[トウエンの町-10] スリの少年と守る手
早速読んでくれてる方がいて嬉しいです♪
10分置きの連続投稿は一旦ここまでとなりますが、
今夜の0時までに追加で1-2本上げれるようにしたいと思っています。よろしくお願いします(*´꒳`*)
前日の約束から一夜が明け、アルネがレザー工芸の店を案内してくれている。
「ここの革製品、すごく評判がいいんだよ!」
店内に入ると、革の香りが心地よく広がる。ベルト、バッグ、手袋などが整然と並べられていた。
「お、手袋もあるのか。」
興味を引かれ、革手袋を手に取る。試しにはめてみると、しっとりと手に馴染んだ。ただ、手首の部分が少し緩い。
「サイズ調整はできるか?」
「もちろんできますよ。手首を詰めればぴったりになりますね。」
店主が笑顔で答える。
「悪くないな……」
そう呟いたものの、ふと気づく。まだ金を持っていない。ギルドで仕事を受けるなりしなければ、買い物もできない。
そんな様子を見て、アルネがにんまりと笑った。
「ねぇ、これ、私からのプレゼントってことでどう?」
「え!?……いいのか?」
「もちろん!革手袋持ってないでしょ?冒険者なら必要になるし、冒険者デビューの祝いにプレゼントするわ!」
そう言いながら、さっさと店主に代金を支払ってしまう。
嬉しい、嬉しいんだが…正直言って、手袋の1つも買えない自分がふがいない…。衣食住の『食』『住』に続き、これじゃ、まるでヒモ男だ。
「明日にはできるって。じゃあ、一緒に取りに来ようね!」
俺に気遣ってか、軽いノリでそう言うアルネに、思わず苦笑した。
「……ありがとう。」
「どういたしまして!」
(アルネにはそのうち恩返ししないとな。)
革手袋の注文を終え、俺たちは店を出ることにした。
「お買い上げ、ありがとうございました。手袋の調整は明日の午前には仕上がりますので、いつでもお越しください。」
店主はにこやかに頭を下げる。
「はい、よろしくお願いします!」
アルネが元気よく返事をし、俺も軽く会釈した。
「明日、取りに行くの楽しみだね!」
アルネが満足そうに言いながら歩き出す。俺は手袋の感触を思い出しながら、明日という日にまた予定ができたことを嬉しく思った。
−−−−−
その後もアルネと共に街を巡り、活気ある市場や広場を見て回った。
「この広場は、毎週市が立つ場所なんだ。お祭りとかもここでやるんだよ。」
温かみのある街並みを堪能しながら、アルネの話を聞くのは楽しい。
しばらく歩いた後、街角に建つ小さなカフェ『ラーハ』に立ち寄ることになった。
「ここのケーキがとってもおいしいんだ! 試してみて。」
勧められるまま、ケーキと紅茶を注文する。驚くほどの美味しさに感心しながら、アルネと軽く会話を楽しんだ。
「これ、ほんとうに美味しいな。」
「でしょ? ここのケーキ屋さんは本当に美味しくて、他の店では味わえないレベルなんだから!」
店内でしばらく楽しんだ後、店を出る。その時——
「きゃあああっ!」
突然、悲鳴が上がった。
反射的に足を止め、声のした方へ駆け出す。
路地の向こうで、誰かが走り去るのが見えた。
「今の、引ったくり!?」
アルネが叫ぶ。確かに、何かを抱えて走る小柄な人影がある。
「追うぞ!」
すぐに駆け出した。逃げる相手は素早くて、明らかに道を熟知している。人混みをかいくぐり、建物の陰を巧みに使いながら逃げようとしていた。
しかし、曲がり角を利用して追い詰め、すかさず腕を掴んだ。
「——捕まえた。」
ぐっと掴んだ腕は細く、非力だ。驚いたことに、犯人はまだ幼い少年だった。
「くそっ……離せよ!」
少年は暴れながら抵抗するが、腕力ではこちらの方が圧倒的に上だ。
「何やってんの!?」
後から追いついたアルネが、呆れたように叫ぶ。
被害者の女性も駆け寄り、息を切らしながら事情を説明した。
「この子が……私の財布を……!」
少年は険しい目をしながら、振り払おうと必死だ。
しかし、その手に握られた財布は、被害者のものと見て間違いない。
「……おい、まずは落ち着け。お前、名前は?」
「……お前に関係ねぇ!」
強がるが、震えているのが分かる。
アルネが腰に手を当て前のめりの姿勢でため息をつく。
「ダメでしょ、スリなんて! なんでこんなことしたの?」
「……うるせぇ……!」
少年は口を閉ざしたまま、横を向く。
どうするべきか迷ったが、ひとまず財布を持ち主に返し、少年を解放することにした。
その場を離れた少年は、しばらく振り返りながらこちらを見ていたが、やがて路地の奥へと消えていった。
−−−−−
翌日、約束通り革手袋を取りに行った。
手首の部分はしっかりと調整され、ぴったりと馴染む。
「お、ちょうどいいな。」
「うんうん、似合ってるよ!」
アルネが満足そうに頷いた。その時——
「スリだーっ!!」
街の通りから叫び声が響いた。
「……まさか。」
急いで現場へ駆けつけると、襟首をつかまれ、宙吊りにされた昨日の少年の姿があった。
「このガキ、またスリをしやがった!」
男が怒鳴る。少年は悪態をつきながら暴れていた。
「ふざけんな! 放せよ、クソジジイ!」
少年は必死に足掻きながら、男に掴まれた腕を振り払おうと暴れ続けていた。しかし、大人の力には勝てない。
「このクソガキが!こい!役人に突き出してやる!」
被害者はそのまま少年を引き寄せようとし、怒りを露わにして叫んだ。少年はさらに暴れ、必死に抵抗しながらも、動きにどこか弱さが見え隠れしていた。
俺は一歩前に出て、男に向かって言った。
「すまないが、その子を放してやってくれないか。」
男はちらりとこちらを見て、少し立ち止まった。
「なんだお前?」
言葉は返さないまま、無言で少年の持ち物を弄る。
「アンタが盗まれたものはこれか?」
少年が持っていた財布を取り出し、被害者に差し出す。
被害者はそれを手に取ると、顔をしかめながらこちらを見た。
「そうだ、これだ。…だが、こいつは常習犯だ。しっかり責任取らせなきゃならないだろ?」
少年は視線を下に向け、不貞腐れたように黙り込んでいる。
「まだ子供だ。俺が保護して、しっかり言い聞かせる。今回は目を瞑ってやってくれ。」
男はしばらくの沈黙を守ったあと、こちらへ向けてキツい視線を送っていた。
「頼む。」
俺が再度そう言って頭を下げると、被害者は深いため息をついて観念したようだ。
「……わかった、でも次はないぞ。」
俺はその場で礼を言って、少年の腕を引きながら少し静かな場所へ向かう。
途中、アルネが何度も少年を見ては心配そうに尋ねた。
「どうするつもりなの?」
真剣な表情を浮かべる彼女に、少し立ち止まり向き直る。
「……男同士のほうが話しやすいだろうから、悪いけどアルネは先に帰っていてくれないか。」
「そう…わかった。でも、何かあったらすぐに教えてね。」
「あぁ、もちろん。」
アルネは一度だけ振り返り、ゆっくりと街の方へ戻っていった。
少年は少しだけ力を抜いて、ルーシェを見上げた。ルーシェは優しく頷き、少年の肩に手を置いて、静かにその場を離れる準備を始めた。
−−−−−
町外れのあばら家。壁は剥がれ、屋根には穴が空いている。とてもじゃないが人が住むには適切とは言えない環境だ。
「それで?どうしてまたスリなんかしたんだ?」
少年は少し戸惑った様子を見せながらも、ぽつりぽつりと語り始めた。
「俺…、両親がいないんだ。俺みたいに汚いやつはまともな仕事も見つからないし、生きていくために盗みをしてたけど……。気づいたら、スリ集団に目をつけられてた。」
「スリ集団?」
「あいつらは俺みたいな子供を利用してるんだ。スらせて、その金の一部を"保護費"って言って取り上げる。」
少年の拳がぎゅっと握られる。
「一度抜けようとしたことがあったんだ。でも……捕まって半殺しにされた。別にそれだけならいい。だけど病気の妹がいるんだ。今度また俺が抜けようとしたら、妹を痛めつけると奴らに脅されているんだ……。」
幼い肩が震えている。
その目線は部屋の角にいる妹へ配られた。
「だからといって、このままでいいのか?」
「いいわけないだろ!でも、俺にできることなんてないじゃねえか!」
少年は唇を噛み締め、悲痛な声で叫んだ。
胸が締め付けられる。
幼い子供が、さらに幼い妹を抱えて生きる。
それはどんなに過酷な生活を強いられるのか、2人の様子と室内を見渡せば一目瞭然だ。悪事に手を染める以外、生きる方法を見つけるのが難しかったのだろう。
「ずっと一人で頑張ってきたんだな。」
その言葉にハッとした表情を見せたあと、少年の目の奥が揺れる。
「……俺は、どうすればいいんだよ。」
絞り出すような声だった。
俺は少年の頭に手を置く。
「大丈夫だ。もうお前が一人で抱える必要はないよ。俺が力になる。」
少年の目が見開かれる。
信じられないとでも言いたげだった瞳が潤み、やがて大粒の涙がこぼれ落ちた。




