クアル
「最近の若い者はなっておらんな」
溜め息をつきながらクアルは椅子に腰掛けた。兵士は確かに若かったが、クアルも随分、若いように見える。
セトは捕縛されるものと思って、じっと待っていたが、クアルにその様子がないので部屋の中をうろつき始めた。
「なぁ、喉が渇いたんだけど」
セトは勝手に詰所の奥にはいり、戸棚から杯をとると水瓶から水を汲んできた。セトは杯に口をつけながら彼女のむかいに腰かけた。クアルはセトを睨んでいる。彼女はこうでもしないと男が(時には女性も)喜ぶことを知っていた。セトは先ほど見るなと言われたせいもあって、気づかれない様にクアルを盗み見ていた。
エイシムの紋章が刻まれた軽鎧に身をつつみ、金色の髪は肩口で切り揃えられている。目鼻立ちはくっきりとしているが桃色の唇は薄い。健全な男子であれば十人中十人はたらしこめそうだ、とセトは思った。
「そのむさくるしい外套を脱いだらどうだ」
先に口を開いたのはクアルだった。
「一張羅だぜ?不快に感じることは言わないでくれよ、落ちこむじゃないか」
そういいつつ、セトは素直に外套を脱ぎ椅子の背もたれにかけた。
「案外、まともなツラだな」
「かのクアル様にそうおっしゃって頂けるとは光栄でございますな」
奇妙な身振りを交えながらセトはいった。
この時点でクアルには疑問に感じていることが二つあった。自首をしてきたというのに、この男のふてぶてしい態度はなんなのか。と、もう一つは、なぜ私はここにいるのか。ということである。
クアルは午前中、神殿で行われた祭事の警備を終えると、午後は兵士養成所で輜重についての講義を受けた。夕方からはかねてより請われていた元将軍ハロルド公との会食のため郊外の公宅へ赴いた。ハロルド公の息子が同席しており、彼のつまらない自慢話にクアルは破壊的衝動を覚えたが公の手前、それを押さえつけた。泊まっていくようにとの勧めを半ば強引な形で振りきると愛馬に跨り家路についた。その途中、詰所で勤務中だというのにあくびをしている不謹慎な兵士を見つけたのである。
興奮すると前後の見境いがなくなるのはクアルの数少ない短所であった。疑問の一つが解消されたクアルは残る疑問の解消を求めてセトと向かい合う。すると新たに生じた疑問に気づいた。
「なぜ私の名前を知っている」
「なぜって、そりゃあ、あんた有名だぜ。面白い話をよく聞くけど、金にはならねぇってカルドがぼやいてたな」
カルドというのはセトの馴染みの情報屋だ。
クアルは混乱した。この男の話はわかりにくい。
「面白い話とはなんだ」
「言い寄ってきた貴族を殴りつけたとか、まぁ、そんな話だよ」
「貴族を殴ったことなどない。王族を鳥の腿肉で殴りつけたことはあるが」
あまり笑えない気がする。と、セトは思った。
「ごめんください」




