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第27話「相棒」(上)

ファントムマザーは確かに落ち着いていた。

このまま、仮面を取れば万事解決だ。


だが、まだオーヴァードとしての経験の浅い奏はわかっていなかった。



ジャームとは何か

ジャームとは………




“もう変われない者”だ




奏の指が、仮面に触れそうになるその瞬間!


くれはの全身に悪寒が走る

“あれはマズい”と脳が直接警鐘を鳴らす!


「…奏!!」


くれはは、反射的に飛び出し奏をファントムマザーのそばから突き飛ばす。


「っっ!!」


突然くれはに突き飛ばされた奏は、そのまま衝撃に身体の態勢を崩され、床に転がった。


直後、再び響き渡る呪詛。




『許せないっ!!!』



『だから私は奴を許さない!!』




王子のキスで目覚めた白雪姫は




『そうだ、踊れ!』




彼と結ばれ幸せになりました




『死ぬまで踊れ!』




そして、白雪姫を苦しめた彼女の継母は、




『踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ踊れ!!』




熱い熱い、鉄の靴を履かされ、王子と姫の目の前で踊らされました




『貴様が寄越した、林檎のような真っ赤な靴で!!』



そう、死ぬまで





「まだ妄執に捕らわれているのか…」


「っ…そんな…!確かに、一度は落ち着いたのに…!」



ファントムマザーの出す強大なレネゲイドの波動で、くれはも奏も身体が硬直して動かない。

目の前でファントムマザーは、対面にいるくれはにぶつけるため、がむしゃらに力を溜めていた。


それに気づいた奏は、くれはを見て叫ぶ。


「っ……く、くれは、さん!!」


「俺のこと気にしている暇があったら、目の前のことに集中しろ!」


くれはがそう叫んだ瞬間



ドンっ、と



横から響いた音は銃声だった


「!!」


誰かが撃った銃弾が、ファントムマザーの目の前スレスレを通過した。

その突然の事態に、ファントムマザーは集めてた力を思わず散らせ、半歩後方に体幹を崩す



その隙を、“あの男”が見逃す筈がなかった。


「しまった!!」


くれはもすぐに気が付く。



隙を見せたファントムマザーの虚を突き、背後からスッと手を回し、指で仮面をピンっと弾く。


そのまま回り込むように彼女の懐へ

右手のナイフで宙の仮面を一刀両断


素手の左手で安部晴香の手にある鏡を回収する

奏が、それを見て思わず叫ぶ。


「鏡が!」


そして、そのまま糸が切れたように倒れこむ晴香を腕で抱きとめた



「詰めが、甘かったねぇ?」



そう言いながら全てを手にした男、春樹は二人を見て笑う。


「…あぁ、油断してたぜ。」


くれはがそう言った時、春樹の背後にもう一人の人物が立ってることに気が付く。



その人物に、二人は見覚えがあった。

調査資料の中にあった写真に映っていた、その顔。


その人物を見て、奏は眉をひそめる。


「…あんたは…」


メガネをかけたショートヘアの女性。


両の手には拳銃



「初めまして。『トラベラーズ』の“連なる鼓動(リンケージ)” 加東佐奈よ」



銃口をくれはに向けながら、彼女は優しく微笑んだ。



「挨拶の割には物騒なもの掲げているじゃねぇか…」


くれははすかさず剣を二人の方へ向ける。



と、4人が完全に気を抜いていたその時。


『あ…!あっ…!!』


斬られて、崩れかけていたファントムマザーが、死に行きながら最後の力を振り絞った。


今までの叫びとは比較にならない、大きな力を秘めた呪いが、部屋全体を包み込む。



だが、その時春樹の手の中にあった八咫鏡が輝きだした

そして、光は春樹、佐奈、晴香を包み込み、その大きな力から三人を守る。



この力をもろに喰らうのは、奏と舞のふたりだけ。



それは、目視できるほどに固まった、負の感情。


ファントムマザーに詰め込まれた、憎悪の感情。



「ぐぅ、ぁ…!!」


「ぐあッ……!!」


二人の心の中に、自分じゃない何者かの憎悪が溢れだす!


それは毒のように全身を蝕み、信頼できる大切な人を、別な"何か"にその瞳に映す!


ファントムマザーは、最後砂になりながら、その身のすべての憎悪を二人にばらまいた。


「っ!?これは…!!」


直接喰らってない春樹でもわかる、恐ろしい負の感情の塊。


それを直に受けている二人は悶え苦しみ、精神を蝕まれていた


しかしやがて、その衝動の波は収まっていく。


「ぐ…う、あっ…!!」



くれはが、胸を押さえる。



そして、獣のような瞳で、必死に理性を保とうとする。


迫りくるファントムマザーの憎悪の塊。



くれはは、どうしてもその絆を守りたかった。



だから、ファントムマザーごと、それを内側から消し飛ばす。



「っ…はぁ、はぁ…」



くれはの中を蝕んでいた憎悪が、綺麗に消えていく。


「てめぇにやるほど、俺の心は脆くねぇんだよ…!!」


くれはが、そういって踏みとどまった瞬間、周囲を覆っていた憎悪の塊は、綺麗に消えていく。


しかし、奏の中の憎悪は、まだ消えていなかった。

奏は頭を押さえ、ずっとうずくまっている。



事態が収まったことを確認すると、八咫鏡の光は収まる。

そして、佐奈が隣の春樹の顔を、心配そうに見る


「…っ!春樹、平気!?」


「あぁ、なんとかな。」


すると、すぐに春樹は少し離れた場所に、晴香を寝かせた。

戦いに巻き込まれることがないように。


「さて……。奏のぼーやは聞こえてねーな。

じゃあ、舞。お前でいーや。いや、今はくれはか?」


「俺の今の姿をあいつと勘違いするほど、お前の目は節穴か?」


ガシアスブレードを構えたまま、くれははキッとにらみを利かす


「うっせ。実際に会ったのは1回きりだろーが。見た目髪しか変わんねーんだしそんなパッパッ見分けつくかよ。

御託はいい。テメーは相方のケツ拭くのでいっぱいだろ? 俺らは帰る。大人しくそこを通せ」


状況的に、小道具部屋の唯一の出入り口前に奏、舞がいる。

春樹たちが逃げるためには、そこを通らないといけない。


「断る、あいつはどうにかなるが、てめぇらの問題は今はどうにもならん。

だったらてめぇらぶった切って、そのあと帰してやる」


「俺とおめーが戦うと、兄貴が悲しむんじゃねぇか? 大人しく引いたらどうだ? 今回おめーらを出し抜いたのは俺たちだ」


「油断していてやられた奴が言うセリフか?その程度で出し抜いたとは言わせねーよ」


それを聞いて、春樹は高らかに笑う。


「あっはっはっはっ。そうだな! 油断してやられたのは確かに俺だ。じゃあ」


満足げな笑みを浮かべ、春樹は手の中で折り畳みナイフをくるくると回した。


「今回は油断しなくて、いいんだな?」


そういうと、明らかに春樹の視線が変わる。

レネゲイドの波動も感じないのに、思わず竦むほどの闘志


くれはも、ガシアスブレードを手に鋭い睨みをきかせる。


「御託は要らない、どうせどっかで混じり合う運命なんだよ。

決着、つけとこうぜ・・・後腐れ無く、な。」


「オーケー」


パチンと折り畳みナイフを片手に一歩、彼は前へ

抜刀して、静かに近づく



「おにーさんが泣いて謝らせてやろう」



ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、春樹は構えた。

その様子を見て、佐奈はガチャリと銃を構える。


「まったく。元気な子たちだなぁ」


くれはは、二人を目の前に、真剣な顔になる。

二人の腕は、合わせてマスタークラスを凌駕する。


奏が動かない今、自分が二人を相手にするしかない。


その時。


「ぁ……あ、あああああああああああああ!!!!!!」


今まで黙って頭をかかえていた奏が、突然叫び出す


よく見てみると、彼の右の甲の八尺瓊勾玉は、赤く輝いている

いつもなら光のような色が、今は、血のような色だ


「“お前ら”……ッ!!僕に、何をしたァッ!!!」


誰に向かってるのか。奏は吼えるようにそう叫ぶ


「あの、化け物は!!この惨劇は!!僕の体は!!!なんだコレ!!お前らが……お前らが、やったんだ!!」



すると、奏の石に呼応するように、リンクするように、春樹の手にある『鏡』が反応する。

だが、奏の石の赤い輝きとは違う

白く、眩い輝き



「春樹、そr」


「阿保っ! お前はコレに触んなっ!」


春樹に忠告しようとした佐奈に、春樹は余裕のない剣幕で怒鳴った


「…っ! ご、ごめん」


しゅんと落ち込む佐奈の顔を見て、春樹はハッと我に返る。


「いや、悪かった。だが、あいつを放って置くのも不味そうだな…!」


赤い光を放ち、叫ぶ奏を見た後、春樹はくれはのほうに目をやる。


「おい! 舞くれは!」


「くれはだ、今度は何だ」


くれはは、キッとした視線で、春樹を見る。


「変に暴走されても面倒だ! 逃げるのはナシだ! あの暴走馬鹿は止めさせてもらうぜ!」


「それはありがたい、あいつに暴走されるのはいい迷惑だ」


二人の意見が合致した後、再び奏の叫びが響く。


「みんな、みんな壊れた……今、ここには僕とお前らと………ゾンビしかいない!!」


何に対して、叫んでいるのか

何に対して、憎悪しているのか


「許さな…い…!お前ら、お前らが壊した!!僕も、みんなも、この場所も……“みんな、みんな吹き飛んじまった”じゃないか!!」


それを、知るのはこの場にはいない。


「“化け物”は……みんな、みんなぶっ壊す……!!!」


そこまで言うと、右手を掲げて、光の銃の態勢をとる。


春樹は暴走する奏の叫びを聞き、静かに眉をひそめる。



「いくぞ、佐奈」


「了解」



本当のトラベラーズの戦いが、はじまる。



久しぶりに投稿。

これ自体は結構まえに上がってました。

問題は下のほうであった…

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