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第19話「鏡よ、鏡よ、鏡さん」

「るんたかるんるんルンパッパ~♪」


ある晴れた日の午後。

今日は、例の「スノーホワイト」の公演日だ。

劇場の前で、鼻歌を歌いながら見るからに裕子は浮かれている。

それは結構目立っていて、たった今劇場前にたどり着いた奏はすぐに彼女を見つけることが出来た。


「あ…裕子さん。」


私服姿に、石を覆い隠す手袋を忘れずにつけた奏は、裕子に話しかける。

裕子もいつものスーツ姿とは違って私服。

しかも、張り切ってるのかかなりお洒落な服装を着こなしていた。


「わー、奏くーん!待った待ったー!女の人待たせちゃだめでしょー!♪」


「すいません、電車を一本のがしちゃって…」


「舞ちゃんとの時はそうはならないようにね?

じゃ、さくさくサンドパン!!いきましょーーっ!!」


裕子は奏の手をがしっと掴んで引っ張り、劇場へと軽やかな足取りで向かった。


「(いつになくテンション高いなぁ……でも、すっごく嬉しそう。)」


奏は手を引っ張られながら、はしゃぐ裕子につられて笑った。


二人はチケットを使って劇場内に入り、パンフレットなど諸々をもらってから指定された席につく。

席は真ん中で、比較的前列の中々いい席だった。

辺りを見回すと、劇場内は人であふれかえっている。

二階の端まで全部埋まっていて満員御礼の状態だった。


「予想はしてたけど…すごいなぁ」


奏が後ろを見て二階を見上げながらそう呟いた。

そしてふと隣の裕子を見てみると、目を輝かせながら今か今かと心待ちにしていた。


「楽しみですね、裕子さん」


「…っ!!」


裕子は、その興奮を言葉に表せないまま首を激しく上下する。


「(ほんっとに楽しみなんだなぁ…裕子さん)」


しばらくすると、開演時間となり、

劇場の証明が落とされて開始の合図がヴィーーーーッと鳴り響いた。

その音と同時に裕子の興奮もさらに跳ねあがった。


「はっ、はじっ、始まるよぅ…っ」


裕子はがっちり視線は舞台に釘付けのまま、隣の奏の肩を大きく揺さぶった。


「ゆ、裕子さんっ、ゆ、揺らさないでっ」


「はうぅ…」


裕子に手を離してもらって、奏も舞台を眺めた。



幕が上がる。



舞台を照らすスポットライト。

そしてまず最初に出てくるのは、自分の美貌を鏡に訊ねる継母。


鏡は継母よりも白雪姫が美しいと告げる。


嫉妬に狂った継母は、白雪姫を召使のようにこき使っていたが、

とうとう堪え切れなくなり狩人に命じて白雪姫の命を奪い、心臓をもってこさせようとする。

狩人は白雪姫を哀れに思い、森の奥へと逃がし、女王には豚の心臓を献上した。


しかし、白雪姫が生きている限り、鏡は継母を認めない。


白雪姫が生きていると知った継母は、業を煮やして老婆に化け

小人たちと幸せに暮らしていた白雪姫のもとに林檎売りとして近づいた。

継母は毒林檎を白雪姫に渡し、それを食べた白雪姫は死んでしまう。


嘆き悲しむ小人たち。

ガラスの棺に埋葬される白雪姫。

しかし、眠る白雪姫をみかけた王子が通りかかり、白雪姫の美しさに心を奪われた。

王子は白雪姫に口づけると、白雪姫を息を吹き返す。


そして、白雪姫は王子の求婚を受け、彼と結ばれ幸せになるのでした。


そんな、誰もが知っている白雪姫の内容が、

華やかに、音楽や踊りに乗せて演じられて、観客を魅了する。


およそ二時間前後の劇に、奏もすっかり入り込んでしまい、

ふと気が付いたらカーテンコールを迎えていた。


役者がそれぞれ舞台上で頭を下げ、観客に向かって手を振る。


「よ、よかったぁ……」


奏が拍手を送りながら隣を見ると、

裕子はもはや半泣き状態で拍手を送っていた。


「特にさ! 白雪姫の役の子とっても可愛かったよね!

あと、継母役の人も上手だったなぁ! 悪役がいい演技をする作品は面白いのよ!

ほらほら、例えばラ●ュタとか! カリ●ストロの城とか! ね!?」


大興奮で奏に向かってぺらぺらと喋る裕子に対し、奏はどうどうと裕子を落ち着かせた。


「ゆ、裕子さん落ち着いて!落ち着いて!あとで外に出たらいくらでも聞くから!

まだほかにお客さんいるし…」


カーテンコールが終わり、幕も閉まり切ったその時。


キーンという音と共に、客のざわめきが一瞬で静寂に変わる。


空間が、閉じられた。



……ワーディングだ



「!!」「!?」


思わず二人とも立ち上がり、辺りを見回す。


「ワーディング…!?なんで、いきなり…!?」


さっきまで拍手と騒めきで埋まっていた観客席は、まるで時が止まったかのような静けさだった。

実際に、時間が止まったかのように、観客の動きも石のように止まっている。


裕子は状況を一瞬で把握すると、パチンと指を鳴らす。


すると、彼女のセミロングよりも少し短い髪の間から、

羽のついた小指くらいのサイズのちび裕子がわぁっと飛び出し、裕子の髪を舞い上がらせる。


そして、飛び出していったちび裕子は、四方八方に散っていく。 


「絶対に、許せないぃぃぃぃ!!!!」


裕子は感動をワーディングによってぶち壊されたことで完全にお冠だ。


「奏くん!!臨戦態勢!!」


「は、はい!」


奏は手袋を外そうと手をかけた。


しかし、ワーディングの後も、ただ静寂が続く。

やがてしばらくすると、パッとスポットライトがひとつつく。

一筋の光は、下りきったカーテンの前の小さく出ている舞台の上を照らした。


そして、そのスポットライトに照らされ、一人の女性がそこに立っていた。


その女性は、先ほどの舞台に出てくるようなきれいなドレスに身を包み、

顔の上半分は、白いマスクでおおわれていた。


そして、彼女の目の前には、一枚の大皿程度の大きさの丸い鏡がふわふわと浮かんでいる。


その女性は突然、両の手をまっすぐ上へと伸ばした。

何かに乞うようなそのポーズで、一度息を吸ってから声高らかに叫ぶ。



『鏡よ、鏡よ、鏡さん?世界で一番美しいのはなぁに!?』



女性の声は、まるで変声器をつかったように歪んだ声だった。

その歪んだ声は静まり返った劇場に響き渡る。


『あぁ、なんてこと!憎らしい!私の心は全く晴れない!!』


『この想い、誠にどうしてくれようか!?』


すると、その仮面ドレスの女性はそれだけ叫ぶと、目の前の鏡ともども消えてしまった。


「えっ…!?」


「消えた…!?」


二人が気が付くと、まるで今のが夢幻だったように、

ざわざわと当たり前の「日常」がそこにあった。


「い、今のは…?」


奏は立ち上がったまま呆然と観客席を見渡した。

裕子はその隣で、俯いて、奏に問いかける。


「…ねぇ、奏くん。」


「…何?」


「私だけが見た妄想や幻の類じゃないわよね?

…あなたもちゃんと、見たわよね?」


奏は、混乱して少し整理のおいついていないだろう裕子の問いかけに、大きくうなずく。


「見ました、ちゃんと…。…あれは、夢じゃないです。」


裕子は再び指を鳴らす。


「……うん。従者はちゃんと散っている。アレは確かにここにいた。」


「……一体、何だったんだろう、あれは…」


裕子も奏も、帰りの支度をして流れてゆく観客の達の中で、

ただそこに突っ立っているだけだった。


「仕事になったら嫌ね。……とりあえず、処理班を読んで私たちは日本支部に行きましょう。」


「…はい。」


裕子と奏は、手荷物などを持ち直してから改めて立ち上がる。


「はぁ…。何事もなければいいのだけど。」


「…ですね。」


日常に訪れた非日常の1ピース。

それは、時として唐突に、意味もわからないまま日常を崩していく。


二人はもういちど、しまった幕を一瞥する。


そして、流れていく観客たちに紛れて、劇場を後にした。



  ◆  ◆  ◆




ここはUGN日本支部。


大きなプロジェクターが前面に張られ、部屋の中央には円状のテーブルに、

何人もの男女が円卓を囲むように座席に座っている。


ここに集っているのは、各地でレネゲイドから人々を守る使命を担う者。その長たちだ。


ふと、部屋の扉が開き、中に一人の少年が入ってくる。

少年は入室後部屋の状況を確認してから、ばつの悪そうに


「あらら…。どうやら私が最後のようですね。すみません。」


少年がそういいながら、軽く頭を下げた。

軽く癖のある黒髪をした男性がちらっと一瞬彼を見ると、その後また気だるげに正面に視線を移した。


そして、その男の隣に座っていた女性…この前奏と衝突したあの眼鏡の女性が、笑いながら答える。


「まだ五分前ですよ?みんな早すぎただけです。」


杉木はもう一度頭を下げ、自分の指定された席に座った。

全員着席すると、プロジェクターに画像が投影される。


長い白髪…そして、その一部を三つ編みにして前に下げ、眼鏡をかけた少女の画像だ。


画像が投影されると、議長席に座る男性……UGN日本支部支部長の霧谷が最初に口を開いた。


「今回は、支部の中でも優秀且つ、現在多少自由の効く支部長の方々に集まってもらいました。

内容は、"隠者(ハーミット)"秋家 舞の中にいる少女、『紅れ葉』と、それにまつわる遺産の話です。」


霧谷の言葉に、一同はプロジェクターに映ったその少女を眺めた。


「ではまず、軽い自己紹介からまいりましょう。」


そういうとまず、霧谷から一番近いところに座っていた女性から、立ち上がって自己紹介を始める。


「…はい。UGN・東京都N市支部長、桜庭美玲です。よろしくお願いします。」


次に立ち上がるのは、淵なし眼鏡をかけたおかっぱの女性。


「同じく、UGN東京都、S区支部を担当しています、長月サイコです。よろしく。」


次は、少しくたびれた感じのある無精ひげの男。


「……UGN・神奈川県Y市T区支部支部長、秋家慎太郎。」


そして次は、先ほど杉木を一瞥した黒髪の男だ。

彼はこの張り詰めた空気の中とても眠そうな顔をしているが、それが彼の素の顔だった。


「……UGN、神奈川県鎌倉市臨時支部支部長、久村紫苑…。」


そして、次に立ったのは、あの眼鏡の女性。

彼女は今まで挨拶したほかの支部長の誰よりもハキハキと、明るい声であいさつする。


「はい♪ UGN・東京都H市支部の支部長やってます。赤坂心美です。よろしくお願いしまっす♪」


次に立ったのは、この中で最も幼く見え、しかし最も高齢な杉木だった。


「私で最後ですね。UGN・S県出雲市支部支部長、杉木愛人です。

遠くからの出ですが、今回の件には深く関係があるとのことで、駆け付けた次第にあります。どうか皆さん、よろしくお願いします」


その場に集った者たちが全て名前を告げたのを確認すると、

霧谷は大きくうなずいて、そして一層真剣な顔つきになる。



「……ありがとうございます。では、始めましょう。


……この国を焦土と化してしまわないためにも」



各地の優秀な守り手たちが集った、円卓会議がはじまった。

元のログがあるととっても書きやすいです。

舞台の描写はここまで細かくなかったですが、文字数を稼ぎたくて…(


最後の支部長会議に出てくる人たちやたら描写が細かいですが、

半分が過去に行った身内セッションのNPCだったりなんだりします。

このシーン実際にプレイして楽しかったですね。

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