153 魔導大図書館の館長
追記:館長の名前ミスってたんで修正
ナターシャは番号札を持ったまま、大図書館の一階を見て回る。
一階は大衆向けスペースらしく、部屋の中央にはとても長い高級テーブルが2メートル程の感覚を開けて2つ置かれ、その両サイドには高級そうな椅子が沢山。
そのテーブルの周囲には、ナターシャ級の高さの物から、2メートルはあるだろう本棚が高さ順に整然と並んでいる。大中小の3つで一列として、片側2列。
本棚の側板上部には管理番号やタイトルの頭文字が黒く刻まれた金色の板が張り付けられ、下部には腰掛け椅子が2つ、というのが基本セット。
図書館の主な利用者である学者達は、部屋の中央で本を読むよりも、本棚横の腰掛け椅子で本を読む方が好みらしい。酷い者では、コロ付き脚立の頂上で読んでいる。
更に、中央から広く通路を取った一階の壁際には、3メートルはあろうかという本棚が壁一面に埋め込まれている。専用の可動式梯子が付属で、管理番号札は本棚の右上に小さくビス留め。
まぁ流石に壁全てが本棚で埋められている訳では無く、別館に向かうためのドアがこの本館の左右にあったり、2階バルコニーに上がる梯子スペースが2か所程。
本館の一階だけでも十分な程の蔵書なのに、別館がまだ二つもあるというのだから大図書館というのも頷ける。その場で腕を組み、納得したように頷くナターシャ。
別館に向かう為のドアはアーチ状の両開き扉で、片側2人の警備兵が居る。両側合わせて4人。国軍の兵士と似ているような感じの服装だ。
ナターシャが近付いて、下方から眺めても微動だにしない。職務にとても忠実な人達である。
最後となるのはこのエリアの最奥にある、金のポールと赤いロープで囲まれた螺旋階段。
柱は金属製で、手すりや階段部分は木製。使い込まれているのか所々ニス塗りがはげていて、色も若干くすんでいる。だが、それがまた良い色合いだ。
と、そこまで見終わった所で、カウンターから『番号1番の方、受付までお越しください』とナターシャを呼ぶ声がする。準備が終わったのだろうか。
ナターシャは施設見学を止め、バッグを使って番号札を取り出しながらカウンターへと急ぐ。
◇◆◇
カウンターにはアウラと斬鬼丸も集まった。
ナターシャは当事者として、司書に札を渡しながら話し掛ける。
「1番です。来ました」
「ありがとうございます。では、ご説明を。」
眼鏡の司書は受け取った札をカウンター内に収納し、緊張で眼鏡をクイッと上げた後、諸事情を説明する。
「……これから向かう管理区画、特に厳重管理区画には、鍵の所有者と当図書館の管理責任者、つまり館長以外は結界で侵入する事が出来なくなっています。ですので、後ろに居られる保護者のお二方には申し訳ありませんが、ここで待機して貰う事となります。宜しいでしょうか?」
「分かりました」 「承知」
アウラと斬鬼丸は了承の意を告げる。
二人の了承を得られた司書は感謝の言葉を送り、今度はナターシャを見る。緊張した面持ちだ。
そして、とても丁重な口調で話し始める。
「では、お嬢様。これから貴女と共に、管理区画に向かう方をご紹介致します」
「はい」
多分、司書さんの後方で待機している一人の男性の事だろう。
スーツ姿で、20代くらいの若い人だ。黒髪。イケメン。
司書はゴクリと唾を飲み、館長を紹介。
「……こちらの、私の後ろに居られるこのお方が、当図書館、スタッツ国立魔導大図書館館長兼、魔術学会会長である、パスト・スウィンデイズ様です」
途切れ途切れながらも言い切り、ホッとする司書。
紹介に預かったスーツ姿の館長は、カウンターから出て来てナターシャに握手を求める。
「宜しくお嬢さん。紹介に預かった館長だ。肩書は気にせず、気軽にスウィンと読んでくれたまえ」
「ひぇぇ……」
何かとんでもない権威者が出てきてビビるナターシャ。震える左手を伸ばし、何とか握手をする。
ナターシャの左手を見ながら握手を終えたスウィン館長は、笑顔で名前を尋ねてくる。
「ついでにだが、君の名前も覚えておきたい。教えてくれるかな?」
ナターシャはおずおずと返答。
「な、ナターシャです。ユリスタシア・ナターシャ……」
「ナターシャくんか。教えてくれてありがとう。これからも宜しく頼むよ」
「はい……」
何を宜しくするのか分からないが、宜しくされる。
ナターシャは見た目こそ緊張でカチコチになっているが、頭の中では急いで情報の整理を行っている。
え、えぇと、中世の図書館って所謂、学問を学ぶ為の最高峰の場所だし、最先端の研究機関でもある。本来の中世なら教会図書館なんかが代表的だけど、ここは異世界だ。神学とは別に、魔法に特化した図書館なのだろう。魔導大図書館と銘打ってあるからね。
だから魔術学会が図書館と一緒になっててもおかしくないし、館長が長を兼任しているのも分かる。それに本は貴重品だから、大事な書物は館長以外が管理できないのも納得出来る。
……ま、まぁ、今回はそういう凄い人と、運良く関わりを持てたと思っておこう。
俺の今の容姿って中二病で目立つし、髪色とかが特徴的だから記憶に残りやすい。つまり馴れ初めはこれくらいで十分だろう。それにまだ7歳だし。うん。よし。
何とか整理が付いたナターシャ。
それを見越した館長がパンッ、と手を叩き、一旦場を仕切り直して一言。
「じゃあ早速、管理区画に向かおうかナターシャくん。君の求める魔導書が待っているよ」
「は、はいっ」
ナターシャが合わせるように返答すると、館長はゆっくりと右手を差し出す。
少し緊張しながらも手を取ると、しっかりと手が繋がれ、準備万端。
館長が司書に元気よく別れを告げる。
「ではセレナくん、厳重区画に行ってくる。死んだら骨は拾ってくれ」
「スウィンデイズ館長、それ洒落になって無いです……ですが、お気をつけて……」
その返答にハハハと笑って返す館長。とても愉快そうだ。対してナターシャには、恐怖が込み上げてくる。
……そ、そう言えばそうだよな。管理区画SSSだもんな。
へ、下手したら、し、死ぬ可能性だって……
緊張して左手をぎゅっと握ると、館長が察して優しく声を掛けてくれる。
「あぁ、ナターシャくんは安心したまえ。通常のフ・マルタスコードが彫られた鍵を持っている人間なら襲われる事は無いさ。本にも利益があるからね。ただ、マスターコードキーを持っている私は、書庫から逃げ出そうとする魔導書に襲われる事があるんだよ。いやー参った参ったハハハ!」
軽快に笑ってますけどそれ笑い事じゃないですよね!? 魔導書の管理者ってそんなに大変なの!?
「だがまぁ問題は無いよ。慣れてるからね。じゃ、行こうか」
「は、はい……」
な、慣れてるのもどうかと思うけど……
館長はナターシャの手を引き、一階最奥へと進んでいく。
ナターシャは手を引かれながらアウラと斬鬼丸に向き直り、右手を振ってお別れ。
「あ、アウラさん。斬鬼丸。行ってきまーす」
「気を付けてー」 「行ってらっしゃいであります」
互いにお別れの言葉を言い合った後、ナターシャは前を向いて、館長と歩を合わせる。
◇◆◇
俺と館長は一階最奥の螺旋階段に辿り着く。既に赤ロープの中だ。
館長は真面目な口調で説明する。
「ここから地下に向かうよ。ただ、私の手を離さないように。迷子になるからね」
「はい。……この図書館の地下が管理区画なんですか?」
可愛く詳細を聞き返すナターシャに少し驚く館長。
しかし地下の情報を漏らす訳にはいかないので、詳細は伏せながら肯定する。
「半分当たりだ。まぁ、そこから少し離れた場所にあるけどね。さぁ降りようか」
「はい」
ナターシャは館長と共に、手を繋いだまま螺旋階段を降りる。




