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ダブルクロス3rd リプレイノベル ~Team of Gisselle~  作者: みぃ
第1章「Priestess of Dragon」
3/31

第1話「くれは」

あの誘拐騒動から、一ヶ月が経った。


ユニバーサル・ガーディアン・ネットワーク

通称UGN

世界の裏側を知り、そして世界の秩序と人々の安寧を守るための組織

そして、この国日本におけるUGNの中枢

ここはUGN日本支部だった

摩天楼と言える東京でも大都会中の大都会

そんな光景を君は廊下の窓から「見下ろす」

UGN日本支部もまた、この都心に本拠地を構えていた

奏は、案内の女性について廊下を歩く


この状態は、一ヶ月前に少し似ていた

だから、奏は思い起こさせた

一ヶ月前にあった、もうひとつの出会いを。




それは誘拐騒動があった翌日のこと。

実際に世界の真実を目の当たりにした奏ではあったが、過ぎてしまえば

どこか夢を見ているような気持ちで、君はUGN日本支部の廊下を歩いていた

支部の人によると、「会ってもらいたい人がいる」とのことだ


「……昨日は大変だったみたいだけど…少し落ち着いた?」


君の前を進むスーツの女性…谷城裕子は振り向かないまま話しかける

自分の体に実際に起こった異変を受け入れられないまま、どこか上の空で返事をする。


「……色々ぶっ飛びすぎてて、逆に落ち着いてます」

「みんな、最初はそんなもの?」


廊下の左側にある窓の外に広がる大都会の摩天楼を横目に見ながら、奏は歩く

そして、ぽつぽつと本音をこぼした。


「正直…やっぱり昨日のことも今になっては実感なくって…今なんで僕がここにいるのかも、わからないくらいで…」


「……君の状況は、普通のオーヴァードよりちょっと特殊。だから、FHも狙いにきたんだと思う。そのせいで混乱×混乱で、超混乱?」


「…特殊ってのもあんまりわからないんですけど…そのFHも言ってました。やっぱり原因はこれですよね…」


奏は、歩きながら右手の甲を見た。

奏の手の甲には、相変わらず光の色をした石が骨の構造を無視して食い込んでいる。


「うん。……もう一度聞くけど、その手の石には本当に覚えがない?」


「はい…。気がついたら、この石が手に埋まってました」


「私たちにも、その石のことはよくわからない だから、これからそれを調べるの」


「…そうですか」


二人が一度も顔を合わせることなく話しながら歩いていると

やがて裕子が、ひとつの扉の前で立ち止まった。


「あってほしい女の子が、ここにいるわ」


裕子は横目で奏を見やって、がちゃりと扉を開ける。

部屋の中は、いたってシンプルな面会室だった。

カーペットの上に、ソファがふたつ。

そのソファをはさむようにテーブルがひとつと、とっても簡素な部屋だ。

そして、入り口からみて奥のほうにソファーに、一人の少女が座っている。


「…あ…君は…」


ボサボサの髪の一部を三つ編みにして、前に下ろしている

服装は奏のとは違う学校のブレザー。

二人が入ってくると眼鏡の奥でギロリとにらみつけてくる。



奏は息を詰まらせた。

なぜなら彼女は、ついこの間誘拐されそうになった時助けてくれた少女。

秋家舞と名乗った、彼女だったからだ。


「この子は、秋家舞ちゃん。…いつもは。」


裕子が言葉を濁すようにそう紹介した。

「いつもは」という言葉に奏は疑問を抱くが、その答えは漠然とわかった。

なぜなら、自分を助けてくれたあの少女と、目の前にいる少女は「何か」が違ったからだ。

あの時の彼女は黒髪だったのが、今はまるで色が抜けたかのような白い色をしているし

雰囲気もまるで別人のそれだった。

確かに同じ人物なのに、まるで別人であるかのようだった。


「…?またてめぇか…。今度は何を聞くんだ?」


機嫌の悪そうな少女は、軽く舌打ちをして裕子をにらみつける。


「私は『てめぇ』じゃなくて、谷城裕子。

これからあなた“たち”の担当になるから、ちゃんと覚えていて欲しいわ」


「ハイハイ、わかったよ…。で、私に見せたいのって、ソレ?」


少女はぶっきらぼうに答えると、視線の先を裕子から奏へと変えた。

奏は彼女に見られると、なぜかあの時とは違う緊張感を感じ、背筋を軽くピンと伸ばした。

あの時男に向けられていた刃の先が、自分に向けられているような感覚だった。

裕子は目で「ゴメンね?」と奏を見つつ、彼女に肯定のうなずきを返す。


しばらく少女が奏を視線だけでじっと見つめる。

獣が獲物を狙うのと似たような目つきで。

やがて少しすると、彼女の目が奏の右手に光るものを捉えた。


「……あぁ、何をつれてきたかと思えば“カンマシェイプ・クリスタル”か。またあんたらは大層なもんを抱え込むんだな」


「……!?」


裕子は“カンマシェイプ・クリスタル”と聞くと目の色を変えた。

英語があまり得意ではない奏は、意味がわからなくてはてな、と首をかしげた。

裕子は真剣な目つきのままで、目の前の少女に向かって問いかける。


「…やはり、君は何か知っているの?」


「……どうだかね?」


「UGNもわからないことを、どうして君は?」


「さーてね」


「教えてくれるつもりは…」


「ない」


裕子の質問攻めに対し、彼女はきっぱりと即答した。

迷い淀みなく、一切の質問を受け付けない彼女に、裕子は次の質問が見つからなくなって黙り込んでしまう。

奏には、彼女のあまりの変わりように、彼女が本人なのかどうかが疑わしく思えていた。

しん、と静まる部屋。

だがそれもたった数秒程度で、目の前の少女が再び話し出す。


「そろそろ、帰っていいか?」


やれやれといったかんじの少女を前に、裕子は首を縦にも横にも振らない。


「てめぇらも知ってるとおり、私が“外”に出てこれるのは、コイツのレネゲイドが昂ぶっている時だけだ。

長時間コイツに負担をかけて、困るのはお互い様。そうだろう?」


少女の至極正論な提案に、裕子は重い口をあける。


「……そう、ね」


ソレを聞いて少女は満足そうに頷くと、また奏に目を向けた。

少女は奏のことをじっと、正面から見据え、そして、一言


「てめぇもなかなか大変だな」


と、片手を挙げてひらひらとバイバイの合図を送った。


直後、唖然とする奏の目の前でフッと糸が切れたように、少女は眠りに落ちた。

ソファの背もたれを滑るように横になった。

その動きの間に、真っ白だった髪はまるで絵の具で色を塗ったかのように黒く染まっていく。


完全にあの時の少女、舞の外見に戻り少しした後に、裕子が奏に向けていう。


「………これが、あの時あなたを助けた舞ちゃんの中にいる、『誰か』…

『くれは』よ?」


奏はごくっと息を呑み、一息置いてから裕子の顔を見上げて問いかける。


「…多重人格?」


裕子はこくんと頷いた。

それを確認してから、奏はもう一度、目の前で眠る少女に視線を移した。



奏が「もうひとりの少女」と出会い


チーム「ジゼル」がすべて顔をそろえた瞬間だった。



あれから一ヶ月。

この一ヶ月は特に長く感じた。


舞の中に潜む第二の人格「くれは」


正体不明の彼女は、どこから由来するのか不明の知識を持っており、そして同じ正体不明の「石」を持つ君のことももちろん知っていた。

だから、二人は組まされることとなった。


舞の中にある「謎の知識を持った人格」と奏が持つ「膨大な力を秘めた結晶」

それらを一箇所に留めておかない理由なんてないからだ。



奏と舞、そしてくれは


彼らはチーム「ジゼル」



UGNの牙だ




そして、奏はまた一ヶ月前のように裕子の後ろについていく。

「また」新しい任務が待っているようだ。

来週は土曜明けには学校で古文の小テストがあるのだが、まぁ諦めるのが無難だろう。


「奏くん、お仕事いっぱいで、ごめんね?」


裕子が、あの時とは違って軽く振り替えってそういった。

奏もそれに、微笑み返しながら答える。


「いえ、大丈夫です。…完全に慣れきった、といったら嘘になりますけど、勝手は大体わかって来ましたし」


「そう言ってもらえると、助かるわ」


一ヶ月前と同じように、裕子は支部の一室の扉を開ける。

部屋に入ると、その物音に三つ編みの少女が振り返る。

読書をしてた本をぱたん、と置き、無表情だった彼女はほんの少しだけ、微笑む。


「あ…おはよう、秋家さん」


そういって奏も、笑い返した。






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