第25話「交喙の嘴」
翌日、奏は先日仕事を頼んだ猫川美亜から連絡を受けた。
あれから、トラベラーズのことを調べてくれ、その情報を売ってくれるのだという。
その連絡を受け、奏はすぐに取引に応じた。
彼女に指定されたのは、市内の裏路地だ。
指定された場所で奏は、資料の束と報酬を交換する。
「どうもありがとう。」
礼を言う奏に、ミーアキャットはにやっと笑った。
「常連さんは情報屋にとって大切だからにゃあ」
取引を終え、ミーアキャットはすぐに次の仕事があるとすぐに去って行った。
奏は、情報の知りたさに、その場で資料を読み込み始めた。
そこに書かれていたトラベラーズについての内容。
たった2人しかいないセル「トラベラーズ」
春樹辰巳はその(一応)セルリーダーを務めている。
メンバーは、以前出た情報のように、春樹に加えて加東佐奈
だが、春樹はこのセルの2代目セルリーダーということが書かれていた。
元々、「トラベラーズ」が掲げてた信念は前から同じ、「オーヴァードでも自由な人生を」
メンバーも今と同じ、2人構成だった。
だが、当時はまだ佐奈はおらず、初代セルリーダーと春樹の2人組セルだった。
そのセルリーダーは、“連なる意志” 加東絢という人物。
年は春樹より1世代くらい上で、シンドロームは不明
ただ、近接白兵で戦ってたという話もあるようだ。
そして、数年前トラベラーズは何者かとの戦闘を行い、そのまま加東絢は生死・行方共に不明となる。
そして、“連なる鼓動” 加東佐奈は、絢の実の妹にあたり、絢が行方不明になった後トラベラーズに所属、春樹と共にミッションにあたる。
そして、資料には手書きで美亜の見解も書かれており、
二人を襲ったのは、どこかのFHセルリーダーかもしれない、ということや
二人は確かに絢が掲げたものを大切にはしてるけど、本当の欲望は、絢がまだ生きていると信じて彼女の救出なのではないか?
といったことが書かれていた。
大体ざっと読み、一区切り終えたところで、突如横から声がした。
「はー。とうとう絢姉まで掴んだか〜」
またも気配なく、隣に誰かがいる。
その声は、聞き覚えがある声だ。
「!!」
その声を聴くや否やそれが誰なのか把握した奏は、
すぐに警戒しばっと後ずさった。
「よっ、元気?」
そこには、あくまで飄々とした態度をした兇刃、春樹辰巳が立っていた。
「…あんまり元気じゃない。今僕が一番会いたくない奴が目の前にいるんだから」
「えー、俺そんなに嫌われることしたっけ…?」
春樹が、心外といった顔でふてくされる
「秋家サンのためにも頑張ってるのによ…。少しは労うとかないのかよーぅ」
秋家、という単語を聞いて、奏の顔がさらに険しくなる。
「…秋家さん……そうだ、あんた、秋屋さんのお兄さん、人質にしてるんだろ早く解放しろ。彼は無関係だ」
「……………ん?あれ? 聞いてないの?」
それを聞いて、春樹は首を傾げた。
しかし、奏はまだ違和感に気づかない。
「……やっぱり、お前は腐ってもFHだったんだ」
「腐ってもFH、ってなんかほんとにどっちつかずな響きだな…w」
春樹がくすりと笑い、そしてまたへらへらとした顔で続ける。
「そしてその様子だと、舞の方から何も聞いてないみたいだな?」
「秋家さんから…聞くって、何を」
そこで状況を理解した春樹は、相変わらずのうざったらしい感じで笑う。
「あー、あー、あー。それで本人から聞かないまま情報屋から仕入れちまったのね。ってことは、俺の手口はまだ漏れてねぇのな。よしよし」
ガッツポーズをする春樹に、奏は訝しげな顔を向ける。
「やっぱりやましいことを考えてるんじゃないか」
しかし、奏の様子も気にも留めず、勝手に感想を語りだす。
「まぁ、あいつも用心深いってことかねぇ〜。とこから漏れるかわからないし、まず『敵を騙すには味方から』ってやつね。
ブラコンではなさそうだけど、でもかなり依存してたしなぁ…」
奏はぶつぶつ言う春樹を見て首をかしげる。
「……何言ってるかわからないんだけど」
「俺がここで言っても、全部怪しいまんまだろ? お前俺のこと疑ってるし。弁明も説明もする気ねーぞ?」
「そうだね。元々あんたは全然信じられない」
「それに、どこかから漏れて困るのはこっちも同じだしな。
気になるなら相方から聞き出しな。こっちとしてはお前に知られるくらいなら別にいーし」
「………」
険しい顔して黙って聞く奏に対し、
春樹は相変わらずお気楽そうにへらへらと笑う
「しかし信じらんないとはヒドいよねぇ…。俺はお前に一度も嘘ついてないぜ?
この間はFHの内部機密まで色々教えてやったのによぅ。しくしく。可哀想な俺☆」
春樹のする泣きマネのジェスチャーに、奏がイラッと来たのは言うまでもない。
「あんたの言うことは理解してる。だけど、それだけなんだよ」
「はいはい。……まぁ、俺も相方と2人組のチーム組んでるから一言お節介言うけどよ」
お気楽そうな感じはそのままに、春樹はぴんと人差し指を立て話す。
「相方との情報共有はしっかりしとけよな〜。今の状況だって、俺様の懐がBIGじゃなかったら、軽くドンパチしてたんじゃねーの?」
にやにやと笑う春樹に、奏は心底不本意そうな顔をした。
「今回は僕に責任があるわけじゃないんだけどな…」
「あっはっはっはっはっ! そりゃそうだ! あいつの方が悪いわなぁ!」
春樹は、全くだ、と添えて、腹を抱えて大笑いする。
ひとしきり笑った後、また少しだけ真剣に話し出した。
「でもよ、あいつが兄を一番に考えてるのは傍目から見てる俺でもわかるんだから、お前だってもちろん知ってるよな?」
「……うん。」
「兄貴が俺に人質に取られたって聞いて、あいつはどうだった? 入院したって聞いただけで即病院に飛んでくる奴だぜ??」
相変わらずうざったいニヤニヤを浮かべながら、春樹は言う。
病院に行ったという話すら、今はじめて聞いた奏は、軽く唸りながら首を傾げた。
「病院の話はわからないけど、確かに、妙に冷静なのはひっかかってたよ。
話した後、あんたのとこに悪態つきながらも単身殴り込みに行きそうなのに。そうはしなかった」
「くっくっくっ。まぁ、そういう事だ。俺から言っても意味がねぇから、詳しくは相方から聞きな。
まぁ、一言で言うなら『全部茶番』なんだよ(笑)」
悪そうな笑いは変わらない。
だが、確かに春樹の言うことは、合点がいくところもある。
舞の態度が、何よりの証拠だ。
「……はいはい。とりあえずこの件は保留にしとくけど…裏切ったら容赦しないよ。
まぁ、その時は僕よりも秋家さんの方が末恐ろしいだろうけど」
奏が春樹を睨みながらそういうと、一瞬春樹の顔から笑みが消える。
「裏切り、ねぇ…」
呟くように、そういったあと、またフッと笑った。
「…………ま、いいか。推測は話すべきじゃねぇな。こっちもまだ目ぇ付けられたくないし」
「……」
「だいたい、俺は元々俺のこと探ってる奴がいるってゆーから来ただけだしな。しかし来てみたら美亜にゃんだったとはねぇ。サイン貰えばよかったぜ」
そこでふと、思い出したように春樹は指を鳴らした。
「ああ、そうだ。お前に伝言あったわ」
「……何」
「舞の兄貴の湊さんから」
「…?」
険しかった奏の顔が、「え?」と言った風に少しだけ軽くなる。
その顔を、企んだ顔をして春樹は見つめ、そして言う。
「『あいつは無口無愛想無表情と色々女として残念極まりないが、でもただツンデレなだけで意外と面倒見はいいし情に厚い奴なんだ。
槇原くんも、あんな奴のパートナーなんて大変だろうけど、でもできればよろしく頼む』だってよ。長かったけどちゃんと聞いた?」
「………」
舞の兄からの言葉に、奏の顔は、鳩に豆鉄砲喰らったかのようにぽかんとしている。
伝言を言い終わった春樹は、思い出すように腕を組んだ。
「しかしアレだね、舞はアレだし、湊さんはシスコンだなこりゃあ」
「……兄妹、か…」
ぽつりと奏はつぶやいた。
やがて、気ままに喋りたいがままに言いたいことを言いたいだけ言った春樹は、奏に対してくるりと踵を返す。
そして、裏路地をこつこつと歩き出した。
「ま、近い内にまた戦りあうことになりそーだし、よろしくなー。あとあんま俺のこと調べんなよ。照れるZE☆」
と振り向かないまま片手をふりふりしながら去っていきます
春樹の後姿を見ながら奏は、
「……やっぱり変だ」
と呟いた。
その後、奏は舞に問いただし、
舞の説明でようやく誤解を解いたのであった。
さて、二章もやっと話の筋が整ってまいりました。
次回、ファントムマザーに殴り込みにございます。
それにしても春樹はとっても好きです。
NPCの中では裕子さんと並ぶかもしれない。




