第8話 クイーンの誘惑
静かだ。
暗い場所にいる。
ここは、どこだ?
フィナンシェは、考える。
岩肌のような天井。
岩の洞窟の中だ。
外では、耳をすますと滝の流れる音がする。
イースト大森林公園には、湖があり、そこに滝がある。
その滝の裏に、隠れた洞窟があった。
その洞窟の中に、フィナンシェは横になっていた。
身体を起こすと、女性と目が合う。
「…やっと、起きたキャア」
紫色の長い髪。
妖艶な雰囲気の美女だ。
その表情は、明るい。
「…誰なんだ?」
「告白するキャア。愛してるキャア〜」
「…?」
「これで、両想いキャア。夫婦キャア〜」
だきっ。
フィナンシェは、抱きつかれる。
その力は、女性とは思えないほど。
強く、しめつけられる感じだ。
「オオカミ様と夫婦になれたキャア」
「な、何するんだよっ…」
抱きつかれたまま、ゆさぶられる。
その力も、また強めだ。
「クイーン…って、呼んでほしいキャア」
第8話 クイーンの誘惑
「お飲み物をどうぞキャア」
紫色の長い髪の女性・クイーン。
天然水のペットボトルを差し出してくる。
「夫婦は、仲良くしたいキャア」
「…?」
「夫婦は、キスをするものキャア。キスしてほしいキャア」
ドンッ
「う、うわあっ…」
頭突きされてしまう。
思わず声が出るフィナンシェ。
「キスって、上手くできないキャア。エスコートしてほしいキャア〜」
口をとがらせて、キスを待つクイーン。
フィナンシェは、頭の中が混乱するものの、キスを拒否する。
「い、いきなりは、無理だよ…」
「じゃあ、何をするキャア?」
「な、何って…。キミは、誰なんだ。この公園には、軍人しかいないはずだから。軍の関係者かい?」
「軍…」
突然、クイーンの表情が変わる。
「軍は、嫌いキャア…。我々を“魔界”から、牢獄送りにした奴らだからキャア…!」
クイーンの全身から、黒いオーラがほとばしる。
「うわっ…」
黒いオーラに耐えられなくなったフィナンシェは、じりじりと後ずさる。
次の瞬間、クイーンと名乗った女性の姿が、紫色の化け物に変わる。
ベヒーモスだ。
小柄な女性サイズの大きさ。
「な、何だ。ベヒーモスなのか…!」
『軍を倒してくるキャア。そうすれば、オオカミ様とずっと一緒に暮らせるキャア…』
化け物と化したクイーンは、そのまま、洞窟を出ていく。
「…」
呆然とする、フィナンシェ。
「ぐわああ…!」
外で、悲鳴が上がる。
慌てて、外に出たフィナンシェは、軍人の小隊を見つける。
見回りを行なっていた小隊だった。
「獣軍人?」
「…大きいベヒーモスがいたのか。いや、少し中型か?」
「討伐に参加しろ。獣軍人…!」
軍人たちは、口々にフィナンシェに言う。
『軍、倒すキャア…』
牙をみせる。
クイーンは、獰猛なベヒーモスだった。
フィナンシェは、頭を一回かしげた後、軍の小隊をかばう位置に移動する。
「キミは、喋るベヒーモスだったのかい…?」
問いかける。
『…』
返事がない。
クイーンも、首をかしげてみせる。
クイーンは、その後、四足歩行で、どこかへ走り去る。
方向は…。
「中型ベヒーモス。基地に向かっているのだろうか…?」
軍の小隊の一人が、つぶやく。
クイーンは、軍事研究基地へ向かったのか。
フィナンシェの耳が動く。
基地が、狙われているのか?
「助けなくちゃ…。軍の人たちを」
フィナンシェは、獣軍人。
何とかできるのは、自分なのかもしれないと思った。
“攻撃力”の高い自分の出番だ、と。




