第4話 新選組の掟と戦術 ―群れで斬る―
壬生屯所。
夜明け前。
まだ空は暗い。
「起きろォ!!」
土方の怒号が響く。
障子が叩き開けられる。
「寝てる奴は斬るぞ!!」
隊士たちが飛び起きる。
庭へ。
冷たい空気。
裸足の足に土が刺さる。
「構えろ」
近藤が静かに言う。
その一言で、空気が変わる。
木刀が打ち合う。
乾いた音。
連撃。
打撃。
倒れる音。
「遅い!!」
土方が一人を蹴り飛ばす。
「一対一で勝とうとしてんじゃねぇ!!」
隊士が転がる。
息が詰まる。
「お前らは“武士ごっこ”じゃねぇ」
低く言う。
「戦だ」
近藤が前へ出る。
「組め」
その一言。
隊士たちが数人単位で動く。
「三人一組」
近藤が続ける。
「前・左右」
配置が決まる。
「一人が引きつけ――」
一人が前へ出る。
「二人が斬る」
左右から同時に打ち込む。
一人の敵役が、瞬時に崩れる。
「これが――」
近藤が言う。
「新選組だ」
ざわめき。
永倉が笑う。
「面白ぇな」
剣を構える。
「正々堂々じゃねぇが」
土方が吐き捨てる。
「勝ちゃいいんだよ」
沖田が軽く言う。
「一人で斬るより、早いですしね」
その目は、笑っていない。
再び号令。
「突入!」
狭い廊下。
板張りの床。
隊士たちが流れ込む。
「止まるな!」
「詰まるな!」
「前へ出ろ!」
一人が押さえ、
一人が斬り、
一人が次へ行く。
流れ。
止まらない。
「市中は広くねぇ」
土方が言う。
「道は狭い。部屋も狭い」
木刀が壁に当たる。
軌道が制限される。
「だからこう動け」
踏み込み。
体当たり。
押し込み。
「斬れなきゃ」
「押し込め!倒れたら斬れ!」
敵役が壁に叩きつけられる。
その瞬間。
横から一撃。
倒れる。
「……これが」
誰かが呟く。
「戦いか」
近藤は答えない。
ただ見ている。
さらに。
土方が手を上げる。
「次だ」
奥から数名が現れる。
手に――火縄銃。
「撃て」
轟音。
煙。
隊士が思わず目をつぶる。
「目ぇ開けろ!!」
土方が怒鳴る。
「これが戦だ!!」
煙の中。
前衛が伏せる。
後衛が突入する。
「刀だけじゃねぇ」
土方が言う。
「使えるもんは全部使え」
近藤が頷く。
「勝つためにだ」
訓練は続く。
何度も。
何度も。
倒れ、
立ち上がり、
また斬る。
血こそ流れないが。
その目は、すでに戦場のものだった。
縁側。
山南が静かに見ている。
「……見事ですね」
ぽつりと呟く。
「だが」
少しだけ、目を細める。
「これは……剣ではない」
その言葉に。
土方が振り向く。
「何が言いてぇ」
山南は答える。
「これは“戦争の技”です」
沈黙。
近藤が口を開く。
「それでいい」
山南の目が揺れる。
「守るためには」
一歩、前へ。
「勝たねばならぬ」
その言葉は正しい。
だが――
山南は、どこか遠くを見る。
「誠とは……」
その答えは、まだ出ない。
夕暮れ。
隊士たちは倒れ込む。
息を切らし、
泥にまみれ、
それでも笑う。
「俺たち……強くねぇか」
誰かが言う。
永倉が笑う。
「当たり前だ」
沖田が刀を拭く。
「負ける気がしませんね」
土方が言う。
「勘違いするな」
全員を見る。
「強いんじゃねぇ」
間。
「死ぬ覚悟ができてるだけだ」
静寂。
その言葉の重さを。
誰もまだ、理解していなかった。
近藤は空を見る。
「誠……」
それは。
理想ではない。
戦うための“形”だった。
そして
この戦術が。
やがて京の一夜で、伝説になる。
池田屋。
まだ誰も知らない。新選組の伝説の戦いへ。
つづく。




