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結城組  作者: マー・TY
26/30

26話 災厄は迫る

 持ち主に手放され、手つかずになった洋館。

 その廊下を、“刃裟羅”トップの神木かみきれんは、鼻唄を歌いながら歩いていた。

 照明なんざ一切なく、今が昼だってのに薄暗い。

 お化けでも出そうな雰囲気が漂ってるが、コイツは意に介さない。

 そうして奴が辿り着いたのは、木製の重そうな扉。

 作られて相当時間が経ってるようで、相当傷んでいる。

 神木はその扉に両手を当て、押した。

“キィ〜〜〜〜……”

 不気味な金属音を立て、扉はあっさりと開いた。

 客間であろうその部屋には、長いテーブル席。

 そこには既に、男達が座っていた。

「あぁ!蓮ちゃん遅〜い!こんなボロいとこに呼び出しといて酷くな〜〜い!?」

 その中の1人…牧浦まきうら遊真ゆうしんが、神木を非難する。

 自分が所属する組織のボス相手に、随分と馴れ馴れしい。

「久々の集会だというのに遅刻とは。良い身分じゃないか」

 金髪を一本結びにしたピエロのような男…雑賀譲二さいかじょうじもまた、苦言を呈す。

「トップだからね。ごめんごめん。ちゃんと来たから許してよ」

 神木は飄々と笑いながら、全員の顔を見渡せる端の席に座った。

 雑賀の言うように、この日は“刃裟羅”上層部の集会。

 ここに集まっているのは、全員“刃裟羅”の幹部だ。

 その中で神木は、席が1人分空いていることに気づく。

姉崎あねざきは…今日も来てないか……」

「蓮ちゃん、しゅうちゃんが来てないなんていつものことじゃん?またどっかでハイになってるんじゃない?」

 姉崎という人物に対して、牧浦はお手上げとでも言うように両手を広げた。

 神木もまた、肩をすくめる。

「まぁいいや。今日集まってもらったのはね、僕達の宿命のライバル…結城組についてだ」

 この状態に慣れているのか、奴は本題に入った。

 うちの名前を聞いた途端、幹部達の目の色が変わる。

 特にホスト風の赤髪の男の目が、爛々と輝く。

「神木さん。結城組、いよいよぶっ潰すんですね?」

「まぁそんなところだよ。赤間あかま

「っしゃあ!テンション上がってきたぁ!」

 何がそんなに嬉しいのか、奴は乱暴にテーブルを叩いた。

 この赤間あかま俊輔しゅんすけという男は、元は“刃裟羅”の下部組織のトップ。

 そこから引き抜かれ、最近幹部に昇格したばかりだ。

 赤間の目に宿るのは、燃え上がるような野心。

「組長の結城は俺にくださいよ〜!幹部昇格の祝いってことで〜!」

「いいよ。やれるものなら…ね」

 逸る赤間に対し、神木はニヤリと笑って答えた。

「坊主、我らがボスは期待してないようだぜ?」

 次に口を開いたのは、銀の一張羅を身に纏い、黒い髭を蓄えた、色黒の大男。

 コイツの名は元松もとまつ竜誠りゅうせい

 長ドスを得物とし、裏社会で売り出し中の、巨躯の剣豪だ。

「結城の首は、この元松竜誠が落とす。新顔は大人しく見ておくといい」

「元松さん。そうは言いますけど、アンタホントに強いの〜?デカ過ぎて小回り利かないんじゃないスか?」

「ほぅ?言うなぁ坊主」

 赤間の挑発を受けた元松が、椅子から立ち上がる。

 額に青筋が浮かんでいる。

「先にお前の首を落としてやってもいいんだぞ?」

「いいっスね〜。元松さん殺れたらぁ、それはそれで箔付きそうだわぁ」

 赤間も乱暴に椅子を蹴って立ち上がる。

 今にも殺し合いになりそうな2人。

 それを見た神木が、両手をパンパンと鳴らす。

「はいはい2人とも。喧嘩はそこまで」

「そうそう。お祭り前に戦力減らしてどうするのさ〜?」

 牧浦も一緒になって注意する。

 トップとNo.3に同時に止められたら、流石にこれ以上は続けられない。

 赤間も元松も、渋々座り直した。

 するとここで、別の男が口を開く。

「しかし、そう簡単に穫れる連中ではあるまい」

 そいつはスーツ姿だが、ボサボサの鷲みたいな髪に黒マスクといった、チグハグな格好をしていた。

 奴の名は、井土いづち兼平かねひら

 その爬虫類のような目は、神木の方を向いていた。

「流石だねぇ井土。きみは冷静で助かるよ」

 赤間や元松に皮肉を言いながらも、奴は続ける。

「結城組はその辺の半グレや極道とは違う。あそこはまさに、化け物の巣窟。組長や若頭まで前線で戦うタイプだ。この前蓼丸、仙堂とやってきたけど、あれは簡単じゃないね。楽しかったけど」

 以前コイツは、蓼丸と仙堂を同時に相手取った。

 どちらも結城組が誇る超武闘派。

 その2人を、神木はほぼ無傷で振り切ったんだ。

 簡単じゃないとは言いつつも、涼しい顔をしてやがる。

「私も石田海星と交戦したことがある。彼は強いねぇ。一方的にやれたよ。あの若さで恐ろしいものだ」

 そう。

 雑賀もまた、うちの海星とぶつかっている。

 海星は持ち前のスピードと暗器を活かし、コイツを追い込んだ。

 そんな海星は、殺し屋クーガーとの戦いで入院中なんだが…。

「僕は結城とやったことあるけど、やることメチャクチャでおっかなかったなぁ〜。流石は組長って感じ」

 俺も牧浦を1回ボコボコにしている。

 あの時は殺すつもりだったが、直前で逃げられちまった。

 あれで懲りてくれたらいいと思ってたんだが、コイツ、全く反省してねェな。

「…とまぁこんな風に、今のところうちが押されてる感じなんだよね」

 神木は自分の前髪を弄りながら、そう言った。

 するとまた、元松が立ち上がる。

「フン!情けない!やはりこの俺が全員乱斬りにしてやろう!」

「落ち着きなって、元松。正面から行っても死ぬだけだよ」

「神木ィ!この俺をナメてるのかァ!?」

()()()()()

「ッ!!?」

 神木はただ一言で、元松を宥めにかかる。

 さっきまでヘラヘラしてたってのに、その目は氷のように冷たかった。

 元松の全身が総毛立つ。

 眼前の男は、自分より体格は小さい。

 だが元松は、神木から底知れない何かを感じ取っていた。

「座ろうか」

「うっ…むぅ……」

 神木にそう言われ、元松は三度席に着いた。

「さてと…。結城組の事務所の場所は解ってる。結城自身も、ほぼ毎日そこに居るね。ただ、あそこは蜂の巣だ。つついたら武闘派がわんさか出てくる」

「それでどうするの〜?」

「簡単な話だよ」

 牧浦の疑問に対し、神木の野郎は悪辣な笑みを浮かべ、答える。

「危ない蜂は、先に出しちゃえばいい」




 一方、赤木町のとある埠頭の倉庫。

 そこは半グレの溜まり場になっていた。

 奴らは何をするでもなく、タバコを吸っている。

 そんな半グレ達の元に、近づいてくる奴が居た。

「ちょ〜お〜ちょ〜。ちょ〜お〜ちょ〜。な〜の〜は〜に〜と〜ま〜れ〜」

 その歌声の主を見た半グレ達は、ビクリと体を震わせる。

 歌自体は童謡。

 だがそれを歌っているのは、異常な男。

 肌は吸血鬼を思わせるくらい白いのに、奇抜なモヒカンは七色。

 タンクトップにボーダー柄の上着を羽織っていて、ジーパンを履いている。

 若者特有の洒落たファッションをしているが、その顔には老人のように皺が入っている。

 そして男の目は大きく、異様な程真っ黒だった。

「ひゃっははは〜。ちょうちょさんが〜飛んでるよ〜」

 いったい何が見えているのか…。

 男はまるで子供のように、両手を広げて駆け回る。

 その不気味な男に、半グレの1人が絡む。

「おいコラおっさん!!キメェんだよ!!どっか行けェ!!」

「はへぇ?」

 因縁を付けてきた半グレに、男は首だけを動かし、顔を向ける。

 そのフクロウを思わせる動きに、半グレはまたビクリとした。

「あ〜〜!ちょうちょさんだ〜!」

 男は涎を垂らしつつ、嗄れた声でそう叫んだ。

 因縁を付けた半グレも、残りの奴等も、皆男から目を逸らせない。

 コイツはヤバい。

 この期に及んで、半グレ達はそう思い始めていた。

 だが、そう思った時には遅かった。

「ちょうちょさんつ〜かまえ〜〜た〜〜〜〜!!」

 男はそう叫ぶと、両手をポケットに突っ込む。

 そこから現れたのは、2本のナイフ。

 両手にナイフを携えた男が、最初の半グレに迫る。

「なっ、何だよ!?やるってのか!?」

 その半グレは威嚇するが、男には届いていない。

 真っ黒な目を輝かせながら、こっちに近寄ってくる。

 ナイフを持った相手がやること。そんなモン決まってる。

 男からは、死のオーラが嫌という程漂っていた。

「くっ…クソがぁ!やってやらァ!!」

 半グレは震える手で、懐からナイフを取り出した。

 そして男に向かって突っ込んでいく。

 男は両手のナイフを羽みたいにブンブンと振っていて、体をくねらせている。

「死ねぇええええええええ!!」

 半グレは絶叫しながら、男にナイフを突き立てる。

 それが刺さったのは、男の左肩。

 潰れた果実のように、血が噴き出す。

 くねくね動いてたおかげか、体の中心から大きく逸れていた。

 だがその直後…。

「ちょうちょつかまえた〜〜!!」

 そう声を上げた男が、右手のナイフを振り上げた。

“ドシュッ_____!!”

 その一撃は、半グレの命脈を断つには十分だった。

「カハッ……!!」

 訳の解らぬまま、半グレは血の海に沈む。

 仲間を殺された残りの半グレ達は、戦慄した。

 目の前の男は、肩を刺されている。

 それなりに痛みはある筈だ。

 だがこの異常な男は、気にする素振りを見せない。

 寧ろ残りの半グレ達を見て、目を輝かせる。

「ちょうちょちょうちょちょうちょちょうちょぉおおおおおおおアアアアアアアアアア!!!」

 男は歓喜の声を上げながら、半グレ達に襲い掛かった。

 奴らはもうパニックに陥っていた。

 交戦する者。

 恐怖で動けない者。

 逃げ出そうとする者。

 各々バラバラに動いた。

 だが、皆結末は一緒だった。

 数分後には、全員が男の足下で骸と化していた。

「ありゃぁ…?ちょうちょさん死んじゃったな〜。ナンマンダブナンマンダブ〜」

 自分で殺ったにも関わらず、奴は半グレ達に向けて合掌する。

 この異常な男の名は、姉崎あねざき秀治郎しゅうじろう

 “刃裟羅”のNo.2だ。

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