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初老新米大怪盗の終わりなき探偵事件簿with見習い怪盗の阿部君とゴールデンレトリバーの明智君  作者: バスバスキヨキヨ


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真犯人を追い詰めてやる

 五十嵐の犯行は短絡すぎないだろうか。例え私たちよりも先に田中太郎の8億円を手に入れたとして、一生逃亡生活をしないといけない。それ以前に警部補君に重傷を負わせてるのだから、警察はあらゆる手を使って追い込むのだ。なんでもかんでも『神のゲンコツ』が願いを叶えてくれて、捕まらないと本気で信じているとは思えない。仮に本気で信じているなら、イスに座ってアホ面で「お金くれー!」と叫んでいるはず。もしかしたら試したかもしれないが。少なくとも、願い事にも限度があるとは理解しているだろう。

 それに、私たちが五十嵐の犯行をぎりぎり防げたが、もし五十嵐が包丁で田中太郎にケガを負わせていたら、田中太郎だって黙ってはいなかっただろう。実際に、身動きできない五十嵐を刺そうとして私を刺したのだ。

 警察とホテル王田中太郎の両方から一生逃げるのなんて、人類が踏み込んだことのないくらい深い深海まで行かないと不可能だ。そんな潜水艦が8億円で作れたとしても、一生深海にいるくらいなら、刑務所で何年かひっそりと生活した方が1、7倍くらい楽しいというものだ。

 それに、何度も言うが、8億円は我々怪盗団が……。田中太郎は、資産はたくさんあっても現金はあの8億円だけだろうし。逃走資金がない五十嵐が、警察と田中太郎から永遠に逃げるのは不可能だろう。

 いや、五十嵐は、田中太郎のへそくりの場所を吐かせるために、田中太郎の致命傷にならない程度に刺そうとしていたが、口を割らせたら殺すつもりだったのかもしれない。そうすれば、追手は警察だけだ。逃げるのは不可能だけど、捕まって刑務所で何年か暮らし出てきた後は、五十嵐を恨んでいる人はいない。

 五十嵐の計画が予定通りに進んでいたなら、一番喜んだのは……田中太郎の家族である田中奈々だな。次に太郎丸か。田中太郎の遺産を丸々手に入れるのだからな。結果として、田中太郎は殺されなかったが、私への殺人未遂罪で、それなりの処罰を受ける。遺産には程遠いかもしれないが、これで田中奈々は有利な条件で離婚できるだろう。

 どう考えても、黒幕は田中奈々だ。五十嵐は利用されたに過ぎない。総料理長とはいえ、あんな冴えないやつを、田中奈々のような金持ちできれいな人が本気で好きになるはずがない。田中太郎に対しても、絶対に金目当てだったのだろう。だけど、いよいよ田中太郎に愛想を尽かされ、微々たる慰謝料で捨てられそうだったんだ。 

 田中太郎の遺産となれば、殺人を犯すだけの価値はある。あるが、自ら手を下すのはリスクが高い。普通に考えれば、第一容疑者だからな。そこで、五十嵐だ。五十嵐は、前々から田中奈々に好意を示していたのかもしれない。そうでなくても、田中奈々ほどのきれいな人なら、五十嵐を落とすなんて簡単だ。言うことを聞かせるのも。

 田中奈々の当初の計画では、太郎丸から預かった『神のゲンコツ』を五十嵐が金庫の中に戻す時に田中太郎と出くわし口論となって、限りなく過失に近い形で田中太郎を亡き者にするはずだった。怒り狂った田中太郎が殴りかかってきたので払いのけると、勢い余ってガラスケースの角に頭をぶつけるというシナリオだろう。まあ、そんな上手くはいかないので、実際には力づくで田中太郎の頭をガラスケースに叩きつけるしかないが。それでも、あの部屋には監視カメラもなければ目撃者もいない。上手くやれば、過失どころか正当防衛まで持っていけるかもしれない。

 田中太郎がいつ来てもいいように、五十嵐は『神のゲンコツ』片手にマッサージチェアでのんびり待っていたのだ。普段は暇さえあれば、田中太郎は『神のゲンコツ』に立ち寄っていたのだろう。だけど、こういう計画を立てた日に限って、なかなか来ないものだ。

 五十嵐は『神のゲンコツ』をいったんマッサージチェアに隠し、田中太郎の様子を見に行ったのだろう。そして、よくあるすれ違いが起きる。物語では定番だな。五十嵐と入れ違いで、『神のゲンコツ』部屋に田中太郎が入ってくる。もちろん『神のゲンコツ』を見るためだ。だけど、金庫にはないのだから、田中太郎はすぐさま盗まれたと決めつけたのだ。

 警察に届けた田中太郎は、屋敷内にいた人物にどこにも行かないように命令した。五十嵐は、その時に警察が来ると知る。そんな状況で、田中太郎殺人計画を実行するはずがない。まあ、内心ほっとしただろう。だけど、怒り心頭に発したのは、田中奈々だ。

 病院に連行された後で、方法は何でもいいから田中太郎を殺してこいと、命令なのか懇願なのかは断定できないが五十嵐に言ったのだ。出所したら一緒になろうね、と付け加えたに違いない。『神のゲンコツ』は願いを叶えてくれるから、警察から強奪するのも忘れずに、とも言ったはずだ。それで、死刑まではなくても無期懲役になると田中奈々は考えたのだ。全く好きではない五十嵐には、少しでも長く刑務所にいてほしいからな。早かろうが遅かろうが、五十嵐が出所するころには、田中奈々は海外で悠々自適しているけれども。

 この筋書きで、ほぼ間違いない。問題は、証拠だな。田中奈々を妄信している五十嵐は口を割らないだろう。計画も、文字には残さずに、すべて口頭もしくは電話で伝えたはず。仮に五十嵐が割れに返り、田中奈々の命令でやりましたと言ったところで、五十嵐の虚言だと思われる。証拠は絶対に見つけないと。

 一度、田中奈々と話してみれば、私の魅力と話術で自白するかもしれない。なのに、私はしばらくの間、ベッドから離れられないだろう。いや、でも私がそんな事を言ったなら、ここに田中奈々を連れて来るかもしれないか。うーん、まだその時ではないということにしておこう。自信がない……とかではないぞ。

 なんというか……ああ、そうそう。私は、阿部君に見せ場を用意しないといけないのだ。やつれるまでに、私を看病してくれたお礼とかではない。以前、理不尽とはいえ借金があったのを帳消しにしてくれた時の約束なのだ。

 魅力も話術も乏しい阿部君でも、田中奈々が口を割るとしたら、絶対的な証拠の存在を示せた時だ。そんな物があるのだろうか。あるとは思えないが、やらせてみるか。ひまわり探偵社の阿部ひまわりにも、少しくらは探偵気分を味わせさせたいし。明智君と小林も帯同させれば、それなりの探偵体験をできるはずだ。

「田中奈々は、あの屋敷にいるのかい?」

「さあー? えっ! 田中奈々が宝石盗難事件の犯人なんですか?」

「いや、そんなかわいい事件ではない。田中太郎殺人未遂事件の黒幕は田中奈々だ。そして、それを解決するのは、名探偵ひまわりと名犬あけっちーだ」

「はいっ!」「ワンッ!」

「小林を呼んでくれないかい? 阿部君が呼ぶと、すぐに来てくれるだろ?」

「はいっ!」

 小林はどこで待機していたのか、阿部君が電話を切ると同時に病室に入ってきた。息が乱れているので、私の病室を警護していたわけではないと思う。息が乱れているフリなのかもしれないが。それくらい急いで来ましたよとアピールしているのだ。私たちを喜ばせるために。真面目な小林がそんな姑息な事をするというか発想もないだろう。だけど、警部補君に相手を喜ばせる秘訣を教わった可能性は否定できないからな。間をとって、警部補君の見舞いに来ていたということにしよう。何が間なんだと疑問に思わないでくれるかい。それよりも、事件を解決だ。

「名探偵ひまわりさん、用事とは?」

「おい、小林、私が呼んだんだ」

「名探偵ひまわりさん、なんだかやつれてないですか? 美味しいごはんを食べに行きましょう。名犬あけっちー君も。お二人の協力のおかげで、五十嵐と田中太郎を逮捕できて、警視総監賞を頂いたんです。遠慮しないでください」

「おい、小林……」

「トラゾウも一緒に行きたいけど……変装すれば大丈夫だね。ワンちゃん用の覆面と服を取ってくるから、少しだけここで待っていてくれるかい?」

「こ、小林……?」

「すぐに取ってくるからー」

「小林ぃー! このまま凶悪事件の黒幕を逃してもいいのか?」

「黒幕? あれ? リーダーさんもいたんですね? ああ、リーダーさんを刺した田中太郎が、情状酌量をたくさん欲しいから、加害者を許してやってという手紙を書きやがれとお願いしてましたよ。伝えましたからね。それじゃ、私はみなさんと楽しい食事に……。うん? 黒幕?」

「手紙を書くかどうかは、考えてやるとだけ言っておこう。8億円頂いたのだからな……」

「8億円? なんですか、それ?」

「…………。黒幕は田中奈々だ。その証拠探しに、阿部君と明智君を連れて捜査をしてほしいんだ」

「8億円て……」

「小林、阿部君と明智君が恐ろしい目で見ているぞ。お前と私を」

「た、田中奈々が黒幕って、一体どういうことなんですか?」

「それは、また後で説明するとして、田中奈々は、まだあの屋敷に住んでいるのか?」

「いえ、あそこはリーダーさん殺人未遂の事件現場となっているので、今はまだ警察官以外は立入禁止なんです。なので、田中奈々と息子の太郎丸は、どこかのホテルに」

「ということは、あの事件以来、田中奈々はあそこに立ち入ってないということになるな」

「まあ、言わずもがなですけど」

「なんか、今、少しカチンと来たのは気のせいかな、小林? お前は、田中奈々を逮捕したくないようだな」

「りりり、リーダーさん、お身体は大丈夫ですか? さっきまで意識不明だったとか。そのまま意識不明でも良かっ……。ウォッフォン、リーダーさんの早い回復を心より願っております」

「ふんっ……。田中奈々への聞き込みは後回しでいいか。それよりも、あの屋敷を徹底的に捜索してくれるか? もしかしたら、何か証拠になるものが出てくるかもしれない。阿部君と明智君は飽きっぽいから、お前が頑張るんだぞ。何か出てくるまで、お前は飲まず食わずでだ」

「はい……」

「冗談だ。ささやかな私からの仕返しだ。これで喧嘩両成敗だからな。捜索はしてほしいが、おそらく何も出てこないだろう。だから、阿部君と明智君が飽きたら、すぐに戻ってきてくれ。それまでに、私なりに考えておく。とりあえず、お前は、阿部君と明智君とトラゾウをごはんに連れていってくれるかい?」

「はい、喜んで」

「阿部君、明智君、トラゾウ、言わなくても遠慮なんてしないだろうけど、遠慮しないでたくさん食べてくるんだぞ。三日三晩もろくに何も食べてないのだから、まずは体力の回復が大事だからな。トラゾウは、それからセラピードッグの仕事があるから、一人で戻って来れるよな?」

「はいっ!」「ワンッ!」「ガオッ!」

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