[トウエンの町-14] ルトの行方
朝からお付き合いくださってる皆様、
おはようございます(*´꒳`*)
本日の1本目はちょっと長めですが、
よろしくお願いします♪
明くる朝。
俺とアルネは、医者を連れてルトの家へと向かった。
約束したその当日、家に到着するとルトの姿は見当たらない。家の中は静まり返り、異常な気配が漂っていた。
「ルト?」
今日の訪問を伝えていたから、てっきり家にいるもんだと思っていたのに、ルトは不在のようだ。
アルネに目を向けると、彼女は部屋の隅を指さした。そこには、ルトの妹が横たわっている。よく見るとその顔色は悪く、明らかに体調が優れない様子だ。
医者が駆け寄り、妹の様子を見て言った。
「幼い体に大きな負担がかかって、よくない状態です。詳しい診察が必要ですが、このままだと命に関わるかもしれません。早急に治療を始める必要があります。」
アルネは妹に近づき、優しく声をかける。
「大丈夫、すぐに治療を受けれるからね。」
その言葉に、妹が弱々しく目を開け、息を切らしながら言った。
「お兄ちゃんが…帰ってこない…昨日からずっと…。」
俺とアルネは顔を見合わせ、怪訝な表情を浮かべた。
「ルトが帰らない?」
「大変!探さなきゃ!」
アルネは俺の判断を待って、こちらを見ている。
「アルネ、妹さんの治療は君に任せていいか?俺はルトを探しに行くよ。」
アルネはうなずき、妹に尋ねた。
「妹さん、お兄ちゃんはどこに行くって言っていたの?」
妹はかすかな声で答えた。
「昨日の夜、大通りの裏で…取引があるって…。」
その言葉を聞いた俺は、思わず眉をひそめた。
「取引?」
もう一度聞き返したが、妹はそれ以上のことはわからないようだった。
ルトはただのスリだ。取引なんて言葉を使うはずがない。俺は直感的に、何かおかしいと感じた。
しかし、考えている暇はない。妹を一刻も早く治療しないといけないし、ルトを探さなければならないからだ。
俺はアルネに告げた。
「ひとまず大通りへ行ってみるよ。何か手がかりがあるかもしれない。」
アルネは頷き、妹の元へ戻る。
「ここは私と先生に任せて、ルーシェは行って。」
俺は急いでルトの家を出て、大通りへと向かった。
−−−−−
大通りに到着した俺は、何から手をつけるべきか迷いながら周囲を見渡した。しかし、人々が忙しなく行き交うばかりで、手がかりが見つかる気配はない。
(アジトを特定するため、聞き込みしたところで時間がかかる。一か八か…、誰かがスリをしている現場を押さえて吐かせる方が早いかもしれない。)
考えに没頭していると、ふと視界に子供から金を奪おうとしている男の姿が見えた。俺は直感的に、この男がスリ集団の一員、もしくは関係者ではないかと感じた。すぐにその場に駆け寄り、男に声をかける。
「おい、おまえ。子供相手に何をしている?」
俺は男に向かって歩み寄り、その手を掴んだ。
男は驚き、手を振り切って逃げようとしたが、俺の腕力に敵わなかった。俺は男を無理やりその場に押さえ込み、アジトについて喋らせる。
「スリ集団の一員か?おまえが仕切っているわけじゃないだろう、仲間はどこにいる?」
男は敵わないと諦めたのか、恐怖に顔を歪めながら白状した。
「あっちだ、あっちに行けば…アジトがある…。」
本来ならこいつを捕獲すべきだが、今はルトの行方を捜索するのが第一優先だ。
俺は男を放りだし、指し示した方向へと急ぎ走りだした。
−−−−−
先を急ぐと辺りはだんだんと薄暗く、怪しい雰囲気を纏うようになった。人もそう通らない倉庫や廃屋が立ち並ぶこのエリアは、裏社会の人間が活動するにはもってこいの場所だと感じた。男の言っていた方向に進むと、目の前に小さな倉庫が見えてきた。その入り口には二人の見張りが立っており、俺が近づくと警戒するような視線を送ってきた。
「何だ、お前は?」
一人が声をかけてきた。その態度はどう見ても、後ろ暗い世界に身を置いている者の気配だ。99.9%の確率でスリの一味だろう。
「すまんが、ちょっと話がある。」
俺は相手の気を荒立てないように冷静に答えた。
「話?あんた、誰だ?」
その言葉と共に、もう一人の男が俺に近づいてきた。俺は少し身を屈め、すぐに腕を回して相手を押さえ込む。
「お前たちのアジトはこの中だな?」
低い声で言った。
男は一瞬、顔色を変えたが、すぐに冷や汗をかきながら言った。
「ち、違うんだ。あっちにあるんだよ…でも、カモフラージュで俺たちはこここに…。」
どれだけナメてるのか?
子供でも騙されないような、ふざけたことを抜かしてきた。
「おまえ、俺を見くびってるだろ、そんな話を信じると思うか?」
ドスの効かせた声で被せると、男の顔がさらに青ざめる。すぐに腕を引き、彼の首をわずかに締めるように力を入れると、男は口を開いた。
「わ、悪かった…!あんたの言う通り、アジトは後ろの倉庫の中だ…!」
「中にいるのは何人だ?嘘をついたら後で締める。仮に逃げても追いつめる。それが嫌なら正直に言うんだな。」
「さ、3人だ!!!」
(3人なら、やってやれないことはないか?)
「もういい、おまえたちはこの場から去れ。」
俺が男を放すと、見張りの2人はそそくさと去っていった。
俺は扉を開け倉庫の先に向かって進むことにする。
倉庫内の先に見つけた扉をさらに開けると、そこには数人のスリ仲間がいた。俺が入ってきたことに気づいたのか、スリ達は一斉に警戒した表情を浮かべ目を見開いた。
「誰だ!てめぇ!勝手に入ってきやがって!」
俺は何も言わず、すぐに剣を手に取り身構えた。
「お前たち、ルトをどうしたか答えろ。」
その言葉にスリたちは意外そうな顔をして驚き、少し間を置いた後に1人の男が口を開いた。
「ルト?ああ、あのガキか。あいつはもう用済みだ。保護費を払えないと言うからな、売っちまったんだよ。」
「払えないと言って売った??」
(金策するよう革手袋を渡したのに、払わず抵抗したのか?)
返事をした男の腹に拳を一発入れる。
「グホァ!!!」
男は腹に両手を当て床で悶絶しているが、俺は構わず尋問を続ける。
「どこに売ったんだ?!」
「お、おい!話す!話すから暴力はやめてくれよ!」
俺は殴ったその手で男を掴んだまま、さらに力を込める。
「どっ、奴隷船だ!町の西口の先にある海岸に停泊している…奴隷船に乗せるために運んだんだ…!」
その言葉を聞き、俺は一瞬、体が硬直した。
(まさか酒場で聞いた奴隷売買の噂は事実で、このスリ集団と繋がっていたのか!?)
これが事実なら、船が岸を離れてしまえば手が出せなくなる。
ルトの身に想定外の危険が迫ってると知り、すぐに決断を下す。
俺はスリ集団を放置し急いでアジトを出ると、海岸線へと向けて駆け出した。
(時間が無い!)
ルトが船に乗せられてしまう前に、何としてでも助け出さなければならない。
船なら船員や用心棒など、アジト以上に戦力を整えているだろう。
一人での解決は厳しいと考えた俺は走行ルートを迂回し、途中ギルドに立ち寄って、ギルマスターのソンユに急報を入れることにした。
最低限の情報と船が停泊している特定地を伝え、早急に数人の冒険者を集める手筈を整えるよう頼む。
「急いでくれ、ソンユ。奴らはその奴隷船にルトを乗せようとしている。おそらく他にも被害者がいるはずだ。」
ソンユは神妙な面持ちで頷く。
「わかった、すぐに手配しよう。」
ソンユの返答を確認すると同時に、俺はその場を飛び出した。
そして1秒でも速く現場に到着できるよう走り続ける。
西口を抜け海岸に到着すると、大きな岩場が見えた。
そして岩場の影に大型船が停泊しているのを発見した。
突入のタイミングを測るため監視していると、船周辺にスリ集団の姿を確認した。
さらに、先日酒場へ巡回と称して姿を見せた役人の姿もあった。
俺は船と反対側の岩場の陰に身を隠し、突入のタイミングを測るため周囲をじっと観察する。スリ達と役人は何かを話し合っていて、それほど強い警戒態勢は取っていない。
船の周りには囚われた者たちが一列に並ばされ、首からぶら下げた木札を確認した順に奴隷船へと誘導されていく。
ルトもいるはずだが、その中には姿がなく見つけられずにいた。
(すでに奴隷船に乗せられてしまったのか?)
俺は船との距離をさらに縮めようと、死角となる岩場の間を抜けながら慎重に足を踏み出す。
そして目を凝らしたその時、遠くで船員の肩に担がれて、今まさに船に連行されようとしているルトの姿を捉えた。
「俺をどこに連れて行く気だ!離せっ!離せよー!!」
激しくて抵抗しているが、ルトの体格であの状態を脱することは難しい。
もう様子見だなどと悠長なことを言ってる場合じゃない。
俺は覚悟を決め岩場から出た。
するとルトは誰かがここに立っていると気づいたようで、こちらの方向を凝視している。
剣を鞘から抜き、刃先を斜め右下の脇構えにしたまま、最速のスピードで駆けた。
(奴らの態勢が整う前に距離を詰める!!!)
「………兄ちゃん…ルーシェ兄ちゃん!!!」
驚きと恐怖と少しの喜びを滲ませた声で、俺の名前を呼ぶルト。
同時にルトを担いでいた男が俺に気づき、反撃するためルトを地面に放り投げた。
その隙を突いて逃げようと、ルトが数歩前に出ようとしたが、気づいた他のスリ仲間に腕をつかまれ引き戻されてしまう。だがルトの目には、先程と違い希望が宿っていた。
ルトの必死に呼ぶ声で、俺という目撃者の存在に気づいた船員やスリ集団が集まり始める。
俺は向かってくる相手を、一人、また一人と倒し、目の前のスリ達を押しのける。だが多勢に無勢で、相手の妨害は激しく全く進まない。
「ルーシェ兄ちゃん、助けて!」
スリたちとの交戦は激しく、徐々に優位になってきてはいるものの、時間がかかりすぎていた。
(まずい!このままでは…。)
だがその時、船の上から一人の男が叫んだ。
あれは酒場で会った北方の訛りを持つフードの男だ。
「もういい!そのガキ以外の奴隷は全部積み終わった。一匹くらいどうとでもなる!それよりガキを捨てて急いで出航準備をしろ!なにやら嫌な予感がする!」
その一言で、船員たちはルトを解放し船に引き上げていった。現場にはスリ集団と例の役人が取り残された。
「ルト!怖かっただろ、もう大丈夫だ!」
俺はルトの前に膝をつき、両手を握りしめた。
よほど不安だったのだろう、ルトは俺の名前を連呼しながら泣き出した。
しかし、ルトは奪還できたが、まだ船には被害者がいるはずだ。
その時、ギルドの応援依頼を受け、土埃を立てて馬で駆けつける冒険者たちの姿が遠方に見えた。このまま流れに乗って、なんとか被害者を救出し、犯罪者共の捕縛まで叶えたいが…。
再び戦闘が起きた場合に、ルトが巻き添えを食らわないよう、岩場の反対側へ避難させる。
俺は冒険者たちに向かって叫んだ。
「急げー!奴らが出航しようとしているぞー!」
馬の爪音が一段階激しくなった。
船を見ると、船体の横から出るオールの先が動いた。
まもなく出航してしまいそうだ。
(頼む!間に合ってくれ!)
「ま、待ってくれー!こんな状況で俺はどうすればいいんだー!」
役人は船上にいるフードの男を見上げながら、焦ったように叫ぶ。
しかしフードの男はその様子を冷たい目で一瞥し、無言のままサッと右手を上げた。
その瞬間、船より上方に向かって大量の矢が打ち上げられ、放物線を描くようにして陸地に刺さっていく。そして無作為に打ち上げられる矢とは別で、1本の鋭い矢が別の角度で飛び出し、瞬時に役人の命を奪った。恐らく口封じだろう。
俺は自分に向かってくる矢を剣で薙ぎ払うが、周りのスリ集団は、矢をかわしきれずにバタバタと倒れていく。どうやらこの矢は俺を狙ったものではなく、証人となる者たちを一掃するためのものらしかった。
そして、実際に最後までその場に立っていたのは俺だけだった…。
まもなく応援に駆けつけた冒険者達が到着。
しかし、船はわずかな時間差で出港し、囚われた者たちを救うため乗り込むには、すでに手の届かない距離まで離れてしまっていた。
俺たちは海の上で小さくなっていく船影を眺めて、ただ悔しがることしかできなかった。




