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162 自室に引き籠るまでの様子

 朝日が登り、重々しい音を立てて城門が開く。

 門の前で野営していた冒険者達も火の始末をして、獲物を乗せた荷車を引き、寒さで身体を震わせながら検問の列を作る。

 スライムの囲いから抜け出したナターシャ達もその列に並んで、順番まで待機した。


 検問所で行われる魔物確認は魔道具による確認だけで、アイテムボックスに入れているナターシャ達は本人確認のみ。

 一応、狩猟税などの関税は掛かるようだが、冒険者ギルドが一括して収税を行なっているので、一般の人々が検問所で金銭の授受を行うのは稀、と魔導書リズールが教えてくれた。

 まぁ、個人でそれらを行う商人の苦労は計り知れないという事だ。何かしらの商会に加入する気持ちも良く分かる。


 そして魔物納品場で、捕獲したマルシェルーム3匹と新種を納品。

 新種は納品したくなかったのだが、アウラが職員に発見報告してしまったのと、リズールが『策がある』と言うので渋々。


 結果、達成報酬に特別報酬が上乗せされ、初心冒険者にしては中々良い金額を貰えた。

 嬉しいけど、嬉しいけど椎茸を食べたかった……


 報酬はクエストを受けた3人で均等に分配し、アウラさんとはお別れ。

 また一緒にクエストを受ける約束をして、教会前で手を振って別れた。


 ナターシャと斬鬼丸はそのまま自宅に帰還し、心配そうに待っていたエメリア、ガレット、兄に経緯を説明。

 家に帰って来れなかった理由を正直に話した所、ガレットさん達はナターシャを優しく抱きしめて、『寂しい時は私達に沢山甘えなさい』と言ってくれた。


 現在は朝食を取るべく、2階中央にあるテーブルの席に座ってガレットさんを待っている所だ。

 あ、斬鬼丸は昨日出来なかった素振りをしに行った。昼までには戻ってくるらしい。


 ナターシャはテーブルに肘を付き、約束通り朝電を掛ける。

 何コールかして電話が繋がり、向こうの様子が見えるようになった。木の壁と下の方にチラリと見えるベッドを背景に、父、天使ちゃん、母と並んでいる。


 まずは前回、衝撃的な寝落ちをしたピンク髪の熾天使に話を聞く。


「おはよう天使ちゃん。元気?」


『少し前よりは比較的元気だけどやっぱ眠いね! でも天使ちゃんってば10秒チャージ&ゴー出来る超ショートスリーパーだからこの通話時間くらいは持つよ!』


「全然充電出来てないねそれ」


 スマホで言うなら『電池残量0から充電始めてようやく画面が点灯する残量2%』のラインじゃん。

 まぁ、俺が原因なんだけども……しかし、まだ眠たそうだなぁ……


「……じゃあ、この電話はちょっとした連絡程度に納めるね。続きは夕方に連絡するよ」


『はーい! じゃあ簡潔に現状報告どうぞ!』


 天使ちゃんはそう言って、ナターシャの今を尋ねる。父と母も気になっている様子。

 ナターシャも言われた通り、簡単に説明する。


「今はガレットさん達に帰れなかった事情を説明し終わって、朝ご飯食べるタイミング。あ、ギルドのクエストも達成してきたよ」


『なっちゃん初クエクリおめ! 他には?』


「あるけど夕方に回すよ。そっちはどう?」


『こっちはまぁ天使ちゃんが寝落ちした以外は特に何も無いね! 問題ナイツっ☆』


 元気そうに目元ピースを決める天使ちゃん。


『ほらガーベリアさんも!』


『えぇっ!? ……も、問題ナイツっ☆』


 ガーベリアにも目元ピースを強要する天使ちゃんの図。ママンもママンでノリが良い。

 しかし何だ問題ナイツって。お父さんが騎士な事と掛けてるのか?

 ……まぁ、とりあえず怒っとくか。


「天使ちゃん、お母さんを困らせるのは程々にね?」


 ナターシャに注意された天使ちゃんは、てへぺろしてから謝り始める。


『ごめんごめん分かってるってー♪ さっきはただ何となく言ってみたら真似してくれただけだもんっ』


『そうなのかい? ベリアちゃん』


 スッと話に乗ってきたリターリスに問い掛けられ、ガーベリアは指をいじいじしながら返答。


『うぅ、そ、そうなんだけどぉ……もうっ! パパも聞いてこなくても良いのっ! もうっ!』


『あはは、ごめんごめん。つい』


 恥ずかしそうにそっぽを向く母に、謝罪しつつも悪びれない父。なんか今この一瞬だけ超家に帰りたい。インスタントホームシック。


「ふふっ、お父さんとお母さんはとっても仲が良いよね。いつ見ても安心する。……じゃ、朝の連絡はとりあえずこれくらいにしとく? 天使ちゃんも眠いだろうし」


 ナターシャが尋ねると、向こうも同意して頷く。よし。


「分かった。じゃ、また夕方に連絡するねー……お母さん大好きー!」


 先程のやり取りに混ざりたかったのか、思うがままに叫ぶナターシャ。両親達もその声に反応して、元気よく返答してくれた。


『私も大好きよナターシャちゃーん! 愛してるわー!』


『天使ちゃんもー!』


『ぼ、僕もー!』


 最後にリターリスが叫んだ所で笑いが生まれて、そのまま通話終了。良い雰囲気で終わったね。

 バッグにスマホを収納していると、丁度良いタイミングでガレットさんが朝食を持ってきてくれた。

 更に、ナターシャを褒めてくれる。


「良い心がけです。その調子で沢山会話しなさい。親元を離れた寂しさも紛れます。……今日の朝食は小麦パンと根菜のスープ、ベーコンと芽キャベツのソテー。それと、デザートにアップルパイがありますよ」


「やったー!」


 アップルパイだー!

 ナターシャは何だか運気が上がってきたような気がして、ご機嫌のまま朝食を終え、自室へと戻った。



◇◆◇



「……」


 いったん自室に戻った後、思い出したように入浴しに行って、また帰って来た。

 今は肌着の状態でベッドの上に寝転がっている。


 魔導服はリズール曰く、『この服には自動洗濯機能があります』との事。なのでリズールに任せたら……何というか、宇宙空間を漂う水みたいな物に服が投入されて、水流で洗濯された……んだと思う。途中、内部が泡まみれになってたし。


 乾燥はまぁ、一瞬だった。汚れごと水を消滅させたらしい。

 なんでも、魔導服の作成初期に登録された服の状態と今回の服の状態を比較し、そこから導き出された汚れや水気を魔力の裏返り(?)なる現象でまとめて消したんだと。なるほど、分からん。

 更には、服を着たままでもこの機能を使えるように別途調整してあるとの事。

 その際ナターシャは、


「乾燥だけで汚れ落とせるのに、わざわざ洗濯する理由って?」


 と聞いたが、


『あえて洗濯する工程を入れる事で、服の使用者や他人に"綺麗になった"と実感させる事ができます。ですので、洗濯工程は精神衛生上欠かせない物です』


 と返ってきた。気分の問題らしい。

 まぁ確かに、服は洗濯しないと綺麗になった気がしないのでよく分かるかも。うん。

 というかそもそも、魔導服には危険な物質を通さない為の付与魔法が掛けられていて、その効果で汚れとかも弾くからこの工程自体不要であるらしいんだけども……


「んー……」


 まぁそういうのは良い。良いんだ。

 今考えるべきは今日の予定なんだけど……


「今日は何しよっかなぁー……」


 選択肢が多すぎて決まらない。斬鬼丸が帰ってきたら更に増える。優柔不断系少女な俺には辛い状況。

 今ある選択肢は簡単なギルドクエストの効率クリアで目指せ青銅ブロンズ、街の散策、友人作り、魔法創造……今やりたいのはクエストで……でも魔法創造もしないといけなくて……んー……


 ……そして、平行線のまま30分が過ぎた頃。


「さむさむ……(もぞもぞ)」


 あまりにも決まらないので、ついに布団を被ってしまった。我慢してたのに。

 寒かったのもあるけど、元々ベッドに寝転がるとなんとなく布団に入っちゃう癖があるんですよね。なんか安心するし。


「お布団気持ちぃ……」


 あと昨日は野宿だったから、寝具の心地よさを改めて実感出来る……ふかふかで、ぽかぽか。外でもこんな風にゆっくりと、柔らかいベッドで寝たいなぁ…………なんか良い方法……あ、そうだ。


「……今日の予定はテント魔法の改造かな」


『"魔法創造"致しますか?』


 予定決定の呟きに、机上に置いてあるリズールがようやく反応した。その側には、洗濯から返ってきた服類の他に、鞄やブックホルスターが置いてある。

 ナターシャは机の方にゆっくりと寝返りをうち、静かに尋ねる。


「……そう言えば私の秘密、大賢者はどうやって知ったの?」


 リズールも声量を抑えて返答。


『……ナターシャ様の秘密は、全て未来視で見たと語っていました。その上で、マイロード専用に私を造っています。他言はしません』


「そっかー……この世界には隠し事が通用しない人も居るんだねぇー……気を付けないとねぇー……」


 ナターシャは適当に呟いて、反対側に寝返りをうつ。

 布団にくるまっていたら、本格的にやる気が無くなってきたからだ。

 完全に寝る体勢に入っている。


 リズールはナターシャのやる気加減など知る由もなく、魔法創造を勧めてくる。

 

『ではマイロード。新魔法の創造を致しますか?』


「……今日はちょっとやる気出ないからパス」


『……先程、今日の目標として定めたのでは?』


「んー……」


 ナターシャは布団を被り直し、リズールに背いたまま言い訳を紡ぐ。


「……人間誰しも、何もせずにお布団に潜っていたいときだってあるさ。予定を全て明日に回してしまう日なんかもいっぱいある。でも、それが人間として普通だもの。時々サボるのが正しい人間の在り方。全人類共通。勤勉を尊ぶ文化は悪だよ悪」


『……』


 惰性の極みのような発言だ。

 つい先日までのやる気溢れるナターシャは何処に行ったのだろうか。

 リズールは少し思考した後、こう告げる。


『……では、マイロード。貴方のやる気が溢れるような状態になれば、"魔法創造"して頂けるのですね?』


 布団に潜るナターシャの背後で、魔導書リズールアージェントが何かを起動。黒い影が背後で蠢く。

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