↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初老新米大怪盗の終わりなき探偵事件簿with見習い怪盗の阿部君とゴールデンレトリバーの明智君  作者: バスバスキヨキヨ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/58

病院関係者には絶対に逆らうな

 とはいえ、解決できなかったなら、名探偵ひまわりは私に八つ当たりする。それはそれは言葉にするのも恐ろしい凄惨な八つ当たりだろう。うん、絶対に田中奈々にお縄をかけてやる。という強い意志だけは持っておこう。

 しかし、太郎丸を早々に帰したのは失敗だったかもしれない。もっと何らかの情報を引き出せたかも、とかではないぞ。目が覚めたはいいが、寝たきり状態なので、何もできないから退屈だ。太郎丸をからかって遊ぶのもありだったかもしれない。少しでも動けるなら、トラゾウと遊ぶのは言うまでもないが。

 もう一度寝るのにも、全く眠くないし、思ったよりも意識がしっかりしている。刺された所がなんとなく痛みを感じてるから、もしかしたら鎮静剤が切れたか、そろそろ使わなくしたのかもしれないな。あれから随分経ってるのだから、ありえる話だ。

 試しに動いてみようかな。まずは、この鬱陶しい点滴を外して……マリ先生にめちゃくちゃ叱られるか。まあいい。暴言はあっても暴力はないだろう。たぶん。

「トラゾウ、マリ先生には、寝ている間に自然に取れていたと、口裏を合わせておくれよ」と言いながら、私は点滴を自ら外した。トラゾウは止めようとしたが、間に合わない。口が「アッ……」という形になっただけで、何も言わなかった。ごめんよ、トラゾウ。トラゾウの名誉のために言っておくと、私とトラゾウがマリ先生に怒られるのを嫌がったわけではない。純粋に私の体を心配しているだけだ。

 大げさな言い方をすると、もう賽は投げられたのだ。私はゆっくりと上体を起こしてみる。うん、痛みも増さず、いたってスムーズだ。

 次は、ベッドから降りて立ち上がってみよう。と決心してから、心の準備に3分ほどかかる。私はスーパースローモーションでベッドから降り、床の上で立ち上がった。

 おおー、何の問題もない。痛みも増してないから、傷口も開いてないようだ。よし、天下無敵の普段の私より少し劣っている程度だぞ。

「トラゾウ、散歩に行こう」

「……」

「私なら大丈夫だよ。ゆっくり歩くし。昨日久しぶりに外出したチビっ子探偵団に知恵熱が出てるかもしれないから、様子を見に行くだけだ。トラゾウも気になるだろ? だけど、トラゾウは私の警備という重要任務中だから、私が行かないと、トラゾウも行けないじゃないか」

「ガオガオ、ガオンッガオ」

「よし、しゅっぱーつ!」「ガオーン!」

 私はリハビリを兼ねてゆっくりと歩いて、小児科病棟へと向かった。優しいトラゾウは私を急かすことなく、同じペースだ。病室を出た時は外はまだ薄暗かったのに、小児科病棟まで半分のところまで来たころには、お日さまが堂々と顔を出していた。それに合わせるかのように、いつしか他の入院患者の人や看護師さんもちらほらと見かける。すると、すれ違うみんながみんな、友達のようにトラゾウに挨拶してくれるのだ。私は嬉しくもあり誇らしくもあった。

 のんびりと良い気分で散歩できたのは、小児科病棟の入院患者用の大部屋に来るまでだった。明らかに雰囲気が違うのだ。私は普通に悪い方に勘を働かせてしまう。チビっ子たちの症状が悪化したに違いない。

 外出させたのは無謀だったのだろうか。しかし、何もしないで立ち去るわけにはいかない。治療に関する協力はできないが、せめて謝るべきだろう。何かできることがあるかもしれないし。

 意を決してノックをしてから入っていくと、私の予想は良い意味で裏切られた。見かけてすぐの感想としては、安堵というよりは困惑だったが。それでも、すぐに理解する。

「どうしたの、みんな? 今日の検査は全然駄々をこねないじゃないの」

「だって、しっかり検査してもらって、きちんと治療してもらうんだもん。そして少しでも早く退院して、ひまわり探偵社に雇ってもらうんだ」

「そうなんだ。ひまわり探偵社って、この前、みんなが相撲で何回も投げ飛ばした、あの面白い顔のおじさんが社長をしてるんでしょ? 陰湿な仕返しをされるかもしれないわよ」

「大丈夫だよ。あんなへなちょこ……あっ、リーダー兼社長、おはよう。体の方は、もういいの?」

「あ、ああ。へなちょこなりに、回復力はなかなかものだからな」

「子供がちょっと陰口を言ったからって、そんな嫌味で返さなくても。本当に陰湿だよね。陽気な面白い顔してるのに」

「面と向かって悪口を言うなんて、いい度胸じゃないか。よし、一切の手加減なしで相撲勝負だ」

「なにバカなことを言ってるんですか! あなたは生死の境を彷徨ってから、大して時間が経ってないんですよ。手術中に心臓が何回止まったと思ってるんですか」

「ええっ! し、心臓が? 私は本当に死にかけたのですか?」

「はい。死にかけたし、普通に頑張って手術をしても、あなたは死んでたでしょうね。だけど、あのいつもは冷静沈着なマリ先生が感情をあらわにして、それを許さなかった。神頼みもしていたわね。他のスタッフが何度も諦めてるのに、生き返るまで一人でも手術をする雰囲気だったわ。結局、マリ先生の執念にみんなが心を打たれて、各々が今まで発揮したことのない能力と技術を引き出せたの。もう一度やれって言われても、できるかどうかは自信がないけど。それはそうと、それで、ようやくあなたは息を吹き返したのよ。だから、自分の体をもっと大事にしないとだめじゃないの。トラゾウも、一緒になってお散歩なんてしてないで、このバカを止めないとだめじゃない」

「ガオ……」

「トラゾウが悪いんじゃ……」

「いいえ。トラゾウは、病院にいる時は、スタッフの一人なんです。それも優秀な。そして、あなたの命はは、みんなで繋ぎ止めた大事なものなの。元通りの体に戻るまでは、一切の妥協を許しません。トラゾウ、分かったわね?」

「ガオ、ガオンガオ」

「トラゾウを怒らないでよ、看護師のおばさん」

「お、おば……」

「みんな、君たちの将来の社長として言わせてもらおう。こうやって、その人に寄り添って怒ってくれる人って、本当に大事な存在なんだぞ。良かったな、トラゾウ。素晴らしい居場所が見つかって」

「ガオッ!」

「よし、決めた。今回の『名探偵ひまわりの推理ショー』は、ここでやるぞ」

「やったー!」

「何勝手なことを言ってるの! ここは病院なのよ。それも、小児科。子どもたちに……」

「大丈夫です。おそらく、病院のえらいさんは許可してくれます(この病院にではないにしても、なにせ、医療団体に多額の寄付をしたのだからな)。それに、容疑者は非力な女性なので、逆上して何かしたとしても、すぐに抑えられます。そして、何より、いざとなったら、正義を行うために、この純真な子供たちの協力が必要となるのです」

「ま、まあ、そこまで言うなら。だけど、きちんと許可だけは取ってくださいね。そして子供たちの体調を最優先にすること。それから、あなたはすぐに自分の病室に戻って体を休ませなさい」

「はい。ありがとうございます。行くぞ、トラゾウ」

「ガオ」

「面白い顔のおじさん……じゃなくて、リーダー、ありがとうー!」

 私が病室の近くまで戻ってくると、すでに阿部君と明智君が来ているようで、マリ先生と大きな声で私の悪口を言っているのがはっきりと聞こえてきた。どうせこいつらは私がいようがいまいが気兼ねなく悪口を言うので、私は全く躊躇なく入る。全く予想を裏切らず、私が何の予告もなしに入っても、何ら後ろめたい感じを出すことなく話している。ただ、マリ先生だけは、私を一目見るや、ものすごい形相で怒ってきたが。

「こらっ! バカリーダー、何考えてるの。死にたいの? なら、私が優しくあの世に送ってあげるわよ」

「すいません。なんとなくもう大丈夫かと。トラゾウはもう看護師さんに叱られたので、叱らないでやってください」

「そう。トラゾウは反省しているようね。いいわ。とりあえずバカリーダーは……」

「あの、バカをつけるのは……」

「あ゛あっ!」

「すいません、すぐにベッドに」

「イヒヒヒヒヒ」「ワオオオオオ」

 私がベッドに横になると、マリ先生は優しくあの世に送ることなく点滴を付け直してくれた。点滴には毒物なんて……あるわけないと思いつつも、冗談でも確認できない。せめて点滴の存在を忘れるためにも、阿部君と明智君に話しかける。

「阿部君と明智君は見舞いに来てくれたんだろ?」

「あっ、はい、たぶん。警部補君が田中奈々の監視に飽きたみたいで、さぼりたいがために、全く必要ないのにまた入院したんですよ。それを知った警視長が、警部補君を強制退院させてくれと、私と明智君にお願いしたので。そのついでに、リーダーのお見舞いでもしようかしまいかと……。ねえ、明智君?」

「ワン」

「まあ、あのバカも一時は死の淵で迷子になっていたんだ。少しくらいは大目に見てやっておくれ。強制退院はいいが、暴力はだめだぞ」

「えー」「ワー」

「じゃあ、あのバカが渋ったら、各々一発だけだぞ」

「はいっ!」「ワンッ!」

「終わったら、またここに来ておくれよ。推理ショーの打ち合わせをしたいから。ちなみに、開催場所は、田中太郎の屋敷から、この病院の小児科病棟に変更したぞ」

「はーい。行ってきまーす。速攻で戻ってくるので、マリ先生とイチャイチャしている時間はそんなにないですからね」

「ひまわりっ!」「阿部君っ!」

「イヒヒヒヒヒ」「ワオオオオオ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。