった。どっちにしても、この依頼を受けることにするよ。」


アリアは頷き、手元の書類を整理した。


「では詳細と日程をまとめてくるので、少し待っててもらえますか?」

「あ!でも、バッカスさんに連絡を取るにはどうしたらいいんだ?領主である彼の屋敷に直接会いに行っても、門前払いになりそうだ。平民の自分がいきなり訪ねたら、困らせてしまうんじゃないかと心配なんだが……。」


アリアは少し考えて、明るく切り出した。


「それなら、ギルド経由でアポを取るのが一番ですね!バッカスさんもギルドのメンバーですし、ギルドを通してなら連絡も取りやすいです。」

「なるほど!ギルド経由でか、それなら間違いないな。」

「ええ。少し待てくれれば、アポの調整をこちらで行います。」

「わかった、じゃあ、よろしく頼むよ。」


 アリアに向かって軽く頭を下げた。


−−−−−


 カウンターの端に背をもたれ、待つこと10分……。


 アリアがぐったりとした様子で戻ってきた。先程までの元気なアリアとは打って変わって、まるで戦士が一日戦い抜いた後のような疲れきった顔をしている。


「アリア、どうしたんだ?」

「……ダメだと言って止めたんですけどね…。」

「ん??」


 アリアは力なくふらふらとカウンターの前に近寄り、手に持っていたメモ用紙を俺に差し出した。


「アポは取れました。ここに来るようにとのことです。」


 俺はそのメモを受け取って、軽く目を通した。

 そこにはアリアが描いたらしき手書きの地図があり、その下に店の名前が書いてあった。


 その店の名は…………【 の ん べ 亭 】


(ぇ……?)


 ちなみに店のある通りの名は【呑 兵 衛 横 丁のんべえよこちょう】


「まさか…?」

「そのまさかです。」


 アリアは何の躊躇もなく言った。その顔に動揺は見られない。


「酒か!?」

「酒ですね。」


 2人の発言が同時に被る。アリアの目は据わっていた。

 俺は力なく笑う。


「ハハハ…。この人、どうしてこんなところで待ってるんだろうな?」

「私は全力で止めましたからね!」


 アリアは必死に自分は努力したから悪くないと防衛戦を張った。

 俺は頭を掻きつつ1つ息をつくと、アリアに向かって言った。


「とりあえず行くしかないな。」


 アリアの表情は『ご愁傷様です』と言ってるかのようだ。苦笑いしながら警告を続ける。


「バッカスさんは、とめどなく飲むそうですよ。うちのギルマスも付き合い酒で何度か死にかけてるから、気をつけてください。」


 俺は頷くが、内心は不安しかない。


「頑張ってくるよ…。」


 アリアはまるで永遠の別れかのように、激しく手を振りながら、何度も念を押す。


「気をつけて!本当に気をつけて行ってきてくださいね!」


(俺…生きて帰れるのかな?)


 足取り重く繁華街へとその足を向け、ギルドを後にした。


−−−−−


 店に着くと、すでにバッカスは店の奥の席で、ぐいっと酒を飲みながら待っていた。俺が店に入ると、バッカスが手を上げて迎えた。


「おー、きたか!ここだここだ!」


 俺はまるで処刑台に登るような気持ちで、バッカスの元へ向かう。


「待たせてすまない。」

「気にすんな!ほら、ここに座れ!」


 腰を下ろすと、バッカスはすぐにニヤリと笑いながら言った。


「で、当然飲むよな?」


 俺は戦々恐々としながら答える。


「少しだけなら。」

「しみったれたこと言うなよ、酒は潤滑油だと教えただろ?」

「ハハハ…。」


 こりゃほどほど済ませて逃げるっていうのは難しそうだ。

バッカスはご機嫌な様子で、グラスを掲げる。


「よし、乾杯だ!」


 俺も渋々グラスを取り、少しずつ酒に口をつけた。


すると、バッカスが突然話を切り出す。


「そいや、面白い話があるんだ!ソンユのやつは俺が酒を飲むとうるさいんだが、あいつも酒好きでな。」

「そういえば、先日執務室でも酒飲んでたな。」

「そうそう、たいして強くもないのに結構な量を飲むんだ。で、あいつもここに出入りしてるんだが、先日飲みすぎて足腰が立たなくなってな、家まで四つん這いで帰ったらしいぞ。」


「四つん這い?!嘘だろ?」


 もし本当なら、ギルドマスターの威厳なんて木っ端微塵になる案件である。


「実話も実話さ、なぁ、店主?」


 店主がその言葉に返答する。


「バッカスさんが飲み潰したんでしょ!」

「そうだったか?」


 バッカスは他人事のように、大声で笑っている。


(天災のように恐ろしい男だ…極力この男とは飲まないようにしよう。)


 しばらく店主を交えて3人で盛り上がり、他の客に店主が呼ばれたところでバッカスが切り出す。


「で?ルーシェ、なにか相談があるんだろ?」


 バッカスの表情は、さっきまでと違い目に力が入っていた。こちらの話を真剣に聞こうとしてくれているのがわかる。


「あぁ。実は…、首都にいる聖女メイホアに会いたいんだ。」


 バッカスは少し驚いた表情を見せ、諭すように話し出す。


「それはちょっと難しいぞ。おいそれと会える方ではないからな。」


 俺は頷きながら、ミャクリに相談した内容と言われた事を掻い摘んで説明し始めた。


「なるほどな…。確かに先読みの聖女様であれば、おまえを導いてくださるかもしれん。」


 バッカスは考え込むように下を向いて黙ってしまった。


その沈黙の間に、俺は続けて言った。


「実は今日、教会関係者の護衛任務を受けた。数日後に出発して、首都に同行することになっているんだ。」


 バッカスはそれを聞くと、目を細めて言った。


「わかった、何か手を考えてやる。」

「助かるよ、バッカスさん。恩に着る。」


 俺が感謝の気持ちを込めて頭を下げると、バッカスは手を振って気にするなと言った。ーー−−−−−が!?


「そのかわり、今日はとことん付き合えよ!」


(クソッ!やっぱりそうくるか…。)


「わかったよ…今夜はとことん飲もう!!!」


 この試練を乗り越えさえすれば!

俺は人生最大の覚悟を乗せて、グラスを一気に飲み干した。






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