148 ナターシャに適した防具とは?
そして店主は、防具エリアでナターシャの身長や腕の長さ、脚の長さ、胸や腰、腿の太さなどを服の上から採寸し、今後訪れる成長期の事も鑑みて8歳用の男子服(白の長袖に茶のズボン、革ベルト、膝下まである、強靭な革製のブーツ)を選択。
「んー……まぁこれで良いだろう。じゃあ、そこの影にある更衣室で服を着替えてきな。」
「はい」
ナターシャは店主に服一式を持たされて、更衣室でお着換えする事に。
脱いだコートとスカート、お古のブーツ、バッグはアイテムボックスに入れ、とても肌触りの良い服に袖を通す。ズボンを履き、ベルトループにベルトを通して前でしっかり締める。ズボンは生まれて初めて、転生してからは久々に履いたけどメッチャ落ち着く。元男だし。
袖の余りは丁寧に折り畳み、ズボンはブーツの中に収納して、ブーツの紐を縛って固定。これで完成。
着替えを終え、更衣室から出たナターシャは店主に話し掛ける。
「終わりました」
「おう。……ん、さっきまで着てた服はどうした? 鞄は?」
ナターシャを見ながら、不思議そうに問いかける店主。
……本来ならアイテムボックスの事は秘密にしておきたいのだが、あまりビビって使用を制限していると荷物の出し入れが面倒だ。せめて、荷物の嵩張る武器・防具屋くらいでは自由に使用したい。
なのでここは勇気を出し、正直に答える。
「……魔法で異空間に収納しました」
その答えを聞いた店主は、感心しながら言葉を繋げる。
「ほぉー……珍しい魔法を知ってんだなぁお嬢ちゃんは。まぁそれは良い。次はプロテクターを付けるぞ」
「気にならないんですか?」
「ん? あぁ。俺は武器と防具の事以外にはあまり興味が湧かねぇんだ。さ、付けるぞ」
「あっ、はい」
どうやら、店主は収納魔法にはあまり興味が無い様子。変わった人も居るもんだ。
しかしまぁ、相手が気にしないのならそれはそれで有難い。この店では自由にアイテムボックスを使えるって事だからね。だが念のため、秘密にしておいて貰おう。
「えっと、店主さん」
「なんだ?」
防具を付けながら返答する店主。
現在付けている防具は分厚い革に丸みを付け、硬化処理を施した物だ。それをナターシャの肘、膝に合う位置にベルト留め。
ナターシャは店主の邪魔をしないよう動きを合わせながら、店主にお願いをしておく。
「えっと、さっき言った魔法の事は他人には話さないようにして下さい。結構、その、危険な魔法なので。不得手な人が使うと危ないんです」
嘘だが。至って普通のアイテムボックスです。
空間断裂とか次元破断とかそういうえげつない効果は無いハズ。多分。
店主はなんだそんな事か、と言いながらプロテクターを付け終わる。
「安心しろ。冒険者と関わるならそれくらい暗黙の了解だ。誰にも言わねぇよ」
「そうなんですか?」
「あぁ、武具屋組合の鉄の掟でもあるからな。“冒険者の情報を漏らす軽薄な人間になるべからず。彼らに拠り所は無く、嘘の情報一つで全てを失う。ならばせめて我々は、命に代えてでも彼らの情報は漏らさないよう徹底せよ”」
「……そんなに重い掟なのに、なんで守れるんですか?」
ナターシャが可愛く聞き返すと、店主は少し手を止め、一応、と言った形に理由も教えてくれる。
「あー、そりゃお前……その、俺の選んだ防具で無事に帰って来る奴や、防具のお陰で命からがら帰って来た奴の話を聞く時が、一番嬉しいからな。ちょっとした英雄気分って奴だ」
少し恥ずかしそうに頬を掻く店主。因みに額に皺が深く刻まれたスキンヘッド男である。
そのまま感情を吹っ切るように首を振ると、店主を見てにまにましているナターシャの頭にポンと手を置いて話を終わらせる。
「まぁ兎に角、そういう事だ嬢ちゃん。安心しろ。次はベストを付けるぞ」
「はーいっ」
店主の話を聞き、元気よく返事を返すナターシャ。この人は信用出来る人だ。
次に店主は、『魔物の革製だ』という茶のレザーベストをナターシャに着せる。
このベストはブロックボアーの革で作られた物で、生半可な刃物では傷付かないらしい。
そのまま鏡の前に導かれた銀髪の少女は、自身の服装を見て嬉しそうに呟く。
「おぉ……冒険者みたい……」
白と茶しか無い服装だが、とても駆け出しっぽさが出てて好き。
肘とか膝を曲げても防具に当たらないし、良い感じだね。レザーベストもしっかりしてて硬いし、100点満点中500点くらいかな。うん。
実際に身体を動かして、防具の感触を確かめる銀髪蒼眼少女の図。主にスクワットとか、身体を横に逸らしたりとか。
その様子に軽く笑った店主は、上機嫌で次の問いかけに入る。
「ハハ、良い動きだな! んで、次の装備を選ぶうえで大事な事なんだが……お嬢ちゃん。前衛と後衛、どっちに適正がある?」
「?」
店主の方を向き、可愛らしく首を傾げるナターシャ。
ワザとだ。この世界での前衛・後衛の基準を知る為である。
店主は軽く咳をして、言い直す。
「ゴホン、……身体能力持ちか、魔法適正持ちかを教えてくれ」
あぁやっぱりそういう判断基準か。分かりやすい。ナターシャは正直に返答する。
「魔法適正です」
「そうか。ならナイフ買うより、値の張るマジックアイテムを買った方が良いな。ポーチはさっき付けてたボディバッグを代わりに使うと良い。」
「……全部装備した方が良いんじゃないんですか?」
その方が冒険者っぽいし、ナイフやポーチを装備してるなら咄嗟に使えるかもしれないし。
しかし、店主は次のように否定する。
「いや、マジックアイテムだけにした方が良い。特に駆け出し冒険者ならそうすべきだ。自分の役割を他人に伝える為にもな」
「何故?」
はてなするナターシャ。店主は楽しそうに話し出す。
「確かに装備が多ければ色々と便利だが、それだと器用貧乏になりかねん。なんでも卒なく熟す奴よりも、一分野に特化して、他の役割を他人に任せてしまう方がパーティーを組んだ時に上手く機能するんだ」
あぁ、下手に出来る事が多いとサマル化するからやめろと。店主は続けて話す。
「それに、魔法使いってのはただでさえ出来る事が多い。まず索敵、遠距離攻撃、回復なんかのサポートが出来る。逃走時には煙幕も張れる。MPを自動補充される消耗品と捉えれば、パーティー全体の金銭の消費だって抑えられる。それだけ仕事出来るなら十分だ」
そして店主は、“何でもかんでも自分でやる必要は無いんだぜ?”とも言う。
……確かに、店主の言う通りだ。俺はチート持ちだから大体何でもできるけど、他人の命を守れる程強いかって言われれば、まだそうじゃない。これからだ。
なら、それまでの間は自己責任で頑張ってもらうのが一番だよな。うん。
店主の説明を聞き、納得したように頷くナターシャ。今のところは魔法使い専属として頑張れば良いや。
そんな少女の様子を見て、理解を示して貰えた事に安心した店主は次のように述べる。
「ま、そういう事だ。……そんで、ここまで服や防具を決めておいてなんだが、これから紹介する魔導士用品店で魔法使い用の装備を整える事も出来るぞ。どうする?」
少し顔を背けて考える様子を見せたナターシャは、店主に装備の金額を問う。
「……それって金貨1枚で足りますか?」
店主は首を横に振りながら返答。
「いや足りねぇな。金貨9枚は要る」
高い。なので別方向からのアプローチ。
「整備はどっちが楽ですか?」
「魔法使い用の防具だな。値段は高いが付与魔法の効果で強靭だし、大体の部分が布で出来ているから修復も楽だ。まぁ流石に一般的な防具の方が強靭だが……革防具はワックス塗りなんかの定期的な手入れが必要で、金属製の物になってくると時々修理にも出さなきゃならん」
「へぇー……」
「それにだが、魔法使い用の防具は普段着としても使えるし、魔法の威力が上昇する効果もあるらしい。判断は任せるぞ」
「んー……」
店主に判断を委ねられて、考え込むナターシャ。
個人的には魔法使いとしてやっていきたいし、まだお金に余裕はあるから買っても良い。
それにまぁ……魔法の威力が上がるなら購入しても損はないだろう。普段着としても着れるみたいだし……よし決めた。
「……決めました。魔法使い用の装備を買う事にします」
「分かった。じゃあ防具の取り外しと着替えだな」
店主は早速、ナターシャが付けている防具を取り外しに掛かる。
ナターシャも動きを合わせながら質問。
「はい。……でも、店主さんはそれで良いんですか? お客さんが他所に行っちゃいますよ?」
その疑問を聞いた店主は、ナターシャに付いている防具を手際よく外しながら答える。
「ん? まぁ、なんだ。組合ってのは譲り合いの精神が大事だからな。その店に適した客を紹介するのも重要な仕事なんだよ」
「なるほど」
「ほら、外し終わったぞ。更衣室で着替えてこい」
「あっ、はい」
ナターシャは自身の服に着替え直し、冒険者用の服は畳み、防具エリアからカウンター近くに移動していた店主に返却。
それを受け取った店主は既に紹介状を書いてくれていて、服と交換のように渡してくれる。
「魔導士用品店はこの通りを戻った所にある。黒いボロボロのマントと天使の翼が飾ってある店だ。そこに向かうと良い」
「はい。ありがとうございます。では、またいつか」
「おう。お嬢ちゃんの活躍に期待してるぜ。またな」
店の玄関近くで待機していたアウラ、斬鬼丸と合流したナターシャは、店主に見送られながら防具屋を後にする。
◇◆◇
武器・防具街を戻って、防具屋の店主が言っていた魔導士用品店に向かうナターシャ達。
道中、アウラさんも魔法適正を持っていたよね、という話になり、何故魔法使い用の服を着ていないのか、という斬鬼丸の問いにアウラはこう答えた。
「実は私、身体能力スキルも持ってるんですよ。なので遠近両方の戦い方出来るように、ってアストリカさんが一般人向け防具を選んだんです」
その答えを聞き、意外とハイスペックだなこの人……と羨ましく思うナターシャ。
斬鬼丸も成程、と感心している。
「あ、店主さんの言ってたお店に着きましたよ。入りましょうか」
「はーい」 「御意」
3人はアウラを先頭にして、漆黒マントと天使の翼をショーウィンドウに飾る店へと入る。
予定外ですが想定内という不思議なイベント発生。
まぁ面白そうな展開になりそうだからレッツゴー!




