第20話「オペラ座の怪女」
いつものチーム・ジゼルの個室。
部屋の真ん中の会議テーブル、そしてそれの前に座っている奏と舞。そして宙に浮くいつみ。
下げられたプロジェクターには、例の「仮面のドレス女」の写真がいくつもうつされている。
そして、それを前に、自ら髪を逆立たせて怒りの表情を浮かべた裕子が指摘棒を持って腕を組み仁王立ちしていた。
「ゴゴゴゴゴゴ……」
「自分で言っちゃうんですね、それ」
いつみは、苦笑いしながらツッコミを入れた。
裕子は冗談はさておき、といったかんじで髪を元に戻すと、棒を軽く揺らしながら説明を始める。
「さて、今回の任務だけど…。霧谷さんは“ちょっと所用”でこっちに顔を出せないので、ミッション内容からすでに書面絵連絡を受けた私が解説するわね。」
「……まぁ、察しはつきますけど」
裕子はそういう奏を見て、その察したことを肯定するように頷いた。
「直接見た奏くんはともかく、舞ちゃんには詳しく説明しないといけないし。」
「………」
舞は無言でプロジェクターの写真を見ている。
そして、裕子は棒でその見ていた写真に映る仮面の女を指し示した。
「まず、この『仮面のドレス女』だけど、UGNは“オペラ座の怪女”って故障のコードネームをつけることを決めたようだわ。」
「…確かに、幻影みたいだった…」
「そう。んで、この謎のオーヴァードは、劇団スィズンの『スノーホワイト』って公演後に出現。
劇場全体にワーディングをかけた上でひとり芝居を始める謎人物よ。
今日の公演にも調査隊が派遣されたけど、今日も公演後に出現したらしいわ。」
「今日も?」
「えぇ。しかも演目はいくつかあったけど、『スノーホワイト』の後だけに出没とのこと。」
奏は、あの時の“オペラ座の怪女”のことを思い出す。
「…確かに、“オペラ座の怪女”の言っていた一人芝居も、『スノーホワイト』絡み……というか、継母みたいな内容だったな…」
裕子は映像の中の“オペラ座の怪女”をぴしぴしと棒の先で叩く。
「影響としては、劇場全体のワーディングにより、一般人が少しレネゲイドに充てられるくらい。
レネゲイド上昇も普通のワーディング程度だし。
まぁ捕まえて厳重注意よ。……“本来ならば”」
「…他に、理由があるんですか?」
奏の質問に、裕子は大きくうなずく。
「そう。つまり、私たち『ジゼル』が派遣されるだけの必要性が今回あるのよ。二人とも、この写真見て何か気付くことはない?」
裕子は、“オペラ座の怪女”の1枚の写真を拡大して、プロジェクターいっぱいに映し出す。
そこには、両手を天に翳し、大きくスポットライトの方向を見ながら口を広げている。
……そして、その正面には、一見すると丸い円盤のように見える鏡が浮かんでいる。
「“オペラ座の怪女”の前で浮かんでいる、“鏡”よ。」
「鏡…?確かに浮かんでるけど、これが何か?」
奏は映像の中のその鏡をじっと見つめる。
舞は相変わらず無表情で、黙ってそれを聞いていた。
「同時期にね、三重の神宮から連絡があって、あれがなんなのかわかったわ。
……あれは、『八咫鏡』。レネゲイドの遺産よ。」
「…八咫鏡…」
奏がそう呟くと、裕子はこう続けた。
「……そのおかげで、色々わかったことがあるわ。奏くんの右手のソレよ。」
「この石も?」
奏は、自分の右手に光る石を眺めながら問う。
石は相変わらず自ずと淡い光を発して、神々しく輝いていた。
「まだ予想の段階だけど、その賢者の石がなんなのかわかるかもしれない。
それに関して霧谷さんは各地の人員を集めて、緊急会議を開くそうよ。
よっぽどのことなんでしょうね…」
裕子は少し難しい顔をして棒の先で自分の掌を軽くたたいた。
そして、ともかく。と改めると、もういちどファントムマザーを指し示す。
「調査隊は“オペラ座の怪女”との接触に失敗。
ワーディング後に演技?をした後にやっぱりフッと消えてしまうみたいなの。」
「“オペラ座の怪女”を捕まえて鏡を手に入れられれば、何かわかるかもしれない…ってことですか?」
「そうね。…会議を盗み聞きするのもアリかもしれないわ。」
そう言いながら、裕子はちらりといつみを見た。
いつみはうぇっ!?とすっとんきょうな声を上げる。
「まぁ、私たちの任務は“オペラ座の怪女”が何者なのかを調べ上げ、
その上で彼女と接触。危険物である遺産の保護よ。」
「わかりました。」
「…了解。」
奏と舞が、一つ頷いた。
「おそらく、遺産となればFHも動くはず。
でも私たちは“オペラ座の怪女”がただのオーヴァードなのか、理性を亡くしたジャームなのかすらまだ区別がついてない状況。
“オペラ座の怪女”との接触方法も探さなきゃならないし、劇団関係者に話を聞かせてもらうのも必要過程でしょうね…」
「わからないことが多いですね…」
「ま、だからこそこれから早速調査するのよ!
私たちは少人数チーム。調べることは山積みだわ。
ほら、捜査は足からっていうじゃない??
だ・か・ら。
今から現場にいってもらうわっっ!!」
裕子はびしぃぃっと二人を指差す。
今までほぼ黙って聞いていた舞が、口を開いた。
「………いつにも増して、慌ただしいわね」
「せっかく観に行った劇で仕事発生だもの! 裕子さんお冠でこのくらいするわ!」
「余韻と感動が跡形もなく壊されちゃったんですね…」
「当然よ!!許さないんだから……ということで、じゃあ、作戦立てて行くわよー!」
裕子の怒りに燃える声が、ジゼルの個室に響いた。
◆ ◆ ◆
奏はいつも通り腕時計に化けたちび裕子を乗せ、スィズンの調査にやってきた。
舞とは別行動で、舞は舞台を、奏は裏方を調べることになった。
楽屋がたくさんある廊下を歩いてる途中、裕子は小声で奏に話しかける
「ところで奏くん」
「なに?」
「だ“オペラ座の怪女”けどさ」
「うん」
「あれってやっぱり白雪姫の継母なのかな?」
「だと僕はおもうけどね…」
奏は、あの時の光景を思い出す。
あの時浮かんでいたアレが鏡なら、あれはどう考えても
白雪姫の継母を連想させる光景だ。
「ってことは、やっぱり継母役の人が怪しいのかな?」
「それはどうともいえないなぁ…仮面つけてたし」
「本当にオペラ座の怪人だったりして?」
「うーん、あるかもしれないねー…」
そうして、廊下の一角で奏は先行していた調査隊のエージェントたちと合流する。
先に聞き込みを行っていた一人の若い女性に声をかける。
「玉野さん!」
「あら、槇原くん。」
玉野と呼ばれた女性は、劇団員から話を聞きながらにこりと笑った。
彼女は玉野椿。
UGNで育てられたチルドレンの最年長の女性だ。
今回、情報収集の調査隊に派遣されている。
「お疲れ様です。調査はどんな感じですか?」
「えぇ、今大体劇団員の人に聞き込みを終えたところ。
丁度いいわ。整理がてら槇原くんに教えてあげる。」
「ありがとうございます。」
ちょっとまってね、と椿は今とっていたメモをめくる。
そして、奏に情報を教えてくれた。
「まず、「スノーホワイト」に関して言えば、女性の役が実は多いのよね。白雪姫、実母、継母、7人の小人。後はダンサーやシンガーとかにも、女性がたくさんいるわ。
件の“オペラ座の怪女”は、恐らく女性。
まぁ、仮面つけてるから女装した男っていう可能性もなくはないけど…
一応、女性だけを念頭にしぼって調査したわ。」
「成る程…。」
「まずは、配役的に一番連想できそうな継母役の女性ね。
曙川遊姫さん。
劇団「スィズン」の女優。年齢は31。配役を決める当初は白雪姫役に抜擢される予定だったという噂がある。
でも、白雪姫役との安部晴香との仲は良好ね。」
「白雪姫役の人も、わかりますか?」
椿はひとつ頷いて、メモのページをぺらりとめくる。
「えぇ。白雪姫役…安倍晴香
「スィズン」の女優。「スノーホワイト」の主役、白雪姫役を務める。
貴方と同じジゼルの……舞ちゃんのお兄さん、秋家湊さんはかつてこの劇団で大道具の手伝いのバイトをしていたらしいわ。
面倒見のいい湊と、役者の中でまだ若輩だった晴香は仲が良かったみたい。」
「へぇ…秋家さんのお兄さんここで働いてたんだ…」
「えぇ。でも、湊さんは最近ちょっと事故起こしちゃって、今はバイトやめちゃったらしいの。」
「…そっか…。秋家さん、心配してそう。」
奏は、そこからさらに椿から劇団関係者の情報を椿から聞いていた。
普通に聞いていれば、ただどこもおかしなところはなく、いたって普通の
劇団だ。
だが、“オペラ座の怪女”の存在は確かだった。
「奏くん!椿ちゃん!」
ふと、二人が情報整理をしていると、裕子が腕時計から話しかけてくる。
「どうしたの?裕子さん」
「ミニマム裕子さんと、あっちの調査隊の皆さんですごいもの発見しちゃったよ!」
「すごいもの?なんですか?」
椿も奏も、腕時計姿の裕子から発せられる声に注目する。
「レネゲイド反応のある白い破片があっちの方でみつかったの!」
「白い破片…?」
「多分なんだけど、オペラ座の怪女がつけていた「仮面の欠片」かもしれない!!
やったね!あのドレス女に一歩近づいたよ!
早速かえって分析してもらおう!」
裕子は大分興奮した様子でそう言った。
「そうね。そろそろ情報も大分まとまったし
…あ、そうだ。槇原くん。」
「? なんですか?」
椿が、メモ帳に挟まっていた一枚の封筒と、奏に渡してくる。
「さっき、劇団員の人から貰ったんだけど。
同じスノーホワイトのチケットよ。でも私は忙しいから…
二枚あるから、本当の谷城さんにも渡してあげて。」
「ふぉ…ふぉーー!!椿ちゃん、ありがとん!!」
「あ、ありがとうございます。」
「あとそれから」
そういって、椿はもう一度メモを開き、一枚のページを破って奏に渡した。
「コレ、私の知人の情報屋の連絡先。
あなた、FHの“トラベラーズ”についても調べているのよね?
この子、変わり者だけど腕はいいから。」
「何から何まで…ありがとうございます。」
「いいのいいの。同じUGN所属として、手助けは惜しまないわ。」
奏は封筒とメモを受け取ると、椿に対してぺこりと頭を下げた。
そうして、早速ほかの情報も仕入れるため、椿と別れを告げた。
今回出てきた玉野椿さんは、
実のところ実際のプレイには出てこない、ノベライズ限定キャラになりますん。
単にモブキャラ出しても味気ないなと思ったので…。




