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S級暗殺者一家の長男に転生したけど、日常的に電流浴びせられるわ飯に毒入ってるわで毎日辛すぎる  作者: 猫養鯛


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 俺はゆっくりとナイフに魔力を流し込んだ。


 黒曜石の刃が魔力を吸収し、微かに脈動する。ヴォイドオブシディアンの結晶構造が魔力と共鳴し、刃全体に力が満ちていく感覚があった。これなら、ガウェインの剣と真正面から打ち合っても折れることはないだろう。


 ガウェインが動いた。

 一瞬で距離を詰め、剣が閃く。俺は咄嗟にナイフで受け止めた。キィンッ、と金属音が響き渡り、衝撃が腕を駆け抜ける。


 ガウェインが剣を返し、今度は下段から切り上げてくる。俺は後ろに跳んで躱す。

 間髪入れず、ガウェインの剣が俺の首筋を狙って横薙ぎに振るわれた。身を屈めて躱し、同時にナイフで脇腹を狙う。だが、ガウェインは半歩下がってナイフの間合いから逃れ、逆に俺の肩を狙って斬撃を繰り出した。


 キィン、ガキィン、シュッ。剣とナイフがぶつかり合い、火花が散り、風を切る音が連続して響く。攻防が目まぐるしく入れ替わり、どちらも一歩も引かない激しい斬り結びが続いた。


 ガウェインの剣は重く、速く、正確だった。一撃一撃が急所を狙った必殺のものだったが、俺もヴァルダード家で叩き込まれた技術で応戦した。相手の動きを先読みし、最小限の動作で防御し、隙を見つけて反撃する。訓練で何万回も繰り返した動作が今、命を繋いでいた。


 ガウェインの剣が俺の顔面を狙って突き出される。俺は首を傾けて躱したが、剣先が仮面を掠めた。白い仮面に亀裂が走る。

 ガウェインの剣が再び顔面を狙った。今度は躱しきれない。俺はナイフで受け止めようとしたが、剣の勢いが強すぎて防ぎきれず、剣の腹が仮面を叩いた。


 バリィンッ!

 仮面が砕け散った。白い破片が宙を舞い、床に散らばる。俺の素顔が、完全に晒された。

 ガウェインの動きが一瞬だけ止まった。ほんの零コンマ数秒の隙だったが、俺はそれを見逃さなかった。


 一気に踏み込み、ナイフを振るう。ガウェインは咄嗟に防御しようとしたが、動きが僅かに遅れている。彼の額には汗が滲み、呼吸が荒くなっていて、疲労の色が濃く表れていた。老いゆえだろう。どれほど技術が優れていても、体力は若い頃と同じではない。不意打ちに食わえ、長時間の激しい戦闘に身体がついていけなくなっているのだ。


 俺のナイフが、ガウェインの右腕を捉えた。

 魔力を込めた黒曜石の刃が、肘の少し上の上腕部を横一文字に切り裂く。鋭い痛みと共に、温かい血が噴き出した。切断された右腕が宙を舞う。

 ガウェインの腕が、床に落ちた。


 カランッ、と音を立てて剣も転がる。老剣士は自分の腕を失ったことを理解し、左手で傷口を押さえた。

 しかも、ナイフには毒が塗ってあった。傷口から体内に入れば、じきに死ぬだろう。


 ガウェインは膝をつき、床に倒れ込んだ。毒が効き始め、もう動けない。呼吸が浅くなり顔色がさらに悪くなっていくのが見えた。

 俺はガウェインから視線を逸らした。もう脅威ではない。


 さあ、あとはエレナだけだ。

 俺はゆっくりとエレナの方を向いた。血まみれのナイフを握り締め、ただ静かに彼女を見つめる。彼女を殺せば、すべてが終わる。


 エレナは、これから殺されるというのに、表情一つ変えていなかった。

 恐怖も絶望も何も浮かべておらず、ただ穏やかに俺を見つめている。まるですべてを受け入れたかのような、諦めとも違う不思議な落ち着きだった。


 対照的に、隣にいる父親は顔面蒼白だった。全身を震わせ、冷や汗を流している。彼は娘の手を掴み、必死に出口へ向かって引っ張ろうとした。


「エレナ! 逃げるぞ! 早く!」


 父親の声は裏返っていた。

 だが、エレナは動かなかった。

 父親の手をそっと外し、ただその場に立ち尽くしている。


「大丈夫、お父様」


 エレナの声は、信じられないほど落ち着いていた。

 父親が困惑した表情で娘を見つめる。


「何を言っているんだ! あの化物が──」


「大丈夫だから」


 エレナは微笑んだ。安らかな微笑みで、すべてを理解しているかのようだった。

 そして、エレナは俺の方を向いた。

 青色の瞳が、まっすぐに俺を見つめる。


「レイス・ヴァルダードくん」


 エレナが、俺の名を呼んだ。

 足が止まった。心臓が激しく鳴り響く。なぜだ、なぜ俺の名を知っている。俺は仮面を被っていたのに。初対面の人間が俺の名を知っているはずがないのに。


 ナイフを握る手が震え始めた。小刻みに震え、止まらない。なぜだ、今まで機械的に殺してきたのに、なぜ今になって震えるんだ。


 そして、エレナが口を開いた。


「どうして──」


 小さな声だった。囁くような、だが確かに俺の耳に届く声。


「どうして、そんなに辛そうなの?」


 俺の心臓が、ドクンと大きく脈打った。

 辛そう? 俺が? 何を言っているんだ。


「もう誰も殺したくないって、叫んでいるように聞こえたから」


 俺は何も感じていない。感情を切り離している。冷徹な暗殺者として任務を遂行しているだけだ。辛いなんて感じるはずがない。そう自分に言い聞かせようとしたが、エレナの言葉が胸に突き刺さった。


「泣きそうな顔してる」


 違う。俺は泣きそうなんかじゃない。涙なんて流れない。感情を切り離している。

 だが、俺の手は激しく震え続けた。ナイフが、重い。まるで持ち上げられないほどに重く感じられる。


 エレナが、一歩前に出た。

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