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150 魔導士用品店での悲劇 後編

 よし、思い出したならば即行動だ。

 店主は服を地面に置いたまま立ち上がり、カウンターに向かって走る。


 この魔導服には、服の適合者だけが扱えると言われる専用のマジックアイテムがある。我が家で保管するにはあまりにも危険過ぎて、国の魔導図書館に管理を委託した物が。

 それを受け取る際に必要な鍵を、少女に手渡す為。


 カウンターに辿り着いた店主は金庫を開け、中から古びた小さな木の箱を一つ取り出す。

 そのまま蓋を取り、中にちゃんと鍵が収納されているかも確認。


「……あった!」


 中にはミスリル製の鍵が一つ。見た目は芸術品に近い物で、古代の魔術言語が彫られている。

 この言語は嘗て、この世界で使用されていた特殊言語の一つ。フ・マルラスコードと言うらしい。

 主な用途はこのように、解錠・施錠用の封印機構として鍵に施される。つまり付与魔法の一種であり、性質的には魔法起動後の再利用が可能である魔法陣に近い物だ。

 

 内容物が存在している事を確認した店主はやさしく蓋を閉じ、外出用としてカウンターの影に隠してあったウェストポーチを身に着け、ポーチの中に箱を入れる。


「……準備よし」


 後はあのナターシャという少女に、我が家に伝わる伝承を聞かせて、魔導服と鍵を無償譲渡するだけだ。緊張で鼓動が高鳴って来た店主は、いつもの癖で下唇を触る。


 そして舌先で下唇を舐め、軽く潤わせてから大きく深呼吸。

 更衣室で自分の服を着込む少女の元へと向かう。



◇◆◇



 着替え終わったナターシャが更衣室から出ると、店主が先程拒否した服一式を持った状態で待機していた。少し緊張した面持ちで、笑みもぎこちない。


 店主はようやく表れた少女を見て、先ほどまでの軽い感じとは裏腹に、とても真面目な口調で話し掛けてくる。


「……ナターシャちゃん。ちょっと大事なお話があるんだけど、良いかしら?」


 なんぞや。


「はい」


 もしかして服脱ぎ捨てた時に何かやらかしたんだろうか。不安な思考が脳裏に過ぎるナターシャ。


 店主は待機していたアウラと斬鬼丸に『これからナターシャちゃんに大事な話をしないといけないので、一旦退出して欲しい。終わったらまた呼びます』と伝え、一度二人を退店させた。

 そしてナターシャを椅子に座らせて、ガラステーブルの上に水晶などを片付け、服一式を置いて対面に座る。

 

「「……」」


 無言で向かい合う二人。ナターシャは少し委縮した感じ。 

 この状況を作り出した本人である店主は、少し言葉を選ぶように沈黙してから、大きく深呼吸。

 ようやく覚悟が決まったようで、話し始める。


「……えぇと、ナターシャちゃんに言わなくてはいけない事があるの。それをまず、端的に言うわね?」


 やっぱ何かやらかしたか……? もしかして、脱ぎ捨てた時に服が破けた?

 しかしここで考えても結論が出ないし、どうしようもないのでまずは話を聞く。


「……はい」


 店主は改まって、簡潔に説明する。


「……ナターシャちゃん。貴女は、さっき着てもらった魔導服に真の所有者だと認められました。なので不本意かもしれませんが、この服を受け取って貰わないといけません」


 そう言ってテーブルに置いた服をゆっくりと前に差し出す店主。

 ナターシャは困惑し、理由を尋ねる。


「……どういう事ですか? 何故そんな、勝手に所有者が決まってしまうような服を私に着せたんですか?」


 店主はその問いに対してとても申し訳なさそうな顔をしたが、謝罪の気持ちを声に出すのはぐっと我慢して答える。


「……この服は私のひぃひぃお婆ちゃんが、とある人物から譲り受けた物なの。“いつかこの店に、とある少女が訪れるだろう。その子が訪れたなら、この服を無償で譲って欲しい”って。服の適正を占う魔法を教えてくれたのも、その人なのよ」


 その魔法のお陰で、この店は繁盛してるのよね、ともぼやく店主。

 成程、着せてムリヤリ買わせようとしていた訳じゃ無いのか。でも疑問は残っている。


「……でも、そんなに大事な服を何故、子供服エリアに飾っていたんですか? 完全に売り物扱いでしたよね? 選ばれていない子が購入してしまう可能性があったんじゃないんですか?」


 真剣な顔で店主に問いかけるナターシャ。とても困惑している様子。

 店主は中々鋭い質問を投げかけてくる少女だと思いつつ、落ち着いた声で説明する。


「飾っていた理由は簡単よ。子供連れのお客さんに魔導服の効果を説明する為。だって、この服があれば魔導服の効果を可視化出来るもの」

 

「……あぁ、成程」


 正当な理由を聞き、納得するナターシャ。更に店主は次のように述べる。


「そして、売り物扱いしていた事を否定しないわ。何故ならこの服は、売っても必ずこの店に戻って来るの」


「……何故?」


 首を傾げるナターシャ。店主は畳まれた黒ワンピを大きく広げて説明。


「見て分かる通り、これは子供用魔導服。更に7歳用。買っていった子も半年くらいしたらこの服を着なくなって、親御さんがこの店に売り戻しに来るの。我が家はそれを買い取って、服を綺麗にして、また店頭に並べるの。これも商売よ」


「おぉ……」


 リサイクル商売もしてるんだこの店……

 まぁその事は置いといて、と一呼吸置いた店主は手際よく黒ワンピを畳み、重要な説明に入る。


「……兎に角。私はこの服を手放すにあたって、もう一つ渡す物があるの。それが……これよ」


 ここでようやくポーチから木箱を取り出す。

 コトン、とテーブルに置かれた小さな箱を見て、再度首を傾げるナターシャ。

 店主は少女の疑問を晴らす為、伝承を伝える。


「……この箱の中には、この魔導服と連動するマジックアイテムを手に入れる為の鍵が入っています」


「ほぉ」


「我が家の言い伝えでは、“魔導服の真の所有者が現れし時、その証明として、出現する装飾品は決して消えず、服も滅びず、更に所有者の身体に合わせて成長していく。そして、この服と対の力を持つ魔導書を装備した時、その所有者は世界最強の力を手にする”……と、言われているわ」


「……具体的には?」


店主は少し思い出すように考え込んだ後、話してくれる。


「……確か、重要な物が3つに、細かな効果が沢山だったわ。重要な物はね……


 まず一つ。

 千里先まで見通し、更に並行世界までも見通せるという“千里眼”


 二つ。

 どのような戦闘でも常に優位に立ち、的確な行動を取る事が出来るようになると言われる“外部量子演算”


 三つ。

 所有者の魔法適正を格段に引き上げ、更には神代級の魔法すら容易く扱えるようになるらしい“魔術制御機構”


 確か、この三つね。欲しいでしょ?」


 とても饒舌に言い終わった店主は、ナターシャを見る。返答待ちだ。

 対してナターシャは、呆気にとられたような顔で店主に尋ねてしまう。


「……本気マジですか?」


 そんなチート装備なの?

 店主はそれを受け、困ったように返答。


「……まぁ、真偽は私にも分からないわ。だって、そういう効果が発動するらしい、ってひぃお婆ちゃんに教わっただけだもの。効果が実在するかどうかは不明なのよ」


「あ、あぁ、なら、良い、です……」


 曖昧な答えを返されたナターシャは、『本当にそんな効果があるかもしれない!』と高ぶる気持ちと、『いや、ただの中二病設定じゃないか? 包帯とか眼帯を自動装着させる装備だぞ?』と疑って掛かる自分の思考で堂々巡りになり、遂に処理出来なくなってパンクする。


 カクン、と首を垂れて、大きくため息。


「……すいません、ちょっと外の空気吸ってきます」


 そう呟いた後、ゆっくりと立ち上がって外に向かう。

 店主も、子供には少し難しい説明だったかも、と反省しつつ見送る。


「えぇ、行ってらっしゃい」


 お開きのような雰囲気になり、一旦落ち着くその場。


 ……すると、魔導服が新たな効果を発現させる。まず、眼帯と包帯が粒子となって消滅。

 そしてテーブルの上に畳まれた服・マント・帽子が自律的に浮かび上がり、ナターシャの目の前に移動。立ち塞がる。


「……?」


 思考停止しているナターシャは、その現象を見て不思議そうに首を傾げる。

 次の瞬間、魔導服達は輪郭を光らせて、今現在ナターシャが着ている服と共鳴。


「……!?」


 魔導服は共鳴先とリンクするように光の粒子をやり取りして、現在の服装であるダッフルコートと自身の位置を入れ替えてしまった。

 要約すると、ナターシャの服が自動的に魔女っ娘装備へと切り替わったという事である。


 更に、オマケのように左腕に包帯、右目に眼帯を再生成して、その効果を終了した。

 魔導服と入れ替わった上に、浮遊する力を失ったダッフルコートやスカートが、ナターシャの目の前にパサリ、と落ちる。


「……なっ!?」


 流石のナターシャもショックで自我を取り戻し、自分の服装が邪気眼装備なっている事を理解して叫ぶ。


「何だこれぇ―――――!?」


 いつの間に中二病服に!? 何で!?

 その出来事を見た店主は、完全に確信を持った表情で喜ぶ。


「ほら、やっぱり! ナターシャちゃんがその装備を付けるべき人間なのよ! 服が意思を持って行動してるもの! でもすごいわー! ひぃお婆ちゃんの言ってた通りー!」


 言い伝えが真実だった喜びでいっぱいという面持ちの店主は、箱を手に取り、ナターシャに近付く。重要アイテムである鍵を渡す為だ。

 対するナターシャは、この服から逃れる術が無い事を悟り、ガクブルしていた。


「あわわ……」


 どうしよう、どうすればこの中二病服から逃れられるんだ……!? 必死に思考を巡らせるナターシャ。焼き捨てれば良いのか!?

 店主はそんな事情など露程も知らず、玄関への道半ばで可愛く震える少女の肩をチョンチョンと叩き、笑顔で呼び掛ける。


「ナターシャちゃん!」


「……は、はい?」


 後ろを振り向くナターシャ。焦りで目が泳いでいる。ぐるぐる目だ。

 店主は満面の笑みで箱の蓋を開け、ミスリルの鍵を見せながら一言告げる。


「その魔導服、大事にしてねっ♪」


「……」


 戸惑ったナターシャは何とか抵抗しようとマントと帽子を脱ぎ捨てたが、両方とも地面に落ちる前にブーメランのように戻ってきて帽子は頭に乗り、マントは肩に羽織られる。

 

「なっ!?」


 驚いて再び脱ぎ捨てた物の、結果は変わらず。

 魔女帽子は落下途中で空を飛び、マントが宙を舞ってナターシャの身体に自動装着される。


「ぁっ……なぁ…………ッ!?」


 この中二病装備が脱着不可能だという事実に絶句し、口をパクパクするナターシャ。

 しかし何とか言葉を紡ぎ出し、魂の慟哭を叫びに変える。


「……ふッ、ふざっ、ふざけんなァァ―――――――ッッ!!!!」


 これ呪いの装備じゃないですかァァ――――!!!!

【祝】全自動邪気眼少女生成着、ナターシャを見染める【タイトル回収】


1 名前:名も無き転生者 2019/10/11(金) 08:00:00.00 ID:FnXSfGT0

 後は精神だけなんで地道に追い詰めていきます


2 名前:名も無き転生者 2019/10/11(金) 08:03:27.62 ID:XWReTiA0

 草


3 名前:名も無き転生者 2019/10/11(金) 08:04:54.01 ID:NmnSSYa0

 草


4 名前:名も無き転生者 2019/10/11(金) 08:09:06.89 ID:GjTsGsTU

 まだ追い詰める気なの草


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