第17話 近藤と永倉の大喧嘩
大雨。
土がぬかるむ。
陣屋の中。
重い空気。
近藤勇が座る。
その前に永倉新八。
睨み合う。
もう引けない。
近藤が口を開く。
「勝手に動くな」
低い声。
押し殺した怒り。
「隊は今、甲陽鎮撫隊として再編されている」
「統制を乱せば終わりだ」
永倉は一歩前に出る。
「終わってんのは、とっくにだろ」
空気が張り詰める。
「負け続けてるんですよ」
「わかってんだろ、あんたも」
近藤の目が揺れる。
だが。
否定しない。
永倉は続ける。
「会津で立て直す。まだやりようはある」
拳を握る。
「今のままじゃ……犬死にするだけだ」
近藤、即座に返す。
「それでもだ」
「勝手は許さん隊は一つだ」
「わしが預かっている」
沈黙。
次の瞬間。
永倉が吐き捨てる。
「勝手に動くなって――」
一歩。
詰め寄る。
「もう無理でしょ」
強く。
はっきりと。
「新選組は……もうあの新選組じゃねぇ」
「甲陽鎮撫隊とか言う陳腐な名に変えられて、情けねぇ」
近藤の拳が震える。
だが。
引かない。
「掟は生きている」
「それが新選組だ」
永倉、笑う。
乾いた笑い。
「掟?」
首を振る。
「そんなもん。もう関係ねぇよ」
「新選組は終わった。時代が変わってんだよ」
沈黙。
雨音だけが響く。
近藤は静かに言う。
「……それでも従えぬなら」
間。
「出ていけ」
空気が凍る。
完全な断絶。
永倉は迷わない。
「ああ」
短く。
はっきりと。
「出ていくぜ」
背を向ける。
だが。
足を止める。
振り返らないまま。
言う。
「俺は俺のやりたいようにやる」
「会津で立て直す。」
そして。
最後に低く。
「……あんたについてっても」
間。
「勝てねぇからよ」
足音。
遠ざかる。
雨に消える。
残された近藤。
動かない。
ただ。
拳を握る。
血が滲むほど。
(それでも)
(わしは)
信じるしかない誠を。
だがその誠はすでに割れていた。
つづく




