第28話「相棒」(下)
二つの魔眼が変形し、春樹の腕を 籠手となり覆う。
そして、春樹は目配せして佐奈に合図を送る。
すると佐奈が春樹に向かって銃口を向けた。
パン、と銃声が鳴り、放たれたのは弾丸ではなく、気体。
春樹がその気体を体に浴びると、速さでは互角のはずの奏のスピードを格段に上回り、一気に駆け出す。
「鏡を持ち帰って、坊主をのして…。ついでにアレも片付けちまうか」
春樹が狙うのは、迷わず暴走している奏。
今の奏は、冷静な判断を欠いており、
おまけに、今回は春樹の相棒、佐奈がいる。
佐奈の二丁拳銃による支援射撃は、奏の春樹の攻撃への対応を許さなかった。
一閃。
春樹のナイフによる斬撃が、奏を襲う。
奏は吹っ飛ばされ、後ろの棚に強く打ち付けられる。
「がはっ……!!」
奏の身体から、血が溢れる。
だが、先ほどのファントムマザーの憎悪は、奏の中では消えていない。
ファントムマザーの最後の残滓は、その時奏の心の中ではじけ飛んだ。
ふらり、と奏の足が動く。
「さっさと寝てろっつーの! 言い返さないおめーなんざ相手にしてて気持ち悪いわ!」
春樹は、続けざまにもう一度ナイフで切り刻みにいく。
それはそばにいたくれはも巻き込んで。
「甘い!!」
ナイフ攻撃が、衝撃派のようになって、分裂して二人を襲う。
だが、戦闘に長けたくれはは、それを全て切り刻んで受け止めた。
しかし、奏は続けざまに攻撃を受け、もう一度道具のしまわれた棚の中にふっとばされる。
「なんだよお前、強くなってんじゃねーか!
それに比べてどうした奏っ!腑抜けてんじゃねーよ!!」
佐奈のソラリスの能力により無理に身体を加速させた春樹は、連撃を食らわせ一瞬止まる
春樹の連撃を食らった奏は、小道具の棚にがしゃん、と倒れこんだ
そのまま、少しの間静かになる
くれはが、軽く舌うちすると、一歩奏の方へ寄って声を駆ける。
「……おい奏、いつまで寝てるんだ、さっさと起きろ。」
その時、一瞬失神していた奏の意識が、ふっと戻る。
「……くれ……は……?」
攻撃によって呆然とする意識、そして彼女の呼びかけは、その意識に一本の蜘蛛の糸を垂らした。
「さっさと起きろグズ、お前をかばうほど、俺は優しくねぇんだよ」
「ごめん……、ちょっと、ぼーっとしてた…」
ふらふらと、力なく奏は立ち上がる。
八尺瓊勾玉の色は、血の色から元の光の色に戻って行った。
それに合わせて、鏡の光も収まる。
「目の前の敵に集中しろ、グズ」
「……わかった」
元に戻った奏を見て、春樹は満足そうに笑う。
「そうだ。俺様を倒してくれたお前は“そっち”だろう!?」
「もうっ! この戦闘バカっ!」
佐奈は、それを見て、呆れたように言う。
奏は、ゆっくり立ち上がると、右手の大砲を春樹に向けて掲げる。
「お返し、だッ!!」
光が集まり、巨大なエネルギーとなって、放たれる
それとほぼ同時に、春樹は腕を掲げ、佐奈に合図を送る。
「佐奈っ!」
「了解っ!」
佐奈は再び防御効果の弾丸を春樹に打ち込む。
待っ正面からビームを受け止めた。
一撃で、大きなダメージは免れない威力の、大砲。
「っ…!!」
春樹はその一撃を喰らう。
春樹の身体をビームが焼く。
「私が“連なる鼓動”と呼ばれる理由、見せてあげる!」
佐奈が叫ぶ。
それと同時に、遠くにいたはずの佐奈の身体も、奏の砲撃に焼かれるように傷ついた。
「げほ…っ」
「佐奈、悪ぃ!」
佐奈の能力、それは他者の痛みを半分自分に押し付けること。
「お礼は後で!」
佐奈が、眼鏡をかけなおしながら笑った。
大きな砲撃でも、二分されたら、威力は半減する。
それに、最初から春樹は防御態勢だった。
結果、奏の砲撃は効きはしたものの、痛いというものではないようだ。
直後、すぐさまくれはが駆け出し、目の前の春樹にガシアスブレードを振り翳す。
目の前に迫る斬撃に、春樹は大きく声を荒げた
「応えろ!!俺の宿命っ!」
その時、春樹の周りの空間そのものが、春樹に味方したかのようにみえた。
舞の攻撃の軌道は、確かに春樹を的確に切り裂く。
だが、しかし、その軌道は、運命によって狂わされる。
春樹が持つ、因果を束ねる力。
運命を味方にした春樹は、すんでのところでくれはの斬撃を回避する。
「…ちっ!避けられたか!」
斬撃を避けられたくれはは、一歩後退して態勢を立て直す。
そんなくれはに、佐奈はスッと銃口を向けた。
「鎧も砕き、護りも許さないその技の結晶!貴女は危険だわ!」
佐奈は狙いを定めて、二丁拳銃で攻撃する。
標的は、先ほど攻撃を仕掛けたくれはだ。
迫りくる的確な弾丸。コンマ一秒というような時間間隔だろう。
だが、戦闘能力に秀でたくれはの剣技は、佐奈の弾丸を切り裂くことなど造作もない。
銃弾はくれはによって真っ二つに切られ、床に軽い音を立てて転がる。
「っ!技の少女に力の少年!やり辛い相手ねっ!」
剣を構えなおして、くれははもう一度二人を見て、
そして、軽く胸を押さえた。
「…あんまりこいつに負担をかけさせたくねぇが…仕方ねぇか」
そしてくれはは、剣の切っ先を春樹へと向ける。
「来いよブレイド…俺と決着つけようぜ…」
挑発するように、春樹に言葉をかけた。
そして、首にかかっているいつみのペンダントを軽く握った。
「…いつみ、お前の力、使わせてもらうぜ。」
「…舞さん…!私もあなたの力になりたい…!」
くれはの眼が深紅に染まり、口に笑みがこぼれる。
いつみの持つ意思の力ではない。
彼女の持つ精神干渉が、内側からくれはに力を与えるのだ。
「さぁこいっ、ブレイド!!お前の一撃、捌いてやるよ!!」
再び、挑発するように声を荒げて叫ぶ。
春樹は、上等だ、と小さくつぶやき、ナイフを構える。
「お誘い受けたからな!じゃあ相手させてもらうぜ!」
春樹が駆け出し、くれはの目の前まで迫る。
時間を一瞬歪めるような、斬撃の嵐。
「春樹っ!」
そして、それを援護する佐奈の支援射撃が、くれはに迫る。
だが、しかしそこで"竜頸玉"が眩く光り輝く。
その光は、くれはの力を最大限引き出し、その攻撃を全て見切らせた。
春佐奈の射撃も全てをくれはは読み切り、そして薙ぎ払う。
春樹のナイフは怒涛の連撃、だが足りない素早さを動体視力と体幹でいなす!
そしてさらに、春樹の動きを見切ったくれはは、咄嗟の反撃を仕掛ける。
「させないって言ってるでしょ!!」
佐奈が再び拳銃を構えて、その攻撃を抑えようとする。
ところが、くれはの斬撃の衝撃は、後ろにいた佐奈にも届く。
銃弾は衝撃で弾かれ、妨害を仕掛けることはできなかった。
放たれた斬撃は一直線に、春樹を切り裂く。
「が…っ!!」
だが、再び、春樹が喰らう傷の半分は、佐奈の身体に刻まれる。
「春樹は、私が護る…!」
口の端から流れる血を拭いながら、佐奈は笑った。
「ちぃ!厄介な相手だ!」
手ごたえは確実にあった。
しかし、それは佐奈の手に寄って半減されてしまう。
くれはは体制を立て直すため一歩下がった
「くれは、下がって!…僕が、やる!!」
光の大砲を纏った右腕を前に突き出し、調子を取り戻した奏が標準を併せる。
それを見て、春樹が待ってたと言わんばかりにニッと笑った。
「俺は、お前さんのこと認めてるぜ。」
そのニヒルな笑みは、一瞬で緊迫した叫びに変わる。
「だがな!!」
それは、強固な決意を持つ者のまなざしだった。
「それ以上に、俺の背中を護るあいつのことを信用してるんだっ!!
きやがれ、この野郎!!」
その叫びを聞いた奏は、真っすぐに春樹を見据えた。
奏の右手の八尺瓊勾玉が強い光を放つ。
それと同時にエネルギーのチャージが完了される。
「おらああああああああああ!!!!」
刹那、眩い極光が彼の右手から放たれた。
全てを殲滅させる、巨大な光の一撃。
受けたらひとたまりもないような迫りくる極光
それを目の前にした春樹は両手を交差し、籠手を前に構えた。
そして、斥力で見えない盾を作り出し、それを真っ向から受け止めた!!
「ぐ…おぉ…ッ!!」
真っ向からぶつかり合う攻防に、春樹は自然と笑みがこぼれ出ている。
盾は光をある程度食い止めていたが、流石にこれだけのエネルギーを全て食い止めることは出来なかった。
しかし、佐奈はもう一度、彼の傷を痛み分けしてダメージをさらに軽減する。
「そんな、あれだけのものを…!」
あれだけの光が、僅かなダメージを残すのみとなったのだ。
「前回…、言ったはずだぜ?」
光が収まり、尚、立っていた春樹はしてやったりな笑顔を浮かべた。
「俺を舐めすぎだ、ってな。」
「………ッ!」
奏は歯ぎしりをして、悔しそうに春樹を睨む。
もう、奏は最大の一撃を使い切った。
それは佐奈をボロボロにさせるだけの威力はあったものの、
二人ともまだ動いている。
そして、それを制するように、くれはがもう一度前に一歩進みでた。
「来いよ、くれは。」
笑いながら、春樹はっくれはを挑発する。
「…あぁ、終わらせてやる。」
その瞬間、くれはのレネゲイド濃度が一気に上昇する。
力が高まり、それは今にもくれはを飲み込んでしまいそうだった。
「ばーか、終わらせねぇよ。」
へらへら笑う春樹に対し、くれは迷いなくガシアスブレードを引き抜き、春樹を狙う。
春樹は避けようとするが、くれはの音速の攻撃には対応できずに、そのままその斬撃を喰らう。
それでも、まだ春樹は倒れない。
「…っ!はぁ。ったりめーだろ。」
春樹は一撃を貰って、一歩退く。
「おい、馬鹿くれは。」
そして、もう一度ナイフをパチンとしながら、そういった。
「…っ、なんだよ。」
「お前はもう限界だ。舞のためにももう寝てろ。」
春樹は、くれはの限界近くまで昂ったレネゲイドを感じて、そういった。
すると、トン、と行動前の足踏みを一つする。
それを見て、くれははハッと気が付いた。
「動く。」
追撃が来る、と。
「(やべぇ、舞の体に負担をかけ過ぎた…!こりゃ気張らねぇと…きっちぃな…!)」
くれはは迎撃の構えを取る。目の前には迷わずこちらにナイフで斬りかかってくる、春樹の姿。
春樹は、もう、くれはには回避できる余裕もない、避けたところで次の手番まで持たないと読んでいた。
だから
「大人しく、寝てろっつうんだっ!!!」
大きくナイフを振りかぶって、くれはに斬りかかる。
「……っっ!!くれは!!」
後ろで、奏がくれはを案じて叫ぶ。
その叫びがくれはの意識に伝わると同時だった
「…生憎、俺は」
舞とくれはの意識が、混同しだす。
「地に伏せることが!!大嫌いなんだよ!!」
ナイフの斬撃を、一凪して、いなす。
春樹のその一撃は、くれはに通ることはなかった。
「……ふふ」
くれはの顔から、小さく笑みがこぼれる。
「あぁ……最高だ。」
それは、狂ったように恍惚とした笑みで。
「…久しぶりだ、ここまで血が騒ぐほど楽しい戦いは…」
だが、そうやって動けてもまだ、春樹の読みの通り……くれはは、もう限界ギリギリまで、消耗しきっていたのは、素人目の奏にもわかった。
「くれは!!もう無理だよ!!」
くれはに、必死に声をかける。
「そのままだと、戻ってこれなくなるよ、くれは!!」
縋るように後ろから声をかけてくる奏に、くれはは少しだけ振り返る。
そして、自身に指をさしながら、話し始めた。
「……こいつはな、嫉妬しているんだよ。」
「…え?」
唐突に奏に告げられた言葉に、奏は唖然となる。
「全てに嫉妬して、全てを僻み、妬んでいるんだよ。『舞』は。」
くれはは、ぽつり、ぽつり、と語る。
それは、全て舞越しに全部見てきたくれはだからこそ言える、舞の本心だった。
「俺はお前のことをそれなりに信頼している。だがあいつはお前のことを信頼していない。」
それを聞いて、奏は少し息が詰まるような気がした。
「眩しいんだろうな、お前が。甘っちょろい理想掲げて、馬鹿みたいに奔走してさ。」
フッと、軽く口端に笑みを浮かべながら、そう告げる。
「…ま、コレ以上はあいつに口止めされているから言えないけど…さっさと終わらせようぜ。お互いのためにも。」
「………舞………。」
そういうと、くれはは前を向いた。
奏はそれを聞いて、軽く下を向きながら軽く拳を握る。
「……ジャームになんかなったら、許さないからね。」
「…善処はしてやるさ。」
二人は、また前を向いて、目の前の敵を見やる。
春樹は決意新たにまだ立ち向かってる二人に対し、吐き捨てるように言った。
「ったく、兄貴が泣くぞ、このじゃじゃ馬。」
もう、春樹たちもほとんどすべての切り札を使いつくし、
消耗具合で言えば奏たちといい勝負だった。
だが、二人は手を抜く気配は一向に、ない。
春樹は、籠手を再形成し、
もう一度佐奈の支援を受け、奏よりも先に動く。
そして、遠くの奏に衝撃波で斬撃を浴びせる!!
「かはっ…!」
もう、足元も覚束ない状況で、でも奏はまだ立ち上がろうとする。
あきらめのつかない二人に、春樹はだんだんしびれを切らしてきた。
何が、二人をそこまで頑張らせるのか……それが、全くわからないでいた。
「ったく、餓鬼は大人に任せて無茶するんじゃねぇよっ!!」
「うるさい!!僕はあきらめるわけにはいかないんだ……
………くれはのため、……舞のためにも!!」
奏はチャージがもうほぼ完了した銃口を構えなおす。
「あと、単純に…あんたらに負けたくない!!」
全てを救うために。
奏は銃口を……少し、ずらした。
引き金が引かれ、光の束がもう一度解き放たれる。
佐奈は、もう倒れそうな足を無理やり引っ張る。
キッと口を結ぶが、もう片手しか銃を上げられない。
でも、その銃口を奏へと向ける。
「倒れなければ…!まだ春樹の力になれるっ!」
パァンと放たれる、攻撃を妨害する弾。
だが、それは光の束の前に、飲み込まれて消えた。
「…眠るのは、あんただ」
光の束が、くれはと春樹の間を貫き、真っすぐに佐奈の体を射抜いた。
「春樹…」
衝撃で佐奈は吹き飛び、倒れて膝をつく。
「ごめん」
そして、身体は力を失い、その後倒れた。
「ばーか、寝てろ。」
春樹は、倒れた相棒を横目で見た後、目の前の奏を見据える。
「はっ。わかってるじゃねーか。大切なものを守るために、何が必要かって。」
「……やっとわかったんだ。僕が失うと本当に怖いもの。」
春樹も、奏も、相棒がいる身だから、だからこそ相棒を失うのは、心の拠り所を失うのに近かった。
「前しか見れねぇ餓鬼かと思ったが…。いや、御託はもういいか。」
フッと笑い、春樹は両手を上げた。
「そろそろカーテンコールだ。スタンディングオベーションを受けるのは、どっちだろうな?」
「……俺らに、決まってる、だろ……」
くれはは、春樹を睨みつけ、武器を床に置いた。
もう、武器を使う余裕も、くれはにはなかった。
だが、この状況では、武器がなくてもカタがつく。
「…この一発で!!落ちろ!!」
振りかぶった一発の拳。
春樹は真っ向からそれを見て、避けようと体をひねるが…
身体ががくん、と一瞬力が抜けた。
春樹もまた、力を使いすぎ…無理に身体を動かしていたのだ。
その一瞬が、勝敗を分けた。
そのままの、気合い入れの目覚ましの、一発。
何の能力もない、ただの人間でも出来る一発の攻撃。
だが、それが最後の一撃となった。
「はー、餓鬼ってのはすぐに成長するから…」
後方に倒れながら、春樹は呟く。
「嫌いなんだよ。」
バタンッ、と床に体を打ち付ける音が、響く。
「…お前も休むんだ…。もう、動かなくてもいい。
…お前の、負けだよ。」
その一言が、激戦の幕引きを告げた。
総計6000字だよ。長いわ。
展開が熱すぎて切るにきれなかったお…




