第6話 服部半蔵の情報戦略学部
戦国大学は急速に成長していた。
政治。
法律。
軍略。
経済。
外交。
国家を動かす学問は、ほぼ揃った。
だが
僕はまだ一つ、足りないものを感じていた。
それは
刀より速く、
軍より深く、
戦を決める力。
外国の国家情報を集める。
ある夜。
僕は講堂に学生を集めた。
「新しい学科を作る。」
学生たちがざわめく。
僕は黒板に大きく書いた。
情報戦略学部
さらにその下に書く。
諜報
暗号
潜入
教室の空気が一瞬で変わる。
「忍びの学問ですか?」
一人の学生が聞いた。
僕はゆっくり首を振る。
「忍びだけの学問じゃない。」
「これは国家の目だ。」
「敵を知り、世界を知り、未来を読む。」
そして僕は扉を見た。
「先生を紹介する。」
扉が静かに開く。
音がしない。
まるで影が歩いてくるようだった。
黒い装束。
鋭い眼光。
伊賀忍びの頭領。
服部半蔵
学生たちは息を呑む。
半蔵はゆっくり教壇に立った。
沈黙。
そして一言。
「戦は――」
講堂が凍りつく。
半蔵は静かに言った。
「始まる前に終わる。」
学生たちが顔を見合わせる。
半蔵は続ける。
「戦場で勝つ者は三流。」
「戦場を作らぬ者が一流。」
その言葉に学生の目が変わった。
授業が始まる。
半蔵は紙を配る。
そこには奇妙な文字。
学生が言う。
「読めません。」
半蔵が答える。
「暗号じゃ。」
授業は続く。
暗号解読。
密書作成。
符号通信。
学生たちは必死に考える。
次の授業。
半蔵は地図を広げた。
城。
港。
街道。
「諜報とは」
「情報を盗むことではない。」
学生たちが驚く。
半蔵は続ける。
「情報を作ることじゃ。」
「敵がどう動くか。」
「何を恐れるか。」
「何を望むか。」
「それを読むのが忍びじゃ。」
さらに授業は実践になる。
学生たちは
町人に化け
僧侶に化け
商人に化け
城下町へ潜入する。
気づかれずに
情報を集めて帰ってくる。
学生たちは理解する。
戦とは刀ではない。
情報だった。
夜。
戦国大学の屋根の上。
僕は空を見上げていた。
遠くには海。
世界がある。
そこへ半蔵が現れる。
「変わった大学だ。」
僕は笑った。
「忍びが授業をする大学なんて、日本でここだけですよ。」
半蔵は小さく笑う。
「だが必要じゃ。」
「これからの戦は見えぬ。」
「影の戦になる。」
僕は静かに呟いた。
「情報を制する者は――」
夜風が吹く。
僕は続けた。
「世界を制する。」
寺を改造した戦国大学の灯りが、夜の山に輝いていた。
そこでは今、
刀ではなく
知と情報で戦う者たちが生まれ始めていた。




