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初老新米大怪盗の終わりなき探偵事件簿with見習い怪盗の阿部君とゴールデンレトリバーの明智君  作者: バスバスキヨキヨ


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名探偵ひまわりの推理ショーがいよいよ開幕。ふうー……

 そして3日後、マリ先生の許可も出たので、名探偵ひまわりの推理ショーが始まろうとしていた。それでも完治にはほど遠いので、私は車椅子の上で成り行きを見守るだけだ。体は本調子でなくとも、頭脳は常に明晰なので、何の問題もないだろう。阿部君が言葉に詰まっても、前回同様に明智君が言伝係になるからだ。

 まあ、阿部君も2回目だし、筋書き通りに運ばなくても、臨機応変に動いてくれるだろう。怖いのは、私が田中奈々の落とし方を教えた時に、あからさまに「6対4の6が疑」寄りの半信半疑だったことだ。臨機応変という名の敵前逃亡を実行するかもしれない。明智君を連れて。

 残された私は「6対4の6が信」寄りの半信半疑を抱えながら、たった一人で田中奈々に立ち向かえられるのだろうか。切り札は、あいも変わらず太郎丸の日記帳だけという状況で。ちなみに、中身は未確認のままだ。私一人で、天下無敵のハッタリが、果たして発動されるのだろうか。私の盛り返し次第ではいつでも代わりますよというスタンスで、壁の向こうで待機してくれているように願おう。阿部君が美味しいところどりをしても、私一人で戦うよりはいい。我々怪盗団兼探偵団は、阿部君と明智君と私の3人が揃うと、計り知れない奇跡が起こるのだから。

 私は阿部君を信じるぞ。敵前逃亡はしても、主役の座を奪うために、壁の向こうか天井裏で虎視眈々さんになっていると。そして、私が立てた田中奈々自白計画もなし崩し的に成功しますように。

 ああ、集められたメンバーを一応紹介しておこう。勝ち負けに関わらず、阿部君はギャラリーを好むので、参加が可能な関係者には全員集まってもらった。阿部君と明智君と私と容疑者の田中奈々以外では、マリ先生、警部補君、トラゾウ、それからチビっ子探偵団の面々だ。チビっ子探偵団は10名……こんなにいただろうか。さては他の病室の子供たちも見学に来たようだな。みんな、トラゾウの友達のようだし。邪魔になるどころか、私たちにはプラスにしかならないから大歓迎だ。

 関係者なのに招集されていない人もいるが、それぞれ理由はある。警視長は普通に所要があった。小林は別の場所で、私の隠し玉を監視中だ。隠し玉は……内緒にしてもさほど盛り上がらないか。太郎丸だ。そう、日記帳の持ち主だな。使い方だけは内緒にしておこうか。使い方が定まってないのではと、思わないでくれるかい。そんな声が聞こえてきたら、涙が出るほどに悲しいぞ。

 というわけで、名探偵ひまわりの推理ショーの準備は万端だ。ああ、そうそう、田中奈々が行方をくらますかもと心配してた人たちも少なからずいたと思う。阿部君と明智君によって病院を追い出された警部補君は、よほど堪えたのだろう。連日真面目に監視をしていたようで、無事に今日を迎えられた。

 そもそも田中奈々に逃亡する気がなかったのかもしれない。有罪にならない自信が満々なのだろう。容疑者にされて不快だなんて露ほどもないように見えるし。逆に楽しそうにしているくらいなのだ。私たちの茶番を見にきましたよと、態度はもちろん、言葉でも表していた。

 その方が落としがいがあるものだと、ほくそ笑んだのは私だけだ。阿部君は私の計画を疑っているのだから、あからさまに動揺を爆発させる。でも、それが良かった。狼狽え涙目になっている阿部君を見て、田中奈々は逆に何かあると思ってくれたのだ。それはそうだ。本当に自信がないなら、普通は主役となってわざわざ推理ショーのようなバカげたイベントなんてしない。

 だけど、名探偵ひまわりは推理ショーが大好きなのだ。推理ショーがあるから特別捜査官を引き受けたと、言っていいくらいだ。それに、探偵としては一回中一回、怪盗としては5、6回中5、6回、なんだかんだで10割の確率で成功している我々怪盗団兼探偵団だ。自信も根拠もなくても、勝って終わるだろうと漠然とした結末が見えなくもないのだろう。

 涙目はすっかり乾き、ハッタリという名の完璧に武装された鎧に身を包み、阿部君は力強く開会宣言を行った。

「お集まりの皆様、いよいよ名探偵ひまわりの名推理ショーの開幕となります。楽しみにしておられた方がほとんどでしょう。そう、容疑者の田中奈々さんを除いては。今言ったように、容疑者は一人なんです。一般的な推理ショーは複数の容疑者から、ずばり犯人を特定するのが常です。一人しかいないなら、犯人は決まっているじゃないか、なんて思わないでください。嬉しいことに、唯一の容疑者が、なかなかの曲者でひねくれ倒しているのです。なので、そんなわがままバカ女が、私の名推理で素直になる様を、みなさまにご覧に入れましょう」

 おおー、なかなかの前口上じゃないか。二回目だし数百回練習したとはいえ、所々にアドリブも入れて、十分に及第点だぞ。今日は安心して見ていられるかもしれない。私と伝達係の明智君の出番がなさそうだな。

 明智君もそう思ったのか、車椅子に座っている私の膝に乗ってくつろいでいるし。重いし暑苦しいだなんて、ないこともないが、落ち着くし嬉しいの方が圧倒的に大きい。我が家兼アジトでは、いつも一緒の部屋で寝ていた明智君がいないと、やはりどことなく寂しかったもんな。明智君は、明智君の判断でマリ先生や阿部君の家に泊まりに行っていたが。

 それはそうと、田中奈々が無表情になっているのが気になる。まあまあ侮辱されたはずなのに。阿部君にしたら、物足りないどころか、苛ついているかもしれないぞ。さらに、煽りそうな、いや、煽るな、これは。どんな卑劣で複雑な煽り方をするのか見ものだぞ。

「容疑者の田中奈々さん、見せ場を作るために、頑張ってあらがってくださいね」

 え? なんか、煽ってるというよりは、お願いしているようだぞ。逆に苛つくのだろうか。いや、そうでもないな。無表情のまま、阿部君の問いかけに何も答える素振りがない。阿部君としては無視が一番堪えるというのに。ほら、田中奈々、今からでもいい。反抗的な暴言を吐いて、阿部君を喜ばせておくれ。せめて、態度だけでもいいから。と、心の中で呟きながら目で訴えていても、何の効果もないか。

「明智君、せっかくまったりしているところをすまないが、田中奈々にさり気なくクシャミの一つでもやってきてくれないかい?」

「ワンワン」

 仕方ないなあという感じを全身で表しながらも、明智君は嬉しそうだ。私と阿部君の期待と己の楽しみを一身に背負い、田中奈々のもとに向かう。不安といえば、そんな簡単に意識をしてクシャミが出るのかどうかだ。しかし明智君はやってのけた。

 田中奈々の前まで行くと、田中奈々に考える間も与えず、「ワーックショーン!」と……言い放った。どうやらクシャミは出なかったようだ。でもなんとなくクシャミに聞こえなくもなかったし、何より効果てきめんだった。そう、あからさまに田中奈々はカチンときたのだ。

「このバカ犬! ムチで百叩きしてあげるから、ちょっとそこで待ってなさい!」

「オホンッ……。田中奈々さん、そんなことをすれば、あなたに悲惨な末路が訪れますよ。田中太郎氏殺害計画立案罪に動物愛護法違反というとてつもない重い罪が加算されるので、間違いなく執行猶予はつかないですワン」と、阿部君が嬉しそうにスラスラと言い放った。明智君に感謝の意味を込めて手を振りながら、私には褒めて使わすを態度で表すために親指を立てて。

 みんなの視線を感じたのか、田中奈々はすぐさま、お決まりの無表情を作る。そこに、明智君がひと手間を惜しみなく加えた。振り向きついでに、田中奈々の足を踏んづけ、さらにグリグリとねじって圧力を加えてから、その上で反動をつけて勢いよく私のもとに戻ってきた。

 大型犬とはいえ、所詮、ワンちゃんの明智君だ。体重をかけられたところで、そこまでは痛くないが、屈辱的だったのだろう。田中奈々は「バカ犬ー!」と言いながら、両手の中指を立てる。最初に見た時は絶世の美女かと感じたのに、今はただの鬼夜叉にしか見えなかった。

 阿部君はすぐにでも推理ショーを再開したいだろうに、笑うのを堪えられないようだ。なかなか言葉が出てこない。阿部君、そんな時は気の済むまで笑った方がいいぞ。私は堪える方を選択したが。なぜなら、私に釣られて阿部君が、阿部君に釣られて私が、という風に笑いの連鎖が収まらないのだ。推理ショーが無期延期になるまである。

 阿部君、今だけは私や明智君を見ないでくれよ。特に、生まれてこのかた堪えたことのない明智君を。

 私の期待に応えてくれた阿部君は、ひと笑い、ふた笑い、さん笑いですっきりしてくれた。推理ショーはほんの少しの遅延で再開となる。

「忙しい中みなさんに集まってもらっているので、どんどん続けますね。事の始まりは……そう、あれは私が5歳の頃に観た『名探偵ホームズまつり』でした。ホームズの前には誰もいないけど、ホームズの後には私が……」

「明智君、すまないが、阿部君が探偵に憧れた理由は省いて今回の事件から話してくれるように、低姿勢で頼んできてくれるかい?」

「ワー……」

「頼むよ、明智君。このままだと、阿部君が悦に浸るから、昼ごはん抜きになってしまうぞ」

「ワッ、ワオワンワワワンオンオンワオン。ワッオー!」

 まるで瞬間移動をしたかのように、明智君は阿部君の前に立ちはだかっていた。私を含めたこの場にいるみんなは驚いただろう。だけど、それ以上に、明智君の役目に期待したに違いない。誰もが昼ごはん抜きは嫌だからな。

「何、明智君? 今いいところなんだから、じゃましないの」

「ワッワンー。ワオワーオーワンオンオワオワン……」

「はいはい、分かりましたよ。リーダー、約束は守ってくださいよっ!」

 えっ? 明智君は何と言って説得したんだ? 明智君を問いただしたところで、どうせ分からないしな。まあ、私にしたら大したことではないだろう。とりあえず今は気持ちよく返事しておくか。

「私はできない約束はしない」を合図かのように、阿部君は、今回の事件まで阿部君の半生を一気に飛ばしてくれた。阿部君のことだから、怪盗活動の件も話したに違いないので、私は心から安心したことは言うまでもないだろう。

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