151 *ナターシャ は のろわれてしまった!*
「はぁ……はぁ…………はぁ~……」
ナターシャは叫び終わった後、その場にへたり込む。
「マジかー……」
その一言の中には諦め、悲哀、そして何故か高揚している内心の吐露が混じっていて、とても複雑な感情である事を店主に伝える。
更にふへ、へへへ、と乾いた笑いを上げ始めた。可笑しくなってしまったのだろうか。
心配した店主がナターシャの傍でしゃがみ、心配そうに問いかける。
「……大丈夫?」
返答として、笑いながら首を振ったナターシャは、両手で顔を抑えて泣き始めてしまった。
「えへっ、へへ、へぇっ、ふぇぇっ……ふぇっ、ふぇあ゛ぁ゛ーーーーっ! あぁ゛ぁーーーーっ!!」
「な、ナターシャちゃん!?」
「ふゃあ゛ぁぁ゛ぁーーーーーーーっ!!!」
「あらやだ大変だわ……!」
店主は外で待機していたアウラと斬鬼丸を呼び出して、本格的に泣き出してしまったナターシャを椅子まで運び、荷物を片付けて纏め、落ち着くまで3人で宥めすかす事になった。
◇◆◇
「……う……うぅぇっ……ひっぐ……」
魔女っ娘服(厨二)を“魔導服に”無理矢理強制させられて最初は咽び泣いていたナターシャも、店主が用意してくれた、気分を落ち着かせる効果を持つハーブティーを飲み、甘いクッキーを食べて少し気持ちの整理が付いてきたらしい。
これからこの服と共に生きていく覚悟を何とか固め、店主に魔導服についての詳しい話を聞く事となった。
店主曰く魔導服とは、耐火性、撥水性、汚れ耐性を持ち、戦闘服としての強靭性を兼ね備えた服。
スタッツ国が他国に対抗する為、一般兵の魔法力向上、対物理・魔法攻撃性、更に消耗していく装備の耐久性を魔法で補っていく内に原型である“第一世代:魔導士戦闘服”という規格化された軍服が生まれ、その有用性に目を付けた一部の魔導士がその軍服にファッション性を持たせ、裕福層の一般的な娯楽であった魔物狩りに適切な装備であるとして販売・周知。それから時代が流れ、男女用に分化し、様々な種類の服が製造、販売されるようになり、現在に至るらしい。
要は軍服をルーツに持ち、尚且つ魔法で強化されたとても丈夫な服、という認識が一般的な物。
そしてナターシャの着ている魔導服は特別製で、この国で英雄と認識されている男性魔導士が製造し、秘密裏にこの店に託したとの事だ。曾曾祖母の代に収められた服なので、少なくとも一世紀は現存している、と店主は言った。
原理は不明だが、この服を鑑定した鑑定屋曰く『大気中の魔力を吸収して、破損していく自身の身体を自動修復している』との事。なので少しの綻びや解れも無く、未だに綺麗なままなのだそうだ。
店主の曾祖母はその言葉から、『全ての服は生きている』と考えるようになり、店主にもこの服を引き合いに出して、服を大事に扱う事の大事さ、生命の尊さを説いてくれたとも語ってくれた。
「……それで、その男性魔導士って一体誰なんですか?」
ナターシャは当然、その製作者について尋ねる。持ち主に選ばれたのだから。
店主は誰にも言わない事を条件に出し、ナターシャにだけ聞こえるよう耳元で囁くように教えてくれた。
「……その魔導服の製作者は、スタッツ国の大英雄である“大賢者ウィスタリア”様。魔術学会結成の祖にして、スタッツ国成立の立役者なの。その方が突然訪れて、只の中古服屋だった我が家を魔導服屋に仕立て上げてくれた、ってひぃお婆ちゃんが言ってたわ」
賢者様についてはこれ以上知らないの、と店主は言って、ナターシャから離れる。
ナターシャはアウラ達に悟られないよう、情報を伏せながら聞く。
「……その人の事を知るには、何処に行けば?」
「それはこれ。この鍵を使う場所よ。“スタッツ国立魔導大図書館”っていう国営の施設」
店主はテーブルの上に置いていた箱を差し出し、ミスリルの鍵を示す。
「……何処にありますか?」
ナターシャが追加で問うと、店主は詳しく教えてくれる。
「フミノキースの最北方にある、軍事施設の一角にあるわ。図書館の一部書物は一般公開されているから、ナターシャちゃんでも入場可能よ。私が管理を依頼した魔導書も、ミスリルの鍵を見せれば受け取れると思うわ。……ただ、その人の事を調べるには魔術学会の推薦状が必要なの。それは後々依頼して作ってもらうから、調べるのは暫く待っててね。また後日来てくれたら、推薦状がこの店に届く日にちを教えるわ」
「……分かりました」
まぁ、魔術学会の祖なら当然かな。その人英雄扱いみたいだし。
ナターシャは目の淵に残る涙の雫を親指で拭い、鍵の入った箱を受け取ってから質問。
「……それと店主さん。もう一つ良いですか?」
とても重要な質問だ。この呪縛から逃れるための。
ナターシャの問いを聞いた店主は、微笑みながら聞き返した。
「どうしたの?」
「この包帯類の解除方法をもう一度教えてください」
そう。解除方法があるなら中二病を抱えたまま生きる必要は無いのだ。
よくよく考えれば、戸惑ったり、号泣する必要なんて最初から無かった。
焦りが余裕を無くすとは、正にこの事である。
店主は快諾し、再び解除方法を教えてくれる。
「良いわよ。“終式拘束開放――我が封印を解き放つ――”ね」
「ありがとうございます。“終式拘束開放――我が封印を解き放つ――”」
眼帯と包帯は直ちに外れ、下に落ちる。良かった……
……と、安心したのも束の間。
装飾品2種は墜落中に自然消滅して、再生成。ナターシャの左腕と右目に自動装着される。
「えっ?」
「わぉ……」 「「おぉー……」」
ナターシャは予想外の出来事にキョトンとして、店主、アウラ、斬鬼丸は感嘆の声を出す。
少しの間を置いてから、再び戸惑い始めるナターシャ。
「……な、何で?」
解除の詠唱したのに……
すると、店主が思い出したように教えてくれる。
「あっ、そうそう。 確かねー“真の持ち主に選ばれた場合、魔導書を装備しない限り封印が解かれる事は無い”っていう言い伝えも残ってるわ。」
「なん……と……」
無駄に拘ってるんじゃないよ大賢者ウィスタリアぁ!
中二病設定盛り沢山にしやがってこの野郎! そこは自在に解除出来るようにするべきでは!?
……とは口に出さず、ナターシャは朗らかな笑みを浮かべて店主に出発を告げる。善は急げだ。
「……そうでしたか。では急いで図書館に向かいます。この後クエストも控えていますので」
店主は驚いたように口元に手を当て、丁寧に謝罪。
「……あら、そうだったの? ごめんなさいね時間取らせて」
「いえ構いません。無償で装備が整えられるのはとても幸運だと思ってますから。じゃあ行きましょうかアウラさん」
「あっ、はい」
ナターシャは椅子から立ち上がり、その隣でしゃがんでいたアウラは抱えていた荷物をナターシャに渡す。
「はいっ、荷物どうぞナターシャちゃんっ」
「ありがとうございます」
私物である服とバッグを受け取るナターシャ。
バッグはそのまま背負い、鍵入りの小さな木箱と服は、その場でアイテムボックスに収納する。この店でも収納魔法を自由に使う為だ。
物を異空間に収納する光景を見た店主は非常に驚いたが、それも魔導服に選ばれた理由の一つなのだと勘違いして猶更喜ぶ。
「やだナターシャちゃんってそんなに凄い魔法使いだったの!? ならその魔導服に選ばれるのも当然ね! 凄いわっ!」
「え、えぇ……」
対するナターシャは、魔法の事を詳しく聞かれると思っていたので少し面を喰らう。
だがまぁ、秘密にはしておいて貰おう。
「店主さん、魔法の事は……」
「言わなくても分かってるわよもうっ! 誰にも言わないわ! 二人だけの秘密っ! うふふっ!」
「あ、あぁ、はい」
何故こんなにハイテンションなのだろうか。ま、まぁ良いや。言わないって言ってくれたし。
ナターシャはお辞儀をして、退店を告げる。
「で、では失礼します。また後日来ます」
「えぇまたねっ! ちゃんと推薦状を貰えるようにしておくから任せてっ!」
その張り切りっぷりなんというか、ガーベリアママンを思い出す。
店主のやる気オーラに少し押され気味のナターシャは、ぺこぺこしてから玄関へと向かう。
「で、では失礼しました」
「失礼しましたー」 「また来るであります」
「また来てねー!」
ナターシャ、アウラ、斬鬼丸の3名は、入店時とは一転して元気になった店主に見送られながら退店し、新たな目的地であるフミノキース北方、魔導図書館へと進む。
その間ナターシャは、周囲の視線にとても敏感になっていたという。
無理もない。前世の記憶の影響でとても恥ずかしい服装だと認識しているのだから。
左腕には封印のせいで外れない包帯が付けられ、右目には同じく封印が施された白い眼帯。
くたびれているせいでビンテージな風貌の魔女帽子に、左袖が破れた長袖黒ワンピ、銀色のボタンが目立つ黒マント。脚には太ももまで届く黒の靴下に、茶のブーツという、ごく一般的とは言い難い魔女っ娘装備で歩いている。
ただ異世界人は割と寛容で、多少奇抜なファッション、行動をしていても普通に受け入れてくれるので実は問題無かったりする。前例を言うならば、エンシア王国で出会ったヘカトリリス、グランツ・ニュール、など。
まぁ、それでもやはり目立ってしまうのは間違いなく、道行く街民はナターシャをチラリと見てはスッと目線を逸らす。それを辱めと感じてしまうナターシャは、大賢者への恨みを高めながら図書館へと急いだ。
おのれ大賢者ウィスタリア絶対に許さない……
もし魔法で長命になってて、今も存命してます、とかなら覚えてろよ家に殴り込みに行くからな……!
冒険者としての活動前に突然強化される幸運系主人公の鑑
因みに“第一世代:魔導士戦闘服”の後継である第二世代には“高出力型”と“凡庸型”の2種があって、更に第一世代の大本となった“試作型:魔導士戦闘服”という物もあります。ロマンに溢れてますね。




