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【カクヨムコンテスト11 中間選考突破】 累計336万9千PV 僕の戦国時代  作者: 虫松
新選組列伝ー誠の残響ー

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第15話 沖田の病床、 肺結核

静かな部屋。


音は、ほとんどない。


あるのは―


かすかな呼吸と、


時折こぼれる、湿った咳だけ。


布団の上で、やせ細くなった体。


かつて“天才剣士”と呼ばれた面影は


もう、そこにはない。


肺結核。この時代では不治の病。


それは、静かに


だが確実に。


命を削っていく病だった。


「……ゴホッ……」


血が混じる。


白い紙に、血の赤が広がる。


それを見ても


沖田総司は、笑う。


「はは……参ったなぁ……」


かすれた声。


だが


どこか、いつもの調子。


障子の向こう。


足音。


ゆっくりと。


重い足取り。


スッ――


戸が開く。


入ってきたのは――


近藤勇。


だが


以前の姿ではない。


右肩に包帯。


右の腕は


ほとんど動かない。


撃ち抜かれた傷が、まだ癒えていない。


片手で、戸を閉める。


その動きだけで、


痛みが走っているのが分かる。


「……総司」


低い声。


いつもより、少しだけ静か。


沖田が、顔を上げる。


一瞬。


驚いた顔。


そして


すぐに、笑う。


「あれ、局長」


軽い調子。


「そんなボロボロで、何しに来たんですか」


近藤は、何も言わない。


ただ。


ゆっくりと、近づく。


一歩。


一歩。


重い。


沖田が、少しだけ目を細める。


「……やられましたね」


挿絵(By みてみん)


右肩を見る。


血のにじむ包帯。


「銃ですか」


近藤が、短く答える。


「ああ」


それだけ。


少しの沈黙。


沖田が、笑う。


「時代ですねぇ」


天井を見上げる。


「刀じゃ、届かない距離から撃ってくる」


小さく息を吐く。


「ずるいなぁ……」


近藤が座る。


ゆっくりと。


片手で支えながら。


「お前こそ……」


視線を落とす。


沖田の体。


痩せ細った腕。


白い顔。


「……ずいぶんだな」


沖田は肩をすくめる。


「こればっかりは、剣じゃどうにも」


軽く言う。


だが。


次の瞬間――


「……ゴホッ!!ゴホッ!!」


激しい咳。


体が折れる。


血。


こぼれる。


近藤の手が、思わず伸びる。


だが


途中で止まる。


右腕が動かない。


一瞬の、苛立ち。


そして――


左手で、そっと支える。


「……無理するな」


低い声。


沖田は、息を整えながら笑う。


「無理なんて、してないですよ」


かすれた声。


「ただ……」


少しだけ、目を伏せる。


「先に、降りるだけです」


沈黙。


重い。


近藤の拳が、わずかに震える。


片手しか使えない。


守れない。


戦えない。


そんな現実が、そこにある。


「……総司」


絞り出すように言う。


「まだ終わっちゃいねぇ」


沖田は、ゆっくり首を振る。


「終わってますよ」


静かに。


はっきりと。


「局長も、分かってるでしょう」


風が鳴る。


障子が揺れる。


「時代が、変わったんです」


沖田の声。


弱い。


だが。


芯は、変わらない。


「俺たちの“誠”は……」


一瞬、言葉を止める。


「……もう、届かない」


近藤は何も言えない。


ただ、見ている。


沖田が、ふっと笑う。


「でも」


少しだけ、いつもの顔に戻る。


「最後まで、付き合いますよ」


近藤を見る。


まっすぐに。


「局長がいる限り」


その言葉。


重い。


優しい。


残酷なほどに。


近藤は、目を閉じる。


そして


「……ああ」


短く、答える。


それだけ。


部屋の中は。


二人だけ。


時代に取り残された男たち。


一人は、病に削られ。


一人は、銃に撃たれ。


それでも


まだ、“誠”を捨てていない。


だが


その時間は


もう、長くはなかった。



つづく

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