第5話 芹沢鴨の粛清 ―誠の刃―
夜の京。
雨が降っていた。
静かに。
だが重く。
壬生屯所。
障子の向こうから、笑い声が響く。
乱暴で、下品で、止まらない笑い。
「がはははは!!」
盃が叩きつけられる。
酒がこぼれる。
芹沢鴨。
新選組局長の一人。
だが
その姿は、すでに“獣”だった。
「もっと持ってこい!!」
女中が怯える。
「も、もう……」
「聞こえねぇのか!!」
障子が蹴り飛ばされる。
外。
隊士たちが顔をしかめる。
「またか……」
永倉が舌打ちする。
「やりすぎだろ、あいつ」
土方は無言。
ただ見ている。
冷たい目で。
「規律を守らねぇ」
ぽつりと言う。
「局中法度……関係なしだな」
沖田が笑う。
「斬りますか?」
軽く。
まるで冗談のように。
土方は答えない。
ただ
近藤を見る。
夜。
別室。
近藤は一人、座っていた。
灯りが揺れる。
「……芹沢をどうする」
土方が言う。
沈黙。
近藤はすぐには答えない。
「奴は……仲間だ」
低く言う。
土方の目が細くなる。
「仲間、ね」
「だが」
近藤の拳が、わずかに震える。
「このままでは……新選組が壊れる」
土方が一歩近づく。
「もう壊れてる」
冷たく言う。
「法度を破ってる時点でな」
近藤は目を閉じる。
脳裏に浮かぶ。
羽織。
誠の一文字。
「……誠とは何だ」
小さく呟く。
土方は答える。
「守るもんだ」
間。
「守るために、斬るもんだ」
沈黙。
雨音だけが響く。
やがて。
近藤は目を開ける。
決断の目だった。
「……やるのか」
土方は頷く。
「今夜だ」
再び沈黙。
そして。
近藤が言う。
「誠のために――」
一瞬、言葉が止まる。
だが、続けた。
「斬れ」
その一言で。
すべてが決まった。
深夜。
芹沢の部屋。
酒の匂い。
寝息。
無防備な姿。
障子が、静かに開く。
影が滑り込む。
沖田総司。
土方歳三。
そして数名の隊士。
足音はない。
沖田が、わずかに笑う。
「起きてくださいよ」
芹沢の目が開く。
「……何だ」
その瞬間。
刃が走る。
血が飛ぶ。
「ぐッ……!」
芹沢が暴れる。
だが遅い。
土方が押さえ込む。
「終わりだ」
芹沢が睨む。
「てめぇら……仲間じゃねぇのか……!」
その言葉が。
一瞬、空気を裂く。
だが――
近藤はいない。
答える者もいない。
沖田が言う。
「だからですよ」
静かに。
「誠のために」
刃が落ちる。
沈黙。
血の匂いだけが残る。
翌朝。
何事もなかったかのように、隊士たちは並ぶ。
誰も口にしない。
だが全員が知っている。
「仲間は斬られる」
土方が言う。
「法度は絶対だ」
その声は冷たい。
誰も逆らえない。
山南が目を伏せる。
「……これが誠」
その声には、わずかな迷いがあった。
近藤は空を見る。
何も言わない。
だがその胸には。
消えない何かが残った。
この日。
新選組は強くなった。
そして同時に“狂った”。
誠とは何か。
守るものか。
壊すものか。
その答えは。
もう、戻れないところまで来ていた。
つづく




