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ダブルクロス3rd リプレイノベル ~Team of Gisselle~  作者: みぃ
第1章「Priestess of Dragon」
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第5話「月下の少女」

チーム・ジゼルが出雲支部支部長の杉木と、エージェントのビディと合流した後、


彼らは大判市の海辺に佇む一軒の旅館にやってきた。

男子部屋、女子部屋、大広間を借りており、大広間は食事場と作戦会議場を兼ねている。

昼間の出会いから随分と時間が経ち、もう日も落ちて夕食の頃合いである。


全員が大広間に集まっていると、やがてそこに舟盛りなどの旅館らしい食事と美味しい日本酒が運ばれてきた

しかし、一見するとそこには未成年者しかいないように見えないので、何も知らない者から見れば何とも違和感満載の光景である。

畳に敷かれた4枚の座布団、その上に奏、舞、杉木、ビディは座り、夕食を前にする。

杉木とビディは浴衣に着替え、最早単なる旅行者気分満載だ。


まぁ、ビディが背中に巨大なライフルを背負っている時点で、普通の旅行者には到底見えないのだが。


「(僕の知ってる旅行じゃない…)」


奏は内心そう思いながら、正座を崩して座って料理や杉木たちを眺めていた。

やがて、杉木がひとつぱん、と手拍子をして場を仕切り出した。


「さて、腹が減ってはなんとやらと言いますし! とりあえず腹ごしらえしながら聞きたいことに答えましょう!」


そういうと、杉木は早速と言わんばかりに運ばれてきた日本酒を酌む。

本人は千年を超える年齢なのでアルコールは平気なのだが、それでも彼の容姿は明らかに小学生である


側から見ればどう見ても未成年飲酒です。本当にありがとうございました。


そんな杉木に苦笑いしている奏に対し、舞は当たり前、といった感じで質問を切り出した。


「……今回の件、FHエージェントの動向は掴めてますか?」


「ふふふ、答えましょう。ぶっちゃけ完全に予想外です」


杉木はまず一杯、杯を空にするとそう答えた。


「というより、舞さんの話を聞いた限りでは、我々の目的とFHの目的は完全に別モノですね。向こうの目的は舞さんで、我々はこの地の異常を解決しにきた」


「……成程。」


「FHとしては、こんな田舎に来て手薄になった舞さんがチャンスと捉えたのでしょう。

事実、先ほどの邂逅は向こうにその気があれば危なかったかもしれません。ぐびっ」


そう言って、また酌をした日本酒を飲み出す。

奏は、FHと聞いて、少し俯きがちになった。


「また…来るかもしれないんですよね」


「これもまた、彼の言葉を信じるなら、ですが」


食事に軽く箸をつけながら、奏は苦い顔をした。


「…今回のFHの件、私に一任して貰えませんか?」


やがて、舞がそう提案するのに対し、杉木はきっぱりと答える。


「いいえ、それはできません」


杯を軽く揺らしながら、杉木は続ける。


「我々はお互いにお互いの安全を守るのが役目です。

貴女がFHへ移る希望があるというなら話は別ですが、そうでなければ貴女はここにいる皆で支えるべきです。

そして舞さん、貴女も我々を助けていただきたい。

それが絆の力を信じるユニーバーサル・ガーディアン・ネットワークです。……ぷはーっ」


日本酒を飲み干しながら、若干赤い顔で杉木はそう言い放った。


「そうだよ…秋家さんも、あの時の僕みたいに連れてかれるのは…嫌だ」


奏は、舞の方に視線を向けてそう言った。

奏にとって、一ヶ月前の襲撃は軽いトラウマだった。

それは、FHに対する不信感。日常を壊される恐怖。

恐れるあまりの奏の言葉に、舞は軽く奏に視線を向ける。


「………私がいることによる危険性を考慮しても、それが言えるのですか」


奏の言葉を聞いた後、また杉木に視線を戻して舞は言った。


「ええ。貴女は私と、そして彼女を過小評価していませんか? これでも、少数精鋭でこの近辺の地を守ってる自負はありますよ?」


杉木は、美味しそうにお刺身を食べるビディをちらっと見やってそう答える。


「……過小評価をしていたのは認めます、その件については失礼しました」


舞は、そういって改めて頭を下げた。


「……もし宜しければ、私を助けてもらえないでしょうか。」


舞の声は、相変わらず無愛想だが、その声はまっすぐ響く。


「もっちろん! それにですね、正直危険性なんてものは二の次なんですよ。

安全のために絆をドブに捨てたら、我々は帰ってくることができない。

この世界の一つの成り立ちですよ?」


杉木は、日本酒の杯を片手に応える。


「……私は、舞さんの助けに、なりたい!」


ビディは、箸を置き直し、真っ直ぐに舞の目を見て応えた。


「ふっふっふっ。舞ちゃんは舞ちゃんが思ってるより、愛されてるよ? ね? 奏くん?」


ちび裕子は、舞の前のテーブルの上で腰に手を当てて応え、奏に顔を向ける。


「うん。…僕も秋家さんを助けたい。…一ヶ月隣にいた、仲間だから」


奏もまた、舞のほうをまっすぐみて、応える


舞は、それぞれの答えを聞いて、少しはぁ、とため息をついたかと思うと、ほんの少しだけ笑う。


「…でも奏に期待はしてないから。」


「えっ…ひどいなぁ」


そういって、舞は奏にそっぽを向いてしまう。

それを見たちび裕子は、ちび裕子同士でこそこそと話し出した。


「(そこは名前呼びだろー! 舞ちゃんも少しはデレなきゃー!)」 「(それな)」


しかし、二人ともそれに気を留めることはなく、杉木は一つ咳払いをした。


「とにかく…、ぐびぐび。FHに謎のレネゲイド濃度上昇。力を合わせればだいたい解決していけます。

一人の力は未完成でも、絆で繋がることによりそれは完成するのですから。それを兇刃(ブレイド)に見せてやりましょう。…ぷはー」


「・・・・えぇ」


舞はそれに頷くが、奏は軽く杉木の手の杯ととっくりをちらりと見る。


「(杉木さんそれ何杯目ですか…)」


「(3合は言ってるわね…。度数の高いポン酒をよくもまぁ…)」


分裂したちび裕子も、杉木の話を聞きながらも杉木の飲みっぷりに唖然としている。

「さて、ぶっちゃけまだわかってないことの方が多いので、ここからは作戦を立てていきましょう! 私酔ってますけど大丈夫です!」


すっかり真っ赤になった杉木は、笑いながらそう言った。


「は、はい…(大丈夫なのかな…)」」


奏は少し心配そうに彼を見る。

そんな中、舞はすかさずに冷静に意見を持ち出す。


「とりあえず兇刃(ブレイド)について、そしてレネゲイド濃度上昇の原因を早急に調べたほうがベストですかね」


「あ、例のレネゲイドビーイングとの関連性も。」


ふたりの意見を聞いて、杉木は軽くまとめる。


「まず、

①レネゲイド濃度上昇の原因・発生源の特定

②この地域に伝わる、封印された龍に関する伝承の調査

③ブレイドの発言の裏を取って、他にも彼に関する情報

ざっとこんなところでしょうか?


調べれば調べるほど、追加で調べなきゃいけないことが出てくるなんてことは、この業界だと大変よくあるので、余裕を持って調査にあたりましょう。ひっく」


「……でも、余裕をもって調べることには意味はちゃんとありますし、 早速明日からやっていきましょう」


「う、うん。そうだね…」


舞も奏も、ひとつ頷く。


「そーですねー。今日はもうお酒入れちゃいましたし、明日から頑張りましょー」


完全に出来上がった杉木が、呑み終えた何杯目かの杯を机に置く。

そして、軽く酔いを醒まそうとしたのか、立ち上がり窓辺へと歩いていく。


「……しかし、この宿はいいですねぇ」


海と砂浜が一望できる宿の窓からの景色に杉木は感嘆の息を漏らした。

そして、窓の外を眺め、あることに気づくと、こちらへと振り向いて手招きする。

「お〜! これはなかなかおもしろい…! ビディ、こっちに来てみてごらん?」

「? なに…?」


ビディが窓辺に歩いていくと、外を眺めたまま、軽く驚いた顔をする。


「……! これは、珍しい」


奏も気になって、少年と少女が眺めている窓辺に寄って行った。


「なにかあるんですか?」


奏も窓辺から外を見下ろす。

そこから見える砂浜は、三日月みたいな弧状になっていた。

そして海からほんの少し離れたところに、普段は島であろう場所が見える

普段は島であろう、つまり、今は引き潮で砂浜から島への一本道ができている。


月の巡りによってしか現れない島へ続く道


それを二人は珍しいと言っていた

「へぇー…すごいですね。テレビでやってた南の島でもこんな感じのありましたよ」

そう、奏が二人に対して言ったその時だった。


奏が、その島を見ていると、だんだん意識の輪郭のぼやけていくのを感じる

そして、奏自身がそれを自覚する頃には、すでに彼は違う場所にいた

「………えっ…!?」



辺りは真っ暗な森の中。

木々が深く生い茂る中、天上に月だけが見える

畳に座っていたはずなのに、足元の感触は冷たく湿った土

流れる風はどこか磯の匂いを含んでいた


「え…?何だろう、ここ…僕、さっきまで宿に……。

……夢…?にしてはなんか変だな…」


ホーホー、とフクロウの声が静寂に響き渡る


奏は直感的に、ここがさっき見た島なんだ…という気がしてならなかった。


とりあえず奏はその場から立ってキョロキョロと辺りを見回す。

周りには何もなく、しんと静まり返っている。


「もしも夢じゃないのなら…戻らないと…」


さっき見た光景を思い出すなら、今この島は地続きだったはず

引き潮が終わるまでに戻った方がいいだろう


奏はそう思い出して、森を歩いて海を目指しはじめる

島自体は大きくないので、すぐに森を抜けて海辺に出る

だが、不思議なことに、先ほど見た砂浜の道は既になく、150m近く離れた先に陸地が見える


「嘘だ…」


奏の体から、血の気が引く音がする。

海の向こうの陸地まで、奏の力では行くことができない。


しかし、海の向こうの陸やその上に広がる空を眺めていると、奏はふと気づいた。


星が綺麗過ぎると。


そして、その理由にも気付いた

宿が、というより、街のある方向に街の灯りが見えないのだ

「え…?」

奏は戸惑いの声を漏らす。



「町が……なくなってる……?」


そんな呆然としている君の後ろから声が


「あれ? どうしてここに人がいるの?」


「!?」


奏が驚いて振り返ると


そこには、真っ白な着物を着た幼い少女がいた

月の灯りと星の光で、街の灯りが無いおかげで皮肉にもその容姿は詳しく確認できた

白い着物に黒い長髪が映えて、ミスマッチな違和感を放っている。

小学校高学年から、中学低学年といった見た目の少女。


奏は目の前の少女に問う。


「君は…?」


少女は軽く微笑んで答える。

「私? 私はいつみ。龍宮殿いつみよ。あなたは?」

「僕は…僕は、槇原奏。気づいたら、ここにいたんだ」

少女は不思議そうな顔をして、奏でを眺める。


「なんでここに普通の人がいるのかし…、ああ、なるほど」


少女は、少し奏を見た後に、彼の右の手に光る“石”を見つけると、納得したように頷いた。


「あなた、『玉』を持っているのね。それなら、呼応してここに来れるのかもしれない」


「玉?それって、この石のこと…?」


奏が右手をあげて石を見ながら聞くと、少女は軽くうなずいた。


「そんなことより、あなた、元の場所に帰りたいのかしら?」


「うん…帰らないと」


奏が少し焦りを見せると、少女はふふっと笑う。


「いいわよ。戻してあげる。でも、無料ではちょっと面倒ねぇ」


「…なにか、すればいいの?」


少女は屈んで下から奏を上目遣いで眺めてくる


「最近私、暇なのよ。だからお喋りなり遊んだりして欲しいわ。

大丈夫。あなたはちゃんと“元の時間”に返してあげるから」


「あ…うん。それくらいなら………ん?」


奏は疑問の声を漏らす。


「“元の時間”…?」


「うん、そうよ?」

「…今は何時なの?」


奏がそう聞くと、いつみは空を仰ぎながら答える。


「“いつでもない”、が正しいわね。奏くんは、夢を見ているのよ。

厳密にはちがうけど、まぁ白昼夢みたいなものよ」


「そうなんだ…」


「まぁ、戻れなければ“永遠の一瞬”を生きることになるけどね。よかったわね、私に会えて」


「なんかちょっと怖いね…」


「そりゃー、ここは怖い場所よ。好き好んで来る場所じゃないわ。

……そんなことより、あなたのお話聞かせてよ!」


と、いつみは笑いながら言って、砂浜にぽんと腰を下ろします


「うん。いいよ」


奏も横に座ると、いつみは奏を見ながら話し始める。


「お兄さんは、外ではどんなことをしてるの?」


「どんなこと、か…。学校行って、友達と話したり、」


「ガッコウ?なあに、それ?」


いつみははてな?と首をかしげる。


「学校…ってのは、勉強をするところだよ。外は、君みたいな子も、たくさん通ってる。」


「勉強?それって、楽しいの??」


「楽しい…のかな。ちょっと、しんどかったりもするんだけど…

でも、頑張れば、楽しいよ。」


「ふーん…ガッコウ、かぁ。今、外にはそんなものがあるのね。」


いつみは、少し羨ましそうに笑う


「私も、行ってみたいなぁ。」


奏は、その笑顔が、どこか寂しそうな気がした。


それからも、奏はいつみからの質問に答える形で雑談は続いていった。


彼女が質問してくることは、どれも奏の話に派生していくところで、

外のことをほとんどなにも知らないらしい彼女は、楽しそうに、そして羨ましそうに笑っていた。


そんな風に、二人が面白おかしく話してたってとこまでは奏は覚えてる。

だが


「奏くん、どうかした?」


ふと気がついたら、奏は宿の部屋から海に浮かぶ島を眺めていた。

肩にはちび裕子が乗っていて、心配そうに奏を見ている。

舞も、少し奏を気にするような様子でこちらを見ていた。


「奏くん、なんかぼーっとしてましたよ?」


「あっ、ううん、何でもない」


奏が頭をふって笑うと、後ろから舞が言う。


「…疲れがあるって思ったならすぐ寝るのよ。

………体調不良で来られてもこっちが迷惑だから」


舞はばっさりと切り捨てるようにそう言うと、

食事の終わった部屋を出ていこうと立ち上がった。


素直になれない彼女に、奏は小さく笑う。


「…ありがと。大丈夫だよ」


そして、再び窓の外を見る。

そこにはあの小島が変わらず佇んでいた。

自分が先程見たのは現実なのか、幻なのか

そして、謎の少女龍宮殿いつみ

彼女はいったい…


奏は疑問に思いながら、その島を見下ろしていた。


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