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110 三日目:大事件withヨステス

 ナターシャ一行含む3台の馬車はヨステス村の中に入り、松明を持つ村人達に囲まれながら停車する。

 状況を把握する為にアーデルハイドが率先して降り、村人に尋ねる。

 その後ろでは冒険者が続々と馬車を降り、ナターシャも村人に話しかけるアーデルハイドの様子を見て首を傾げる。


「初めまして。私は冒険者ギルドエンシア本店の職員、フォンダン・アーデルハイドです。……とても穏やかじゃない状況ですが、何かあったのですか?」


 尋ねられた馬車の周囲に居る村人の内、年の召した男性が話を受ける。


「……あぁ、その制服、冒険者ギルドの人かい。ワシはヨステス村の村長をしているヨズだ。今実は、とても困った事態になっていてなぁ……」


「……と、言いますと?」


 アーデルハイドの再質問に、村長は心苦しそうに話し始める。


「これは止められなかったワシ達が悪いんだが……今日の朝頃、領主の御子息さんがブラッディデスベアーの討伐をしに来た、と親衛隊を引き連れてこの村にやって来たんだ。ワシらも穴持たずにはほとほと困っていたし、快く受け入れた」


 村長の話には少し余計な情報が多いが、アーデルハイドはその不要部分を切り捨てて必要な情報だけを聞き込んでいく。


「御子息……という事はタリディウスさんですか?」


「いや、その弟のタリスタンさんだ。……てっきり、ご子息さんは村で兵士の帰りを待つもんだとばかり思っていたから、まさか兵士達と一緒に森に向かうとは思わなくてなぁ……。気が付いた時には村に居らんので慌てたもんだ……」


「タリスタン……現時点で魔法適正がLv5というあの……。でも、彼はまだ8歳ですよね?何故そんな暴挙を……」


「……ワシらにも分からんのだ。ただ、村の事を思って来てくれたもんだとばかり……」


「そうですか……」


 何とも言えない沈黙が村長とアーデルハイドの間に流れる。


「……エンシア国家騎士団には相談したの?」


「あぁ、既に連絡してある。急いで装備を整えて、先ほど小隊を組んで捜索に向かってくれた所だ。まだ日が暮れていないし、帰ってきていないだけだと思いたいが……」


「……つまり。希望はあるって事だね」


「まぁ、そういう事になる……が、お嬢ちゃんは誰だい?」


「ん? どもっ。旅の者です。ナターシャって言いますっ!」


 男性に向かってビシッと敬礼するナターシャ。銀色の長い髪がふわっと揺れる。

 その後ろには腕を組んで立つ斬鬼丸が居る。


「……成程。中々困った事態になっているでありますな」


 ナターシャは挨拶もそこそこにスススと斬鬼丸の後ろに隠れ、後を任せる。

 斬鬼丸が適当に話繋げてなんとかするさ。


 ……わざわざ関わる理由についてだが、こういう危険なイベントが発生するという事は後々に役立つ良いフラグが建つ可能性がある。俺、こういうのゲームでよく見てるから知ってるんだ。

 そこで、現状ふわふわとした立ち位置にいる斬鬼丸に存分に働いて貰おうという算段である。

 実力は既に見せているし、後ろではデスベアーの肉が村人に配られているのでそれを裏付ける証拠もある。アーデルハイドも村人も安心して送りだしてくれるだろう。


 更に、暫くの間だが俺はその付属品として名を馳せる事に決めた。

 金魚のアレっぽい感じだが超凄い電池くらいの力はあると思う。多少不本意だが仕方ない。


 ……いやだってさ、今の俺が先頭立って話した所で所詮7歳の少女だもん。信用度も説得力も皆無。

 斬鬼丸おとなの力を借りなければ自分の力を発揮できないよわよわ強がりレディです。

 でも、スタッツに着いたら冒険者として活動してみたい。

 ならこういう地道な営業活動がとても大事だと思うので頑張ります。


 因みにナターシャに良いように扱われている感じだが、斬鬼丸自身も渦中に飛び込むのは思いのほか愉しそうという心持ちなのでノリノリで会話を進めていく。


「ならば拙者も森に向かい、タリスタンという御仁の捜索をしようかと思うであります。人手は多ければ多いほど良いで御座ろう。……どうであろうかアーデルハイド殿」


「おぉ、斬鬼丸さん。有難い申し出です。……しかし、ナターシャさんと離れても問題は無いのですか?」


 アーデルハイドとしても緊急クエストを発布するつもりだったので願っても無い申し出だが、斬鬼丸は人により創り出された精霊だ。あまり術者から離れすぎると消えてしまうかもしれない。

 それを聞いた斬鬼丸は静かに頷いて返答する。


「いえ何、日ごろナターシャ殿から拙者に供給されている魔力は極僅か。精霊である自己を確立しているのは剣技への強い信仰であります。エンシア王国を自由に旅できる程度には離れられると思うであります」


 まぁ前半は嘘だ。斬鬼丸を常時維持しているのはナターシャの魔力量が膨大だからこそである。

 ただ後半は多分行けると思う。今後斬鬼丸が冒険者として活躍していけば早い内に自己完結出来るようになるはずだ。

 ナターシャは知らないが、斬鬼丸にはそういう予感がしている。

 斬鬼丸の言葉を聞き、驚いた様子で話すアーデルハイド。


「そうだったんですね。助かります。では早速……」


 アーデルハイドが冒険者達に緊急クエストを依頼する為招集を掛けようとすると、前方の馬車から一人の兵士が飛び降りてくる。

 道すがらに拾い、アーデルハイドによって治癒魔法を掛けられた兵士だ。その後ろでは介抱していた2人の冒険者も慌てて降りている。

 兵士は焦った表情で、たまたま近くに居た村人に掴みかかって問いかける。


「こッ、ここはッ!? ここは何処の村だッ! 答えろッ!」


「ひぃぃっ!?」


 掴みかかられた村人は突然の行動に怯え、兵士の行動を冒険者や周囲の村人が止めに入る。


「お、落ち着け兵士の兄さん! ここはヨステスだ!」 「そうだ。何があったのか話してくれないか。」


「……よ、ヨステス!?」


 兵士は周囲に目を配ってヨステスというのが事実か確認。掴みかかっている村人にすぐさま問い詰める。


「よ、よし! ならエンシア国家騎士団に救援を依頼したかッ!? 答えろッ!」


 掴まれている村人は怖がりながらも叫ぶように返答する。


「も、もうしてあるよぉッ! 既に森に向かった!」


「そ、そうか……! はぁ……っ」


 兵士はそれを聞いて村人から手を放し、疲れた様子でその場に崩れ落ちる。

 そしてアーデルハイドと会話していた村長が、兵士の服装を見て気付く。


「あぁ、あの装備は親衛隊の……」


「……親衛隊の? 失礼。」


 村長の独り言を聞いたアーデルハイドがその場を離れ、兵士に近付く。

 荒く呼吸をしながら地面を見つめていた兵士だが影を見て人の接近に気付き、顔を上げて問う。


「……貴方は?」


 兵士の声に先ほどまでの焦りは無く、騎士らしく落ち着いた口調になっている。

 アーデルハイドは慣れた手付きで眼鏡を持ち上げ、自己紹介をする。


「……ウェダスティル家の親衛隊の方、でしたか。私は冒険者ギルドエンシア王国本店、魔法課の長を任されているフォンダン・アーデルハイドと申します」


 そして手を差し出し、親衛隊の兵士に問いかける。


「何があったのか聞かせて貰えませんか。我々も力になれるかもしれません」


 兵士は迷う事なく手を取り、集まった冒険者達やアーデルハイドに向けて状況説明を始める。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 冒険者と斬鬼丸がその場に集まっている中、気分が落ち着いた親衛隊の兵士は洗いざらい話した。


「……我々親衛隊はブラッディデスベアーを捜索中に突如現れた狼の魔物の群れに奇襲を受け、壊滅状態に陥った。襲撃の際に足を怪我をしたタリスタン様を連れて逃げられないと判断した我々は救援を求める為、誰か一人が伝令役を買って出る事になった。それが私だ」


「私は仲間にタリスタン様の護衛を任せ、仲間の造った突破口から包囲網を抜け、追撃してくる魔物を斬り捨て、命辛々街道までたどり着いた。……その後、まさかすぐさま冒険者ギルドの一団に助けられるとは。不幸中の幸いとはこの事だろう」


 簡潔なまとめをありがとうございます。ナターシャはうんうん頷きながら斬鬼丸の後ろで話を聞いている。


「タリスタン様は現在森中央付近にある大きな木の洞の中で隠れられていて、周囲を守る部隊の仲間が籠城戦を行っているハズだ。私も早急に味方を連れて戻らなければならない。……冒険者ギルドの方々よ。どうか私に力を貸していただけないか」


 決定的な情報を知れたアーデルハイドは早速冒険者にクエストを受注するか聞く。


「だ、そうです冒険者さん。私はギルド職員として緊急クエストを発令します。馬車の護衛には最低人数残し、残りの方には森の救援に向かって欲しい。……受けて貰えますか?」


 顔を見合わせていた冒険者だが、ディビスが率先して質問する。


「その狼の魔物が何か分かるか? 兵士さん」


 聞かれた兵士はうろ覚えながらも答える。


「……確か、ハウリングウルフだったと思う。灰色の体毛に緑色の風を纏っていた。そしてだが、その中の一頭だけ異常に強い魔物が居た。灰色で他より少し大きく、青い風を纏う狼だ」


「青い風……まさかユニークのブラストハンターか……? こりゃ相当やべぇぞ……」


 困ったように腕を組むディビス。

 斬鬼丸は首を傾げて質問する。


「……その、ぶらすとはんたーや、はうりんぐうるふとはどういった魔物なのでありますか?」


 尋ねられたディビスは簡潔に説明してくれる。


「ん、まぁ、簡単に言うと風の精霊の加護を手に入れた狼だ。風の色が青に近い程上位の精霊の力を持っている。風の加護のお陰で一度咆えればそれが竜巻となって大人くらい余裕でぶっ飛ばせる。素の戦闘能力も加護で強化されてて、大人3人掛かりでようやく1匹倒せるような魔物だよ」


「中々強力でありますな……」


 だがしかし、面白そうだと喜ぶ斬鬼丸。兜のスリットから軽く炎が漏れる。

 そして冒険者達により受注前の対策会議が行われる。


 傍から見ているナターシャは自身もバレないように付いていく為、裏工作の準備を開始する。

 まずはクレフォリアちゃんを説き伏せてしまおう。


 斬鬼丸からそろそろと離れ、その近くで眺めているクレフォリアちゃんに近付いて話しかける。

久しぶりに書いたので雑目。

でも楽しかったのでやはり自由な時間は必要だ

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