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(仮タイトル)天墜が還る日  作者: 久遠 ゆのか
第一章 黄の国ティワン
11/22

[トウエンの町-11] ギルドマスターとの交渉


 さて…。


 少年改め、ルトに協力を申し出たものの、情けないことに俺には先立つ物がない。何を差し置いても、まずは金が必要だ。


 アルネには申し訳ないが、プレゼントされたばかりの革手袋をルトに手渡し、これを担保に金を借りるように言った。そして3日後にまた来ると約束し、俺はその場を後にした。


 金を手に入れる方法はいくつかあるが、最も手っ取り早いのは冒険者ギルドでクエストを受注することだ。そして稼いだ金をルトに渡してやることで、困窮した生活から脱することができるだろう。


 しかし、それでは根本的な解決にはならない。

一時的に脱しても自力で生計が立てられなければ、また元のスリ生活に戻ってしまうだろうし、何よりスリ集団をどうにかしなければ、ルトのように脅されカモになる子どもは後を絶たないだろう。


 まずは情報を集める必要がある。ギルドなら、街の治安に関する情報も持っているはずだ。


 俺は足早にギルドへ向かった。


−−−−−


 ギルドの受付には、先日と同じようにアリアが座っていた。


「いらっしゃい、ルーシェさん。クエストの受注?」

「いや、至急ギルマスに会いたい。」


 俺がそう言うと、アリアは少し驚いた顔をしたが、すぐに首を横に振った。


「ギルドマスターは忙しいの。話があるなら、後日正式に申し込みを——」

「急ぎの用件なんだが…。」

「みんなそう言うのよ。ギルマスに会いたいって言う人は多いの。だから、例外は認められないわ。」

「……そうか。それでも何とかならないか?」

「無理よ。ギルマスは公私ともに予定が詰まってるの。例えば今日だって、午前中は商人ギルドとの打ち合わせでしょ、それから貴族の依頼の調整、それに——」

「わかった、わかった。そこまで言われたら無理だな。」


 火急の用とはいえ、いきなり低ランク冒険者がギルドのトップに会おうなんて無理な話ではあるな。


 さて、こうなるとどうしたら事が運ぶのか。

最速で進めるには、ギルド経由だと時間がかかりそうだ。

切り替えて役人の詰め所に行ったほうが早いか?

 

 考え込んでいると、後ろから体格良さげな影が近づいてきた。


「おい、アリア嬢ちゃん。ギルマスに俺が来たと伝えてくれ!」


 太い声が響き、アリアが肩をびくりと震わせた。

聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはバッカスが立っていた。


「バッカスさん! いきなり大声出さないでくださいよ!」


 アリアが両耳に手を当ててクレームをつける。


「これが俺の地声だ。文句があるなら天国にいる両親に言ってくれ。」


 バッカスはアリアに向かって、口をへの字にしながら無茶を言うと、首を右に傾け俺の顔を覗き込んだ。


「——で、ルーシェ、チラッと聞こえたが……お前、ギルマスに会いたいのか?」

「ああ。緊急性の高い要件なんだ。でもアポがないとダメらしい。」

「フム…よし、任せろ!俺様がすぐに会わせてやるよ!」


 バッカスは悪巧みをするイタズラっ子のようにニヤリとする。


「え?でも…。」

「いいからいいから!」


 俺が何か言う前に、バッカスはぐいっと俺の肩を掴んで引っ張った。


「ちょ、ちょっと待ってください! ギルマスは本当に忙しいんです!」


 アリアが慌てて引き止めようとするが、バッカスは意に介さない。


「うるせえ!これは領主命令だ!行くぞ、ルーシェ!」

「お、おい!?」


 俺の戸惑いなどどこ吹く風。

バッカスに腕を引かれ、ギルドの奥へと強引に連れて行かれた。


−−−−−


 バンッッッ!!!!


 バッカスがギルマス専用の執務室の扉を豪快に開けると、部屋の中には酒の匂いが漂っていた。


 机の上には豪華なボトルが一本。そして、赤ら顔の男が椅子にもたれかかっている。


 秒の間をおいて、俺たちが訪ねてきたことに気づいたギルマスが、目を丸くした。


「バッカスさん!? なっ、何の用ですか!」

「よお、ギルドマスター様。アリア嬢ちゃんが言った通り、こりゃずいぶんと忙しそうだな。——ほう、これはこれは、またずいぶん良い酒を飲んでるじゃねえか。」


 ギルマスが焦ったようにボトルを抱えるが、バッカスはニヤリと笑い棚からグラスを取り出した。勝手知ったる他人の家である。


「おい、ルーシェ!お前も飲むか?」

「いや、俺は遠慮し——」

「硬いこと言うなよ!男同士の語らいに酒は必須だ。こいつはな、優秀な潤滑油なんだよ!」


 酒=優秀な潤滑油という突飛な発想に、俺は苦笑する。


「こんな高級な潤滑油があってたまるかってんですよ!」


 ギルマスが必死な形相でバッカスに噛みつく発言をするが、バッカスの耳には届かない。


「ほら、ギルマス、注げよ!」

「くぅ……五十年物の酒が……!」


 酒の死守を果たせなかったギルマスは、涙目でボトルを傾ける。


「で、何の用ですか?」


 ようやく話が本題に入った。


 俺は改めてスリ集団の話をし、現状を説明する。

そして事の経緯を聞き終えたギルマスはため息をついた。


「実はスリ集団の件は以前から問題になっている。しかし、なかなか捕まえられないでいるんですよ。」

「なぜだ?」

「おそらく役人が買収されている。捕まえてもすぐに釈放されるんです。」

「チッ……クソ役人どもが。」


 バッカスが忌々しげに舌打ちをした。


「どれだけの役人が抱き込まれてるのかわからんが、相当数いるか…もしくは大物貴族がバックにいるか…だな。」


 バッカスは少し考え込んだ後、グラスに残る酒を一気に飲み干し、なにかを閃いた顔つきで1つの案を出してきた。


「ルーシェ、お前がスリ集団を捕まえるために動く気があるなら、俺が正式に領主の立場でギルドに依頼を出してやる。どうだ?」

「それはありがたいが、Eランクの俺には無理だろ。俺はまだ弱い。」


 そう言うと、バッカスは怪訝そうな顔をした。


「バカ言うな!俺に勝ったくせに!」

「それは偶然だ。」


本当にいつ負けてもおかしくない、そんな厳しい戦況だった。


「謙遜する必要はありません。昔取った杵柄ですが、実はバッカスさんはCランクなんですよ。そんなバッカスさんと渡り合ったんです。自覚がないのかもしれませんが私が見る限り、あなたの実力は同等のCランク、低く見てもDランクの上位相当ですよ。」


 ギルマスは俺の実力について、自覚を促すように静かにそう言った。


「もし今回の件を解決できたら、報奨金とは別にDランクへ昇格させることを検討します。どうですか?」


「……Dランク?」


「そうです。君は既に十分な実力を持っている。あとは証明するだけです。」

「依頼内容はスリ集団の偵察だ。討伐や捕縛じゃないから、おまえの実力なら充分可能だろう。」

「それならルーシェさんが得た情報を元に、内容によっては高レベル冒険者を改めて手配するとしましょう。」


 俺はしばらく考えた。


 確かにスリ集団をどうにかしない限り、ルトのような子どもたちは救えない。そして、俺にとってもランクアップは大きなメリットになる。


 俺は決断した。


「わかった、引き受けよう。」

「決まりだな!よし、すぐ受付に依頼を出そう!」


 バッカスは満足そうに腕を組んで頷き、部屋の扉を開けると、そのまま受付のある階下へ降りていった。


「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。」


 ギルマスが立ち上がり、俺の前に手を差し出す。


「私はギルドマスターのソンユです。スリ集団の依頼の件、改めてよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしく頼む。」


 俺はソンユの手をしっかりと握り返した。





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