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111 三日目:私だって負けませんっ!

「……なんだか大変な事になってるねクレフォリアちゃん。怖くない?」


「はい……。とても怖いですし、心配です……」


 ナターシャに尋ねられ、不安そうに腕を抱くクレフォリア。

 ここで俺は更に辛い事を告げなければならない。

 守ると誓っておいてごめんクレフォリアちゃん。少しの間お別れだ。このイベントは多分重要だと思うから受けさせて欲しい。

 軽く自分の頭を撫で、申し訳なさそうに話し出すナターシャ。


「……実はさ、さっき斬鬼丸が私から離れられるって言ったよね。あれ、嘘なんだよ。だから、斬鬼丸を維持する為に私も隠れて付いていかないといけないんだ」


 まぁ大して精霊魔法の事知らないからほぼ推測だけど。

 回りもそんな感じで扱ってるしそう思って話してるだけです。所謂にわかムーブ。

 クレフォリアは俯きながら顔を逸らすナターシャに近付き、ぎゅっと抱き着く。

 あぁ、やっぱり不安なのかな……ごめんね……。

 しかし、ナターシャの想定とは少し違う答えが返ってくる。


「……えぇ、知っています。私も契約者の一人ですから。斬鬼丸さんが離れられるようになるにはまだ信仰が足りていません。ナターシャ様の豊富な魔力のお陰で顕現できているような物です。……本当に、奇跡のような出来事です。こんなにも長く召喚した精霊を維持できるなんて。羨ましいです」


 そう言ってナターシャの右肩に顔を埋めるクレフォリア。

 悲しみとも心配ともまた違う、心から才を羨む言葉にナターシャは困る。

 ……というか、クレフォリアちゃん俺の魔力の秘密知ってない? 知ってるよね?

 ナターシャが発言しようとすると、ナターシャから身体を離したクレフォリアが止める。


「……大丈夫です。私はいつだってナターシャ様の味方です。何がしたいのかも分かっています。ガレットさんにバレないように付いていきたいんですよね?」


「まぁ、うん……」


 そうだけど……それよりも魔力の秘密知ってるのか聞きたいんだけど……

 クレフォリアはナターシャに変わって抜け出す方法の提案をする。


「ではまず、ガレットさんに宿を取って貰いましょう。理由は無くても取ってもらえるはずです」


「うん、クレフォリアちゃん……」


「その後ガレットさんと共に部屋に入り、私が睡眠スリープを使用してガレットさんを眠らせます。効果時間は3時間ほど。それ以上は起床の際に怪しまれる可能性がありますから、そこから最大5分までがタイムリミットです」


「うん……」


 ナターシャの魔力の秘密について触れられないまま話が進む。


「私はナターシャ様が帰ってくるまで、初めて出会った日の夜に教わった魔法でガレットさんと共に身を隠します。熾天使様との契約の効果がありますから魔力ももつと思います」


 あぁうん……無貌の王さんね。隠密魔法。

 アレならその場で〇ジリスクタイムでも踊り出さない限り解ける事はないから大丈夫だろうけど……

 チート関連について聞くのは後に回し、話を繋げる方向にシフトするナターシャ。


「あぁ、襲われる可能性を考えとかないといけなかったね……。身体強化魔法でも……」


 ナターシャが創った魔法を教えようとするとクレフォリアちゃんが再度制止する。

 なぜ?と首を傾げるナターシャ。


「……心配なさらなくても大丈夫です。私も天界からとっておきの魔法を授かりました。自分の身を自分で守る為の魔法をっ」


 少し威張るような仕草でナターシャにドヤ顔を決めるクレフォリア。可愛い。

 ……そして、ここで天使ちゃんの契約の効果か。天啓を得たんだね。


「どんな魔法なの?」


 ナターシャが問い掛ける。


「うふふ、秘密ですっ」


 クレフォリアちゃんは嬉しそうに、人差し指を軽く唇に当てて優美に笑う。

 子供なのに少し大人びた感じの行動にナターシャはドキッとして見とれてしまう。


「さ、ガレットさんの所に行きましょうナターシャ様。出発時間に間に合わせないと」


「……えっ?うわぁっ」


 ナターシャは楽しそうに微笑むクレフォリアに手を取られ、ガレットさんの元に引っ張られていく。

 クレフォリアちゃんってこんなに積極的だっけ? ……いや積極的だったな。出会った時から。


 ガレットは冒険者ギルド一団から離れた位置で成り行きを見守っている。

 ナターシャとクレフォリアは子供らしくガレットさんにお願いをしに行く。


「ガレットさーん」 「ガレットさんっ」


「どうしましたか?」


 話しかけられたガレットさんは少女二人を見て首を傾げる。


「疲れたー」 「宿に行きたいです」


 特に演技無しの表情と言葉で話しかける少女達。

 ガレットさんも理解したようで快諾してくれる。


「……分かりました。待っていなさい。アーデルハイドさんに一言伝えてきます」


 ガレットさんは少女達の為にアーデルハイドの元に向かう。

 その様子を見送り、クレフォリアがナターシャの方を向き一言。


「……どうですか? 想定通りでしょう?」


 楽しそうなクレフォリアに向かってナターシャはコクリと頷く。

 クレフォリアちゃんの想定通りに事が進むね。


 ガレットとアーデルハイドは一旦冒険者達から離れ、ナターシャ達と共に宿の手配に向かう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 今日もいつもと変わらず個室の部屋。倉庫付き。

 宿の料金は先払い式らしく、夕食と朝食もセットのお値段はなんと一部屋銀貨3枚。お手頃価格?

 料理抜きの場合は一部屋銀貨1枚らしいので、引き算すると食事分は銀貨2枚。食事は4頭分だから、一人二食で小銀貨2枚くらいか。そう考えると安いね。


 因みに冒険者達が泊まる大部屋はベット1つにつき小銀貨2枚。食事も同じ値段なので合計で銀貨1枚という事になる。

 スリとかのリスクを考慮したらちょうどいい塩梅なんだろうか。


 会計を終え、部屋の鍵を貰ったガレットさんはナターシャとクレフォリアを連れて二階へ上がる。

 決行の時が近づき、緊張した面持ちになるクレフォリアとナターシャ。


 部屋の鍵を開け、中に入る。


 窓から差す夕日で赤く明るい室内は素朴な見た目。

 ただ、間取りとか家具とかが変わらないのは何か宿の決まり事でもあるんだろうか。


 ガレットさんはいつものように窓際のテーブル席に向かい、右側の椅子に腰掛ける。

 ベッドはガレットさんから見て右手に存在する。


「……ふぅ」


 椅子に座り、疲れたようにため息をつくガレット。

 クレフォリアはナターシャの目を見て、ナターシャも軽く目配せしながら頷いて二人は行動を開始する。


 ナターシャはベッドに大袈裟に飛び乗ってガレットさんの気を引く。

 少し眉を顰めたガレットさんはナターシャに注意する。


「……ナターシャ。お行儀が悪いですよ?」


「えー誰も見てないから大丈夫でしょー?」


「良くありません。前も言いましたが……」


 ガレットさんがナターシャにお小言をし始めるのを隠れ蓑にして、クレフォリアは現在死角になっているガレットさんの左隣に移動。

 そのままナターシャの方を向き、左手だけをガレットさんに向けて小声で魔法を詠唱する。


「……“睡魔よ。わが手の先に居る存在に眠気を与え、眠らせよ。睡眠スリープ”」


 詠唱が終わる。すると、ノーモーションでガレットさんに睡魔が襲い掛かる。大きく欠伸をするガレット。

 ガレットの瞼が瞬き、手で目を擦り始める。

 しかしナターシャの魔法のような強い物ではなく、少しだけ弱目の物なので魔法を掛けられたとは気付かない。


 クレフォリアはすかさずフォローに入る。


「……ガレットさん、大丈夫ですか? お疲れなのでしょうか?」


 少し緊張しながらも言ってのけるクレフォリア。

 ナターシャもベッドに寝転がりながらその様子を見て感心する。

 演劇の才能あるって言われるだけある。


「……あぁ、お気遣いありがとうございますクレフォリアさん。少し疲れたのかもしれませんね」


 謙虚に感謝しながらもう一度大きく欠伸をするガレット。

 そのままうつらうつらとし始め、ついに眠りに入ってしまう。


 ガレットの目の前で手を振り、完全に寝た事を確認したクレフォリアちゃんがナターシャに向かってドヤ顔で親指を立てたので作戦終了。

 ナターシャはベッドから起き上がり、クレフォリアに近付く。


「……突貫にしては完璧な作戦だったね」


「えぇ、ナターシャ様のアドリブのお陰です。ありがとうございます」


「どういたしまして」


 互いに笑い合う少女。

 そして、クレフォリアが先に口を開く。


「……では、お気を付け下さいナターシャ様。私はこのままガレットさんと共に隠れます」


 ナターシャもしっかりと頷き、返答する。


「うん。気を付けるよ。クレフォリアちゃんの無事も祈ってるからね」


「ふふ、お互い様、という事ですね」


「あはは、そうだね。……じゃあ、行ってくるね」


「はいっ!」


 ぎゅっとファイトポーズを決めて眉を逆ハの字にするクレフォリア。

 その可愛いドヤ顔をしっかり目に焼き付けたナターシャは軽く微笑んでから部屋の外に向かう。

 歩いていくナターシャの背後では隠密魔法の詠唱が聞こえる。


「“無貌の王の真髄を視よ。我等という存在全てを(くら)まし、世界に融解させよ”」


 詠唱が終わり、クレフォリアは眠りについたガレットと共に姿が消えていく。

 ナターシャは部屋のドアを開け、一歩外に踏み出す。


「頑張って下さいナターシャ様――」


「……ありがとね」


 ナターシャはクレフォリアの応援をしっかりと受け、部屋のドアを閉める。

 まるで最後の別れっぽい感じになっているが、ここからが本番だし別にお別れでもない。


 部屋の外に出たナターシャもやる気を出す為にファイトポーズを取る。


 よぉし、俺も隠れて冒険者に付いてくか。

 ナターシャも隠密魔法を使用。姿が消える。

 しかしある事に気付く。


 ……でも、この状態だと斬鬼丸と会話出来ないな。音も出ないし。どうしたもんか。

 困ったようにその場で腕を組んでいたナターシャだが、良い事を思い付く。


 ……そうだ。天使ちゃんに聞こう。

 無駄に考えるより人に聞くのが一番だ。

 思考停止してしまおう。


 早速スマホを取り出してLINEを起動……あ、電池切れそうだな。充電しとこ。

 充電コードをアイデムボックスから取り出して端子をスマホに差し込み、吸着部分を袖を捲って腕に張り付ける。

 そして早速質問する。


ナターシャ

[天使ちゃん。質問あるんだけど良いー?]


天使

[はい天使ちゃん! なんだーい?]


ナターシャ

[言葉話さなくても斬鬼丸と会話する方法ってある? なんかあれば便利かなって思って]


天使

[あるよー☆ 自分が召喚してる精霊と脳内で会話する魔法!]


ナターシャ

[教えてー?]


天使

[良いよー♪]


 天使ちゃんによって斬鬼丸と脳内会話テレパシーする方法が教えられる。

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