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161 日の出前の決め事

「わっ」


 アウラに乗り掛かられたナターシャは、再び抱き締められる形になって驚く。

 しかし、職業『サラリーマン』の必須スキル“気持ち切り替え高速化”は常時発動パッシブ状態。

 昨日の悲しみは何処へやら、普段通りの対応で返した。


「あぁ、アウラさん。おはようございます」


「ふふっ、おはようございますナターシャちゃん。目が覚めるの早いですね。よしよし」


「あ、アウラさん……」


 くしゃくしゃと頭を撫でられるナターシャ。困惑しているようだが、何処となく嬉しそうな顔だ。

 アウラはすかさず追撃を行う。


「えらいぞー?」


「ほ、ひょっぺたはやみゅぇ……ひぇ……」


 ついでに頬をむにむにされる。俺のほっぺはそんなに触り心地が良いのか?

 そんな二人の様子は軽くスルーして、魔導書リズールはナターシャ達に問い掛ける。


『一つ目の候補として“マギカスライム”が上がりました。他の候補はありますか?』


 発言後、返答を促すように自身を開き、第一候補を記述するリズール。ナターシャはまだ遊ばれているので、その場繋ぎのように斬鬼丸が発言する。


「……では拙者が。“魔の一雫”などはどうでありますか?」


『ふむ、“魔の一雫”。悪くない名です。ただ、どちらかと言うと……ユニークモンスターや、キングモンスターの名称に付随する名ですね』


「そうなのでありますか」


『ええ。やはり、強い魔物はそれだけ人々の風説に乗ります。今後、冒険者や旅人との会話で聞く機会が訪れるでしょう』


「成る程……楽しみでありますな」


 リズールの解説を聞き、闘志を燃やす斬鬼丸。青い炎が力強く燃える。そこでようやくナターシャが解放され、タイミングを逃さずリズールが尋ねる。


『ではナターシャ様。何か良い名称はありますか?』


「えっ? あぁ、スライムの名前かぁ。うーず……は駄目だよね」


 パクリだし。


「んー……」


 そのまま考え込むナターシャ。少しして、一つの名前を挙げる。


「……じゃあ、“水まんじゅう”」


「水まんじゅ……なんですかそれ?」


 ナターシャを膝に乗せた状態で首を傾げるアウラ。ナターシャは適当に説明。


「何だか見た目が美味しそうだし、語感が良いかなって適当に」


「あぁ、名前に深い意味は無いんですね。なるほど」


「そうそう」


 同意するように頷くナターシャ。

 適当な説明で何となく察してくれるのは助かる。


 そして、話のまとめ役であるリズールが最後の候補を記述し、あみだくじを行った。

 結果、アウラの"マギカスライム"に名称が決定し、スライムの名前がマギカスライムに変更された。まぁ正直何でもいい。

 で、名称が決まった所で……


 ナターシャはバッグからスマホを取り出して、天使ちゃんにLINEを送る。


ナターシャ

[天使ちゃーん 朝だよー]


 ……返事がない。まだ眠っているようだ。

 しょうがない、パパンとママンへの定期連絡は後に回すか……と思っていると、電話が。

 あ、やっぱり待ってたのかな、と思って通話を開始すると、超眠た気な天使ちゃん、日の出前にも前関わらず元気そうな父と母が映る。

 ナターシャはとりあえず朝の挨拶。


「おはよー皆」


『おはようナターシャ』

『おはようナターシャちゃん』

『なっちゃんおはよ……』


 手を振ってくれるパパンとママン、間に挟まれてスマホを保持する天使ちゃん。ピンク髪の熾天使は今にも寝落ちしそう。

 すると、後ろでナターシャのスマホを覗いていたアウラが尋ねてくる。


「……わぁ、ナターシャちゃん。それって実家のお父さんとお母さんですか?」


「えぇ、はい。この魔道具は、遠隔地にいる人ともこうやって、顔を見ながら話し合えるんです」


「おぉー……流石は神様の授けた魔道具……」


 関心するアウラ。

 一言断ってスマホでの会話に戻ったナターシャは、娘の言葉を待つ両親に対して、まず謝罪する。


「日の出前からごめんね? 昨日は忙しかったから、連絡出来なかったの」


『そうなのかい。とっても心配したよ』

『ナターシャちゃん、何かあったの?』


 優しく心配してくれる両親。今にも崩れ落ちそうな熾天使。ナターシャは少しぼかしながら、昨日の事情を説明する。


「実はね。……昨日、冒険者ギルドで受けたクエスト帰りに、皆と逢えないのが寂しすぎて泣いちゃったの。だから泣き止むまで動けなくて、先輩冒険者のアウラさん、斬鬼丸と野宿する事になって。泣き止んだ後は、そのまま泣き疲れて寝ちゃったの。だから定期連絡出来なかったんだ。ごめんね?」


『『……』』


 娘の説明を聞き、黙り込んでしまう両親。

 しかしガーベリアが、ナターシャに言葉を掛ける。


『……ナターシャちゃん。寂しい時はいつでも連絡して来なさい。ママ達はいつでも待ってるから。……ナターシャちゃんの所に迎えに出すのは春先になっちゃうけど、こうして相手の顔を見て、お話しする事はいつでも出来るわ。だから、遠慮なく連絡してきて。ね?』


 娘が目の前にいるのに抱きしめられない寂しさからか、その代わりのように自分の腕を抱くガーベリアと、妻の言葉に無言で頷くリターリス。

 間に居る天使ちゃんも、ナターシャに注意を促す。


『そうだよなっちゃん……定期連絡以外にも、いっぱい連絡しないとダメだよ……? じゃないと天使ちゃん、寂しくて死んじゃうよ? ついでに寝不足でも……』


 虚な瞳で此方を見つめる熾天使。死ぬ程眠そう。

 もう一度「ごめん」と謝罪したナターシャは、これからはもっと多めに連絡する事を誓う。


「……うん。皆の言う通りにする。コッチでやりたい事はいっぱいあるけど、お父さん、お母さん、天使ちゃんと話せないのはやっぱり寂しいもん。もっともっと、いっぱい連絡するようにするね」


『……あぁ。そうしなさい』

『そうしてね? 約束よ?』


「うん。じゃあ、次は朝ご飯の時に連絡するね。また後で」


『分かった。また後で』

『また後でね』


 手を振り、会話の終了を告げるユリスタシア家。天使ちゃんもそれを見て、嬉しそうに微笑むと、


『天使ちゃんも……待ってる……から……』


 空いている方の手でサムズアップし、そのまま崩れ落ちた。

 画面が揺れて地面に落ち、床に倒れ込んだピンク髪の熾天使の顔を映し出す。スマホは手に持ったままだ。


『し、熾天使さん!?』

『きゃあっ!? 大丈夫ですか熾天使さん!?』


 当然、ナターシャの両親は驚いて駆け寄る。

 眠気が遂に限界に達した熾天使は、最後に一言呟いて、眠りにつくように通話を終了させた。


『I'll be bac◯……』

『何ですか!? アーーーー(ブツンッ……)』


 向こうの状況が荒れる音と、通話終了の表示を見て、ナターシャは本心から申し訳なく思いながらも、一言。


「……朝ご飯までには復活するつもりなんだ」


 最後まで冗談たっぷりなのが天使ちゃんらしいね。

 それでまぁ、何というか……グッナイ天使ちゃん。今はゆっくりと眠るが良い。


「ナターシャちゃん。お父さんやお母さんとのお話は楽しかったですか?」


 家族の会話が終わったタイミングで、アウラがナターシャに尋ねた。まだ心配らしい。

 ナターシャはスマホを両手で持ち、感慨深く返答。


「……はい。楽しかったです。とっても優しさを感じます」


 そして、小さく微笑む。

 例えどんな事情があろうと、あの二人は赤城恵ナターシャの親なのだ。そんな想いが、深い愛情が、言葉の節々や普段の仕草から伝わってくる。本当に優しい両親だ。


 アウラも、ナターシャが元気になった事を確認して安心したのか、膝の上の少女を優しく抱きしめながら話す。


「ふふっ。じゃ、沢山連絡してあげて下さいね。その方が、お父さんとお母さんが喜びますからねっ」


「はいっ」


 ナターシャは元気よく返事をして、スマホをバッグに収納。そのまま日の出を待つ事となる。

 フミノキースの城門が開いたら、マルシェルームをギルドに納品して、家に帰宅だ。ガレットさん達にも正直に言って、いっぱい慰めて貰おう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! アウラさんとこういう気軽いの百合百合も中々素敵な癒しです〜 そういえば、ナターシャさんはスマホという神器が有りましたね。もっといっぱいに連絡する方が良いです…
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