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結城組  作者: マー・TY
32/33

32話 怒れる獣達

 燃え盛る事務所を背に、男達が去っていく。

 その中心に居るのは、“刃裟羅”トップの神木蓮。

 このクソったれは薄ら笑いを浮かべてやがった。

「結城高虎…。流石だなぁ…強かった。またやりたいなぁ。久々に血が騒いだよ」

「そうは言うけど散々じゃない?赤間君死んじゃったしぃ?ていうかあの豚さんヤバすぎ」

 不機嫌そうに隣を歩くは、No.3の牧浦遊真。

 コイツは諸藤に投げられ、至近距離で張り手まで食らってる。

 それでも歩いてやがる。

 コイツもそれなりに頑丈なのだろう。

「痛い痛い痛い〜!これ折れた!絶対骨折れた!」

 牧浦は横っ腹を擦りながら、コテコテのチンピラみたいに喚く。

「確かにあれヤバかったね〜。結城組、強い人達ばかりでワクワクしちゃうなぁ」

 牧浦をスルーしつつ、神木は口元を抑えて笑う。

 蓼丸、仙堂、諸藤、塚原、黒宮…。

 そしてこの俺…結城。

 これだけの組員との戦闘を、コイツは直接経験してやがる。

 その辺の半グレなら泣いて逃げ出すところだが、コイツは笑ってやがった。

「多少犠牲は出たけど、御屋敷は燃やしたし、結果としては上々かな。ねぇきみ達、他の皆に撤退するよう言っといて」

「はっ…はい!」

「解りました」

 神木は傍を歩く下っ端2人にそう告げる。

 奴らは即、幹部陣に連絡を入れた。




 牛尾組敷地内。

「おぉ〜〜?」

 ダブルナイフで暴れていた、“刃裟羅”No.2 姉崎秀治郎。

 奴のポケットの中のスマホが揺れた。

「ほへ〜〜?もう終わりかぁ」

 姉崎はナイフを下げる。

 今の振動が撤退の合図であることを、奴は事前に聞かされていた。

「言うことぉ聞かにゃぁ〜〜、ヤク貰えねぇ〜〜からなぁ〜〜〜」

「あァ?何言うとんねん」

 相対していた蓼丸が、違和感を捉える。

 姉崎が纏う死の空気が、さっきより弱まっていた。

「に〜〜げるときぃ、これ使えって言われてたなぁ〜〜」

 姉崎がズボンのポケットに手を入れる。

 奴が取り出したのは、なんと手榴弾。

「さ〜〜いならぁ〜〜〜〜!!!」

 姉崎は手榴弾のピンを抜くと、何の躊躇も無く放り投げた。

「夏目ェ!!退避や!!」

「うわぁあああ!!!」

 蓼丸と夏目もその場から走り出す。

 次の瞬間、手榴弾は爆発。

 朱色の炎が、地面に散らばる牛尾組組員の遺体を吹き飛ばした。

「ぐぅうううう!!」

 事前に離れたことで、蓼丸と夏目は難を逃れていた。

 風圧に耐えながらも、蓼丸は元居た場所に目をやる。

 姉崎の姿は、もうどこにも無かった。

「チィ!逃がしてもうたか!」

 蓼丸は悔しそうに舌打ちをした。

 そこへ夏目が駆け寄る。

「蓼丸の兄貴!胸斬られてます!闇医者行きましょう!」

「そら後や。深いけどまだいける。それより生存者を捜すで。ついて来や」

 蓼丸は胸の傷を気にすることなく、事務所内へ走っていく。

「待ってください!兄貴たまに無茶するんですからぁ!」

 そんな蓼丸を追って、夏目も走り出した。




 キャバクラ“ベルベット”。

 ここでも1つの戦いが終わろうとしていた。

「だぁあアアア!!ンだよ!!もう終わりかァ!!」

「……終わりだァ?」

 “刃裟羅”幹部 元松竜誠の元にも、撤退の連絡が入った。

 突然悔しがる元松に、鍋島が眉を潜める。

「まぁ命令は命令だァ!!じゃあな鍋島ァ!!決着はまた今度といこうぜェ!!」

 そう捲し立てると、元松は窓の方へと走りだす。

「ふざけんじゃねェ!!!待てコラァ!!!」

 当然鍋島は後を追う。

 だが2人の距離は離れ過ぎていた。

“パリィィィィン!!!”

 元松は窓ガラスを割り、外へ飛び出す。

 3階の高さにも関わらず、奴は豪快に着地。

 そして何事も無かったかのように、走り去っていった。

「逃がすわけねェだろうがァアアア!!!」

 怒り狂った鍋島も、窓から飛び降りようとする。

 だが直前で、舎弟の片倉に止められた。

「兄貴!!ダメですってぇ!!」

「離せ片倉ァ!!あいつの頭をホームランするんじゃぁあアアア!!!」

「そんなことしてる暇無いですって!!事務所がヤバいんですから!!」

 事務所が燃やされていることは、元松から直接聞いている。

 豪快に笑う奴の姿が、片倉を余計焦らせていた。

「兄貴!!とにかく事務所に戻りましょう!!」

「むぅううう!!クソがァアアアアア!!!」

 舎弟の片倉に諭され、鍋島は入り口へと走り出す。

 2人はそのまま事務所へと向かった。




 いろいろあって翌日。

 俺は闇医者のベッドの上で寝ていた。

「この前退院したばっかだぞこの野郎……」

「もはや病院が家ですね…」

 傍らで笑えない冗談を言ってるのは、うちの組員 石田海星。

 コイツは殺し屋クーガーとの死闘を経て、入院していた。

 まぁ、今日が丁度退院日なんだがな。

「すみません長。肝心な時に居られず」

 一応申し訳無さは感じているらしい。

 さっきの冗談は、場を和ませるためか。

「気にすんなって。これから存分に働いてくれりゃァいい」

「はい。そのつもりです」

 海星の目が鋭く光る。

 昨日うちの事務所が襲撃されたと聞いたコイツは、誰よりも怒り狂っていた。

 俺も赤木町の各地で“刃裟羅”の幹部が暴れてやがったことを、入院してから初めて知った。

 重傷者は俺、諸藤、椿野、その他組員多数。

 俺達程ではないが、蓼丸、鍋島、苗木達もまた、一時入院することとなった。

 主力のほとんどが病院送り。

 しかも事務所は焼け落ちて、しばらく使えねェ。

 その上、キャバクラ“ベルベット”はしばらく休業。

 友好組織の牛尾組は、組長と若頭含め多くの死者を出し、壊滅。

 幹部の赤間は殺せたが、被害はこっちの方がデカいと言える。

「またしばらく、塚原さんに任せることになっちまうなぁ」

 仙堂は軽症。

 塚原、海星、黒宮はまだ無傷。

 しばらくコイツらが主体になるだろうな。

 蓼丸達も全く動けねェ訳じゃねェし、もう少ししたら復帰するだろうが。

「俺も居ますので、今はゆっくりお休みください」

 そう言う海星の目に宿るのは、燃えるような殺気。

 海星からすれば、事務所は家、俺達は家族。

 特に俺からすれば、コイツはほぼ実子みたいなモンだ。

 事務所を燃やされ、仲間をやられた。

 海星の怒りは遥かにデカい。

「海星。お前にゃ期待しているが、あんま1人で抱え込むなよ。ちっとでも悩んだら、塚原さんや兄貴分にも相談しろ」

「お気遣いありがとうございます」

 そう言って海星は、頭を下げると病室から出て行った。

 海星はうちの最高戦力の1人。

 この戦争でも、大活躍することになる。




 数日後の夜。

 暗く薄汚い路地に、蓼丸の姿があった。

 胸の傷は完治してないが、動けないこともない。

 コイツは治療を受けた後、即動き出していた。

「こうしてる時がいっちゃんワクワクすんねんなぁ〜。ほんま」

 青いゴミ箱に何かを仕掛けながら、蓼丸は笑っている。

 昔からよく見る、悪巧みをしている時の顔だ。

「ふぅ…。まっ、こんなモンやろ」

 蓼丸はそう言って、額に流れた汗を拭う。

 壁と壁で挟まれた空間。

 薄汚れた室外機。

 凹みまくった消化器。

 窪んだ地面。

 垂れた電線。

 その辺に転がった瓶や空き缶。

 人が全く居ないにも関わらず、ここは物が多い。

「良い汗掻いたわ〜。……さぁ、“刃裟羅”のアホ共狩ったろかァ!」

 狂った笑みを浮かべながら、蓼丸は息巻く。

 コイツのプロデュースによって、この陰気な路地は地獄へと変貌していたんだ。

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