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初老新米大怪盗の終わりなき探偵事件簿with見習い怪盗の阿部君とゴールデンレトリバーの明智君  作者: バスバスキヨキヨ


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遅ればせながら、推理ショーに太郎丸が登場

「田中奈々さんが考えた作戦は、こうです。怒り狂った田中太郎氏が五十嵐に襲いかかったところを、五十嵐が上手くいなしつつ、田中太郎氏の勢いを失わないように、どこか硬い所に頭をぶつける。シンプルですけど、正当防衛を成立させる確率が最も高いですね。足腰の弱っている田中太郎氏相手なら、そんな難しくはないでしょう。そして、田中太郎氏を怒り狂わせるのは、簡単です。五十嵐がマッサージチェアでくつろぎながら、田中太郎氏が大事にしている『神のゲンコツ』を眺めていれば、田中太郎氏は五十嵐に向かって猪突猛進です。後は上手くタイミングを見計らって、サッ、スッ、ズコーン、って感じで田中太郎氏をあの部屋にあるガラスケースにでも叩きつければ、オーマイガーですね。問題は、五十嵐の手にいかに『神のゲンコツ』を渡らせるかです。田中奈々が直接、お願いねという感じで五十嵐に渡せば、明らかな共犯であり、黒幕そのものです。恵まれても、従犯ですね。でもまあ、顔が黒幕顔なので……」

「小娘、言わせておけば。ぶん殴るわよっ!」

 おおー。いいぞ、田中奈々。頑張れ。日頃より貯めまくっている仕返し貯金を、私に代わって下ろしておくれ。私の貯金なのに、私には下ろし方が分からないのだ。今だけは、容疑者だとか捜査官だとかは忘れよう。全治3日間までのケガなら、この暴力に関しては、私の探偵生命を賭けて無罪になるように、警察にかけあってあげるぞ。

「名探偵ひまわりに指一本でも触れてみろっ! 僕たちが許さないからな!」

「ありがとう、チビっ子探偵たち。いつの日か、私と一緒に、世界中の悪人を成敗しましょうね」

「ふん、この茶番劇をさっさと終わらせなさい。お遊戯会になんて付き合ってられないわ」

 うー、クソガキどもめ。と、心底思いながらも、田中奈々を阿部君に見立てて、私は冷たく言い放った。阿部君がよぎらなかったなら、もう少しは優しく言えたかもしれない。喋っている暇があるなら、一撃でも阿部君にお見舞いしなかった、あなたが悪いのですよ、という意味もあったかなかっただけどな。

「田中奈々さん、これは茶番劇でもお遊戯会でもありません。殺人を立案するだなんて重大事件です。そして、子どもたちは毎日を真剣に生きていて、真剣に探偵に憧れていて、この機会を真剣に活かそうとしています。あなたの白黒がはっきりするまでは、この場からの退場は許されません」

 子どもたちは、私に対しては掛け声をくれなかった。ただ、憧れの眼差しを向けただけだ。間違っても、なんだいたのか、という視線ではないと信じる。聞くのは野暮だから、意地でも聞かないし、阿部君が続けるので、しばらくは大人しくしておくか。

「オホンッ……。田中奈々さんが『神のゲンコツ』を五十嵐に直接渡さなかった、までは話しましたね。マッサージチェアに田中奈々さんが前もって隠しておくのも、なしです。普通に考えたら、そこに隠せるのは田中奈々さんだけですからね。あくまでも自然な流れで、『神のゲンコツ』は五十嵐の手に渡るというのが重要なのです。どう見ても田中奈々さんが関与していないと思われるような形で。そんな方法があるのでしょうか。あったのです。田中奈々さんにとっての救世主が、モグラたたきゲームのモグラのように……プッ……ププッ……」

 まずい。モグラたたきゲームの穴から出てきた時のモグラの無様で面白い顔が、あまりに太郎丸にピッタリだったのだろう。私は、ここで太郎丸の名前が出てくるのは知ってるし、阿部君の気持ちは分かるから、いくらでも待てる。だけど、私以外のみんなは、阿部君が壊れたと思うに違いない。チビっ子探偵団は何と声をかけていいのか分からないくらいに、明らかに動揺しているし。

 だから、その比喩表現だけはやめておけと忠告したんだぞ。推理ショーの練習でだって一度も堪えられなかったじゃないか。それを、言い得て妙の表現をせっかく思いついたから、どうしてもと。本番では緊張感もあるから絶対にスムーズに話せると自信満々に阿部君が言ったから、私は何も対策を練ってなかったんだぞ。

 うーん……出番にはまだまだ早いが、隠し玉の太郎丸においで願おうか。みんなも太郎丸の顔を見れば、阿部君の気持ちが分かって、温かい気持ちでゆっくり待てるに違いない。母親の田中奈々でさえ。いや、むしろ、阿部君と同じように笑って、推理ショーは休憩かもな。まあ、ほんの5分程度だろう。

 よし、明智君に頼んで、太郎丸監視中の小林に伝えてもらおう。そもそも、太郎丸って、隠し玉っていうほどの重要人物には程遠い雰囲気だしな。ここぞという場面で顔を出すと、みんなががっかりする。石をぶつけるまであるだろう。隠し玉は、あくまでも太郎丸の日記帳なのだ。それさえ出し惜しみしておけば問題ない。

「明智君、明智君、小林に太郎丸を連れてくるように言ってきてくれるかい?」

「…………」

 えっ! 明智君がうたた寝をしている。こ、このバカ犬……。どうしよう。無理やり起こすと、私のケガが完治していようがいまいが、暴力を振るう確率がまあまあ高い。再び私は瀕死だ。明智君を起こすのを、マリ先生に頼もうか。マリ先生に明智君が襲いかかりはしないが、代わりに私に八つ当たりするだろう。仕方がない。このまま明智君を膝に抱えながら、小林と太郎丸が待機している部屋まで自力で行くとするか。時間はかかるが、それでも阿部君が笑い飽きるよりは圧倒的に早いはずだ。

 と決断するかしないかで、マリ先生が私に話しかけてきた。

「小林さんに、太郎丸君を連れてくるように、言ってくればいいのね? 私が行ってくるから、明智君はもう少し寝させてあげて。私の家に泊まりにきた時は、口にこそ出さなかったし、出したところで私には分からなかったけど、リーダーの体が心配だったようね。食欲はあまりなかったし、なかなか寝付けなかったみたいなの。それが、リーダーの膝の上なんかで、こんな安心した顔で気持ちよさそうに寝ているんだから……」

「あ、明智君……」

 私の答えを待たずに、マリ先生は行ってくれた。そして1分もしないうちに、小林と太郎丸を連れてきてくれた。太郎丸を知っている者も、太郎丸が何者かを知らない者も、太郎丸を見てなんとなく気づいたようだ。阿部君が笑い壊れている理由に。と同時に、阿部君が語った『田中奈々の救世主』がこの太郎丸だとも思ったことだろう。なので、しばらく、大人しく待とうと自己判断してくれた。

 阿部君はというと、『モグラたたきゲームのモグラ』が実際に現れたことで、さらに拍車がかかった。太郎丸の出現も太郎丸が笑われていることも気に入らない田中奈々が鋭い目で睨んでいても、全く気づかない。田中奈々は、本当は口に出して阿部君を非難したいところだ。だけど、それに対して、阿部君が笑っている理由を説明したら、太郎丸が傷つくのは明白なのだ。阿部君のようなタイプは口を濁さず、喜んで正確に話すと、田中奈々は理解しているようだから。なので、太郎丸の母親で容疑者の田中奈々までもが、大人しく待とうと決断した。

 ただ、今の今まで大人しく寝ていた唯一の見学者が、言い訳を発しながら唐突に起きた。言うまでもなく明智君で、言い訳だと感じたのは、私の勝手な想像だ。だけど、当たっていると思う。阿部君以外の人たちがザワザワしていたところから大人しく待つを選択したことによって、さらに大きくなった阿部君の笑い声が際立ったのだ。寝ていた明智君の耳には、酔っ払って楽しそうにお仕置きをする阿部君の高笑いに聞こえたことだろう。

 それを証拠に、寝ぼけている明智君は阿部君の前まで一目散に走っていき、明らかに謝っている。阿部君は、名探偵ひまわりの推理ショーで明智君は眠っていたのだと、予定外に知ってしまった。事実だから仕方がないにしても、寝ぼけていなかったなら、阿部君に知られることはなかっただろうに。自ら暴露してしまうとは。今度は、私が笑うのを堪えられなくなるじゃないか、明智君。じゃなくて、明智君が正座で説教されるのは、かわそうだなー、ヒヒヒ。

 でも、そんな寝ていただけの明智君は、推理ショーに貢献してくれたのだ。明智君の謝罪をきっかけに、阿部君が正気を取り戻し突如として真顔になる。明智君に小声で一言二言話すと、みんなに向き合った。明智君はうなだれながら、私の膝の上に戻ってきた。もう寝ないとは思うが、説教は確定しているのだから、開き直って我慢してまで寝ないようにはしないだろう。それが、明智君だ、というのは今では周知の事実だろう。

「では、続けますね。ああ、そうそう、知らない人もいると思うので、そちらの変顔モグラは、田中太郎丸君です、プッ。そして、私が先程言おうとしていた、田中奈々さんの救世主です。あっ、田中奈々さんもモグラ丸……太郎丸君も、まだ何も発言しないでください。私のじゃまをすると、警視長にかけあって、本名を『ブルジョアモグラ丸』にしてもらいますよ。そんな戸籍をいじるなんて不可能だと思うなら、試しに私に喧嘩を売ってくださいね。分かりましたか、太郎丸君?」

「…………」

 太郎丸がバカでも、阿部君の誘導には引っかからなかった。ビビって声が出なかったとも言えるが。どちらにしても、本名『ブルジョアモグラ丸』は実現しなかったのが、重ね重ね残念だ。阿部君も同様で、大ぴらに舌打ちをしてから続ける。ここからは太郎丸に敬称をつけないというささやかな嫌がらせは決定事項だ。太郎丸はちっとも悪くないが、誰も阿部君をたしなめないだろう。

「チッ……チッ、チッチッ。太郎丸がなにゆえ田中奈々さんの救世主になりえたのか説明しましょうか。偶然なんですけどね。なので、太郎丸には、この時は田中奈々さんの手伝いをするつもりなんてありません。まして、田中奈々が田中太郎を殺そうとしているなんて、想像すらしてなかったでしょう。とはいえ、後々、太郎丸も重大犯罪に手を染めそうになります。幸か不幸か、チキンな面を存分に発揮したので、未遂に終わりましたが。チキン丸君の犯罪は、また後で説明しますね。まずは、『神のゲンコツ』が五十嵐の手に渡ったルートを解明しましょう。あっ、太郎丸だった。チキン丸君ではなく」

「…………」

 阿部君、やりすぎだぞ。チキン丸……じゃなくて、太郎丸のようなやつは直接はかかってこないが、影でこそこそと全力で仕返しをするタイプだからな。大丈夫か。後で、阿部君の恐ろしさを正確に太郎丸に教えてあげたら、阿部君には関わらないようにしてくれるだろう。いや、阿部君の声が聞こえないように耳に手を当ててるくらいだから、そんな必要ないか。だから、何も言い返さなかったのだな。太郎丸が長年かけた鉄壁の防御方法なのだろう。阿部君もそれに気づいてるから、言いたい放題なのだろうな。もしかしたら、母親である田中奈々が息子の悪口を言われたことで、感情的になるのを期待しているのかもしれない。違うみたいだ。単純に悔しそうな顔をしている。『ブルジョアモグラ丸』への改名の件は、阿部君と太郎丸の間ではまだ有効なのだな。太郎丸は阿部君から促されるまで無言を貫くだろう。

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