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【カクヨムコンテスト11 中間選考突破】 累計336万8千PV 僕の戦国時代  作者: 虫松
新選組列伝ー誠の残響ー

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第2話 壬生浪士組 ―武士になりたかった者たち―

江戸。


冬の風は冷たく、どこか乾いていた。


試衛館の中。

土の匂いと汗の匂いが混ざる。


「……京へ?」


永倉新八が眉をひそめた。


近藤は静かに頷く。


「ああ。幕府が浪士を募っている」


その場にいた者たちの空気が変わる。


「浪士組……」


誰かが呟く。


その言葉は、ただの募集ではない。


機会だ。


武士になるための。


「京都守護職の松平公の下で働くらしい」


近藤の声は落ち着いていた。


だが、その奥には確かな熱がある。


「腕さえあれば、出自は問わぬ」


沈黙。


その一言が、全てを揺らした。


乞食。

町人。

百姓。


本来なら、刀を持つことすら許されぬ身分。


だが今――


「武士になれる、ってことかよ……」


永倉が低く言う。


誰も否定しなかった。


土方歳三が腕を組む。


「甘い話じゃねぇ」


冷たく言い放つ。


「京は戦場だ。下手すりゃ犬死にだ」


現実。


血。死。


それでも


「それでも行く」


近藤が言った。


迷いはなかった。


「わしは……武士になる」


その言葉は、静かでありながら、重かった。


沖田総司が笑う。


「面白そうですね」


軽い口調。


だがその目は、鋭い。


「人を斬っていい理由ができる」


誰もそれを咎めなかった。


それが、この時代だった。


山南敬助だけが、少し違う顔をしていた。


「近藤さん」


静かに呼ぶ。


「それが……本当に“誠”でしょうか」


場が凍る。


土方の目が細くなる。


「何が言いてぇ」


山南は視線を落とさず、答える。


「武士になることが目的になっていませんか」


近藤は、黙った。


しばらくして。


口を開く。


「……違う」


低く。


だが確かに。


「武士になることが目的じゃねぇ」


一歩、踏み出す。


「武士として生きるためだ」


山南の目が揺れる。


「守るためだ」


近藤の声が、少しだけ強くなる。


「この国を」


「この時代を」


「そして」


言葉が、一瞬止まる。


「……自分をだ」


静寂。


山南は何も言わなかった。


ただ、わずかに目を伏せる。


出発の日。


江戸の街は、いつも通りだった。


誰も知らない。


ここにいる者たちが、やがて歴史になることを。


近藤は振り返らない。


ただ前を見る。


「行くぞ」


短く言う。

その背中に人が集まる。


土方 歳三

沖田 総司

永倉 新八

山南 敬助


そして、名もなき者たち。


農民。

町人。

流れ者。


「武士になりてぇ……」


誰かが呟く。


その声は、小さい。


だが確かだった。



京への道。

長い道のり。


土埃の中を、彼らは進む。


その背に、まだ羽織はない。


誠の字もない。

あるのは

剥き出しの欲望だけだ。


「武士になりたい」


その願い。


それは美しく。


同時に、危うい。


やがて京。


壬生の地。

壬生浪士組


ここで彼らは名を得る。


だがまだ


この時は、知らない。


その名が。


どれほどの血を求めるのかを。


近藤が空を見上げる。


「ここが……戦場いくさばか」


その目に、迷いはなかった。


ただ一つ。


「誠」を求めていた。


だが。


その誠が彼らを壊すことになる。


つづく

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