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149 魔導士用品店での悲劇 前編

「「お邪魔しまーす……」」

「失礼」


 魔導師用品店の中はとても紫。壁一面に紫のカーテンが付けられている。光源は天井から吊るされている光る石。

 店の全体的な形は正方形で、左側に武器、右側には防具、と簡潔に分けられている。武器エリアはガラス棚が3つ程並んでいて、赤いクッションの上に武器が乗せられている。

 防具エリアは何というか、ブティックっぽい感じ。壁にはハンガーポール付きクローゼットが3つ。そこには女性用の服が沢山掛けられている。全て大人向けだ。

 中央付近には服を着せたマネキンの他に、ガラスのテーブルとか、正方形で革製の椅子とか、姿見が置いてある。

 子供服エリアは玄関を左下として、更衣室と共に店の右下にまとまって存在している。とても品揃えが良い。


 そして玄関から真っ直ぐ進んだ位置にカウンターがあり、魔女帽子を被った女店主が店番をしている。


「いらっしゃーい」


 とても気だるげだ。栗色のくるくるとした髪に紫の瞳が印象的。

 3人はカウンターに近付き、ナターシャは紹介状を手渡しながら店主に話し掛ける。


「か、革防具屋さんの紹介で来ました……。装備を選んで欲しいんですが……」


 受け取った店主は内容を読んだ後、ナターシャを見る。

 対してナターシャはキュートさを出す為、人見知りムーブを決めておく。


「……よろしくお願いします」


 アウラの後ろに隠れ、その脚を掴んで顔を少しだけ出すムーブだ。

 店主はカウンター越しに一言。


「珍しい髪色ね。お名前は?」


 香水の甘い香りがナターシャの鼻をくすぐる。

 ナターシャは少し戸惑うように左右を見渡してから返答。


「ナターシャです……」


「そうなの。良い名前ね。魔法適正のLvは?」


「3です……」


「分かったわ。じゃあまずはナターシャちゃんに合う服を選ぼっか。こっちにおいで」


「はい……」


 女店主はカウンターから出ると、アウラの後ろに隠れているナターシャの手を取り、防具エリアへと連れて行く。店主さん、魔女らしく黒のローブ着てる……

 アウラと斬鬼丸もその後ろに続くが、防具エリアの一歩手前くらいの位置で停止して待機。少し離れた場所から防具選びの様子を眺めるようだ。



◇◆◇



「じゃ、今からナターシャちゃんの防具を選ぶんだけど……ちょっと待ってねー……」


 防具エリアに着いた途端、店主は何やら準備を始める。

 ナターシャを椅子に座らせて、その前のガラステーブルに赤クッションと水晶を置き、ナターシャの対面に座る。


「?」


 何をするんだろう……疑問符を浮かべるナターシャ。

 そんな少女を安心させるようににっこりと笑った店主は、水晶に向かって魔法を詠唱する。


「いくよー……? “我らが神よ。至高の主よ。我が前の少女に似合う装備を教え給え。“最適化ベストマッチング””」


 すると水晶が光り、黒くなる。


「???」


 ……は? 何これ?

 眉を顰めて水晶の中を覗こうとするナターシャ。しかし見えない。


「……お、おぉ! この子があの服の……へぇー……」


 だが店主には見えているらしく、水晶を持って子供用品エリアへと進んでいく。

 そのまま水晶の導きに従って、魔女帽子、マント、服を選ぶ。全部一つの子供型マネキンから外した物だ。


「じゃあナターシャちゃん。これ着よっか」


「はい」


 ナターシャは更衣室で着替える事となった。

 店主に渡された服は至ってシンプルに魔法使い。全体的に黒。

 そして靴下とブーツは自分の物を流用。


 少しくたびれた感じの黒い魔女帽子は、鍔が広め。裏地には赤い生地を使っている。

 服は何故か左の袖が破れた、黒い長袖ワンピ。膝丈。

 うーん……袖が破れているのは不良品なのか? 

 まぁ、服にあしらってある黒のレースとか、スカートや袖の淵の三日月っぽい白い模様はそれなりに可愛いから、取り合えず店主に着た状態を見せて新しい物に交換して貰おう。

 最後に表が黒、裏が赤の温かいマントを羽織って、満月が描かれた銀色の大きなボタンを首元で留めれば完成……と思った瞬間、服に付与された魔法の効果が発動する。

 突然左腕が疼いたかと思うと、虚空から白い包帯が顕現。それは自動的にナターシャの左腕に巻き付き、二の腕から手首までを隠しきってしまった。当然驚くナターシャ。


「な、何事!? ……ッ!」


 次は右眼が疼き、手で抑える。

 すると手で触れた位置から何やら硬い物が生成されていき、最終的に頭を一周して白い眼帯になる。中央部に折れた眼鏡が時計の針になっているような、何やら良く分からない金色の模様が掛かれた眼帯だ。何というかギ〇スっぽい模様……ってそんな事どうでも良いんだよ!


「……マジで何事!? 何なのこの包帯と眼帯!?」


 更衣室の中の鏡を見て慌てたナターシャは、すぐさま眼帯を外しにかかる。

 ……が、眼帯は顔にピッタリ密着していて外れず、ならば後回しだと包帯を剥きに掛かるが、包帯の端をいくら爪で引っ掻いてもめくれる気配すら無い。どういう原理でくっ付いてんだよこの包帯と眼帯!


 ナタ―シャはこのままではどうにもならない事を理解し、更衣室から飛び出して次なる装飾品を探していた店主に問いかける。


「店主さん何なんですかこの包帯と眼帯!?」


 傍から見ていたアウラと斬鬼丸は突然の出来事に驚き、店主は朗らかに返答。


「あぁそれ? その魔導服を着た時に現れる効果の一つよ。可愛いでしょ♪」


 服は可愛いけど服の効果が可愛くねぇよ! 見た目が中二病患者なったじゃねぇかふざけんな!

 更に店主は、色々な中二病グッズをオススメしてくれる。


「他にも付属品があって、お腹とか脚用の包帯とかもあるけど――」

「要らないです! この服も要らないんで脱ぎます!」

「――あらそう?」


食い気味に拒否するナターシャ。半ギレ状態で服一式も脱ぎ捨てたが、服の効果なハズの包帯と眼帯は未だ肌にぴっちりくっ付いたまま剥がれない。なんだこれは!? どうなってんだ!?


「この装備外れないんですけど!?」


 眼帯を思いっきり引っ張りながら店主に苦言を呈するナターシャ。

 店主はあぁそれね、と言いながら説明してくれる。


「確かねー“終式拘束解放――我が封印を解き放つ――”だったかな。それで消えると思う」


 解除も中二病かよふざけんな! でも詠唱するしかねぇ!


「“終式拘束開放――我が封印を解き放つ――!”」


 すると眼帯がバチン、と外れ落ち、包帯は巻き付く力を無くしてシュルシュルと地面に墜落。

 そこには脱ぎ散らかした服の上で肌着だけになり、荒い息をする銀髪少女だけが残る。


「はぁ、はぁ……はぁーびっくりしたぁ……」


 二度と外れないかと思った……

 そして店主は、もう一つ追加で教えてくれる。


「因みに包帯とかを再装着する時は、また服を着て、“終式封印――我が力よ、永久とこしえに眠れ――”って言うの。そしたら自動で再生成されるから便利なのよねー」


 その情報要らない!


「包帯と眼帯なんて二度と付けませんからね!? あとこの服要らないです! 別の下さい!」


 ナターシャがそう言うと、店主は困ったように話す。


「えー? それが一番似合うって神様が教えてくれたのにぃー……」


 おのれゴッドォ! 覚えてろ! いつか絶対仕返ししてやるからな!

 ナターシャは沸々と湧き上がる怒りを抑える為、大きく深呼吸する。


「すぅー……はぁー……」


 店主は他の服かーと言いながらその場で考え始め、深呼吸をした事で少しだけ冷静になってきたナターシャは脱ぎ散らかした服を片付け始める。まぁこれ一応売り物だから……


 ……しかし、恐ろしい物があるもんだ。装着者を自動的に中二病ファッションに変える服とは。

 いやまぁ魔法の世界だしそういう特殊な装備があっても不思議じゃないけど、俺のウィークポイントをピンポイントで狙い撃ちされるって誰が思うよ。この服の製作者、絶対何か歪んだ思考回路してる……まぁ、この服選んだの神様らしいから『そういう恰好をしろ』っていう意図を感じるけども……


 はぁー……と大きくため息をついたナターシャは、服とマントを綺麗に畳んで重ね、上に眼帯と包帯、帽子を乗せて持ち上げ、店主に差し出す。


「……店主さん、この服どうぞ」


「あぁ、ありがとねー」


 服を返却したナターシャはいそいそと更衣室に戻り、店主は服をマネキンに戻す作業を始める。

 そして店主は、畳まれた服一式を地面に置き、帽子を持ち上げた際、ある事に気付く。


「あれ?」


 ……包帯と眼帯が消えてない。おかしい。

 この装飾品は、解除魔法を詠唱すれば勝手に消滅するハズ。


 店主はその時、久しく忘れていた曾祖母の言葉を思い出した。


「……そうだ!」


“この服の効果で現れた装飾品が消えない時はね、この服の真の持ち主が現れたという事なんだよ”という言葉を。

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