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初老新米大怪盗の終わりなき探偵事件簿with見習い怪盗の阿部君とゴールデンレトリバーの明智君  作者: バスバスキヨキヨ


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名探偵ひまわりの推理ショー第一幕がようやく終わり……に近づいた

「五十嵐が『神のゲンコツ』をマッサージチェアに隠してから部屋を出た、まで話しましたね。ここから核心に入るような入らないような大事な所なので、しっかり盛り上がってください。あっ、盛り上がるといっても、私語厳禁です。邪魔したら……ヒヒヒ」

 さっさと話せ、と言いたいが……。言ったら、私の入院期間が伸びるだろうな。明智君に伝言を頼んで、明智君の行く末を笑いたいが、明智君もバカではない。私のお願いを豪快に無視するだろう。そして、明智君以外の人たちもバカではないようだ。警部補君ですら、わざわざ口に手を当てて、静かにしているアピールをしている。

 阿部君は、嬉しさ3割、悔しさ5割、怒り2割で、続きを話すことにしたようだ。チラッと警部補君を見てから。これは、お前が目立つのはここくらいなんだから、うっかり声を大にして盛り上がって、私の投げるボールペンの餌食になれば良かったのにと、思ったのだろうか。聞くに聞けないジレンマがあるが、ボールペンといえどぶつけられたくない。特に、阿部君がノーモーションで投げる音速以上の速さで飛んでくるボールペンの。

「間が悪いということは、みなさんの人生でも多々ありますよね。それが、日頃の行いが悪い凶悪犯罪者となれば、さらに確率が上がるように、この世界はなっているのです。ここまで言うと何があったかは分かると思うので、サクサクっと話すとしましょう。そう、五十嵐がマッサージチェアの部屋から出てすぐに、入れ違いで田中太郎さんが入ってきました。ただ、運が良いのか悪いのか、お互いに顔を合わせずにです。そしてそのまま、田中太郎さんは『神のゲンコツ』を眺めるために金庫に直行しました。何度も言いますが金庫には鍵がかかっていないので、金庫の扉を引きさえすれば、そこには『神のゲンコツ』が……ない。ない、ない、ない。盗まれたと、すぐに確信します。まさかマッサージチェアに隠してあるだなんて、田中太郎さんでなくとも思わないでしょうね。私以外には。犯人は身内の誰かだという気持ちが大半を占めていても、田中太郎さんは躊躇なく警察に届けました。もちろん、離婚条件を有利にしたいがためにです。田中太郎さんは、田中奈々さんと五十嵐の関係に気づいていたのでしょうね。なので、外部犯の可能性が高くても、田中太郎さんは家族に相談なんてしなかったでしょうけど。そういうわけで、この時点では、田中奈々さんが立てた殺害計画の第一弾の失敗が確定ですね。それはさておき、田中太郎さんは運が良かった。『神のゲンコツ』が盗まれたり自身の殺害計画が練られていたのにと思った人に説明しましょう。警察から応援を頼まれた名探偵ひまわりが、忙しい合間を縫って捜査にあたってくれたからです。そして、先程も言ったように、あっさりと『神のゲンコツ』を発見します。しかし、先程も言ったかな……まあ、言ったとして、何か裏があると勘ぐるというか確信します。なので、発見したことを隠し、犯人を泳がせることにしました。捜査と称して、田中邸を偵察しようだなんて、決して……」

 あ、阿部君……。私語厳禁だから口にこそ出していないが、みんなの顔が明らかに疑問を抱いているじゃないか。仕方がない。私が迫真の演技をして、みんなの注意を集めよう。その間に、阿部君、なんとか自力で辻褄を合わせておくれ。

「イテテテ……」と私はお腹を押さえながら騒いだ。明智君はなぜか白い目で私を見る。私たちが怪盗だととれるような発言を、阿部君がうっかりしてしまったことに気づいてないのだろうか。それに、まさかとは思うが、私の迫真の演技を白々しく思っているまである。まあいい。明智君以外のみんなは、明らかに私を心配……。いや、私が阿部君に怒られるのを心配しているのかもしれない。命に関わるからな。とりあえず阿部君のために時間を作れたのは間違いないから、良しとしておくか。

 さあ、阿部君、当たり障りのない言い訳をさっさと考えておくれ。嘘をつくのが苦手とか言っている場合ではないぞ。私たちの怪盗生命がかかっているのだからな。

 私のケガがぶり返したのかもと心配して声をかける者がないままに、どれくらい時間が過ぎただろうか。せめてマリ先生が嘘でも私を心配してくれていたなら、みんなの反応も違っただろうに。もしくは、はっきりと「こんな時にふざけない」と叱ってくれたなら、チビっ子たちに笑われて場が和んで、阿部君のうっかり発言も笑いに変えらるかもしれないのに。

 未だに阿部君は顔面蒼白のまま……と思ったところで、明らかに顔に「ピッカーン」が現れた。ふうー。なんとかなりそうだ。だけど、どんな言い訳が飛び出すのか不安もある。頼むぞ、阿部君。我々怪盗団の運命は阿部君の稚拙な言い訳に委ねられているぞ。

「一つ謝っておかないといけないことがあります。うちのバカリーダーが野次馬根性でお金持ちの田中太郎さんのお家を探検したいとか、ぬかしまくりやがったのです。私は、たしなめました。遊びに来たのではないのですから。だけど、バカでも、名ばかりでも、足手まといでも、一応、ひまわり探偵社の社長なんです。意見を検討くらいはしてあげないと、いじけて駄々をこねて捜査のじゃままでします。凶悪犯罪が計画されているのは、名探偵の私には確信があったので、ささいなじゃまでも誰かの人命に関わるでしょう。そこで私は考えました。『捜査』と『探検』の間をとって、『偵察』という言葉を使うことにしたのです。バカなリーダーには、その程度のはぐらかしで十分でした。『偵察』という言葉を知っているのか疑問でしたけど、知ったかぶりが日常茶飯事のリーダーはあっさりと受け入れます。そこから、私は偵察という名の捜査を、バカリーダーは偵察という名の探検を、明智君は両方のお手伝いを開始しました」

 あ、阿部君……。明智君を含めた全員の白い目が辛い……ことはない。慣れているからな。私も随分と忍耐強くなったものだ。阿部君のおかげか。ありがとう……違う違う。これは立派な貸しだからな、阿部君。

「名探偵ひまわりさん、バカな大人のことはどうでもいいから、そこからどうしたの?」

「まずは、関係者に話を聞きに行きました。リーダーは探検をしたがったので、関係者のみなさんが集められいる客間まで、私が道に迷ったふりをしてあげて、適当に田中邸を散策させましたが。それでも、最短距離にわずかに毛が生えた程度です。時間的にも、そこまで無駄にはしていません。どこかの無機質な部屋でダラダラとくっちゃべってなんか……決して、全く、一度たらずとも、本当に、な、な、なかったですう。では、続き続きっと。関係者への聞き取りは順調でした。あのアクシデントがなければ、そこで私がすべてを解決したことでしょう。だけど、またもや、バカリーダーが足を引っ張ったのです」

 と言い終わったところで、阿部君は私を睨んだ。ああ、確かに、あれは私の失敗だったかもしれない。だけど、あの時点ですべてを解決だなんて、絶対にありえない。それに、みんなは忘れているかもしれないが、関係者への聞き取りは、小林が100、私が3、明智君が−1、阿部君が−2だったような記憶が、私にはある。阿部君の記憶では阿部君が98、私が−37、明智君が3、小林が97だろうけど。数が合わないのは、阿部君だからだ。私の計算ミスではないからな。 

 それはそうと、ここは大人しくしているのが無難だろう。なんとなくだけど、阿部君の話の続きでは、私が足を引っ張ったような引っ張ってないような場面になるのだ。言う必要はないと思うが、阿部君なら話すに決まっている。理由は今さらだな。

「いや、リーダーだけを悪者にするのはやめておきますか。元はと言えば、お調子者のリーダーに『神のゲンコツ』を預けた私にも責任はあったのですから。そう、まさかリーダーが見つけた『神のゲンコツ』を容疑者の田中奈々さんに見せるなんて、名探偵ひまわりをもってしても読めなかったのです。みなさんもリーダーをあまり責めないでやってくれますか。田中太郎さんに刺されて死にかけるという十分なバツを受けたのもありますけど、もともとは、この未熟な名探偵ひまわりの責任でもあるのです。だからといってはなんですけど、名探偵ひまわりはさらに成長すると誓わせてもらうので」

「名探偵ひまわりさんがそこまで言うなら。だけど、容疑者の田中奈々さんに『神のゲンコツ』を見せたのは、そんな大きな失敗だったの?」

「そうなんだよね、チビっ子諸君。『神のゲンコツ』を利用しての田中太郎さん殺害計画がせっかく消滅したというのに、すぐに可能性を再点灯させたようなものだから。しいてリーダーをフォローするなら、見つかった『神のゲンコツ』を田中太郎に無事に返したところで、どうせ近いうちに田中奈々さんは新たに田中太郎さん殺害計画を考え実行したでしょうけど。どちらにしても、ここからは田中太郎さん殺害計画の第二幕になるので、一度整頓しておきましょうか。ねえ、田中奈々さん?」

「ふんっ……」

「賛成のようですね。では、まずは、『神のゲンコツ』が金庫から五十嵐さんの手に渡ったルートですけど、合ってますか?」

「間違いありません……と言うと、本気で思ってるのかしら? バカバカしくて、これ以上付き合ってられないわね。五十嵐さんがどうにかして金庫から取り出し、何らかの理由でマッサージチェアに隠したに決まってるじゃない。そんな妄想を聞かせていないで、私が関わっているという証拠を見せなさい。ないなら、帰らせてもらうわよ。どうせ、この先もあなたの妄想を聞かせられるだけなんだから」

 阿部君は、その言葉を待っていた。その言葉とは、真犯人が苦し紛れにいう「証拠を見せろ」だ。歴代の名探偵たちが好きな言葉ベスト10に入るくらいの、名ゼリフなのだから、阿部君も大好きに決まっている。そして、阿部君は分かりやすく舞い上がった。

「フフフフフフフフフフフフ……」と阿部君の出せる一番の低音で不気味に笑いながら、赤黒く変色した太郎丸の日記帳を高々と掲げて、田中奈々に見せたのだ。背伸びまでしているので、田中奈々にしてみたら見ずらいだろう。ちなみに、太郎丸の日記帳は阿部君が腰に忍ばせておいた。

 つい先日、私が同じことをした時は、阿部君はあんなに引いていたというのに。なおかつ、軽蔑するように私を見て、蔑むような暴言まで吐いたじゃないか。私は、逆に、引いて軽蔑して蔑んでやろうとは思わない。なんだか素直に嬉しいだけだった。

 だけど、私を含め、あれが何かを知っている者はいいが、知らない者もいる。田中奈々は、もちろん知らない。持ち主の太郎丸ですら、知らない。私の血で赤黒くおどろおどろしく成り果てているのだから、当然だろう。

 なので、この親子は、証拠を出されてではなく、阿部君の演出に言葉が全く出ない。簡単に言うと、引いている。人として当たり前の反応だろう。チビっ子たちには、容態が急変する恐れがあったので、事前に見せて説明していたのだろう。なので、引いているのは、約2名だけだ。その2名にも事実を早く知らせてあげればいいのにと思うが、あれが何かを知っている者は、口をつぐんでいる。

 阿部君に成り代わって説明すると、ものすごく怒られ執拗な嫌がらせにあうのが目に見えているからだ。だって、阿部君は、引いて顔色も悪くなっている田中奈々と太郎丸を見て、嬉々としてのお手本のようなのだから。

 だけど、証拠を見せろと言って出されたものなのだし、阿部君がどう見ても気が狂ったようではないので、田中奈々は負けじと口撃をする。なかなかやるじゃないか。もう10秒は何もできないと思っていたが、年の功なのか、ホテル王の妻を長年やってきて数々の修羅場をくぐり抜けてきたからなのだろう。ちなみに、太郎丸は立ったまま気絶寸前だ。小林が支えている。さすがの田中奈々も、太郎丸を思いやるほどの余裕まではなかった。

「私は、証拠を見せなさいと、言ったのよ。バカ丸出しの狂人を演じなさい、だなんて言ったかしら?」

「これが、その証拠なんですけど……。ねえ、太郎丸?」

 太郎丸は返事をしない。阿部君を無視する度胸なんてあるはずがない。日記帳が自分のものだと分からないからでもない。気絶寸前だったのが、気絶中になっただけだ。小林が変わらず支えているので、立っているが。しかし、太郎丸が蘇生するのを待つ時間なんてない。

「明智君、すまないが、太郎丸を起こしてくれないかい?」

「ワッオー」

 明智君は嬉しそうに太郎丸に向かってくれた。だけど、明智君はがっかりして帰ってきた。太郎丸のようなチキンは防衛本能が人一倍強いのかもしれない。明智君がどんな暴力を使って起こそうか楽しんでいる気配を敏感に感じとり、太郎丸が明智君のドロップキックをギリギリかわしたのだ。ということは、太郎丸を支えていた小林に誤爆したのか言えば、それもまた違う。それなら、明智君はここまでがっかりしていなかったことだろう。マリ先生に撫でられて、やっと立っているくらいなのだから。

 なんと、小林までも明智君のドロップキックをかわしたのだ。元エリートだけあって、護身術も大したものだというのもある。そこに、私たちとの付き合いと、私と明智君がコソコソ話していたことから、身構えていたのだろう。ただ、かわしたのが正解かどうかは、私には分からない……とだけ言っておくぞ、小林。

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