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(仮タイトル)天墜が還る日  作者: 久遠 ゆのか
第一章 黄の国ティワン
10/22

[トウエンの町-10] スリの少年と守る手

 早速読んでくれてる方がいて嬉しいです♪

10分置きの連続投稿は一旦ここまでとなりますが、

今夜の0時までに追加で1-2本上げれるようにしたいと思っています。よろしくお願いします(*´꒳`*)


 前日の約束から一夜が明け、アルネがレザー工芸の店を案内してくれている。


「ここの革製品、すごく評判がいいんだよ!」


 店内に入ると、革の香りが心地よく広がる。ベルト、バッグ、手袋などが整然と並べられていた。


「お、手袋もあるのか。」


 興味を引かれ、革手袋を手に取る。試しにはめてみると、しっとりと手に馴染んだ。ただ、手首の部分が少し緩い。


「サイズ調整はできるか?」

「もちろんできますよ。手首を詰めればぴったりになりますね。」


 店主が笑顔で答える。


「悪くないな……」


 そう呟いたものの、ふと気づく。まだ金を持っていない。ギルドで仕事を受けるなりしなければ、買い物もできない。


 そんな様子を見て、アルネがにんまりと笑った。


「ねぇ、これ、私からのプレゼントってことでどう?」

「え!?……いいのか?」


「もちろん!革手袋持ってないでしょ?冒険者なら必要になるし、冒険者デビューの祝いにプレゼントするわ!」


 そう言いながら、さっさと店主に代金を支払ってしまう。


 嬉しい、嬉しいんだが…正直言って、手袋の1つも買えない自分がふがいない…。衣食住の『食』『住』に続き、これじゃ、まるでヒモ男だ。


「明日にはできるって。じゃあ、一緒に取りに来ようね!」


 俺に気遣ってか、軽いノリでそう言うアルネに、思わず苦笑した。


「……ありがとう。」


「どういたしまして!」


(アルネにはそのうち恩返ししないとな。)


 革手袋の注文を終え、俺たちは店を出ることにした。


「お買い上げ、ありがとうございました。手袋の調整は明日の午前には仕上がりますので、いつでもお越しください。」


 店主はにこやかに頭を下げる。


「はい、よろしくお願いします!」


 アルネが元気よく返事をし、俺も軽く会釈した。


「明日、取りに行くの楽しみだね!」


 アルネが満足そうに言いながら歩き出す。俺は手袋の感触を思い出しながら、明日という日にまた予定ができたことを嬉しく思った。


−−−−−


 その後もアルネと共に街を巡り、活気ある市場や広場を見て回った。


「この広場は、毎週市が立つ場所なんだ。お祭りとかもここでやるんだよ。」


 温かみのある街並みを堪能しながら、アルネの話を聞くのは楽しい。


 しばらく歩いた後、街角に建つ小さなカフェ『ラーハ』に立ち寄ることになった。


「ここのケーキがとってもおいしいんだ! 試してみて。」


 勧められるまま、ケーキと紅茶を注文する。驚くほどの美味しさに感心しながら、アルネと軽く会話を楽しんだ。


「これ、ほんとうに美味しいな。」

「でしょ? ここのケーキ屋さんは本当に美味しくて、他の店では味わえないレベルなんだから!」


 店内でしばらく楽しんだ後、店を出る。その時——


「きゃあああっ!」


 突然、悲鳴が上がった。


 反射的に足を止め、声のした方へ駆け出す。


 路地の向こうで、誰かが走り去るのが見えた。


「今の、引ったくり!?」


 アルネが叫ぶ。確かに、何かを抱えて走る小柄な人影がある。


「追うぞ!」


 すぐに駆け出した。逃げる相手は素早くて、明らかに道を熟知している。人混みをかいくぐり、建物の陰を巧みに使いながら逃げようとしていた。


 しかし、曲がり角を利用して追い詰め、すかさず腕を掴んだ。


「——捕まえた。」


 ぐっと掴んだ腕は細く、非力だ。驚いたことに、犯人はまだ幼い少年だった。


「くそっ……離せよ!」


 少年は暴れながら抵抗するが、腕力ではこちらの方が圧倒的に上だ。


「何やってんの!?」


 後から追いついたアルネが、呆れたように叫ぶ。


 被害者の女性も駆け寄り、息を切らしながら事情を説明した。


「この子が……私の財布を……!」


 少年は険しい目をしながら、振り払おうと必死だ。

しかし、その手に握られた財布は、被害者のものと見て間違いない。


「……おい、まずは落ち着け。お前、名前は?」

「……お前に関係ねぇ!」


 強がるが、震えているのが分かる。


 アルネが腰に手を当て前のめりの姿勢でため息をつく。


「ダメでしょ、スリなんて! なんでこんなことしたの?」

「……うるせぇ……!」


 少年は口を閉ざしたまま、横を向く。


 どうするべきか迷ったが、ひとまず財布を持ち主に返し、少年を解放することにした。


 その場を離れた少年は、しばらく振り返りながらこちらを見ていたが、やがて路地の奥へと消えていった。


−−−−−


 翌日、約束通り革手袋を取りに行った。

手首の部分はしっかりと調整され、ぴったりと馴染む。


「お、ちょうどいいな。」

「うんうん、似合ってるよ!」


 アルネが満足そうに頷いた。その時——


「スリだーっ!!」


 街の通りから叫び声が響いた。


「……まさか。」


 急いで現場へ駆けつけると、襟首をつかまれ、宙吊りにされた昨日の少年の姿があった。


「このガキ、またスリをしやがった!」


 男が怒鳴る。少年は悪態をつきながら暴れていた。


「ふざけんな! 放せよ、クソジジイ!」


少年は必死に足掻きながら、男に掴まれた腕を振り払おうと暴れ続けていた。しかし、大人の力には勝てない。


「このクソガキが!こい!役人に突き出してやる!」


 被害者はそのまま少年を引き寄せようとし、怒りを露わにして叫んだ。少年はさらに暴れ、必死に抵抗しながらも、動きにどこか弱さが見え隠れしていた。


 俺は一歩前に出て、男に向かって言った。


「すまないが、その子を放してやってくれないか。」


 男はちらりとこちらを見て、少し立ち止まった。


「なんだお前?」


 言葉は返さないまま、無言で少年の持ち物を弄る。


「アンタが盗まれたものはこれか?」


 少年が持っていた財布を取り出し、被害者に差し出す。

被害者はそれを手に取ると、顔をしかめながらこちらを見た。


「そうだ、これだ。…だが、こいつは常習犯だ。しっかり責任取らせなきゃならないだろ?」


 少年は視線を下に向け、不貞腐れたように黙り込んでいる。


「まだ子供だ。俺が保護して、しっかり言い聞かせる。今回は目を瞑ってやってくれ。」


 男はしばらくの沈黙を守ったあと、こちらへ向けてキツい視線を送っていた。


「頼む。」


俺が再度そう言って頭を下げると、被害者は深いため息をついて観念したようだ。


「……わかった、でも次はないぞ。」


 俺はその場で礼を言って、少年の腕を引きながら少し静かな場所へ向かう。

 途中、アルネが何度も少年を見ては心配そうに尋ねた。


「どうするつもりなの?」


 真剣な表情を浮かべる彼女に、少し立ち止まり向き直る。


「……男同士のほうが話しやすいだろうから、悪いけどアルネは先に帰っていてくれないか。」


「そう…わかった。でも、何かあったらすぐに教えてね。」

「あぁ、もちろん。」


 アルネは一度だけ振り返り、ゆっくりと街の方へ戻っていった。


 少年は少しだけ力を抜いて、ルーシェを見上げた。ルーシェは優しく頷き、少年の肩に手を置いて、静かにその場を離れる準備を始めた。


−−−−−


 町外れのあばら家。壁は剥がれ、屋根には穴が空いている。とてもじゃないが人が住むには適切とは言えない環境だ。


「それで?どうしてまたスリなんかしたんだ?」


 少年は少し戸惑った様子を見せながらも、ぽつりぽつりと語り始めた。


「俺…、両親がいないんだ。俺みたいに汚いやつはまともな仕事も見つからないし、生きていくために盗みをしてたけど……。気づいたら、スリ集団に目をつけられてた。」


「スリ集団?」


「あいつらは俺みたいな子供を利用してるんだ。スらせて、その金の一部を"保護費"って言って取り上げる。」


 少年の拳がぎゅっと握られる。


「一度抜けようとしたことがあったんだ。でも……捕まって半殺しにされた。別にそれだけならいい。だけど病気の妹がいるんだ。今度また俺が抜けようとしたら、妹を痛めつけると奴らに脅されているんだ……。」


 幼い肩が震えている。

その目線は部屋の角にいる妹へ配られた。


「だからといって、このままでいいのか?」


「いいわけないだろ!でも、俺にできることなんてないじゃねえか!」


 少年は唇を噛み締め、悲痛な声で叫んだ。


 胸が締め付けられる。


 幼い子供が、さらに幼い妹を抱えて生きる。

 それはどんなに過酷な生活を強いられるのか、2人の様子と室内を見渡せば一目瞭然だ。悪事に手を染める以外、生きる方法を見つけるのが難しかったのだろう。


「ずっと一人で頑張ってきたんだな。」


 その言葉にハッとした表情を見せたあと、少年の目の奥が揺れる。


「……俺は、どうすればいいんだよ。」


 絞り出すような声だった。


 俺は少年の頭に手を置く。


「大丈夫だ。もうお前が一人で抱える必要はないよ。俺が力になる。」


 少年の目が見開かれる。


 信じられないとでも言いたげだった瞳が潤み、やがて大粒の涙がこぼれ落ちた。


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