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放課後バーガー  作者: あしゅ太郎


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13/21

12話 祭夜

 七月の終わり、空気は昼の熱をまだ少し残したまま、ゆっくり夜に向かっていた。


 駅前の広場には提灯が並び、屋台の明かりがぽつぽつと浮かんでいる。


 遠くで太鼓の音が響き、人のざわめきと混ざって夏祭りらしい景色を作っていた。


 待ち合わせ場所に着いたとき、朔人はすでに少しだけ後悔していた。


 なんで部活の四人で来ることになったんだろう。


 嫌ではない。


 嫌ではないけど、最近の自分の調子を考えると、凪先輩とこういう場所に来るのは落ち着かない。


「サクー!」


 案の定、人混みの向こうから八坂先輩が大きく手を振ってきた。


 隣には、すでに疲れ顔の櫻葉先輩がいる。


「早くないっすか」

「八坂が待ちきれないってさ」


 櫻葉先輩がため息をつく。


「だって祭りだよ!? 射的あるし!」

「そこなんだ……」


 そこへ、私服姿の凪がふらりと現れた。


 黒のTシャツにシャツを羽織ったラフな姿。


 眼鏡の奥の目が、朔人を見て細められる。


「サク、早いじゃん」

「凪先輩が遅いんすよ」

「りんご飴の列、見てた」

「まだ始まってすらないのに?」


 四人で鳥居をくぐり、屋台が並ぶ道へ入る。


 最初に足を止めたのは、もちろん凪だった。


「牛串。食う?」

「食べないっす」

「じゃあ俺食う。りんご飴も」

「まだ入って三分ですよ。今ので何個目っすか」

「まだ四」

「もう四だろ。引くわ」

「ひど。でも、りんご飴は別腹だからな」


 凪が笑いながら飴をかじる横で、八坂先輩はすでに狐のお面を頭に乗せていた。


「見てこれ! 似合う!」

「小学生かよ。なんでお面二個目なんだよ」


 櫻葉先輩のツッコミも虚しく、八坂先輩は射的の屋台へ一直線に走っていく。


「櫻葉、これ持ってて。勝利の重み!」

「いや、ただの景品のキーホルダーだろ。荷物増やすなよ」


 櫻葉先輩の手には、八坂先輩が買い込んだラムネやポテトが山積みになっていた。


 四人でいると、会話が途切れない。


 誰かがボケて、誰かが拾い、また誰かが突っ込む。


 その流れが、なんだかんだで心地よかった。


 人混みが激しくなり、一瞬、四人の列が崩れた。


「ちょ、八坂先輩、速いって……」


 朔人が振り返ったときには、もう人波が間に入っていた。


「サク」


 その声と同時に、手首を軽く掴まれた。


振り向くと、凪だった。


片手にりんご飴を持ったまま、もう片方の手で朔人を引き寄せる。


「はぐれると面倒だろ」

「……あ」


 それしか言えなかった。


 人混みのせいで距離が近い。


「凪先輩、手……」

「嫌?」

「嫌じゃないですけど、変っていうか」

「じゃあ手、繋ぐ?」


 凪が少しだけ笑った。


 冗談かと思った次の瞬間、背後から人がどっと流れてくる。


 凪は自然な動きのまま、朔人の手をしっかり握った。


「はい、これで大丈夫」

「……雑だなあ」

「はぐれないように、だからな」


 指先が触れる。手首よりずっと近い感覚に、朔人の心臓が勝手にうるさくなった。


「サク」

「なんすか」

「なんつう顔してんの」

「凪先輩のせいでしょ」

「俺?」

「そうです」

「ひど」

「りんご飴持ちながら言うことじゃないっす」

「食べないと溶けるだろ」

「りんご飴ってそういう心配するもんでしたっけ」

「いや知らん」


 朔人は手を振りほどかなかった。


 人混みが落ち着くまでの少しの間だけ――そう思っていたのに、凪もなかなか離そうとはしなかった。


 川沿いの土手へ向かうと、風が少しだけ抜けた。


 四人はアスファルトの熱が残る地面に腰を下ろす。


「疲れたー!」


 八坂先輩が叫び、隣に櫻葉先輩が荷物をどさっと置く。


「お前のせいだよ」

「でも楽しかったでしょ?」

「まあ、少しはな」


 朔人は凪の隣に座った。


 距離は近すぎないけれど、遠くもない。


 さっきの手の感触が、まだ指先に残っている気がする。


 一発目の花火が上がった。


 音が遅れて届き、夜空に光が大きく開く。


「うわ、やっぱ夏って感じ」

「さっきまで射的しか見てなかったくせに」


 そんな先輩たちのやり取りを聞きながら、朔人は隣の凪を見た。


 凪はデザートだと言い張って、今度はクレープを食べている。


 その横顔を見ていたら、朔人はふっと笑ってしまった。


「何」

「いや」

「……来てよかったなと思って」

「祭り?」

「祭りも、……まあ、全部」


 自分で言って照れる朔人に、凪はからかうこともなく返した。


「俺も、よかったよ」


 花火がもう一発、大きく開く。


 前なら、隣に女の子がいる未来を想像していたかもしれない。


 けれど今、隣にいるのは凪で、それが驚くほどしっくりきていた。


「サク。さっき、手繋いだの嫌じゃなかった?」

「今さら……。嫌だったら振りほどいてますよ」

「そっか。……じゃあ、嬉しかった?」

「……知らないっす」

「サク、顔赤いぞ」

「……花火のせいです」

「無理あるなあ」


 そこでまた、二人とも笑った。


 前のほうで八坂先輩が「今のハートっぽくなかった!?」と騒いで、櫻葉先輩に「見えないよ」と即答されている。


 夏はまだこれからだ。


 けれど、この夜のことは、きっと長く心に残るだろう。


 祭りの匂い、花火の音、そしてさっき繋いだ手の熱。


 放課後の延長みたいな夜なのに、それは何よりも特別だった。

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