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神代闘師ギルドライバー  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
第2話 葛木まどかの生誕
6/22

プロキシィ・ビヨンド

第2話 2/3

よい年末年始を・・・

 

 

 

 

 

 宗教的な要素を取り除いた場合に、神とは果たしていかなる存在か――――。ここで問題とすべきは、神そのものの実在というより、いかなる存在ならば神と呼んで差し支えがないかどうかということだ。

 

 古くは言葉があり、そして七日で世界を創造したともいわれる。

 またあるいは、夫婦でマグマをかき混ぜ大地を創造したともいわれる。

 あるいは自身が大地そのものになったということもある。

 

 いずれにせよ、神とは創造を伴う存在であろうことは想像だに難くない。研究者たちは、少なくともそう考えた。

 

 また研究者たちは理解していた。現存するエネルギーと物質を転換したエネルギーは、総合すればいつの時代といえど等価であろうこと。宇宙にあふれるエネルギー総量には変化が訪れていないことを。

 

 

  

 それゆえに、彼らはこう定義した。


 神とはエネルギーを自在に操作することができる存在と。

 いかなるエネルギーをも自在に操作し、ときに物質にさえ転換、なおかつ物質化されたそれすら自在に操りうるものであること。

 

 

 

「その定義にそって作られたのが、私たち三姉妹『DxM(デクシム)』。私はその末っ子にあたる」

「ふぅん。あのお姉さん以上に別なのもいるんだね」

 

 マルメガネの言葉に、ビヨンドは涼し気な顔のままシガレットチョコをもう一本取り出しくわえる。一方の婦警は頭痛でも覚えるように頭を抱えていた。そちらを一瞥し「続けて」とビヨンド。

 

「もちろん、その定義にいきなりたどり着いたっていうことはないわ。……”カガミ文書”って知ってる?」

「あ゛?」

「確か、開拓前の月城市で発掘された古文書だったかな? 郷土史に書いてあるよ、婦警」

「いや、アンタにさも常識であるかのように諭されるの納得いかないんだけど……」

 

 高度経済成長期、土地の開拓、改築が進められた際に発見されたそのカガミ文書がすべての発端だった。古い郷土資料というレベルの内容ではない。さながら曼荼羅のごとく描かれたそれらの文字群は、縄文、弥生期のものだろうと結論こそされたものの、明らかに当時の技術レベルで描かれたそれではなかった。

 

「だからミステリーっていうか、最近は眉唾になりつつあるから、それ自体一種の伝説というか、みたいな扱いをしつつあったような気がしたけど。

 文脈からして、それに書かれていたことが問題だったのかな?」

「簡単に言うと、私たちDxMの設計図が書かれていたらしいわ」

 

 げほげほ、と。思い切りむせる婦警と、やはり平然としたもののビヨンド。

 

「それはつまり、DNAとか、そういう関係の?」

「直接は視てないけれど、そういうあたりの情報。少なくとも私にインプットされている情報は、それを現代的に翻訳した情報群だけだから。

 ……生物的な塩基配列、量子力学的な計測状況、物質のエネルギー転換における観測の影響とか……。もはやいろいろと混然一体となって、いったいぜんたい何をやってるか全部は全部解明しきれていないわ」

「おや? 君、当事者じゃないかマルメガネ」

「私が当事者でも、私のベースが人間であり開発者が現代人である以上、わかりっこないじゃない」

「そりゃごもっともで……」

「だけど、それでもいろいろな分野から、どういった技術をもとにして考えられたものなのかっていうのを、おぼろげながらにでも理解することができたのが僥倖だったと思うわ。結果として彼らは結論づけたもの。『我々の文明よりも依然に先進文明が存在し、その技術に我々は触れている』『これは現代のプロメテウス、我々にとって神にも等しい技術』と」

 

 それゆえ結果として、研究者たちはその設計図をもとにDxMを作成することとした。少なくとも生物学的なアプローチのみでいえば、現代技術で再現可能だったからだ。結果の良しあしはともかく、まずは作れる以上は作ることに意味があるという考え方だったのだろう。

 

「そして出来上がったのが君たちというわけだね。

 うん。確かに、ギルドライバーだっけ? あのあたりの技術は、物質の転換とか、エネルギー関連の技術だーとか、そういわれれば納得できなくもないかな。どっちかっていうとモーフィングパワーとか言われたほうがすっきりするけど」

「も、モーフィ……?」

自然変形(モーフィング)。CGとかで、物体Aが物体Bに自然な流れで変形したりするあたりかな。

 さっき見た感じだとテレビ番組の合成処理が近いといえば近そうだけど、前後で全く人体に違和感がない以上はモーフィングと表現するのが妥当かな?」

「……っていうか、アンタなんでそんな理解力あるのよ」

 

 マルメガネの困惑した一言に「まぁ、そういう方が『らしい』から」と涼やかな笑みを崩さないビヨンド。一日と一緒にいないものの、この顔を見るだけで少し頭痛がしてきはじめたマルメガネであった。

 ともあれ気を取り直して、頬を軽くはたくマルメガネ。

 

「でも、出来上がった私たちは、いまだ完全ではなかった」

「完全じゃなかった?」

「予算の都合かな?」

「……まぁ、それも少しあったみたいだけど。どっちかっていうと、解読できた範囲で作ったってパターンみたいね。

 ようするに2パターンあったのよ。一つは完全なDxMの設計図。もう一つは、未完成、成長過程にあるDxMの設計図。私たち全員は、その未完成のDxMとして作られたの」

「なるほど。つまり、君たちを完成させることが実験、ということだね」

「ん」ビヨンドの言葉に、少し嫌そうに首肯するマルメガネ。「現在の私たちは、単純にリソース不足ってところなの。いろいろな情報が足りてない。だからそれを獲得するために”ギルティア”と”ギルドライバー”を作るの。貴方、ビヨンドを巻き込んでしまったのはそういうこと。……明確な敵対組織なんてない、ギルティアとギルドライバーとの闘いでしかない」

「「ギルティア?」」

 

 二人のそろった声に、マルメガネは角度をくいっと調整する。

 

「私たちの物質転換能力を、人間レベルで使えるようにした存在がギルティア。私たちの作り出す『種』っていうのを体内に埋め込むことで、それを獲得できる」

「種、ね」

「ギルドライバーっていうのは、ギルティアの種が『実った際に』、私たちのかわりにギルティアから回収するための存在なの。まぁ実る前でも、多少育っていればフィードバックはあるんだけど。

 どうもそれで、経験値? みたいなものを私たちは学習するみたい」

「なんで疑問形なの? マルメガネちゃん」

「ま……、婦警さんまで……、ま、まぁいいわ。

 うん、だって、私、ギルティアを作ったことなんてないから」

 

 私が作ったのはギルドライバーだけ、と。マルメガネの言葉に、ビヨンドは何かを察したようだった。

 

「……とすると、つまり、アレかな? 関係としてはこうなるのかな。

 DxMが作り出したギルティアは、そのDxMが回収しない限りフィードバックは発生しない。その回収を代行する存在がギルドライバーであると。

 とすると、察するにハルカちゃんだっけ? 彼女がかつてギルティアに襲われているか何かして、それを助けるためにやむなくギルドライバーにしたと」

「おおむねそういうこと。……そういうことなんだけど、なんでそんなに理解が早いのよアンタ」

「そりゃ、ビヨンドだし」

「マルメガネちゃん、そういう質問でこれ相手にまともな返答は期待しても意味ないわよ」

 

 婦警、真理である。遠い目をするマルメガネ。気にせずビヨンドは、状況の整理を続けた。

 

「なるほどなるほど。

 うん、あの、マギちゃんだっけ? 彼女の言葉が正しければ、君はその実験に他人を巻き込みたくない。だからギルティアを作ろうとしない。にもかかわらずギルドライバーを作って自分の邪魔をしたから、癇に障ったってところかな?

 察するに君がギルドライバーを作るようにそそのかしたのも、自分のギルドライバーで君のギルドライバーを打ち破るっていうプロセスがないと気が済まないってところだろうかな」

「…………いや、マルメガネちゃんにしゃべらせてあげろっての。困惑してるじゃない」

「僕、こういう説明台詞とかって嫌いなんだよね。

 できれば一回で、必要な設定は全部おさらいしておきたいんだ」 

 

 一回? と頭をかしげる婦警に、ビヨンドは涼し気な笑顔を向ける。意味がわからないとばかりの表情の婦警に笑みを深めてから、彼はマルメガネの方を向いた。

 

「ちなみにだけど、どうして君は他人を巻き込みたくないんだい?」

「…………へ?」

 

 理屈の上ではだけど、とビヨンドはマルメガネに問う。

 

「マギちゃんの言っていたことも、あながち的外れとも言い難いところはあるんじゃないかと思うんだよね。それが良いか悪いかというのは別にして、君たちDxMを完成させるっていうのが、おそらく人類にとって文明的な発展を期待できるはずだ。そのために必要な実験として割り切れば、DxMが一般人を多少雑に扱ったところで、たいした話じゃないという結論には至るかもしれない。事実、マギちゃんはそういう結論に至っている様子だった。

 そのうえで、君がそう判断しない理由を知――――」

「――――そんなの、当たり前じゃないのよ!」

 

 対するマルメガネは本気で怒った。ばんばん、とデスクを叩き、同時に後ろの太い三つ編みもはねさせながら、ビヨンドの目を正面から見据える。

 

「多少、雑に扱うなんてものじゃない! ギルティアも、ギルドライバーだって本当は存在しちゃいけないのに……!

 ギルティアもギルドライバーも、どっちも倒されるとか、収穫されるとかすれば、精神がずたずたになるのよ? 記憶だって大きく欠損するのよ? そんなのあんまりじゃない! 私たちは『人間に望まれて』作られた存在なのよ? 人間を次のステージに導くために作られた存在なのよ? だっていうのに、肝心のその人間を蔑ろにしていたら、どうにもならないじゃない!」

 

 だから本当は、ハルカだってギルドライバーにしたくなかったと。

 こぶしを握り、下をうつむくマルメガネ。手の甲に落ちる涙を見ても、ビヨンドは涼やかな微笑みのまま。大して、婦警は彼女を後ろから抱きしめた。

 

「だから、私たちは本当は存在なんてしちゃいけないの……。どれだけ人間が人間のために私たちを作ったところで、私たちは人間ベースであっても、人間じゃないから……。このロジックエラーは、きっと、人間たちが考えてもいない形で破綻を呼び込む……。

 私たちを作った組織だって、それを大きくは理解していない。たとえ組織がつぶれたところで、独立した私たちは、決して費えることなんてないのだから……っ」

 

 懐からエンブレムを取り出すビヨンド。円形に近い五角形のそれを見ながら「願いをかなえるか、すべてを失うか、ねぇ」とつぶやく。その様子に一切の変化は見られないが、彼はマルメガネの頭を、軽く撫でた。

 

「DxM、としての自分を認めたくないってことかな? 君は」

「……認めたくない、とかじゃ、ない。私はDxMだから。いつか、きっと、あなたたちに破滅をもたらす……。そんなものに巻き込んでしまったことを――――」

「謝らなくてもいいよ。別に今更だし、起きてしまったことに違いはない」

「…………じゃあ、どうしたら、いいの? 私は、自分が生きていることが、つらい」

「うん。……そうだね、だったらこれだけは忘れてはいけない」

「?」

 

 

 

「――――夢も希望も、この世界には一かけらとて存在しない。

 そのことに気づいたら、あとは果てしない、現実という名の荒野が存在するだけだ」

 

 

 

「――――」

 

 ビヨンドのその言葉に、婦警は目を伏せ、視線を逸らす。だがマルメガネもビヨンドもそのことには気づいていない。

 

「たとえどれだけ嘆いたところで、君は今、生きていることに違いはない。

 うん、たぶん君たち三姉妹っていうのは、コンセプトが違うんだろうね……。どういうコンセプトがあったかは知らないけど、君はたぶん、三人の中で一番人間寄りに作られてるんだと思う。だから人間の視点で悩むことができるし、人間に対して近い考えを持つことができる」

「…………」

「今ここにあるのは、なにもない現実でしかない。だけど、それは別におかしなものではない。みんな表層をなめるだけで自覚していないだけで、この世界はそんなものさ。

 タンパク質の突然変異からはじまり、延々とそれを継続しようということを、それこそ億年単位で繰り返しているのが生命体。

 それに意味があるのかっていうのを問い詰めれば、別に意味なんてないだろうね。宇宙観、コスモロジーとかまで持ち出す気はないけど。

 でも、それに意味を見出すってことには意味があると思うよ」

「なんで?」

「君が生きている今日が、今日生きられなかった誰かの未来だからさ!」

 

 顔を上げるマルメガネ。目元を赤くはらす彼女に、両手を広げるビヨンド。楽し気に微笑む彼の姿は、なぜだろう、意味もなくマルメガネには道化師のごとく映った。

 

「君がもし、神であるっていうことが死ぬほど辛かったとしても。今日を生きることができなかった誰かがいる以上、君は、その誰かの分まで命を大切にして生きなきゃならない。でなければ、君はその誰かに顔向けできないだろ?」

「……いってるいみが、わかんない」

「人間として、どう生きるべきかっていうスタンスの話だ。実際、そういう義理で生きている人間も、いないわけじゃない」

 

 ただ、それでもつらいっていうならね、と。ビヨンドはマルメガネの眼鏡をはずし、ハンカチを取り出して、彼女の涙を拭った。

 

「君は、神として生きるのを辞めればいい。人間ベースだって言ってたのだから、例えどれほど人間からかけ離れていても、人間として生きることができるはずだ。

 それが、僕から示せる解決方法だね」

「……そんな、簡単にいくわけないじゃない。

 だって、私、これでも『十六歳』なのよ?」

 

 え? と、婦警が目を見開く。

 

「DxMは、リソースがたまるまで決して成長することはない。わたしたちにおける身体の成長っていうのは、人間みたいな加齢による成長でさえないのよ。つまり、完成したら決して老いることはない。完成せずとも、決して死ぬことはない。

 そんな、バケモノみたいな私が、どうやって人間として生きればいいのよ!」

  

 マルメガネの叫びに、慟哭に。 

 しかし、ビヨンドは全く気にせず、彼女の眼鏡をふいていた。

 あっけにとられるマルメガネの顔にそれを戻し、シガレットチョコを取り出して彼女の口にくわえさせ。

 

「そういう類のジレンマとかは、すでに出尽くしてる感じがするんだよね」

「……はぁ?」

「周りがどれだけその上で当たり前の一個人として扱ってあげられるか。あるいは、どれだけ本人がそれに割り切りをつけることができるか。それ以上の決着はつかない問題だよ? それは。

 要するに、感性的な悩みだね。うん」

「…………アンタに、何がわかるのよ!」

「わかるわけないだろ? 僕は君じゃない。逆にいえば、君だって僕じゃない。

 でも、僕は君をまともな人間だと思うよ」

 

 だからどうしても、自分を認められないっていうならば。

 

 

 

「マルメガネ、僕の妹にならないかい?」

 

 

 

 その一言に、婦警も、マルメガネも、馬鹿みたいな顔をして口をあんぐりと開けた。

 

 

 

 

 

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