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第22話「情報収集」(下)

「秋家さん。」


夜。

美亜から情報を得た奏は、ジゼルの個室に帰ってきて、

そこでこれからの潜入調査に向けて待機している舞に声をかけた。


舞はすでに身支度を整えており、相変わらずいつも通り本を読んでいたが、

奏の声を聴いて視線を奏に向ける。


「……何?」


「あのさ、さっき猫川さんから情報を仕入れてきたんだけど

秋家さんのお兄さん、大変だよ!トラベラーズに捕まったって……!!」


「……」


舞はその奏の言葉を聞いても、事実を知っているからほとんど動じなかった。

だが奏はそんな事実知る由もなく、慌てふためいている。


「早く何とか対策をたてないと!お兄さんを助け出さなきゃ…」


「……あんな馬鹿兄さん、年貢の納め時が来ただけよ」


「そんな…だって、このままだと、お兄さんが」


「落ち着きなさい。今私たちに与えられた任務は“オペラ座の怪女(ファントムマザー)”

を割り出して、鏡を保護すること。

兄さんの事は、後からどうにだってできるわ。」


奏はあまりにも冷静な舞の返答に、言葉を詰まらせる。


「………もっと情報に対して慎重になりなさい。混乱されるとこっちが足手まといだわ。」


「…秋家さん…」


そういって、舞は時計を見やった。

すると、彼女は本を閉じて荷物に仕舞い、立ち上がる。


「…私はこれからもう一度調査に行くわ。あなたはもっと頭を冷やしなさい。」


奏の返答を待つこともなく、舞は個室を後にした。



   ◆  ◆  ◆



深夜の舞台上は、暗く、静まり返っている。

昼間、舞台の捜査をしても、特に有用な情報を得ることができなかった。


ので、今回は関係者なしでの潜入捜査だった。

調査隊が数名と、いつみ、そしてちび裕子が舞の肩に乗っかって調査している。


「うっ…。夜の劇場って怖いですね。オバケとかでそう…」


もはや自分がオバケのような存在なのに、いつみが震えながらあたりをきょろきょろと見回した。


「あ、おばけ」


「っっ!!??」


ちび裕子がぼそっと言うと、いつみはビクゥゥッと体を震わせて、舞に抱き着いた。

その様子を見て、ちび裕子はと笑うけらけらと笑う


「うそぴょんw」


いつみはぶるぶると震え、半べそ状態だ。

舞は肩に乗る裕子に対して、黒い笑顔を浮かべる。


「裕子さん、ちょっと黙ってもらえます?」


「アッハイ」


裕子を黙らせたあと、舞は若干不機嫌そうに舞台の上を捜査した。

すると、ふといつみが声を出す。


「……ねぇ、舞さん」


「…何?」


「私が精神体だからなのか、オバケが怖いからなのかはわからないんだけど…」


いつみはスッと指をさして、舞台そでの一角を指さした。


「……あそこから、なんかヤな感じがする気がする」


いつみに言われた舞は、黙ってその指さした方へ近づく。

いつみが指さしたのは、小道具が入っている箱だった。


舞はその箱を開き、中を調べる。


すると、その中には演技で使う林檎のオブジェがいくつか入っていた。

そして、舞はその中のひとつを手に取った。


白雪姫が演技で口にする林檎から、なんとなく、嫌悪のような憎悪のような嫌な意思が感じられた。


「……」


舞がその林檎を黙って手に取ると、その瞬間、背後からざぁと空気の揺らぐ音が聞こえた。

それと共に、周りにワーディング展開される


「…!!」


舞が振り返ると、舞台の真ん中に、仮面をつけた女性。


奏と裕子が目撃した、“オペラ座の怪女(ファントムマザー)”が確かにそこに立っていた。


「っ!!??」


いつみは、突然現れた“オペラ座の怪女(ファントムマザー)”におびえて震える。

だが、舞にはそれが実体じゃない、幻影だということが分かった。


「……幻影?」


舞がそう呟くと、“オペラ座の怪女(ファントムマザー)”は、

変声機を通したようなしたようなノイズがかった声で喋り始める。



『………赤い。』


『赤は…、血の色。そうだ、林檎の色だ。だから、私はあの女を…』



“オペラ座の怪女(ファントムマザー)”は、そううわごとをぶつぶつと呟きながら、そこに立ち尽くしている。

視線はこちらに向いておらず、虚ろに、呪詛のような言葉を淡々と呟いていた。


「……もはや怨念だわ。」


舞はその様子を見ながらそう言った。

いつみは怖くて軽くパニックを起こし、何も言えなくなっている。


「……で、このままぼーっと見てるわけにもいかないしねぇ。

どうする舞ちゃん? いつみちゃんは役に立たなそうだし」


「…とりあえず切って襲ってきたら撃退すればいいだけです」


「でもこれ、初接触なのよねぇ…。とりあえず意思の疎通図れるか試すべき、かしら?」


「…多分問いかけても意味が無い、と思いますよ」


「でも、正体掴まずに強硬手段に出たら、貴女の嫌いなFHと同じ手順を踏むことになるわよ?」


ちび裕子がにやっと笑った。


「……私は面倒事が大嫌いなんですけどねぇ」


舞は出しかけた剣を仕舞い、少しだけ虚ろなその幻影に近づく


「…で、幻影。あの女っていったい誰?」


舞に話しかけられたその幻影は、ぐるりんと首だけ舞の方に振り向いて、仮面の下の血走った眼で舞を見つめた。


「~~~っ!!」


いつみはその眼に驚いて、泡を吹いてその場に放心状態になる。

幻影は、舞を見定めるように少し見た後、再びあの無機質な声を発す。


『お前は……。あの女じゃ、ないのか。』


「…お生憎様ながら。でもそのお探しの女、余程あなたに恨みを売ったみたい。」


『当然だっ! 奴は! 私の全てを奪おうとした!! だから…っ!』


歪んだ声で、そう荒々しく叫んだかと思うと、

“オペラ座の怪女(ファントムマザー)”は再び心ここにあらずのような、そんな声を出す。


『そうだ…。靴…。赤い靴を、探さなくては…』


と、何か別のことを言うとふらふらと辺りを彷徨いて何か探し始めた。

しかし先ほど調べてた舞は、赤い靴なんて小道具はないのを知っていた。


「赤い靴、ねぇ…。」


確かどこかの童話では、赤い靴は人の血を吸うって聞いたことあったっけ。

そう舞はふと思い返していると、何かを探す“オペラ座の怪女(ファントムマザー)”の姿は、

そのまま暗闇に溶け込むように掻き消えてしまった。


「…消えた。」


「…なんともクレイジーな方だね。これはジャームの線が濃厚、かな?」


「…会話があんまり成り立たなかったし、その線が濃くてもいいと思います。」


舞は、先ほど消えたオペラ座の怪女(ファントムマザー)の後姿を思い出す。

あれは、どこかでみたことあるような。でも、よく思い出せない。

舞は感じたそれを口に出すことはなく、黙り込む。


「しっかし、赤い靴ねぇ…。鏡と言いまたなんかレネゲイド物質でもあるのかしら?」


「…その可能性は、高いですね」


まぁ、考えていても仕方ないか。と裕子は言い、そして、泡吹いてふわふわと浮かぶいつみを眺める


「……とりあえず、そこでノビてるいつみちゃん起こして帰りましょうか?」


「……そうですね。」


舞と裕子はそういって、調査隊の人々と一緒に劇場での調査を終えたのであった。



最初のカットは小説で追加したものです。

個人的にはこの場面ちょっと見てみたかったので。

舞ちゃんも素直じゃないですからね。


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