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【カクヨムコンテスト11 中間選考突破】 累計336万8千PV 僕の戦国時代  作者: 虫松
新選組列伝ー誠の残響ー

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序章 令和の悪天必罰教 総支配者

雨だった。


令和の空は、どこか軽い。

濡れても、血の匂いはしない。


高層ビルの一室。

無機質なガラス越しに街を見下ろしながら、男は新聞を読んでいた。


権田勇次郎、三十五歳。

宗教法人「悪天必罰教」総支配者。


穏やかな顔立ちに、不釣り合いなほど静かな威圧がある。


紙面の一面に、目を落とす。


《令和の新選組 党首 逮捕》

《秘書給与不正受給の疑い》

《責任を秘書に押し付け、逃亡》


「……ほう」


小さく、鼻で笑った。


「誠も、随分と軽くなったものだな」


指先で紙面を叩く。

乾いた音が室内に響いた。


「名を語るなら、背負え。 背負えぬなら、語るな」


ゆっくりと新聞を折りたたむ。


その仕草は、どこか古い。

まるで刀を納めるかのように、無駄がなかった。


沈黙。


雨音だけが、世界を満たす。


ふと。


胸の奥に、ひびが入る。


生れ変る前の記憶だ。


忘れたはずの、いや

忘れることなど許されなかった“あの時代”。


権田は目を閉じる。


その瞬間。


雨音が、変わる。


ぱら、ぱら、と落ちる水音は

やがて、鉄と鉄が打ち合う音へと変わっていく。


怒号。

血。

土埃。


「退くなッ!前へ出よ!!」


誰かが叫んでいる。


違う。


わしだ。(新選組 局長 近藤 勇)


喉が焼けるほど叫びながら、刀を振るっていた。


守るために。

名のために。

そして


「真の武士になるために」


土にまみれた足。

粗末な出自。

それでも、誇りだけは捨てなかった。


“誠”の一文字を背負い、

命を賭けた新選組の男たち。


だが


裏切りがあった。


迷いがあった。


逃げた者もいた。


そして、斬った。


仲間を。


信じた者を。


「……山南」


ぽつり、と現代の部屋で呟く。


その名だけが、やけに重かった。


さらに記憶は進む。


炎の夜。

池田屋。

血に濡れた畳。


「総司……!」


口から血を吐きながら、それでも剣を振るう天才。


あれが、終わりの始まりだった。


時代が、変わる。


守るべきものが、崩れる。


やがて


縄。


冷たい地面。


見上げた空は、やはり曇っていた。


「名は?」


問われる。


一瞬、迷う。


生きるための嘘か。

誇りのための真か。


だが


答えは、決まっていた。


「……近藤勇だ」


刃が、光る。


その瞬間。


すべてが終わるはずだった。


だが。


「……違うな」


権田は目を開けた。


そこは、令和の部屋だった。


雨はまだ降っている。


しかし、今度ははっきりと現実の音だ。


彼はゆっくりと立ち上がる。


ガラスに映る、自分の顔を見る。


そこにいるのは、農民でも、武士でもない。


宗教家。


そして


「支配者だ」


低く呟く。


「武では、変えられなかった」


指先でガラスに触れる。


「ならば、今度は」


街を見下ろす。


無数の人間。

欲望。

偽りの正義。


「政治で、変える」


一度だけ、笑った。


それは穏やかで、同時にどこか狂気を孕んでいる。


「誠を、もう一度。この世に」


雨は止まない。


だがその日。


確かに、何かが動き始めていた。


かつて“誠の局長”と呼ばれた男が、

今度は言葉と思想で世を斬るために。


そして物語は、幕末へと遡る。

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