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152 スタッツ国立魔導大図書館

 お日様が空の頂上に登り、冬のフミノキースを温かく見守る昼12時。

 ナターシャは後ろにアウラと斬鬼丸を連れて、マップアプリのNAVI機能で案内されるがまま、見知らぬ通りを渡り、細かな路地を抜けて目的地に到着する。


「……着いた。スタッツ国立魔導大図書館……の手前の検問所」


 現在居る地点は、フミノキース北北東。

 外の城壁と同様の素材(石)を使って設けられた、スタッツ国軍基地本部を取り囲む壁。その入場門前だ。

 入場門では、これから図書館に向かうのであろう、ファンタジー系学者風ファッションの女性や男性が検問を受けている。服や帽子の色は様々だが、全員学士帽を被っているのは共通。

 本用のホルスターを肩から掛けて、中に分厚い本を入れている人も何人か居る。


 ナターシャは少しドキドキしながら順番を待ち、アウラと斬鬼丸は物珍しく学者達を眺める。


「やっぱり魔法研究をしてる国だけあって、研究者職の人が多いんでしょうか?」


「拙者には皆目見当が付かないであります。生憎と軍事以外には疎い身故……」


「なるほどー」


 と、仲良くそんな会話をしている。


 それから少し経ち、ナターシャ達の順番。

 検問作業を行う黒コートの兵士が、青い波動を出す魔道具を持ったまま手招きする。


「次! 前に来なさい!」


「は、はいっ」


 先頭のナターシャが兵士の前に立つ。兵士は質問。


「何だその服装は。その包帯と眼帯は何だ。怪我をしているのか? 治癒魔法が必要か?」


 そう言って片手をナターシャに翳す。めっちゃ優しいじゃんスタッツ国の兵士……

 とても労わってくれているので本来は喜ぶべきなのだろうが、この装備はそういう意図で付けている訳ではないので正直に話す。


「えっと、この包帯と眼帯は魔導服の効果で装備しているんです……。なので怪我している訳じゃないんです……」


「……そうなのか。変わった服装だな」


「うぅっ……」


 酷いよ兵士さん……結構気にしてるのにぃ……

 ショックと恥ずかしさから、顔を手で覆い隠すナターシャ。


「では異物探知を行う。少しの間動かないように」


 兵士はそんなナターシャを放置して、淡々と自身の業務を行い始める。

 右手に持つ魔道具を目の前の少女に向かって、金属探知機のように翳して動かし、不審な物を持っていないか確認。

 今回は書物を扱う場所なので、飲み物や刃物、火を起こす為の道具などは持ち込み禁止となっている。入場門の横の壁に、それらのマークの上から赤い塗料でバッテンが描かれているので一目瞭然だ。


 そして、魔道具から出る波動の色が変化しない事を確認して検問終了。


「終了だ。通って良し」


「うぅ……はい……」


 ナターシャは兵士に促されるまま門の中に入り、中の景色を見る。

 まず真っ先に見えたのは学者服の人々に、広大な石畳の広場。その場で会議が出来るよう、切り分けたバームクーヘンのような円形長椅子群が点在していて、奥には昼寝スペースっぽい芝の庭がある。

 そして、門を完全に潜ってから見えて来たのは、広場の右側に位置する大きな建物。

 

 建物は3階建て。ルネサンス建築風味。

 玄関口であり、本館に当たる部分の天井には大きなドーム状の屋根が付いていて、採光用の小さな塔っぽい構造物がちょこんと乗っている。

 左右にある別館も本館に負けない程に大きく、屋根のレンガと壁材の石が良いコントラストになっていて綺麗だ。

 そして以外にも、建物の窓はガラスでは無く木製の窓。

 全て解放されていて、中のカーテンが風で揺れる様子が見える。中の様子は残念ながら見えない。


 あれが図書館なのかな……と思っていると、検問を終えたアウラがやって来る。


「お待たせしましたー。門番さんにナイフ預かられちゃいました」


 てへ、と可愛く言う。それを見たナターシャは軽く微笑みながら返答。


「まぁ刃物は持ち込み禁止ですからね。しょうがないです」


「まぁそうですけど……ナイフくらいなら許可してくれても良いと思うんですけどね?」


 と、アウラが少し不服そうに呟く。

 すると、たまたま近くに居た学者服の老人が理由を教えてくれた。


「……簡単な話さ、お嬢さん達。議論が白熱してくると、どちらも感情的になるだろう? その時刃物を持ってたら、相手を刺してしまうかもしれんからだよ」


「「……な、なるほど」」


 少し怖がりながら納得するナターシャ達。

 老人は『ま、お互いの為さ』と言って去っていった。

 アウラは少し考えた後、こう語る。


「……咄嗟に感情的にならない為にも、しっかり神様を信仰するべきですねっ」


 信仰でどうにかなるのだろうか。まぁ、この世界の人はどうにかなるのだろう。多分。

 ナターシャは微笑みながら可愛らしく首を傾げて、取り合えず流れを断ち切る。


「?」


「じゃ、斬鬼丸さんを待ちましょうかナターシャちゃんっ」


「はいっ」


 親戚の姉と年下のいとこのようなやり取りを行った二人は、門の近くで広場を見ながら佇む。

 石畳の広場の左手には国軍の物らしき建物と、それを取り囲む城壁が存在している。どちらもコンクリート製だ。図書館の敷地だけ別枠で区切ったのだろう。


 ぼーっと景色を眺めていると、検問を終えた斬鬼丸がやって来る。


「お待たせしたであります。大事な剣を没収されたであります……」


 少し悲しそうだ。スリット内の炎が弱弱しくなっている。

 ナターシャはとりあえず元気付けておく。


「まぁ私の用事が終わればまた戻って来るよ。それに、これが終われば外で魔物を狩れるから。だから、それまでは我慢しようね?」


「……そうでありますな。それまでは我慢するであります」


 グッとガッツポーズする斬鬼丸。意外と単純な思考なので助かる。

 斬鬼丸が元気になったのを確認したナターシャは、それじゃあ、と前置きして、二人に指示。


「図書館に行きましょうか。多分あの右手の建物でしょうし」


 他に目ぼしい建物無いしね。


「そうですね」 「御意」


 アウラと斬鬼丸も同意し、3人は右手の建物へと向かう。



◇◆◇



 本館の玄関は3メートル程はある、大きな両開き扉。なんと木製。

 現在は開放状態なので自由に出入りできるが、この扉の開閉を毎日しているのだろうか。

 ナターシャ達はそのまま建物に入場し、中の景色を見たナターシャは更に驚く。


 本館の中は、三階もある建物全てを埋め尽くす、見渡す限りの本棚と本。

 ちゃんと階層別に分けられていて、2階、3階に当たる部分には本棚から零れた本を受け取れるように長いバルコニーが付属。

 更に、2・3階層を自由に移動出来るよう、上下の階層を繋ぐ渡り廊下が2本、交差しつつも左右並行に並んでいて壮観だ。


 そして、天井ドームの採光口から差し込む光が“天使の梯子”という現象を建物内で起こしていて、その光の行き付く先には赤いロープと金のポールで封鎖された、地下へと繋がる螺旋階段まで存在するのだから、尚の事幻想的である。


「すごーい……」


 とってもファンタジー……

 ゲームとかなら最奥にボス級モンスター住んでそう……そんな思考に行き付く。

 後ろに居るアウラは感激し、斬鬼丸はおぉ、と淡泊な反応。


 そんな斬鬼丸が、驚いて固まっていたナターシャを現実に呼び戻した。

 トントン、と主の肩を軽く叩いた後、玄関左手に隠れて存在している受付を指差して教える。


「……ナターシャ殿。そこに受付があるでありますよ」


「……あっ、うん。ありがとう斬鬼丸」


 ボス戦の妄想から現実に戻って来たナターシャはバッグを前に向け、アイテムボックスから木の箱を取り出す。

 ついでに蓋を開け、ミスリルの鍵がちゃんと入っている事も確かめて準備オーケー。お供二人を引き連れたままカウンターに近付いて、受付の司書さんに話しかける。


「……すいません」


「はい。どういったご用件ですか?」


 優しい口調と態度を示す司書。眼鏡。

 ナターシャはミスリルの鍵を箱ごと見せながら聞く。


「えっと、この鍵を見せれば、管理を委託している魔導書と交換できるって言われたんですけど……」


 鍵を見た司書は少し驚いたようで、小さく呟く。


「あら、珍しい……」


「そうなんですか?」


 ナターシャが首を傾げて問うと、少し慌てて訂正に走る。可愛い。


「あぁいえ、お気になさらず。独り言です。……では、鍵の確認をさせて頂いても宜しいですか?」


「どうぞ」


 箱ごとカウンターに乗せて差し出すナターシャ。

 そして手をカウンターの淵に乗せ、目元まで顔を隠して見上げる。可愛さでは負けんぞ。

 ナターシャの敵対行動に少し戸惑うように微笑んだ司書は、早速鍵を手に取り、彫られた特殊言語の確認を行った。その間、ブツブツと情報を呟いてくれる。


「管理区域SSS……? 厳重区画じゃない……」


 何か凄そう。


「でも取り扱い難度はA……まだマシな方かな……番号は510……えっと、倉庫の地図、倉庫の地図……」


 司書はカウンター内を漁り、少し古びた羊皮紙の地図を取り出して色々と確認し始める。

 じーっとその様子を眺めているナターシャ。


 暫くは反応が無かったが、司書が地図を畳んだ際にふと目が合う。

 ジト目で睨むナターシャに対し、司書は手を振って挨拶。


「……こ、こんにちは?」


 ナターシャは端的に尋ねる。


「SSS級魔導書?」


「んっ、んー……?」


 ナターシャの問いの意味が理解出来ないようで、微笑みながら首を傾げる司書。

 だが、多分魔導書の事だろうと検討が付いたらしく、分かる範囲で答えてくれる。


「……あぁ、えっとね、今から私は、貴女と一緒に管理区画に向かいます。その前準備を今からします。それは少し時間が掛かるので、まずは鍵を返却致しますね。」


 司書は鍵を木箱に入れ、蓋をしてからナターシャに差し出す。

 ナターシャはジト目を止めて箱を受け取り、バッグを使ってアイテムボックス内に収納する。

 それを確認した後、司書は続けて伝える。


「では、この1番の番号札を持ってお待ちください。準備が整い次第お呼び致します」


「分かりました」


 ナターシャは異世界数字で『1』と彫られた木の板を渡されて、一旦解散。

 時間が来るまで暇つぶしに図書館見学を行う事となる。


「アウラさんっ。ちょっと時間が掛かるって。それまで自由行動で良いかな?」


 少しワクワクしながら年長者に問いかけるナターシャ。

 アウラは少し考えて、無言で大きく頷く。よしっ。

 隣でそのやり取りを見ていた斬鬼丸は、二人に質問する。


「……では、拙者も自由行動でありますか?」


「そういう事になるね」


「承知。暇つぶしに本を読んでみるであります。では」


 許可を得た斬鬼丸は意気揚々と本棚に直進していき、アウラとナターシャはそれを見送る。


「「行ってらっしゃーい」」


 やっぱり、文字が読めるのが嬉しいんだろうね。

 ナターシャもアウラに向き直り、出発を告げる。


「じゃあ、ちょっと一階を見回ってきますっ」


「はーい。行ってらっしゃーい」


「行ってきまーす!」


 アウラに見送られたナターシャも元気よく、その場から走り去っていく。

 このファンタジー図書館を見回したくて仕方がないのだ。


 アウラも暇つぶしに本を読む事に決め、3人は各々のやりたい事をし始めた。

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