第4話 茶人 今井宗久の経済学
戦国大学は成長していた。
政治学部。
法律学部。
軍略学部。
国を動かす学問は
次々と整い始めていた。
だが
私はある日、講堂で言った。
「まだ足りない。」
学生たちが顔を上げる。
「国は武力だけでは動かない。」
「金だ。」
ざわめきが広がる。
私は黒板に大きく書いた。
経済学部
僕は言った。
「これからの時代、武士も金を知らねばならない。」
「国を守るのは刀ではない。」
「経済だ。」
武士たちは、これまで金の話を嫌った。
金は商人のもの。
武士は名誉。
そう教えられてきた。
だが私は断言した。
「金を知らぬ武士は――」
「必ず国を滅ぼす。」
そして講堂の扉が開いた。
ゆっくりと歩いてくる老人。
堺の豪商。
茶人。
天下の商人。
今井宗久
宗久は学生を見渡した。
武士の子
農民の子
商人の子。
そして言った。
「金を知らぬ武士は」
「国を滅ぼす。」
講堂が静まり返る。
宗久は続けた。
「戦は金が動かす。」
「兵糧」
「鉄」
「船」
「すべて金じゃ。」
学生が手を上げる。
「先生、武士が商売をするのですか?」
宗久は笑った。
「違う。」
「商売を理解するのじゃ。」
そして黒板に書いた。
商業
貿易
市場
宗久は言う。
「国とは大きな店じゃ。」
学生たちが驚く。
「店は客が来なければ潰れる。」
「国も同じじゃ。」
授業は続いた。
宗久は世界地図を広げる。
南蛮船の航路。
銀の流れ。
香辛料。
絹。
砂糖。
学生たちは初めて知る。
世界の経済は
巨大な市場だった。
宗久は言う。
「堺はなぜ豊かだと思う?」
学生が答える。
「商人がいるから。」
宗久は首を振る。
「違う。」
「自由だからじゃ。」
商売が自由。
取引が自由。
だから金が集まる。
宗久は続ける。
「国も同じじゃ。」
「経済を縛る国は滅びる。」
「経済を育てる国は栄える。」
学生たちは
必死に書き取る。
これは
ただの商売の話ではない。
国家経営の学問だった。
授業が終わる。
学生たちは議論を始める。
市場とは何か。
国家財政とは何か。
貿易とは何か。
武士が経済を語っている。
それは今までの日本では前代未聞だった。
私は廊下からその光景を見る。
戦国大学。
ここはもう
武士の学校ではない。
国家の学校だ。
私は静かに呟いた。
「経済を学び」
「経営者を育てる。」
「それがこの大学の役目だ。」
講堂の奥では宗久が茶を立てている。
そして小さく笑った。
「面白い時代になる。」
戦国大学はついに
政治
軍事
経済
すべてを学ぶ国家の頭脳機関になろうとしていた




