第7話 池田屋事件―地獄の突入―
障子が、弾け飛ぶ。
「御用改めだ!!新選組!!」
一瞬の静寂。
次の瞬間。
「敵だァ!!」
怒号。
刀の音。
畳が跳ねる。
狭い二階座敷。
逃げ場はない。
近藤が踏み込む。
「斬れ!!」
戦いが、始まった。
刀と刀がぶつかる。
火花。
血。
叫び。
志士たちは二十余。
新選組はわずか数名。
それでも。
沖田が前に出る。
「いきますよ」
一閃。
首が飛ぶ。
さらに――
「はッ!!」
三段突き。
喉。
胸。
心臓。
三人、同時に崩れる。
速い。
異常な速さ。
「なんだこいつは……!」
恐怖が走る。
永倉が笑う。
「遅ぇ!!」
豪剣。
骨ごと断つ。
藤堂が突っ込む。
「うおおおお!!」
だが。
刃が頭をかすめる。
血。
「ぐっ……!」
倒れない。
戦う。
井上が支える。
「持ちこたえろ!!」
部屋はすでに
血の海。
柱に刀傷。
畳が裂ける。
誰が敵か、味方か。
わからない。
ただ斬るただ、生きる。
池田屋の中だけが地獄だった。
血に濡れた畳。
裂けた障子。
崩れた柱。
鉄の匂い。
汗。
死。
その中心に。
ひとりの男がいた。
沖田総司。
「――はッ」
踏み込む。
速い。
いや速すぎる。
視えない。
志士の喉に、刃が吸い込まれる。
一人。
振り返る前に
二人目。
さらに。
「終わりです」
三段突き。
喉元。
胸元。
心の蔵。
三人同時に崩れ落ちる。
「ば、化け物……!」
誰かが呟く。
違う。
人だ。
だが。
人間の速さではない。
沖田は笑っていた。
「まだ、足りませんね」
その瞳。
澄んでいる。
まるで子供のように。
だがその足元には。
死体。
死体。
死体。
その時。
ふと。
違和感。
「……あれ?」
呼吸が浅い。
胸が重い。
「……息が」
一瞬の隙。
志士が斬りかかる。
「もらったァ!!」
だが。
遅い。
沖田の刃が先に届く。
首が落ちる。
それでも。
違和感は消えない。
「……なんだ」
喉が焼ける。
熱い。
苦しい。
息を吸うたびに
何かが裂ける。
「……っ」
口元に手を当てる。
ぬるい。
赤い。
ぽたり。
ぽたり。
血。
「……え?」
次の瞬間。
「ゴホッ――!!」
大量の血が口から吐き出される。
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畳に叩きつけられる。
「総司!!」
近藤勇の声。
沖田は、立っている。
まだ。
剣を握ったまま。
「大丈夫です……」
笑う。
だが。
口から血が止まらない。
「斬られて……ないのに……」
誰かが呟く。
そう。
傷はない。
どこにも。
それなのに。
内側から壊れている。
沖田は理解していた。
(ああ……これか)
幼い頃から、どこかで感じていた違和感。
時折、襲う咳。
血の味。
「……はは」
笑う。
「ついに来ましたね」
近藤が叫ぶ。
「下がれ!!」
だが。
沖田は動かない。
「まだ、終わってません」
一歩。
踏み出す。
血を吐きながら。
それでも。
剣を振るう。
「新選組は……」
一閃。
敵が崩れる。
「ここで止まれません」
また血を吐く。
それでも。
止まらない。
その姿は。
美しく。
狂っていた。
そこへ合流した土方が現れる。
土方歳三はその目が細くなる。
「……総司」
一瞬で理解する。
「下がれ」
低く。
命令。
沖田が笑う。
「副長……」
血を拭う。
「もう少しだけ」
そして。
最後の一歩。
踏み込む。
斬る。
敵が倒れる。
同時に。
膝が崩れる。
「……っ」
倒れた。
静寂。
近藤が駆け寄る。
「総司!!」
沖田は、笑っていた。
「……勝ちましたか?」
その問い。
子供のように。
無垢で。
残酷だった。
近藤は、答えられなかった。




