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初老新米大怪盗の終わりなき探偵事件簿with見習い怪盗の阿部君とゴールデンレトリバーの明智君  作者: バスバスキヨキヨ


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田中奈々の宣戦布告?

「た、田中奈々さん?」

「…………」

 田中奈々が立っている。私が疑っていると嗅ぎつけて、何らかの工作をやりに来たのだろうか。いや、私の周囲に田中奈々にリークする愚か者なんて……。

 少し考えてみるか。全く怪しくないのは、トラゾウだな。私を裏切るはずがないし、何より言葉が通じない。次に小林だ。怪しむ要素がまったくない。阿部君は……正直者が裏目に出ると、田中奈々に話しかねない。だけど、田中奈々が阿部君を釣る材料がない。最後に明智君だな。何せ強欲の塊だ。珍しいドッグフードを鼻っ面にぶら下げられると……ドッグフードはしっかり奪ったうえで、きちんと逃走してくれる。よし、私の周囲には、今回に限っては裏切り者はいない。

 では、田中奈々はどうして……。ああ、そうか。名探偵の私なら、きっと見破ると思ったのだ。それで、私がどこまで解明しているのか知りたくて、のこのこと現れたのだな。いわゆる敵情視察に来た。後ろめたい事があるからこそ、じっとしていられない犯人が陥る罠のようなものだ。これは、いよいよ田中奈々が主犯だぞ。

 運が回ってきたかもしれない。太郎丸の日記帳には証拠となるような事が書いてあるとは限らないのだ。仮に何か書いてあったとしても、田中奈々が太郎丸をあっさり切り捨てる可能性だってまあまあ高いだろう。残念なことに、他に証拠となるような物は、今のところは皆無ときている。田中奈々よ、墓穴を掘ったな。

 田中奈々の言葉の端々から、犯人となりえる証拠を引き出してやる。IQ100万に少し足りなくて言葉の魔術師という異名が大好きな私なら容易いだろう。しかし、なぜ田中奈々は何も話そうとしないのだろうか。そっちが訪ねて来たのだから、挨拶でもなんでもいいから先に話すべきだろ。私のオーラがあまりにすごいから、挨拶しただけでも追い込まれると感じ取ったのかもしれないな。十分にありえるぞ。少しばかりオーラを抑えつつ、こちらからきっかけを作るしかないようだな。

「あの……田中奈々さんですよね? どうしてここに?」

「あっ、はい。どうしてもお詫びしたくて。面白い顔の探偵さんの意識が戻ったら連絡を頂けるように、病院関係者の人にお願いしていたのです。この度は、宅の主人田中太郎が大変ひどいことを致しまして、本当に申し訳ありません」

 えっ? 謝りに? ただ、それだけ? 自分が疑われているなんて……全くちっとも思ってないように見えるし。

 いやいや、騙されないぞ。普通に考えて、自分が疑われてるようだから、どうしてなのかを聞きにきましたなんて、いきなりは言わないからな。そんな事を言うのは、阿部君くらいだ。おそらく世間話でもしながら、『神のゲンコツ』とか太郎丸の事を時々入れて、私に気づかれないように何らかの情報を手に入れる腹積もりだな。

 よし、乗ってやろうじゃないか。一見自分主導で会話していると思わせておいて、逆に私の方が、何らかの決定的な証拠証言を引き出してやる。

「そんな、ご丁寧に。でも、私なら大丈夫ですよ。それに私は、罪を憎んで人を憎まない人種に片足を突っ込んでいるので。むしろ、田中奈々さんの方が大変じゃないですか。 田中太郎はしばらく不在……戻ってきても社長は辞任しないといけないですよね? ホテルの経営は田中奈々さんが継ぐのですか? それとも、ブルジョ……太郎丸君が?」

「あっ、いえ……。今は、そんな事を考える余裕はありません。それに、私の一存で、どうこうできるようなものでもないので」

「そうでしたね。あれだけ大きい会社だと、株主だとか役員とかがいろいろと口出ししそうですね」

「まあ、そうですけど……。株に関しては、田中太郎が一人で過半数を所持しているので、問題ないと言えば問題ないのかもしれません。だけど、世間体がありますので、手放すのが無難でしょうね。包丁で人様を刺してしまったのですから」

「確かに。客商売ですもんね。ホテルや従業員のことを思えば、関係を完全に断った方がいいでしょう。持っている株を全部売れば、ひと財産できるのだから、一生生活に困ることもないでしょうし。でも、そうなったら、田中太郎は仕方がないにしても、奈々さんや太郎丸君までもが権限を失ってしまいますね」

「そうですね。身内がそれだけの事をしたのですから、私が意見を言える立場ではないと思います。それに、私も太郎丸も経営者っていう顔でもございませんし」

「顔は別として、一人でここまで大きくした田中太郎の身内なら、それなりのポストを用意してくれるのでは? 罪を犯したのは田中太郎であって、奈々さんや太郎丸君が何かしたわけではないでしょ?」

 ナイス、私だ。ほら、顔色を変えやがれ、黒幕の田中奈々。そして、冷やせをかき、分かりやすく動揺しつつ、しどろもどろで私の発言を肯定したら、自白は近いかもな。あっけなかったな。

 という私の妄想は、あっさりと木っ端微塵に破壊された。田中奈々は、私の微妙な駆け引きを聞き流したのだ。私があまりに違和感なく発したから、気づかなかったのだろうか。黒幕なだけあって、都合の悪い事には気軽に反応しないようにしているのだな。もしくは、ただの鈍感さん?

 まあ、いい。まだ、ほんの序の口だ。時間はたっぷりあるはずだから、じわじわと追い込んでやる。

「そうですわね。でも、おそらくですけど、田中太郎及び田中太郎の身内とは縁を切ると思いますよ。ホテルとしては、イメージが大事ですから」

「そうですか。ちなみに、奈々さんは、これを機会に田中太郎と別れるのですか? そして、五十嵐と……。あっ、でも、五十嵐も犯罪者になってしまいましたね。犯罪者だから結婚してはいけないというわけではないですけど、出所してからでも遅くはないですよね?」

「実は……。発表はまだなので、ご内密にしていただきたいんですけど、田中太郎との離婚は成立しています。後のことは、面白い顔の探偵さんのおっしゃる通りに、五十嵐が罪を償ってからでも遅くはないですね」

 私のことを、面白い顔の探偵さん、と言ったのは2回目だな。もう一度言ったら、キレてやろうかな。いや、だめだ。怒らせ理性を失わせ、私に口を滑らせよとしているのかもしれない。田中奈々を疑っていることを。なかなかやるじゃないか。さすが、黒幕だな。

 これは一筋縄ではいかないかもしれない。「私は面白い顔ではない、私は面白い顔ではない、私は面白い顔ではない」と心の中で呟いた。よし、これで、もう一度「面白い顔の探偵さん」と言われても、差し引きゼロだ。私の方が一枚上手だったな、黒幕の田中奈々。

「複雑で個人的なことを聞くのも、少し失礼でしたね。ただ、『神のゲンコツ』の話をしようとすると、五十嵐にも触れないわけにはいかないんです。私はさっき目覚めたところなので、五十嵐と『神のゲンコツ』の情報が全く入ってないんですけど、奈々さんは知ってますか? 『神のゲンコツ』が無事かどうかだけでも」

「はい。確認してほしいとのことでしたので。断言はできなかったんですけど、おそらく本物だと思いました。でも、念の為に、専門家の方に鑑定してもらっているところです」

「ああ、それがいいですね。でも、驚かれたでしょ? 五十嵐が『神のゲンコツ』を警察官から強奪したと聞いて」

 驚かないか。お前の指示だもんな。私はなんでもお見通しだぞ。さっさと観念しやがれ。

 と、私は目を潤ませ無言で懇願しているというのに、田中奈々は知らんぷりだ。はあー、本当に鈍感なやつって面倒だな。悪口はほどほどにしておくか。「面白い顔の探偵さん」とまだ言われてないからな。

 鈍感なのか肝が座ってるのかは別として、この段階で自白なんてするわけがない。阿部君や明智君なら、とっくに飽きているだろうけど、私は根気強く頑張るぞ。名探偵ひまわりと名犬あけっちーのためにも。

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